虚無に浮かぶ白銀の月   作:八堀 ユキ

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伸びてくる影

 半月もすると西部の配送センターと関係の深いプレッパーズの情報が知られていく。ポーター達の活動も昔と違い、カイラル通信を通じて情報が活発に交わされるようになる。

 そんな中、ガバメンツは次の計画として国道建設を発表した。

 

 これは南米と違い、国どころか文化まで消滅しかかった場所ではおきなかったことで。旧政府の高官たちであるガバメンツがのこっているからこそくだされた決断と言える。

 逆にいうと彼らがまだ生きていて。国の、政府の再建を先導して進めたいとしているから可能なことだった。

 

 南米でもすでに国道の必要性などが訴えられてはいるのだろうが。

 かの地に必要なのはまず、再び人々の意思の統合し。新たな国家を作り上げ、秩序を回復できる判断ができるようにならなければこうした発表は実現することはないだろう。

 その意味において、このオーストラリアはギリギリのところで歯を食いしばってこらえることができた、その恩恵がついにやってきたと言える。

 

 

 以前、アメリカではブリッジスがすべての権限を手にしていた。

 そのせいで唯一のポーターだったサムは異常な距離を西に東にと移動し。過労死するんじゃなかろうか、と心配されるほど昼に夜にと活動し続けていた。

 

 だが今回は契約しているポーターにも作業を分担してくれるらしい。

 

 最初のルートとして、西の配送センターから採掘場の前あたりまでと決め。特別な建設装置でポイントごとに国道敷設装置を配置。あとは必要な素材量が集まれば完成目前までもっていける。

 そう、集めることができれば――だが。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ガバメンツ代表とフラジャイルはカイラル通信を通して意見を交換していた。

 議題は無論、先日にサムを襲撃し復讐を口にしたヒッグスについてだ。

 

『――なので、まだ結果は出てはいませんが。ヒッグスが新しい力を手に入れたとする確信はまだ持てていません』

「彼については我々も調べはしたが。どうも、UAC側は危険な人物と理解しながらも。彼の追跡調査についてはあまり熱心ではない、そんな印象を受けている」

『――別に何かを隠しているわけではありません。

 彼はテロリスト。それもよりにもよってテロを実行する狂った危険人物でした。彼の手で都市も人も失ったことで、彼の情報の多くは欠損してしまった』

「欠損?」

『対消滅による爆発は未来だけではなく、過去も現在もなにもかもを吹き飛ばしてしまうのです。情報は消え、存在したなにかの記録に空白が生まれる』

「なるほど、理解しました」

 

 跳ね橋部隊はオーストラリアに上陸すると同時に、常に何かから攻撃を受けてきた。

 その原因になにか別の意思を感じる瞬間もあったが。本人が自ら出てきて復讐を宣言したというのは……いぶかしくはある。

 自らの報復心に煽られた行動、そう考えるには納得しかないのだが。UAC以前は彼にBTを操る力を与えた存在がいたことはブリッジスの調査で分かっている。力を失った彼は、敗北し生死不明へと追いやられたというのに。怪しげな機械を操っていた。

 ということならば、今回は誰と組んでいるのだろうか?

 

「ヒッグスはこのオーストラリアでも対消滅テロを起こすと思われますか?」

『断言はできませんが、こちらは出来ない。不可能だと考えています。

 彼自身も私やサム、故人への復讐をわざわざ告げに来ただけで。それがオーストラリアへの攻撃につながるというのは無理を感じます』

「確かに。分断を演出するために物資をばらまいている、とも見えますな」

『ヒッグスの調査はこの先にも続けます。というより、今後も彼からの攻撃は跳ね橋部隊に向けられるはずなので、情報が後からついてくる。そういうことになるかと』

「先日、あなた方が確保したという大型機械の解析は西部配送センターで続いていると聞いてます」

『はい、オリヴィアを中心に解析は続けられていますが。まだ始まったばかりで結果は出ていません。時間が必要でしょう』

 

 代表は何度も軽くうなずき同意を示す。

 話題は次に移っていく。

 

「ポーターの諸君の活躍は目を見張るものがあります。道なき荒野、危険な座礁地帯、ブリガントの巡回も問題にしない。

 カイラル通信だけでは補えない物流で。我々の活動も一気に活発になっている」

『それは良かった』

「今、我々も南米の動きをまねて。このオーストラリアの人々の中から新しいポーターを用意できないか。広報活動を考えています」

『なるほど』

「現状、彼らの行動範囲は西部に集中していますが。今後を考えますとーー」

『しかし、ポーターの役割は今のところ多岐にわたります。環境変化、BTに限らずブリガントの標的にされるのです。かなり難しいのではないでしょうか』

「安直、でしょうか」

『色々なサポートが必要と思われます。こちらもAPAC4000にシミュレーションをしてもらいましょう。そちらの計画と突き合わせてたたき台を作ることができれば、実現に近づくことはできるはずです』

