ポーターのリックは「結局はこうなるのか」と口にしながら、不満顔で仲間を見回す。 攻撃参加に指名されたのは15人。第1次契約者のほとんどが集められた。
とはいえ顔ぶれを見れば「これならできそうだ」と思えるくらいには納得できるものがあり。当然、目出兄弟もここに呼ばれている。
エドが今回の話を進めようと司会を買って出る。
「よーし、それじゃ計画について説明するぞ。重要なことだからな」
APAC4000が用意した計画は特に変わったところはない。
部隊は攻撃部隊、スナイパー部隊、輸送部隊。それぞれ5人で担当する。
狙撃部隊が南北に配置された後、攻撃部隊が目標拠点に侵入。
制圧後は後方で待機していた輸送隊で一気に国道を建設してつなげる。作戦開始から35時間ほどで終わらせる、というのが伝えられた。
「狙撃手はAPACが割り出したポイント、南北で4か所。ひとつだけ狙撃手と観測者で組んでもらう。もちろんそれはユーリだ。彼女はライフルの名人だからな」
誰も反対意見を出さない。
「輸送隊は後方ね。まァ、環境観測所とセンターで待機だ。
攻撃部隊は目標の北東に集結。おそらく一番先に動いて一番長く待機することになる。時雨シェルターで時間が来たら侵入開始だ」
攻撃部隊に関しては声が上がった。
「ここにいる連中にとっちゃ当然の話だが。俺達は兵士じゃない。
ご立派な攻撃計画とやらを出されても。5人でひとつの動きを完璧にやりきるとか、難しいんじゃないか?」
「ああ、他には?」
「スナイパーだの攻撃だのまどろっこしくないか?3.4人もいればあそこの制圧は可能だと思うぜ。もちろん、経験重視で人選してってことになるけどな。
フリンはラッシュと2人であそこを以前、制圧したことがあった。他にもいたはずだ。数なんか揃えたら逆に撃ち合いになる危険が生まれる。そっちの方が問題だろ」
「わかった、わかった」
舐めている、というわけではないのだろう。
おそらくあのAPAC4000が計画した攻撃計画だから、文句言いたいという心理が動いているのかもしれない。
徐々に彼らの中で契約を盾に要求を拒否するべき、の流れが生まれようとしていた。
「なぁ、カエデ。お前はどう思う?」
「余裕でしょ」
ちょっとした軽口は小さな声でのやり取りではあったが。思ったよりも耳がいいポーター達は聞き逃さなかった。面白そうにここで2番目に若い彼の考えを聞かせろと言った。
「目的を考えたら、この計画はとてもしっくりするものです。やっぱりAPAC4000はそつがない」
「そうか?みんなそうは思ってないぞ」
「ところでVR訓練モジュールは使ってます?」
「なんだよ、いきなり」
「そのまんま聞いてます。跳ね橋部隊でも使われているあのVR訓練シミュレーター」
「あんなテレビゲームを俺達がやるわけないだろ」
「ですよね。でも自分は使ってるんですよ、時々ですが」
カエデが言いたいことがわからない。
「何が言いたいのかはっきり言ってくれって」
「状況の選択に新しく5人一組で攻撃する環境が追加されてます。なんでこんなものがと思ってたけど、この攻撃のために用意したんでしょう。
自分も弟もすでに結果を出してAPAC4000に提出してる。トップの成績ではないでしょうけど、満足してもらえる数値は出ていると思ってます」
まさかの新情報に全員が沈黙する。
彼らが相手に不満の意思を見せた時、おそらくだが跳ね橋部隊側はこれを出して話を有利に動かしたのだろうと考えられた。なら、そうならなくてよかった。
「これがあれか。子供はいつもおもちゃの遊び方を正しく理解しているというやつか。老人にはツラいな。感謝するぜ、カエデ。お前が気が付いてくれて俺達が恥をかかずに済んだ」
理由はどうあれ。雇用者と雇用主の関係というのは程よく冷たく緊張が求められているものだ。話し合いの場で反論しても、こちらの意見を丸め込まれてしまうというのは雇用者側として楽しいものではない。
