今年のゴジラは楽しみですな。
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これまでもそうであったように兄貴の予測は時に驚くほど的中することがあった。
今回もそうだ。
マザーフッドのそばにあるポーター用の仮設住宅を占拠して堂々と湯治をしていたら。UACがAPAC4000を通して兄弟に直接、新しい依頼を送り付けてきた。
内容は兄の予想通り大型BTの討伐。
だが、どうやらこの依頼は指名制らしい。跳ね橋部隊と契約しているポーター全員に向けて送られたものではないようだった。
それを知ると、あの恐れ知らずの兄の様子がおかしくなった。
常に落ち着かなく、何かを考えながら歩き回り。時々、誰かにメッセージを送って返事を耐えるように待っている。
「アリーをな――しばらくどこかに預けたいんだ」
「なんでさ!?アリーはどんなBT戦でもちゃんと動けるよ」
「あのな。お前は俺達のポーターの復帰戦。集団が参加するBT戦をなにごともなくこなせると本当に考えているのか?考えているんだろうな、認識が甘い、大馬鹿だ」
「なら依頼を断れよ」
「出来ないさ。APACがこれを言い出したってことは、やり残しなく奇麗にオーストラリアの計画を終わらせたいってことだ。個人の感情からの抵抗は許すはずがない。
だから時間を稼ぐ。出来るだけ時間を稼いで、アリーだけでなくお前も一緒に――」
「なんですと!?」
急な兄貴の言葉にケンジは怒りを感じ、興奮しながら反論した。
「僕らは2人と1匹の家族で、相棒だ。これまでもそうだったし、これからもそうなんだよ」
「いや、そんな精神論はさ…」
「もういいよ。もう、いい。くだらないこと言われても聞かないからね」
兄は困り顔をしていたが、状況はカエデが望むようにはならなかったようだ。
僕はアリーを抱き寄せ気分よく可愛がる中、APAC4000の塩対応に発狂するカエデは。最後にはうめき声をあげ、膝をついて沈黙する。
無言で敗北感に悶え苦しむそんな兄の姿には少し満足するものがあった。
作戦実行は2日後とされた。
オーストラリア北東部には巨大な製鉄所があった。そこではタールの海が一望でき、反対側を向けば砂漠が広がる不思議な場所であった。
そこに今回は武装や装備をしこたま積んだトラック3台が乗り込み、東部の拠点に伸びるモノレールを利用してポーター達が徐々に集まってくる。
時間ギリギリのモノレールには3人が乗っていて、一応ではあるが時間通りに全員がそろうことができた。
「なんていうのかな。ブリガンドの時もそうだったが、なんとなくコイツラが来るんだろうってのが今回も選ばれ、揃えられてるな」
そう口にしたのはビリーという高齢のポーター。しわが刻まれた彼の口元には不敵な笑みが刻まれていて、これから戦う相手を恐れている様子はみじんもなかった。
「時間だ、はじめよう」
そう口にしながら前に出てきたのは、チャックとコナーだ。
「まず、全員ここに来てくれたことに感謝したい。ポーターにとってこういった仕事は好まれるものではないことは同じ職に就くものとして私も同意できる。ただ、困ったことにここにいるのはそんな常識があったとしても『クソには一発食らわせる』などと口にしてしまうような困った連中が選ばれてしまった」
低い笑い声が響く。
「かつて我々、全員がラスト・ストランディングと呼ばれる異常な状況に放り込まれた経験があった。その時を思い出せば、今回の話は至極まっとうなものに感じるはず。
あのゴーストハンターが、タールの海が砂漠に上陸し。そこに複数の大型BTが出現するという現象を確認した。
位置情報を含めたアナウンスは君たちの指輪端末でもう確認できる。俺の話が終わった後で改めてそれぞれでちゃんと目を通してくれ。
見ての通り、対BT戦を想定した装備はここに思いつく限り積んできている。
この後、休憩を入れたら数時間の砂漠のドライブだ。奴らにどう対処したらいいのかは、話し合う必要もないだろう」