「わかりました。そのようにしましょう」

 

 ポーター増員について代表はフラジャイルがなにがしかの考えから乗り気ではないようだと察した。

 

 かつてのアメリカと同じように国家再建を目指すオーストラリアにとって、今必要なのは再建の象徴となる存在であった。以前はそんな人物はいたのだが。組織を、国を守る戦いが続いたことであまりにも多くを失ってしまい。現在は距離を取られてしまっている

 新しいヒーロー、それが欲しい。

 

 それをポーターに、というのは名案だと思うのだが。

 どうやら自分たちの調査が甘かったか、そもそも現実的な思い付きではなかったということか。。

 

『では最後に国道計画を』

「分かりました――すでにポーターが中心となってデザインされた西部配送センターから採掘所までのルートは確保できました。計画序盤の問題はすでに解決しています」

『次に進める、ということですね』

「そうです。APAC4000が必要な資源を算出してくれた。正直に言いますが、かなりの量が必要となっています」

『でも不可能ではないはずです』

「もちろんそうです。ただ、時間はかかりますし。問題もあります」

 

 代表はそういうと用意していた画像を呼び出してくる。

 

「西部配送センターと我々のプレッパーズハウスの間には、西部で最大のブリガントの拠点があります。今回用意してくれた国道は完成すれば、奴らが破壊をもくろんで火力で攻撃したとしても簡単にどうこうはできなくなるはず。

 しかしどうやらこちらについての情報を得ているらしく、先の国道敷設装置の設置だけでかなり激しい攻撃を受けた。そこに資源を持ち込むというのは、簡単ではない」

『ヒッグスが教えたのでしょう。彼のテロリスト達もUACの国道が完成した後、そこに手出しができなくなった事実があります。邪魔をするなら今がその時です』

「現状考えられるのは攻撃による拠点制圧、それによって状況を安定させることだと考えます。しかし我々には兵士。軍隊も部隊もありません。

 政府も事実上はすでに消滅し、国という概念は消えつつある中にある。この状態で新たに軍を結成するというのは無理だ」

『APAC4000もそれに同意しています。UACも国なき軍隊の誕生には眉を顰めるでしょうし、歓迎はされません』

「そうなると、誰がこの役目を?ということになる」

『もちろん、それはこちらが契約しているポーターにお願いします。彼らは兵士ではありませんが、どんな困難からも生き延びる最高の人材です』

 

 代表は内心ショックを受けていたが、表面では感情を殺す作業に徹していた。

 ブリガントの制圧、これは簡単に口にするような話ではない。

 

 なぜなら互いに武器を持って衝突するのに。互いに殺せず、また法律もあってないようなもので逮捕することも。拘留することもできないからおそらく交戦後に倒れている敵はそこに放置することになる。

 殺し合いをした、という事実の後で憎悪をむき出しにしない人間はいるのだろうか。

 

 フラジャイルの冷静で冷酷にも聞こえる一方、自分たちが連れてきたポーター達への奇妙な信用には理解しがたいものがある。

 

 

 会議が終わった。

 方針は決定した。APAC4000は作戦開始の時刻を算出する。

 すべてのポーターに攻撃計画として送られるまで24時間も必要ないだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 西部配送センターの北側にはしっかりとした採掘場がまだ形を残していた。

 これを稼働させつつ、センターに直接大量に搬入できるようにしようと繋がっているモノレールごと復旧が開始される。

 センターの保管庫から資源が文字通り空っぽになるまで出されていったが。それをとりもどすようにポーター達に資源の搬入を求める依頼が出された。

 

 それまでプレッパーズを中心に回っていた目出兄弟も、ここで依頼の一つを受けた。

 センターからモノレールで出発し、同じようにモノレールで帰還するだけの仕事。これまで経験したことがないもので、若者らしく自然とウキウキしてしまう。

 

 アリーは無駄に頭がいいから留守番しろ、と言ったとしても。

 なにがしかの異変を感じたと思ったら飛び出して行ってしまうんじゃないかという不安があった。そこで本人には不快であろうが、名案が思い付いた。

 

 アリーをカエデが背中に”担いで”モノレールに乗るのである。

 

 その日、モノレールの両脇にポーターが捕まって出発したが。

 片方の肩の上で表情をなくした犬が、見慣れない高い位置から見下ろす景色に身動き取れなくなっている姿を見ることができたのは何人くらいいただろうか?

 モノレールは進みながら兄弟の笑い声が響き渡る。

 

 騒ぎが彼らに近づいている。

 だが、今はそれを知らない彼らにとって平和で楽しい時間であった。

 




次回は明日のこの時間に
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