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攻撃開始まであと6時間。
砂場に降る雨が止むと、それまで濡れた地べたに座って顔をしかめていたポーター達も夜空を見上げたり、うたた寝したり、音楽を聴いて時間を潰していた。
予定通りに進めば、ブリガントの夜勤組は寝息を立ててしばらくした頃。寝ぼけ顔の連中がノソノソ作業を始めたあたりに行動開始することになる。
攻撃部隊に配属されたカエデは、狙撃に配属された弟とアリーのことを思う。
自分に比べたらはるかに安全な場所で、それも下手をしたら一発も打つことなく制圧完了となりそうなところにいるので心配はしなくていいのだろうが。
いつもと違って身動きの取れない大勢と一緒の行動には怖さを感じる。
今回は互いに別々に配属されてもいるわけで――。
「なんだい、不安なのか?」
「自分だけじゃなくて弟も選ばれたのが――あいつは俺と違って、暴力する奴はバカでシネと断言する奴ですから。留守番してほしかった」
「あっちは別の意見がありそうだな。待たされるのも忌々しい。これは別れた女房に私が最後に吐き捨てられた言葉さ」
「はぁ」
「大丈夫さ。シミュレーターでギリギリまで訓練を繰り返したんだ。失敗する可能性は数パーセントもない」
「ですよね」
わかってる。でも完璧ではない。
敵を”殺さない”というだけでリスクが急上昇するのを自分は知っている。制圧、というなら敵は皆殺しでいいのだ。そうでなければ――。
夜はゆっくりと更けていく。
地平線から顔を出す太陽が、今度は岩陰の間から大地を覗き込もうとしている。
ケンジら狙撃手たちもすでに移動を終えて、伏せた状態で目標の動きをスコープ越しで確認していた。
気だるい早朝の雰囲気、それが連中の動きからはっきりと感じることができる。
ケンジはとなりで丸まって眠るアリーを置き、作戦開始の時間を待つ。
一番頼りにされているユーリをのぞけば、攻撃部隊の侵入に気づかれない限りは自分たちが引き金を引くことはない、とされている。
太陽が目標に光を当て始めるころ、攻撃部隊は静かに接近を開始していた。
このために新しくデザートカラーのポータースーツまで用意されていた。それぞれが紐による拘束術、もしくはメ―サー銃などを手にし。ブリガントの背後から襲って眠らせる。
次々と床に転がされながら、彼らが所持していた武器は回収されて背中に回される。
作戦開始時刻からの序盤はすべてがスムーズで、問題はなかった。
ブリガント側は物資を補充してくれるメッセンジャーから君たちの敵から攻撃がある、とは聞かされていたが。正直、不定期に周辺でポーターに襲われていたこともあり。あんまり大きな事とは受け取ってはいなかった。
代わりに彼らは短距離探査装置を用意した。
これはオドラデクのようにソナーを一瞬走査することである程度の範囲の中に何があるのか、何が起こっているのかを知ることができるのと違い。
短距離の範囲の中で”カイラル濃度”の上下を観測するだけの装置である。
これは直接、人の増減を知らせはしないが。カイラル物質をまとった存在が範囲の中で”増えた”とわかると異常を伝えてくれる。
静かな装置に真っ赤なライトが点灯した。
半分ほど終わったところで、ついに侵入がばれてしまった。
ユーリの観測酒から警告が発せられると攻撃部隊にもブザー音で知らされ、彼らは装備をいったん収めるとライフルに変えてそれぞれがオドラデクを作動させる。
慌ただしくもまだ判断がついてないブリガント達の様子が伝わる中、スモークグレネードを投擲して慎重かつ大胆に進み始めた。
ここからは当然、狙撃チームも攻撃に参加する。
警告と同時にすでにユーリは捕らえた敵の頭部に麻酔弾をたたきこんでいく。
敵対する脅威の接近を知ったブリガンドであったが。
状況はもうくつがえすことができないほど進んでいて、状況は決しようとしていた。
20分後、攻撃部隊は弾を撃ち尽くす前に任務を完了したと判断した。
