貞操逆転世界のメンズエステで働くことになった 作:カラスあげます
ピピピピ、ピピピピ――。
静まり返ったワンルームの室内に、容赦のないタイマーの高音が甲高く鳴り響いた。施術の終わりを告げる機械的なその電子音は、熱を帯びて充満していた部屋の空気を急激に冷やしていく。
静まり返ったワンルームの室内に、容赦のないタイマーの高音があっけなく鳴り響いた。
「あ、吉田さん……も、もうお時間です……」
現在、俺はいわゆる『69』と呼ばれるような姿勢をとっていた。
施術用マットの上に仰向けに寝ている女性――吉田さんの上に、四つん這いに近い形で大きく跨がり、彼女の太ももの前側を丁寧にほぐすマッサージの真っ最中だった。
上が全裸で、下が布地の少ない黒のブーメランパンツ一枚という俺の格好。跨がっている構造上、俺の股間の膨らみは、必然的に吉田さんの胸元から顔のすぐ近くという絶妙で危険な位置に収まっている。
そして、この69の体勢に入った最初からずっと、吉田さんは俺の指示を無視してその両手を俺のお尻へと回していた。
薄いブーメランパンツの上からむっちりとお尻の肉を両手で揉み込み、さらには指先をパンツのゴムの隙間へといやらしい手つきで潜り込ませ、直接素肌を撫で回してきているのだ。指先が素肌を滑るたびに腰が跳ねそうになり、声が上ずってしまうのを防ぐことができなかった。
「えー? ねぇ、もうちょっと延長しなさいよ。あんたのここ、もうカチカチになってるじゃない。このまますっきりさせてあげるからさぁー」
吉田さんは不満そうに口を尖らせると、腿を揉んでいた俺の手を無視して、その小柄な両手を俺のお尻へとしがみつくように回してきた。
さらには、薄い布地の上からむっちりとお尻の肉を強く揉み込み、あろうことか指先をブーメランパンツのゴムの隙間へといやらしい手つきで潜り込ませてくる。指先が、直接俺の素肌を撫で上げた。
「っ……!? だ、ダメですよ……! 僕、もう終電あるので、これ以上はいられませんので……っ」
びくっと身を竦ませ、股間の内側から湧き上がる強烈な生殖本能の刺激を必死で押し殺しながら、俺は拒絶の声を絞り出した。
白石さんとの激動の初出勤から、早いもので二ヶ月が経過していた。
この吉田さんという女性は、この二ヶ月間で三回目の来店となる、俺にとってのすっかり「お得意様」だ。
身長は150センチほどの小柄でスレンダーな体型。ロブくらいの長さに切りそろえられたツヤのある髪に、可憐でどこか幼さの残る顔立ちをしている。だが、その可愛らしい見た目に反して口調はサバサバとした強気系で、初回は「あんた、手際悪すぎ!」と怒鳴られるのではないかと面食らったものだった。
しかし、回数を重ねるうちにその強がりが彼女なりの親愛の情の裏返しだと分かり、今ではこうして遠慮のない、どこかいかがわしいコミュニケーションを取れる仲になっていた。
「はーあ、ちぇっ。今日もダメだったかー。あんたって意外とガード固いよねー」
吉田さんは呆れたようにため息をつくと、お尻に入り込んでいた手をゆっくりと引き抜いた。
俺は彼女の体から離れるように、ゆっくりと跨がっていた足を引き、ベッドの横の床へと降り立った。
「はい、吉田さん。お疲れ様でした。タオルどうぞ……」
呼吸を整えながら大きめのバスタオルを差し出すと、吉田さんはそれを受け取り、無防備に開かれていた細い脚を隠すように腰に巻きつけた。しぶしぶといった様子でベッドから起き上がる彼女の姿を見て、俺は胸の奥で「今日も何とか乗り切れた……」と静かに息を吐いた。