そんなものはない、これが事実だ。
コナーがそこまで一気に語ると、横にいたチャックが出てくる。
「情報に敏感な奴らは知っている奴もいるだろう。
2時間前、跳ね橋部隊のリーダー。フラジャイルが部隊はこれから最後の工程に入るための準備に入ったと発言した。彼らが今、どのような状況にあるかは本当のところはわからないが。あのブリッジスのメンバーが中心の連中がそう口にした。
その意味は、このオーストラリアでの活動に契約したポーターならわかるはず。
今回のような人数を集めての大型BT戦はこれまでなかったと思う。連携しろとは言わない。ただ、それぞれが最悪を避けるベストだと思う行動をしてほしい。
恐らくはここにいる野郎共全員がひどい目にあうだろうが、クタクタに疲れ果てたとしても全員そろって帰りたいと思う。そう願っている」
チャックの最後の言葉になぜか急にアリーがワンと吠えた。
彼はそれがアリーの抗議だと察したようだ。
「あれ、メスだったか?」
「アリーはメスだよ。りっぱなレディーだ」
「こりゃ失礼、紅一点を守って、行くぞ野郎共!」
無人の製鉄所の中に明るい笑い声が響いた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
3台のトラックが列をなす砂漠のドライブ開始から数時間が経過した。
曇り空の砂漠に変わりはないが、それが逆に奇妙な安心感を持たせてくれる。”時雨”がふるか、砂嵐が来たらドライブは中止して安全な場所まで避難しないといけないからだ。
目出兄弟はケンジとアリーが2号車に。カエデは3号車に乗り込んでいた。
ケンジは荷台に立ち、そのとなりにアリーが後ろ足に立って後ろに流れていく変わりない砂漠を眺めていた。
突然、アリーはウゥと唸り声を始める。
その視線はタールの海岸線がある方向に向けられた。ケンジはそんなアリーに落ち着けと、わき腹をなでてやるが。アリーの様子が変わらないのを見ると、後ろを向いて後続する車両に乗る兄に向けて、手の甲を振り上げると左右に2度だけ振って見せた。
「ん、ケンジは何をやってる?」
「アリーの様子が変わった。吠えていないってことは、おそらく何かがこっちを確認して近づいてきてる。かもしれない」
「かも?」
「経験からくる話さ。覚悟決めるなら今かもよ」
「お前らの犬、俺達みたいに立派にDOOMSになっちまってるのか。驚いたな」
カエデは背後の荷物からライトマシンガンを展開させて警戒態勢に入る。そんな彼の様子から空気を察したポーター達も動き出しはじめる。
トラックは砂漠の丘の中で列をなし、まだ順調にドライブを続けていた。
だが、時間は残されてなかったらしい。
海側の砂の丘の上を乗り越え、タールの海がトラックの列の横原に向かって静かになだれ込んでくる。トラックはコントロールを失い。車体が流れたり、横転する。
ポーター達は車かあら一斉に飛び出していくと、丘をさらに見上げるほどの巨大なカニと大きな獣の姿をしたBTが迫ってくるのをこの時、確認した。
「あんなにでかいのかよ!なにができる?!」
「全員、武器をとれ!やれることをやればいい。絶対に死ぬなよ、全滅するぞ」
ベテランの悲鳴のような声と指示を聞き、カエデはすぐに獣に向かって攻撃を開始した。
大型BTなどといってもこれまで見たことのないほど巨大な今回のカニはどうすればさっぱりわからなかったが。
それとは違ってしなやかな巨獣なら倒して対処した経験はあった。
似たようなことを考えているポーターもいて、丘の上から顔を出した状態で集中攻撃を食らった獣のBTはたまらず態勢を崩してこちら側の坂を転がり落ちてくる。
ケンジのトラックは横転してしまい。砂漠の上に投げ出された後でタールの海にさらに流されてしまった。
タールにまみれながら必死に立ち上がりピストルを抜いたところで若者は気が付いた。
――アリー!?
