UACミュールキャンプにて。
リーダーであるローズ中佐は、次の襲撃計画候補の打ち合わせを終えたばかりで。自分のテントに戻ってきたところだった。
ミュール、なんとも皮肉な響きのある名称だ。なぜなら本来自分はテロリスト――あのヒッグスの指揮下に入って闘争をしかける側にいたはずなのに。
だがUACが誕生してしまって以降。
ヒッグスが消え、テロリストは大義を見失い。結局、執着心と自己愛にとりつかれたミュール達の中に混ざっていくしかなくなってしまった。
グラスを出し、ウイスキーを注ぐ。
そのまま煽って喉に焼き付く痛みだけが、泡立つ感情を抑え込み。冷静にさせてくれる。
テントに入ってくる部下がいたが中佐は彼を見ようともせず、新たに用意する一杯にだけ集中していた。
「……でし……、とメッセ―ジが」
「本当か?」
「ええ、いつの間にか外に。確認しますか」
「もちろん。だが、まさかっ」
まさか彼が生きていたなんて!!
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目出兄弟がオーストラリアに到着した翌々日。
いきなりポーター達に活動を促す命令が下された。大空の下で連日のパーティ騒ぎで憂さを晴らしていたポーター達は、文字通り喝さいを上げてパーティを盛り上げ始めた。
兄弟もその知らせを受けて何があったのか、と驚いたが。真実はかなり素っ頓狂で、想像もしなかった形で解決したようだ。
『”あの”ヒッグスが生きていた、だぁ!!?』
対消滅テロやアメリカ再建を阻止しようとした絶滅主義者。
ブリッジスは彼の最後の情報としてA.K.A(生死不明)と断言したはずだった。通常、というより常識としてこれは死亡したけど確認できなかった、という意味でつかわれるはず。
それがまさかの生きていた――というのはなんとも。
しぶといというか、嫌われっこ世にはばかると苦笑するべきなのか。
とにかく彼が跳ね橋部隊のリーダー、フラジャイルとサムに復讐を堂々と宣言した、ということでブリガントの武装化に、ある一定の奇妙な理解が生まれ。ポーターの活動にゴーサインがでたらしい。
なんだかな。雑だな、とは思うのだが。
調査しようにも、接触してきた本人たちの形跡ぐらいしかないのだろうし。とにかく今は、動かせるはずだから動いてもらおう。
そういう大人の判断ってやつなのだろう。
新しい地獄に嬉々としてやってきてしまうようなポーター達の動きは早かった。
小さな村と皮肉をたたいたポーター達の仮設住宅がごっそりとその数を減らした。焚火もBBQセットも跡形もなく片付けられ、ポーター達は集まって今後の話で情報交換をしていた。目出兄弟もそこに参加していく。
彼らは考えていた計画を口にする。
ガバメンツのプレッパーズハウスとプレート・ゲート間の安全を確保するため、これから数日かけてウォッチャー退治をする。まだ跳ね橋部隊が駐留しているという西の配送センターにむかって突き進むと豪語するのもいる。
それぞれが発表する中で、兄弟にも話題がふられた。
「そういえば今日は静かだな、目出兄弟。お前たちはどうする」
ケンジはこういう時は後ろに引く。なのでしかたなくカエデが口を開いた。
「ローン・サバイバーっていう元軍人さんのところに行くつもり。採掘場とやらもあるらしいから、調べてこようかと」
『ほう」
「なに?」
「知ってるのか?その変人は山頂にすんでるらしいんだが、その道中はウォッチャーがウヨウヨしていると聞いてるぞ」
「だから?」
若者としては純粋にそれが何の問題か、と聞き返しただけであったが。悪辣な同業者たちは悪い笑みを浮かべ「貴様の本音はわかっているぞ」というような表情をしている。
気分悪くなったので、こいつらから離れるとさっさと依頼を受けて準備を始めた。
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まだウォッチャーが存在していることを示しているらしい真っ赤な空の下。
ローン・サバイバーと呼ばれる男のプレッパーズハウスに兄弟は到着した。届けた相手は気難しい人物だな、という印象があったのだが。サムが何度も訪れていたらしく、わりと愛想のいい会話をすることができた。
ただ、やはり犬連れのポーターがまだ若いというのが気になったようで。ありがたいことになんと自分が供出してくれた麻酔ライフルの扱いのコツを聞かせてくれた。
「ポーターは危険な任務もあると聞いている。君たちのような若者がそんなことをしているなんてな」
「若いからと驚かれることはよくあります。これでもUACではあなたほどではないのでしょうが、ちょっとした伝説もあったりするんですよ」
「それは興味深い話だね。いつか聞かせてもらいたいな」
「アハハ、アハ。そんな披露するほどのことじゃないです。いや、ホントに」
張り合うというわけではなく。時々だが会話の中で適当な受け答えをしてしまうから、こういう時に冷や汗をかくことになる。本当にこれをやってしまう自分のうかつさに反省することが多い。
会話を切り上げて次の計画について話そうと後ろを向くと、ムカつく弟がニヤニヤしてこっちを見ていた。
コイツ、久しぶりにぶっ飛ばしてやろうか。
登山と違い、下山は想像した以上に楽だった。
しかも途中で出現しているウォッチャーを全滅させてしまったかもしれなくて、赤い空が曇り空になり。普通の”時雨”にかわっていた。
長いこと放置されていたという採掘場では、素人の目から見ても明らかに設備は壊れていると分かったが。システムはまだしっかり動いていたので、修理できそうだとも思った。