「でもさぁ……あんた、絶対私のことスキでしょ?」
服に着替えるためバスルームへ向かおうとした吉田さんが、足を止めて不意に振り向いた。
そして、俺の太い腕を自分の小さく華奢な胸に押し当てるようにギュッと抱きかかえ、上目遣いに俺の顔を見つめてきた。
「今度、店外で会いなさいよ。美味しいお店連れてってあげるから」
可憐な瞳に見つめられながらの直接的なお誘い。どきりと心臓が跳ね上がり、顔に血が上るのを感じる。
元々の世界では、こんな可愛い女の子に腕を抱きつかれてデートに誘われるなんて奇跡のようなシチュエーションだ。だが、ここは一線を越えてはならない職場。俺は必死に顔の筋肉を固定し、苦笑いを浮かべた。
「あはは……お店のルールで店外でお会いするのは禁止されているので……すみません」
「ちぇーっ、真面目なんだから!」
はぐらかされた吉田さんは少し不満そうに鼻を鳴らしたが、それ以上は追及してこなかった。
数分後、洋服に着替え終えた吉田さんを玄関まで送る。
「絶対また来るからね! シフト出しときなさいよ! あと、フルオプションもそろそろ入れさせてよね!」
「はい、ありがとうございます。お気をつけてお帰りください」
パタンと重いドアが閉まり、鍵がかかる音を確認して、俺はその場にへたり込んだ。
緊張の糸が切れ、一気に疲労が押し寄せてくる。
「ハァ……今日も、何とか乗り切った……」
静まり返った室内で、ぽつりとため息が漏れた。
◇
メンズエステで働き始めた最初の頃は、週に二日ほどの出勤で、客が一日に一人入るか入らないかという状態だった。
この店は完全歩合制に近いシステムで、出勤してお客さんがつかない場合、部屋でただひたすら待機するだけになり、支給されるのは少額の交通費のみとなってしまう。誰にも会わないまま無機質なワンルームで数時間を過ごす暇な時間は、SNSに「本日出勤しています!」と自撮り写真を投稿したり、来てくれたお客様へのお礼のメッセージを投稿したりして潰すしかなかった。
しかし、一日一人でもお客さんが入れば、一瞬で一万から二万円という大金が手に入る。
居酒屋のアルバイトで、汗だくになりながらジョッキを運び、酔っ払いの相手をして時給千百円を稼いでいた身からすれば、それは狂気の金額だった。一回部屋に入り、二時間弱マッサージをするだけで、居酒屋での二日分、三日分のバイト代が口座に振り込まれる。
その手軽さと圧倒的な金額に、俺の感覚はジワジワと毒されていた。
かつて週に四日ほど入っていた居酒屋のシフトを少しずつ減らし、代わりにこのメンズエステの出勤日数を増やしていった。今では居酒屋を完全に辞め、メンズエステの方に週四日ほど出勤するようになっていた。
「でも……今日は二人接客できたから、一日で三万円も稼げたんだよな……」
後片付けをしながら、スマホに届いた給与確定の通知画面を見つめる。
吉田さんのようにリピートしてくれるお客様も増えてきて、出勤しても「ボウズ(客ゼロ)」で終わる日はほとんどなくなっていた。
「……でも、俺のお客さんだけ、あきらかに過激に触ってきたり、誘ってくる人が多い気がするんだよな……」
ふと、自問自答が口をついて出た。
同僚の男性セラピストの話を聞く機会はほとんどないが、神崎さんから聞いていた「普通のお客様」の対応と比べても、俺のところに来るお客様はあまりにも距離感が近く、性的サービスを求めてくる割合が高い気がしてならない。
(これで……いいのかな……?)
