ミュールの経験値を多く手に入れたことで、僕の認識は少しばかり悪化した。
「おい」
背後まで移動してからそう声をかけると、目の前のミュール……疲れて濁った眼をした自分より少し小さな中年男は振り向いて。僕の姿を見て驚愕から目を見開いた。
僕は喧嘩は得意じゃない。それはもう十分理解した。
殴り合いであっさりと袋叩きにあったのだから、どうにかする必要がある。
そこで僕はトンファー。旋棍とよばれる武器を選んだ。持ち手の先端部分に金属を仕込んでおく。ここを相手の頭蓋に叩き込めば、殴り殺すのも容易になる。
普段なら持ち手にされる部分をたたきつけるように。
2度、3度と振り下ろすのを繰り返すと。名前も知らないオッサンは両目をカッと見開きながら「う…うぅ…」とつぶやき。崩れ落ちていく。
さて、次だ。
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ミュールの野営地からトラックと共に、奪われていたBBユニットと他に奪われていたらしい誰かの荷物をまとめて持ち込むと。届け先の職員たちは意外に冷たい態度で迎えてきた。
彼らはBBユニットを夜が来る前に届けられなかったのかと、予定通りでないことに異様に気にしてこちらを責めてきた。
それらについて2人で答えている最中、赤ん坊の父親とその家族らしい連中が来て。ここに来る途中でミュールに襲撃されたと聞いただけで僕らに罵詈雑言を浴びせてきた。
どうやら僕らが荷物を雑に扱う間抜けだからミュールに襲撃を受けたと理解したらしい。
とりつくしまもなくて僕らは沈黙するしかなかった。
そんな冷たい視線と事情聴衆に半日近くもつきあわされたのに、その日のシティのニュースにはBBユニットから出された赤子が都市間の移動に耐えたと報道され。その家族はポッドから出されたらしい赤子がその状態で戻ってきたと上機嫌で答えていた。
マーフィはそれを見て「クソどもがっ」と吐き捨てていたが。自分は何も口にはせず、ただ腹の底にどす黒い感情だけが渦巻いていた。
ミュールは大勢で固まって行動することはない。
彼らは数人のチームを作ると、細胞のように分裂していって。あちこちに野営地を作り、装備をそろえると行動を開始する。
この習性がわかっていれば、こちらからの襲撃方法はいくらでもある。
3人目からは銃を使った。
グロック27は爺さんの残した旧世界の
距離10~15メートルで発射すれば狙い通りに目標の体を破壊し、命を消してくれる。
異変に気が付いてミュール達は集まってくる――そうだな、銃声はあいつらの足を止めたりしないし。荷物の残るこの野営地に背を向けて逃げ出すこともできない。
崩れながら倒れていくミュール達。
それを目にしても僕には何の感情もない。
マーフィは新人が戦闘訓練を学ぶなら最後でいい、と言っていた。
だが人を破壊するには戦闘訓練が一番効率がいい。僕はある場所から手に入れたアプリを起動する。
感情を刺激するようなリズミカルなサウンド。眩いエフェクトに続いて、ポーターのような姿をした優男が目の前に登場する。
「ようこそ。この世界を憎む同志となる卵たち。
俺の名前はヒッグス。ああ、もちろん聞いたことがあるだろう。この、もはやバラバラにされた、形を維持できない国家アメリカ。その公共の敵、つまりテロリストだ。
政府はこの絶望しかない世界で、お前たちに一錠のカプセルと精神科医で人生を乗り切れと言うが。そう、まったくたりない。俺がそうであるように、お前たちの胸の奥も空っぽのはずなのに怒りが、憎悪を感じているはずだ。生きているものすべてに!
そこでこの俺、ヒッグスが手を貸してやろう。
道を見失ったお前たちに新しいものを提供してやる。それがとっておきの暴力だ」
世界は舞台から、トレーニングエリアへと姿を変えていく。
「暴力のすばらしさを学ぶのはこのご時世、簡単ではなくなってしまった。
かつては武器を与え、先人が教え、そして戦場に兵士として送り込むことができた。彼らがだれかを殺し、誰かに殺される戦場というものも世界のあちこちにあったというのに。デス・ストランディングの世界ではこれがとんでもなく贅沢なものとなってしまった!」
「だが、このVRトレーニングから学ぶことができる。状況の設定は多彩、現実と感じられるような戦闘経験。
それがお前たちの視野を、世界を大きく広げてくれる。
もうドラッグも、セックスも目じゃないぞ。たっぷり暴力を楽しんで、学んでくれ。なんならそれを実践してもらってもいい。このアプリはそのために存在している」
テロリスト・シミュレーター。
公共の敵が自慢するだけあって、アプリが提供してくれる戦闘技術が暗い感情を処理できない僕に喜びと満足を与えてくれた。
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野営地に6つの死体袋を並べた。
これをこいつらの使っていたトラックの荷台に放り込むことになるわけだが、急ぐ必要はない。こいつらの集めたであろう物資も確認して。何を持ち帰るのかの選別を始める。
今、太陽は地平線へと消えようとしているが、問題はない。こいつらが化け物になる前にはすべて決着がついている手はずだ。
目出 憲治はバイトを始めていた。
犬との留守番に寂しさは感じなかったが。兄との会話が減ったことが耐えられなくて、兄を少しでも理解しようと寿司屋のバイトに入ったのだ。
正直言うと結構楽しんでいる自分がいる。
その店は父と娘の2人でまわしていて、娘はケンジより2歳年上。姉後肌で優しくしてもらったことで、ケンジは寿司職人という将来をすこしばかり想像するようになっていた。
学校、バイト、自分のこととアリーの散歩。そして心の距離が離れていく兄の帰宅。
これが自分の新しい生活。何の問題もない。
弟はきっと兄なんて気にしないことが普通なんだ。
だってそれぞれの生き方から別れることになったからって、僕らはこの先もずっと家族なんだから。
夜が明けるまでの間に一組のポーターが近くを通り過ぎていった。
彼らはもしかしたらミュールの気配がなくていぶかしく思っているかもしれないが。彼らが敵がすべて死体になっていることなんて、知らなくていい。
野営地で待機を続けていたカエデは水筒の中身を少し口にすると立ち上がる。
奪われた荷物と死体は、もうトラックに積んで用意はできていた。これから焼却場まで移動して死体を処分し、帰還する。
それで仕事は終わり。
それが今の自分のやること。これが自分の新しい仕事。
目出 楓は20歳を迎える前に殺人者となった。
彼は今はポーターではない。彼は哀れなミュール達の処刑人、奴らの無意味な人生を終わらせ。同時に彼らが奪った荷物を奪い返す者。
この時まで彼は7人を殺した。
やはり特に思うことはない。
次回は明日のこの時間に