「これ、再起動させたとしても資源なんかの持ち運びは歩きじゃ難しいかもしれないね」「そうだな。この辺は岩場も多いからフローターで運ぶとなると落としてしまうことが増えるだろうな」
UACでは荒れ地の岩場というのが多く。採掘場というのはシティや砦などの中に用意されていたから、大量に輸送するにしてもやりようはあった。
だがここではまだ、外につくられていた採掘場が使えるというなら。輸送にはできるだけ多くを持ち運べる道具が必要になる。
「とりあえず確認できたということで良しとしよう。写真を何枚かとってAPAC4000に送れば跳ね橋部隊にも伝わるだろうし。再起動のための計画も出されるかも」
「そうだね」
カエデとケンジはそれぞれで施設と周囲の映像をおさめると、この日はここに設置する”時雨”シェルターで夜を明かすことを決めた。
夜が終わり、朝が来る。
兄弟は体を寄せ合って座り、アリーは足元で眠っている。
そんな中で目を覚ましたカエデは、じっと地平線を見つめてそこに太陽が見えてくるのを待った。時が過ぎて、その瞬間がついにやってくる。
カエデは静かにカメラを構えると美しい景色を一枚切り取った。
なんとなくだが、ここで兄弟でやっていけそうだな。そんな風に考えられた。
帰還する新しい一日はトラブルの知らせから始まった。
シェルターを出て歩き出したとたんにAPAC4000から警告が送られてきた。
なんとガバメンツから救助要請が出ているのだという。ブリガントというあの武装集団が、あろうことか彼らのプレッパーズハウスに攻撃するための拠点を構築していたらしい。
それをなぜかポーターに依頼するという――。
なんとなくだが、老人たちの怒りの原因には心当たりがある。あのバカ騒ぎ、あれが恐らくこうなった原因だと言いたいのだろう。
そしてポーター達は言い返すこともできないのだろう。
だが何より問題だったのは、そこにポーターがひとりも残っていなかったという。
すでに皆、好き勝手に行動しており。プレートゲートの間でウォッチャー退治をしていた連中は、なぜか南米に戻っていったようだ。
「つまり僕たちに出番が来てるのか。クソ」
「ああ、本当に迷惑な話だよな」
武器は残っていたよな?
消費したのはBTグレネードだけだったし、メ―サー銃にライフル。土産代わりに持ってきた麻酔ライフルもある。これでなんとかなるんじゃないか。
麻酔ライフルを構えたケンジは隣にアリーを座らせると、自分も伏せて配置につく。
こういうのは自分は率先して避けたい話ではあるが。今回はシステムから個人に直接指定されてしまったので逃げようがない。
兄はいつものように困った、困った言いながら奴らのそばに潜り込んでいってしまった。
スコープの中ではメ―サー銃を器用に使い、気絶した相手を支えて優しく寝かしつけていく兄の背中を眺めている。
言いたくはないがあのようなやり方は普通のポーターならやらないと思ってる。とりあえず兄の足を引っ張らないよう、ケンジも戦闘の技術については学んではいる。
とはいえ、傷つけるのも傷つくのも嫌だし。
そんなことをグルグルと考えつつ、集中しようとスコープのなかの景色に注意を払おうとしている。
気が付くとなんだかんだで兄は器用に半分は寝かせてしまったようだ。
制圧するまであと何分あるか。
目の前にはこちらに背を向けて座り込み、なにかやってるブリガントがいる。メ―サー銃が充電されて発射する。
前にかがむかと思った上体が。反発するように後ろに倒れてダイノジになろうとして、その背中を両手で支えた。
遠くからはっきりとした銃声がして、間髪入れずに着弾音。
後頭部に強い衝撃を受けたらしい相手はくぐもった声を上げながら崩れ落ちていく。気が付かなかったが、こちらの動きを見つけて背後を取ろうとしていたようだ。
だが、少しマズイことになった。
再び銃声が鳴り響くと、カエデの周辺から複数のオドラデクの起動音がする。
本人は落ち着いて姿勢を低くしながらホルスターにメ―サー銃をおさめ。背中から新しく拾ったロッドを取り出す。
複数をいきなり作動させたことで相手の位置については予想がついていた。
視覚の陰から静かに近づき、銃声に反応して飛び出してくる相手の顔を思いっきりぶっ叩いた。
ケンジの銃声に惑わされて動けない敵の背中を見つけ。倒れたやつの手から零れ落ちたピストルを取り上げると、弾奏が空になるまで連射する。
残りはひとり。
背後の新しい銃声を無視してケンジに集中して接近しようとするのはあまりにも無謀というものだ。
カエデは胸いっぱいに空気を吸い込むとロッドを構え、力強くそれを宙に投げ込んだ。
背中を向けていたため何が自分に投げられたのか分からぬまま、最後のブリガントは直撃したロッドから放出される電気であっさりと意識を失い。岩場の中で前のめりに倒れたことでケンジの顔をしかめさせる。
あれは痛みは感じないだろうが、起きたらひどいことになってるんじゃなかろうか。
「終わったぞー」
倒れている連中の中から兄が暢気に声を上げている。
ケンジはため息をついてライフルをしまいながら立ち上がると、アリーも立ち上がり。嬉しそうにカエデの方へと走って行ってしまった。
ここに来たブリガント達には少し気の毒に思う。
これから持ってきたもの、奪ったものはすべて回収され。彼らは仕方なく、味方に敗北したのだと説明しながら助けを乞うしかない。敗北をかみしめるくやしさの中で、ガバメンツのプレッパーズハウスに攻撃しようなんて士気は残ってないだろう。
恐らくしばらくの間。
次回は明日のこの時間に