ブリガント達はあちこちに倒れているが。提案によりそいつらを後ろで手拘束して転がしていく。
その間に待機していたトラックやバイクの後続部隊の出発が伝わり。ポーター達は拠点のめぼしい物資の回収と用意された短距離走査装置の破壊が命じられた。
資源や装備はもちろん。水のボトルには穴があけられ、冷蔵庫の中身から持ち帰られるものは袋に放り込んでまとめて持っていく。
数日、心細くもひもじい想いをしてもらうために全力を尽くす。
攻撃は成功、緊張は徐々に失われようとしていた。
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作戦終了、そのメッセージに安堵はしたがケンジはその場を動こうとは思わなかった。
ため息をつき、この騒ぎでポーターが傷つかなかったことを喜んだ。スコープの中では兄が犬のように持ち出す荷物を引っぱりだして回っている。
やれやれ。
ふと、となりにいるアリーがずっと静かなままでいることに気が付いた。
彼女を見ると、まだ丸まって横になってはいたが。顔を上げ、なぜか微妙な表情をこちらにむけて見せていた。
ん、微妙な表情はなぜだ?
手を伸ばして撫でようとして、その途中で動きが止まった。
自分の背後でカチャリと武器が鳴らされ、何が起きたのかを理解する。
「立て、UACのクソ野郎」
ケンジは両手を上げて立ち上がりながら声のする方角を見る。
マジか、最悪だ。
自分たちと同じポータースーツを着ていたが、それは見たことのない人物だった。怒りに満ちた目から今しがた自分の仲間に何が起こったのかを正確に理解しているのは明らかだ。
少し距離をとったところにもう一人がいて、信じたくないが軽機関銃をもっていた。
アリーはまだ理解できていないようだったが、空気が変わったことに戸惑っているようだった。それでいい、今はそれでいいんだ。
今、飛び起きたりすれば間違いなく撃たれてしまう。
アリーは賢かった。でも賢すぎたんだ。
忍び足で近づくポーターに「なにしているんだろ」と疑問を持ったが、それが敵だとはわからなくて動けなかっただけなんだ。
「武器はこのライフルだけだ。撃つなよ、気づかれたくないだろ」
「黙れっ」
アリーの困惑が、別の感情に移り始めているのを感じる。ダメだ、戦って時間を稼げなんて命じたりはしない。走ってほしい、兄のもとに走ってくれれば。アリーは傷つくことはないのだから。
再びライフルの発射音が響くと、後ろで構えていたブリガントの頭部がはじけて倒れていった。
ケンジは間髪入れずにアリーに「走れ!兄貴へ」と叫んだが、目の前のブリガントが腕を伸ばし。ケンジを引き寄せると盾にして、その頭に銃を突きつけたことでアリーはついに異常を認識して立ち上がる。
大地に四肢を踏ん張る威嚇の姿勢で吠え始めた。
拠点の医療キットに手を伸ばそうとした時。
カエデの耳に遠くでアリーが吠えるのを聞いた。その瞬間にスイッチが入る。
異様な雰囲気を発しながら凄い速さで走り出したカエデを見た近くのポーターは、今まで見たこともない恐ろしい表情の彼を見て。
彼が発動するオドラデグの効果で現在この場所でおこってしまった事態を理解した。
「マズイ、ヤバいぞ。おい、カエデ待て!!!」
叫びながらその後を追っていく。
ポーターは足の速さを競ったりはしないものだが、若いというのを引いてもカエデの様子は異様でなにをするのかわからない様子だった。あれは絶対に止めないといけない。
一方でケンジを人質にしたブリガントはユーリのスコープの中にとらえられるだけでなく。2人の攻撃部隊のポーターを前に押し問答していた。
「なァ、投降しろよ。やさしくするぜ、縛って転がすだけでいい」
「うるせー!」
「スナイパーが狙ってる。仲間もすぐにくるぞ、騒いでもオマエに楽しいことはないぞ」
「ぶっ殺してやるよ、UACの犬どもがっ」
「おいおい、俺達が政府の犬だって。本気か?