胸の奥に引っかかる罪悪感と違和感。だが、その不安を打ち消すように、俺はテキパキとタオルを畳み、使用したオイルのボトルを拭き上げていった。
幸いにも、いまだに俺の気弱で流されやすい性格は直っていないものの、この二ヶ月間で「本番行為(性交渉)」の要求に関しては、一度も屈することなくしっかりと断り続けることができていた。
それには理由がある。初回出勤の後、俺は店長である神崎さんとじっくり話し合い、いくつかの『自分ルール』を設定してもらっていたからだ。
一、フルオプション(セラピスト全裸・客側全裸)は、何度か通ってくれている信頼できるお客様かつ、問題がないと判断した場合のみ許可すること。
二、それ以外のお客様は、5000円のブーメランパンツオプションのみとすること。
三、連絡先の交換も、十分に信用が置けるお客様のみに限ること。
四、店外で個人として会うようなことは、いかなる場合も避けること。
五、大学の講義や生活に支障が出ないよう、必ず終電で帰れる時間帯で出勤を終えること。
神崎さんは、「コウ君は現役の男子大学生というだけで市場価値がめちゃくちゃ高いから、変なトラブルに巻き込まれて辞められたら店としても損なのよ」と言って、俺の立場を考慮してかなり手厚く取り計らってくれたのだった。
これらのルールを誠実に、かつ低姿勢で説明することによって、お客様との間に適度な境界線を引くことができていた。
「ただ……だんだんと詰められてきているのも事実なんだよな……」
吉田さんのように何度も通って距離を詰め、フルオプションや店外デートを要求してくるリピーターが増えてきているのも確かだった。
片付けを終えた俺は、室内を消灯し、マンションを出た。1階のエントランスにある郵便受けにルームの鍵を返却し、カチリとポストの口を閉ざす。
夜風が心地よい。俺は駅へ向かう道すがら、明かりの灯るコンビニへと立ち寄った。
メンズエステを始めて収入が跳ね上がったおかげで、かつてのように100円のカップ麺で食費を削るような生活とは無縁になった。今ではコンビニで値段を気にせず好きなお弁当やスイーツを買い、週末には大学の友達と少し高めの居酒屋や焼肉に行くこともできる。
このバイトを始める前とは比べものにならないほど、俺の生活水準は上がっていた。その快適さが、俺の足元を確実にこの場所に繋ぎ止めていた。
◇
数日後の出勤日。
その日は事前予約が入っておらず、俺はワンルームの部屋でベッドの上に転がり、スマホを眺めながら暇を持て余していた。
(今日はこのまま誰も来ないで終わりかな……)
そう思いかけた時、ポケットの中でスマホがブブッと短く震えた。
店専用の連絡アプリを開くと、店長からの通知が入っていた。
『コウ君、今から当日予約が入りました! 10分後くらいにお客様到着されるので準備お願いします!』
事前予約ではなく、飛び込みの当日予約だ。
急な知らせに少しの緊張感が走る。さらに添付されたお客様のメッセージシートを確認して、俺は目を丸くした。
『新規のお客様です』
初めましてのお客様だ。吉田さんのような顔馴染みなら手慣れたものだが、新規のお客様となると、どんな人が来るのか分からず、いつも初出勤の時のトラウマが蘇りそうになる。
「よし……急がないと」
俺は跳ね起きると、シーツのシワを伸ばし、アロマディフューザーのスイッチを入れて部屋に心地よい香りを充満させた。手早く備品の配置を確認し、洗面所で顔を洗って身だしなみを整える。
準備を終えて息を整えた直後、絶妙なタイミングでピンポーンと甲高いインターホンの音が部屋に響き渡った。
「はい、お伺いします」
心臓の鼓動が少し早くなるのを感じながら、俺は玄関へと向かい、ゆっくりとドアを開けた。
「いらっしゃいませ――」
言葉の語尾が、喉の奥でフリーズした。
そこに立っていたのは、あまりにも『清楚』という言葉が似合いすぎる美少女だった。
身長は160センチ前半ほど。肩の下まで伸びた美しい黒髪のセミロングが、柔らかなウェーブを描いて彼女の細い首元を彩っている。
着ている服も、上品なアイボリー色の薄手ニットに、揺れるラベンダー色のロングスカート。派手な露出は一切なく、まるで女子大のキャンパスからそのまま抜け出してきたかのような、育ちの良さを感じさせる清楚な佇まいだった。体型も無駄な肉のないすっきりとしたスレンダーなスタイルで、服の上からでもそのシルエットの美しさが際立っている。
肌は透き通るように白く、大きな瞳にはどこか影があり、守ってあげたくなるような儚さを纏っている。
元々の男社会の基準で言っても、間違いなくアイドル級、いやそれ以上の圧倒的な美少女だった。
(うわ……すごい綺麗な人だ……)
思わず見惚れそうになるのを必死で抑え、俺は何とか営業用の笑顔を貼り付けた。
「どうぞ、お上がりください」
「あ……は、はい。失礼します……」
靴を脱いで上がってくる彼女の動作は、どこかぎこちなく、小動物のように怯えているようにも見えた。
(あれ……?)と俺は違和感を覚える。
今まで来店してきた客――白石さんや吉田さんのように、最初から強気で攻めてきたり、慣れた手つきで距離を詰めてきたりする雰囲気とは、明らかに違っていた。
「こちらへどうぞ。お荷物お預かりしますね」
「あ、ありがとうございます……」
ソファーへと案内し、俺はキッチンで冷たいお茶を淹れて戻ってきた。
ガラスのグラスをテーブルに置くと、彼女はソファーの端っこにちょこんと座り、背筋をピンと伸ばして、膝の上で両手をキュッとグーにして握りしめていた。肩がガチガチに強張っているのが遠目からでもはっきりと分かる。
(もしかして……この人、こういうお店来るの初めてなのかな?)
