異世界でスローライフを楽しんでた俺、まさかの余命一年。 作:原稿丸〆武道雄
「余命は、持ってあと1年でしょう。」
リオ・ライラックとして日本から転生してきて、早十八年。
自給自足をしながら、理想的な異世界スローライフを送っていた俺は、毎年恒例の教会の定期検診を受けに来ていた。
ちなみに、この検診は別に強制されているわけではない。
前世でいうところの人間ドックのようなもので、健康に不安がある者や、自分の身体に異常がないか確認したい者が自主的に受けるものだ。
俺も毎年欠かさず受けている。
十八年間、大きな病気をしたこともない。
だから今年も異常なしで終わる。そう思っていた。
しかし、担当のシスターに「体に異変がある」と言われ、個室へ案内された。
服の胸元を開き、胸に手を当てられて数分。
そして告げられたのが、その言葉だった。
「......本当に?本当にあと一年しか生きれないんですか!?」
俺は目の前にいるシスターにそう何回も繰り返し聞く。
しつこいと思われるかもしれないが仕方ないだろう。
余命宣告を受け、すぐにはい、そうですかわかりましたと簡単に受け入れれる奴がいるだろうか。
そんな前向きな人間がいるだろうか。
少なくとも俺はそんな人間ではないし、死ぬなんて嫌に決まってる。
「今のところ体に不調なとこなんて無いですよ?」
普通、余命宣告を受けるには体のどこかには不調なところが一個ぐらいはあるはずだ。
だが、おかしなことに体に不調なところは見当たらず、今に至るまで運動も激しくできたし、魔法もバンバン使えるほど体は常に好調だ。
それなのに俺は余命宣告を受けた。
しかも後一年しか生きれないときた。 たった一年だ。
まだこの世界にきて十八で、異世界ライフもまだまだここからだって時にだ。
そんな時にあと一年しか生きれませんと言われてみろ、信じれる方がバカだ。
そう思っていたが、現実は時に非常なものだとわかった。
「はい。残念ながら、リオ様の体はもう......我々では治すことはできないでしょう」
「治せない」シスターはそう言った。
万が一にもシスターが間違えているという可能性もあるだろう。
だがその可能性はほとんどないと言っても過言ではない。
なぜならシスターは、この世界では医者に近い存在だ。
回復魔法の専門家であり、人体についても熟知している。
人の体を触れ自身の魔力を流すだけで相手の容態がわかってしまう。
それに何度も、傷ついた冒険者達や病に侵された病人が彼女たちの魔法によって元通りになる光景を見てきた。
そんな彼女が「治せない」と言っている。
その言葉とシスターの悲しみに暮れた顔を見て俺は、病名を聞かずとも、本当に俺はあと一年しか生きれないんだなと実感した。
「......わかりました」
自分が後一年しか生きれないという事実を俺はすんなりと受け入れた。
目の前にいるシスターにわかりましたとそう言い頭を下げその場から立ち去る。
ここで立ち去らず何か聞き出せば、余命を伸ばす方法が見つかるかもしれない。
でも、シスターですら治せない病気だ。
なら、ここで必死になって足掻くより、残された一年を好きに生きた方がいい。
(そうだ、帰ったら死ぬまでにやりたいことリストでも作ってみるか?)
どうせくだらないことでほとんど埋まるには違いないが。
それにすぐやめそうだし却下だな。
「待ってください、リオ様!」
後ろからシスターの必死に呼び止める声が響いた。
いつも静かなシスターに後ろで大声を出されビクッとしたが、俺は何もなかったかのように後ろを振り向く。
「どうしました?シスター......ってなにしてるんですか。」
振り向くとシスターは頭を下げ俺に向かって手の平を合わせていた
いつも教会のシスター達がやっている神に捧げる祈りのポーズだ。
「親愛なるリリス様……どうか、この者――リオ・ライラックに神のご加護を。
残された命が、幸福で満たされますように。
そして最期の時まで、どうかこの者をお守りください。
どうかこの者に神のご加護を。」
シスターは俺に向かって頭を下げ神に祈りを捧げていた。
俺がわずか一年を幸せに生きれるように、そして命尽きるまで俺を守るようにと。
自身が捧げる神リリスに祈りを捧げていた。
別に俺は宗教とか神とかには興味なんてないが、悪い気分はしなかった。
それにシスターからして俺は所詮他人なのにも関わらずこの対応はさすがシスターと言ったものだと感心した。
「ありがとうございますシスター。顔を上げてください」
悪い気はしなかったものの、流石にそこまでされなくてもと思った俺は、そう言ったがシスターは祈りを止めなかった。
ずっと同じことを繰り返し言い祈りを捧げている。
この様子だと止めろと強く何度も言っても祈ることをやめないだろう。
おそらく今日一日中ずっと祈ってそうなほど。
俺は止めるのを諦めずっと祈りを続けるシスターを見ながら教会を立ち去った。
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(これからどーすっかな。)
誰もいない帰り道を歩きながら、心の中でぽつりとそう呟く。
(今まで通り、スローライフを続ける?)
悪くはないだろう。
だけど俺がスローライフを始めた理由は前世から夢見たこの異世界で長生きがしたかったからだ。
長生きしてこの世界を全力で満喫したいという理由でスローライフを始めた。
だが、俺が生きていけるのは後一年。
今まで通りに過ごすにはあまりにも勿体無いだろう。
(じゃあ、何すんのって話だよね。)
まさか自分が余命宣告を受けるとは思っていなかった。
ずっとこのまま自給自足で長く楽しい異世界ライフが待っていると思っていたものだから
急に余命宣告なんてされても困るしかない。
(なんもねぇーなって......あっ)
その時俺はピカッと考えを閃いた。
(長く生きるためにスローライフでしょ?じゃあその逆をしてみるってのは?)
俺はできるだけ長く生き残るために、冒険者だったり魔物だったり、命が関わるものはなるべく避けて生きてきた。
もちろん。もしもの場合に備え前世の知識を生かし自分の身は自分で守れるように鍛えてはいたが、そう言う危険なことは避けてきた。
だが今は残り一年の命。
長生きのために危険を避ける必要もない。
どうせ死ぬんだ。だったら。
今みたいなスローライフをやめて、ハイペースで行こうじゃないか。
まだまだ知り尽くしてないこの異世界のことも知れるような一年間を過ごした方が満足して逝けるのではないだろうか。
そう思った。
(それにせっかくの異世界だし危険でスリルのあって楽しくて達成感のあることもしたいな)
そういう一年間を冒険したい。
(そんなことができるのは......)
考えうる限り一つしかないな。
(冒険者に俺はなる!!......なんちゃって。)
こうして余命宣告をされた俺のスローライフをやめた一年限りの冒険者ライフが幕を上げるのであった。