賢いうえに身軽なあの犬がまさか車の下敷きになっていないと思いたいが。
犬用のオリジナルのスーツを着せているとはいえ、所詮は犬用。完璧な防御力はどこまで信頼できるかわからないし、そもそもにして犬がタールに触れて大丈夫なのかどうかもわからないのだ。
今更だが兄のあの時の罵りが思い浮かんできて、苛立ちを感じる。
お守りになるかも怪しいピストルを握りしめ、ケンジはポーター達の元に戻ろうとタールの海に足を取られながら走り出す。
時間は稼げなかったようだ。
上陸したカニは、そのビルのような太さの足を狙ったようにタールの海で見上げているポーター達を踏みつぶさんと足踏みを開始する。
逆に獣の方は明らかに弱って後ろに下がる姿勢を見せていたが、ポーター達に背を向ける気配はないように感じる。
ポーター達は必死に戦っているが、彼らが手にする武器の火力があまりにも心細すぎた。
MPパレットと呼ばれる対BT弾はカニの固い甲羅からわずかに見える弱点らしい部位に向けて発射したとしても、効果的とはとても言えなかった。
「あいつの脚だ!関節部分を狙え」
「獣に注意しろ。後ろに回ろうとしてくる。顔を出したところで叩け、潰せ!」
ケンジは横転しているトラックの荷台を見て背筋が凍り付いて立ち止まってしまった。
犬がタールの波間で浮んでいるなどという最悪の情景こそなかったが、見回してもそこでは興奮して右往左往しているポーター達しかいない。
アリーはどこだ?
「ケンジ!!」
「兄貴、アリーがいない!アリーが!」
「トラックだ。トラックに行け!」
カエデが言っていることが何なのかは理解できなかったが、先頭のトラックを確認しろということなのだろうと思うことにした。
確かに前のトラックは横転もせずタールに流され、離れたところで止まっている。
そのトラックにはもう誰も載っていなかったが、後ろに回って荷台の中を確認した時。そこに体を横たえて自分を見つめているアリーを見て、ケンジは安心した。
「アリー!よかった、こっちだ。こっちへ来い」
「……」
「アリー?」
異常事態は見つめてくる彼女の瞳の色でようやく理解した。
震えていたのだ。怯えていたのだ。あの活発で陽気なアリーが、タールまみれになった姿で荷台にうずくまり動けなくなっている!
慌てて荷台に上がり、アリーを大急ぎで抱き上げようとした。
「おい、バカ野郎!そこから降りろ、死ぬぞっ」
誰かの悲鳴のような警告が発せられるのと同時に、ケンジは自分の頭の上に強い重圧がのしかかってくる感覚があった。
それを確認しようとは全く思わなかった。
そしてそれが彼と愛犬の命を救った。
トラックに振り下ろされた巨大なカニの足はそのまま車体を粉々にしたが、飛び出したケンジはアリーを抱えて無事にそこから脱出できた。
カエデはそんな弟たちの姿を見てしまった。
瞬間、血が沸騰する感覚と共にほとんど弾切れのマシンガンをその場で放り出す
「武器をよこせっ!俺を助けてくれ!武器が必要なんだっっっ!!」
腹の奥底から叫び出した。
カエデのこの突然の狂乱ぶりに周囲は一瞬、このガキはついに狂ったかと絶望しかけたが。コナーはすぐに何をしようとしているのかを思い出すことができた。
それはまだUACが再建される前。
エッジノット・シティへたどり着いたサム・ポーター・ブリッジスは巨人のBTと交戦。この際、弾薬が尽きたが。なにかに助けを求めることで奇跡を起こしたと記録されていた。
この話はホラ話のように受け取られていたが。後に可能性の話として、タールの海には死者の意思が眠っているのではないかという仮説に説得力を与えたとされる。
で、あるならば。
タールの海の中、人が生きようとする強い意志に反応して死者が答える可能性が、ある?
若者の声に反応したのだろうか、タールの波間のあちこちでゴボゴボと泡が立ち始めた。
その中のひとつから浮かび上がってきた荷物は水面からカエデの方角に投げつけられたように飛び出していく。それはまだポーター達には出回っていない対大型BT専用の大型武器。
それと同じようなものが泡吹く場所から次々と飛び出していく。
それを当然のことのようにカエデは叫ぶのをやめて拾いあげると、確認もせずに肩に担ぐのはロケットランチャー。
ポーター達もそれを見て、慌ててタールに浮いている荷物を拾い始めていく。
奇怪なタールの海での決戦はついに決着に向けて動き始めていた。
巨大なカニの脚の関節、甲羅の裏側に向かって複数の火線がのびて大爆発が続く。
(大丈夫。もう大丈夫だから、もう終わるんだから)
ケンジはそんな爆発の響く中。震えるアリーをやさしく抱きしめ、勇気づけようと脚や腹さすりながら犬の耳元でつぶやき続けていた。
次回は明日のこの時間に