メンズエステという場所に似つかわしくないその純心な雰囲気に、俺の警戒心が少しずつ解けていくのが分かった。俺は彼女に威圧感を与えないよう、少し離れたソファーの隣に腰掛け、優しく声をかけた。
「はじめまして。本日担当させていただきます、コウと申します。よろしくお願いしますね」
俺が微笑みかけると、彼女はハッと肩を跳ねさせ、おずおずと俺の方を振り返った。
「は、はい! よろしくお願いします……! あの……すみません、私、こういうお店……本当に初めてで……すごく緊張しちゃってて……」
消え入るような声で、顔を真っ赤にしながら告白する彼女。
大きな瞳が不安そうに揺れており、心臓が早鐘を打っているのが伝わってくるようだった。
(やっぱりそうか……!)
いつもセクハラまがいの猛攻に晒されている俺にとって、このリアクションはあまりにも新鮮だった。俺は緊張をほぐしてあげようと、少し崩したトーンで話しかけた。
「大丈夫ですよ。僕も、お姉さんがすごく綺麗な方なので、実はちょっと緊張してます。なんとお呼びすればよろしいですか?」
「えっ……あ、ありがとうございます……っ」
俺の言葉に、彼女はさらに顔を赤くして伏し目になった。そして、もじもじと指先を弄りながら、蚊の泣くような声で答えた。
「コトネ……と申します。あの……お兄さんも、すごくかっこいいです……」
出されたお茶を両手で大切そうに持ち、一口飲んではチラッとこちらを見て、また俯くコトネさん。
その一つ一つの仕草が、あまりにも可憐で可愛らしかった。いつも接している百戦錬磨の猛者たちとは根本的に違う。
(うわぁ……なんかすごく癒される……。本当に普通の可愛らしい女の子だ……)
毒に冒されかけていた俺の心が、清涼飲料水を飲んだ時のように洗われていく感覚がした。
俺は気持ちを切り替え、手元のタブレットを開いてコースの説明に入った。
「コトネさん、本日は初めてということですし、リラックスしていただけるコースをご案内しますね。当店のメニューはこちらになっていまして……僕のおすすめは、100分コースの2万円と、5000円の衣装オプションの組み合わせですよ」
「じゃ、じゃあ! それでお願いします!」
俺が説明を終えるか終えないかのタイミングで、コトネさんは返す刀で即決した。
(えっ、即決!? すごいな……迷わないんだ……)
「あ、ありがとうございます。それでは、合計で2万5千円になります。当店は前払い制となっておりますので、先にお会計をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、わかりました!」
コトネさんはバッグから、一目で高級ブランドと分かる洗練されたデザインの長財布を取り出した。そこから手慣れた動作で綺麗な一万円札を三枚取り出し、俺に差し出してきた。
「これで……よろしいでしょうか?」
財布のブランドと、迷いなく2万5千円を出す金銭感覚。どうやら、清楚な見た目通り、かなりの裕福なご家庭のお嬢様か、恵まれた環境の女子大生らしい。
「はい、ちょうどお預かりいたします。お釣りのお返しです」
五千円札を渡すと、コトネさんはそれを丁寧に財布に仕舞い込んだ。
「それでは、施術の前にシャワーからお願いいたしますね。あ、ここで着替えますか?」
俺が冗談めかしてそう尋ねると、コトネさんは目を見開いて「えっ!?」と声をあげた。
「こ、ここでですか……!? ち、ちょっと……それはすごく恥ずかしいかもです……っ」
両手で顔を覆うようにして身を縮めるコトネさん。
(可愛いなぁ……結局、裸みたいな格好に着替えてもらうんだけどね)
心の中でくすりと笑いながら、俺は立ち上がってバスルームへのドアを指差した。
「ふふ、それでしたら浴室の方で着替えていただいて、あらかじめ置いてある紙パンツと紙ブラジャーに着替えて脱衣かごに入ってくださいね。準備ができたらお呼びください」
「はい! わかりました!」
コトネさんは着替えの入ったカゴを受け取ると、逃げるようにバスルームへと駆け込んでいった。パタンとドアが閉まるのを見届けて、俺は大きく息を吐いた。
(よかった……今日は平和に、トラブルもなく平和に終わりそうだぞ……!)