俺達は雇われてるだけだ、仕事をもらってここにいる。それだけだ」
「嘘だ!お前ら兵士みたいに攻撃したじゃねーか。騙されないぞ」
アリーも距離をとって吠えている。
威嚇されているのが分かるからか、ブリガントの表情に苛立つものがあった。
説得なのか脅迫が交わされる中、何かが空中を横切って飛んでいくのを見た。
それは驚くほど正確にブリガントとケンジに向かっていき、当たると当然のように両者の体を電気ショックで昏倒させる。
「凄いな――」
振り返ると走ってきているカエデがやったことだとわかった。
スタンロッドを遠投で、ただし弟とまとめて当てて見せる。無茶苦茶ではあったが、確かに効果はあった。
だが感心出来たのはそこまで。彼の背後を追ってくる仲間が「そいつを止めろ」を繰り返していてそこで気が付いた。
カエデは完全にキレている、
ポーター達の間をすり抜けると、カエデはいきなり弟と折り重なっているブリガントの頭部を思いっきり蹴飛ばす。
そいつが落としたピストルを拾うとさらに近づこうとする。
「待て待て待て!」
声を上げながら慌ててひとりはカエデの腕に、もうひとりは背後に回って取り押さえようとした。凶行をとめることはできたが、直後に発射された3発の銃声に皆の背筋が凍った。
遅れたらこのバカは弾倉が空になるまでとどめを刺そうとしていると分かった。
「カエデ。おい、冷静になれ。お前の弟は無事だ、お前が助けただろ」
「……」
「犬、そうアリーも無事だ。大丈夫だったんだ冷静になれ」
視線が殺そうとする相手から動いていない。背後のポーターが無力化するか?と視線で伝えてきたが。首を横に振ってそれをやめさせる。
こういう時の人間の爆発力は尋常ではない。意識をちゃんと刈り取れればいいが、その気配に反応して残っている理性を消滅させて暴れさせたくはない。
状況がさらに深刻になる中、仲間たちが集まってくる。
ストレスから吠えながら距離をとって回転しているアリーをユーリたちが首元の毛を優しくつかんで連れてくる。ケンジに起きろと声をかける。
ケンジはフラフラと立ち上がると、まだもめている兄のところに行って正面に立った。
「あのさ、なんか意識失って寝てたんだけど」
それが魔法の言葉になったか。
いきなりむき出しにしていた怒りと憎悪を消し、力が抜けた手からピストルを奪われてもカエデは別人のように弟に返す。
「そうか、大変だったな」
「そりゃ大変だよね。誰かに攻撃されたんだからさ、誰だろうねぇ」
「ああ、礼を言ってくれていいぞ。さァ」
「あんたが!兄貴が僕を攻撃したんだろうが。何で礼を言うんだよっ」
今度はケンジが逆上し始めるが、カエデはまったく気にしている様子がない。
周囲が困惑する中で、ユーリはアリーの尻を押すことで兄弟の元へ行かせる。
「ユーリ?」
「大丈夫。あの娘が全部なんとかしてくれる」
犬を家族と考える人間はみんなそうだ。
兄弟喧嘩していても、あのように不安そうに見上げる存在がいれば無視できなくなる。そして結局、どうでもいいと喧嘩なんてやめてしまうものなのだ。
「――ああ、大丈夫。大丈夫だよ、アリー」
「そうそう。バカ兄貴は反省してる。問題はないからさ」
犬が愛されている中で、ポーター達は背後で急いで倒れているブリガント達を移動させていく。とにもかくにも、攻撃計画は無事(?)に完了した。
輸送部隊は国道を建設を終え、ついにオーストラリアでも安全な道が作られた。
次回は明日のこの時間に