配送センターを見下ろす丘の上でマーフィとカエデは並んでそこから景色を見下ろしていた。
2人の間に流れる空気に緊張は見られなかったが、あの日あの時のように無言な時が続いていた。だが、マーフィはついに口を開く。
「あれから1カ月になるな」
「ええ」
「この2週間、俺とジョッシュでお前をポーターとして鍛えた。今、教えることはないが。なにかあれば連絡をよこせ。答えてやる」
「ありがとうございます」
「ルーキー。いや、カエーデ。
お前は自分の意志でミュールを、人を殺した。だが、今の社会がお前を裁くことはない。ミュールだって時にはポーターを、誰かを殺すこともあるからだ。法の死角ってやつだな。
俺が黙れば、ほかの誰かが騒いだとしても。お前は自分を守ろうとした、といえば問題はない」
「……」
「俺は——お前を見捨てるのが早かったのかもしれない。そう考えたからお前の弟に協力した。不満か?恨むか?」
「いいえ。そんなことは」
「あの銃はどうした?まだ持ってるのか?」
「処分しましたよ。元々、爺さんの私物でした。デス・ストランディングが起こる前の世界で残ったのがあれだっただけで」
マーフィは視線の先を変えず軽く頷いた。
「それでいい。おそらくお前がしたように俺たちポーターが武装する日は近い。だが武器は人を臆病にさせる。持って安心、使えば満足。でも無いと怖くて何もできなくなる」
「そう、かもしれません」
「おそらく今後お前と組もうとするポーターはいない。お前がひとりで都市を出入りしていた記録は必ず興味を惹かれる。理由を知れば、リスクが高いと思われる。
俺のように、ポーター達からお前は拒否される。容赦なくな」
「はい」
「お前を復活させるには相棒がいる。だから弟の方をポーターにした。
ありがたいことに不出来な兄貴と違い、あっちはDOOMSらしい。お前の助けにはなるが、知識も経験もない。兄弟で力を合わせないと死ぬぞ。どちらか、もしくはどちらも」
足元の小石を蹴ると、斜面をころころと転がり落ちていく。
「このチャンスを生かせ。お前が弟を良いポーターへと導くんだ、それしかない」
「わかってます」
「俺は明日、ポートノット・シティに向かう。お前たちはどうする?」
「時間は空くでしょうけど、自分たちも同じようになると思います。自宅を処分することになると思うので、それから」
「なら、完全なお別れにはならないかもな」
それだけ言うとなにとはなしに2人は景色に背を向けて歩き出す。
長くもない付き合いではあったけれど、この2人の間には確かに師弟のつながりは残されていたようだ。たとえもう、この先で共に歩くことはないとしても。
そんな出来事から数日後——。
政府は突然、大きな発表をした。
かのブリッジスによって実行されている第2次遠征隊の調査から、ついに人類は対BT兵器の開発に成功したというものだった。
なんでもあるDOOMSの体液が、BTに影響を与えることが証明されたことから進展があったのだとか。とはいえそれが血液を霧散させるグレネードというのがなんともキツイ。
続いて政府はポーターたちにこれだけではなく、装備の追加を発表する。
内容はミュールやテロリストへの自衛のための装備。ついにポーターに武装が認められることになってしまった。マーフィの予測は的中した。
同時にブリッジスからはこれら新装備の使い方を学ぶためポーター教習用のVR訓練も登場する。ソフトを起動するとまず紹介の映像が流れてくる。
『皆さん、こんにちは。
私はハートマン。ブリッジスに所属している学者ですが、今は皆さんのガイドです。
今回、我々はポーターに新たな支援を開始することを決定した。それが、対BT兵器を含めた護身用の武器や新装備です。
これらは今後も、第2次遠征隊の進捗状況の変化と共に追加、更新などがされる予定となっておりますので。皆さん、有効に活用してください。
今回、こうしたVR訓練ソフトを開発した理由。
それはポーター再募集後、新人の数が増加。それに伴い、学習ソフトも必要であるとの意見が多かったので、それにこたえた。
ここで学ぶことの中に武器を使った戦闘がありますが、我々は別に兵士を作りたいわけではないということを理解してほしい。あくまでも攻撃ではなく、自衛のため。
そこにポイントがあるのです。
最後にポーターの皆さんだけ、最新情報を。。
我々ブリッジスは、遠征計画のさなかではありますが。ついに国道の復活計画を準備中です。いつそれが開始されるか、それはまだわかりませんが。
これが動き出せばポーターの皆さんの苦労もいくらか改善されると考えます。
最後まで拝聴いただいて感謝します。ありがとう』
眼鏡をかけた研究者らしき男はそこで姿を消す。
ブリッジスという組織はついに、このデス・ストランディングの世界に変革を起こしたらしい。BTを恐れず、奴らを狩る時間がやってきた。
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結局、ポートノット・シティの出入口で依頼を受領するようになったのは。前の相棒と別れて20日後のことだった。
政府による武器と装備の開放の発表が、僕らの状況を加速させた。今の自分たちは銀行に悪くない数字の預金があっても、帰る家はもうない。
自分の再トレーニングの間、ジョッシュさんはブリッジスと交渉してくれて。なんとアリーが外の世界で僕らと歩けるように犬用の装備を融通してくれた。
4本足を守る靴。雨が降ると伸縮することで手足や頭部などを覆い隠してくれる犬用のレインコートに変化するポータースーツ。
まだ開発中という子供用のスーツを改良しただけらしいが。ボーダーコリーのように大型の犬だったことでそれほど難しくはなかったらしい。
とはいえ、まだ実験の段階なのは間違いなく。これを正しく使用するにはそばに手錠端末を持つポーターがいなくてはならない。最悪、劣化すると機能不順をおこして動かなくなるかもしれないから、管理はちゃんとするようにと言われた。
2人と犬は、輝く太陽の下。荒野を前に互いが荷物を担ぐ。
「よし、今回はここの近くにいるプレッパーズを回るぞ」
「わかった」
「この都市とプレッパーズの間にはミュールとBTの出現エリアがある。お前の能力は信用しているが、気を付けて進もう」
「大丈夫だって。船に乗る前、あのBT座礁地帯を僕たちは潜り抜けることができたじゃん。この血液グレネードなしでもさ」
「まァ、ブリッジスの天気予報に感謝だな。でも、気は抜けないってことだ」
とりあえず話すことはなくなった。
力強い一歩を踏み出すと、続いて弟と犬もカエデの後ろをついてくる。
アリーはそれが自分の役目のはずだったとでもいうように、頭を上げては左右を確認し、地面を忙しく嗅ぎながら器用に歩いている。
アリー、ケンジを横目にカエデは笑顔で前を向く。
こうしてついにポーターの兄弟とその犬は、家族で荒野に出ていくことになる。
次回は明日のこの時間に