心からの安心感が胸を満たす。
俺は自分の服装を整えるため、着ていた私服のTシャツとズボンを素早く脱ぎ捨てた。そして、いつもの仕事着である、あの極小の黒いブーメランパンツ一丁の姿になった。もう二ヶ月も着用しているため、上が全裸で下がパンツ一枚という格好にも、すっかり抵抗がなくなっていた。
数分後。
カチャリと、バスルームのドアが開く音がした。
「す、すみません……これで大丈夫ですか……? だいぶ出ちゃってて、すごく恥ずかしいです……っ」
おそるおそる出てきたコトネさんの姿を見て、俺は息を呑んだ。
そこにいたのは、さっきまでの清楚な服を脱ぎ捨て、薄い不織布でできた紙ブラジャーと紙パンツ一枚になった美少女だった。
スレンダーで無駄のない引き締まったくびれ、美しい鎖骨のライン、すらりと伸びた白い脚が剥き出しになっている。彼女は両腕を胸の前で交差させ、股間を隠すように腰を屈めながら、顔を真っ赤にして震えていた。
その華奢で可憐な身体の美しさと生々しい破壊力に、俺の心臓がドクンと大きく跳ね上がった。
「あ、大丈夫ですよ~。こちらのマットへうつ伏せになってくださいね」
俺がそう言って案内しようとした、その時だった。
コトネさんの視線が、俺の身体へと注がれた。
「…………っ!?」
彼女は足を止め、完全にフリーズした。
大きな瞳が丸く見開かれ、息をすることすら忘れたように固まっている。
上が全裸で、引き締まった胸筋と腹筋が剥き出しの俺の体。そして、下が布地の面積が極めて少ない黒のブーメランパンツ一枚という格好。
コトネさんの視線は、俺の胸元と、ブーメランパンツで包まれた股間の膨らみの間を、行ったり来たりと激しく往復していた。彼女の顔が、見る見るうちに耳の先まで赤く染まっていく。
(あ……これ、研修の頃の俺と同じだ……)
神崎さんの研修を初めて受けた時、相手の露出度の高い姿を見て固まってしまった自分自身の姿が重なった。目の前の清楚な美少女が、俺の身体を見て過剰なまでに動揺している。
俺は気づかないフリを決め込み、爽やかな笑顔を崩さないように言った。
「どうぞ、こちらへ横になってください」
「あ……は、はいっ……!」
コトネさんは我に返ったように跳ね上がり、ぎこちない動作で施術用のマットへと向かった。そして、言われるがままに、うつ伏せになってベッドに身体を預けた。
俺は彼女の背中に大きめのバスタオルをふわりとかぶせ、施術の準備を整えた。
「それでは、まずはオイルを使わない指圧から始めていきますね~」
「は、はい……よろしくお願いします……っ」
タオル越しに彼女の背中に手を置き、ゆっくりと体重をかけていく。
その時、俺はふと、マットの横に設置されている大きな全身鏡へとチラリと視線を向けた。
(……あ)
鏡越しに、コトネさんの顔が見えた。
彼女はうつ伏せになり、顔を横に向けながら、鏡に映る俺の姿――上が全裸でパンツ一丁の俺の身体と手元を、じーっと熱い視線で見つめていたのだ。俺が視線を向けたことに気づくと、彼女は慌てて目を逸らし、ぎゅっと目を瞑った。
今まで二ヶ月間、白石さんや吉田さんといった猛者たちにさんざんセクハラされ、遊ばれ、弄ばれ続けてきた俺。
だが今、目の前にいるのは、俺の身体を一目見ただけで顔を赤くし、盗み見してしまうような、純粋でウブな美少女だ。
立場が、完全に逆転している。
手のひらに伝わる彼女の緊張した体温を感じながら、俺の胸の奥で、今まで眠っていた小さな『悪戯心』が静かに目を覚ますのを感じていた。