異世界でスローライフを楽しんでた俺、まさかの余命一年。 作:原稿丸〆武道雄
アリオン・スケーラーからリオ・ライラックに変更致しました。
冒険者になろうと決めてからの俺の行動は早かった。
まずは、街から遠く離れた森の奥にある我が家へ戻る。
そして冒険者として必要になりそうなものをかき集め、引っ越しの準備を始めた。
冒険者になるだけなのに引っ越し?
そう疑問に思うかもしれない。
だが、これにはちゃんとした理由がある。
俺が住んでいる場所は、ここから一番近い冒険者ギルドまで馬車で数日かかるほど遠い。
必要なものを取りに行くたびに家へ戻っていたら、それだけでかなりの時間を使ってしまう。
残された寿命は、あと一年。
そんな貴重な時間を、荷物を取りに帰るためだけに使うなんてもったいない。
だから俺は、街へ引っ越すことにした。
まあ、引っ越すと言っても、冒険者ギルドの近くにある宿屋に泊まるだけなんだけどな。
あっ、お金の心配はしなくていいぞ。
スローライフを送っている間に色々と稼いでいたから、しばらく宿に泊まり続けるくらいの金はある。
(必要最低限でいいな。あとは向こうで揃えればいい)
持っていくものは、剣と防具や採取したものなどを入れる革袋。
それから金と何着かの着替え。
このくらいで十分だろう。
(あっ、魔法のスクロールとポーションも持っていくか)
スローライフ中、俺がハマっていたものが二つある。
魔法のスクロール集めと、ポーション作りだ。
スクロールは集めておけば、いざという時に役立つ。
ポーション作りを始めたきっかけは、単純だった。
家の近くの森に、ポーションの材料になる薬草がたまたま大量に生えていたのだ。
どうせなら作ってみるか、と始めてみたら、これが意外と面白かった。
しかもポーションは需要が高く、店によっては言い値に近い値段で買い取ってくれることもある。
作っていて損はなかった。
(まあ、こんなもんかな)
必要なものをバックパックに詰め込んで背負う。
(随分とコンパクトにまとまったな)
長年暮らしてきた家を見渡す。
十八年間。
この世界に転生してから、ずっと過ごしてきた場所だ。
畑を耕し、料理を作り、魔法を練習して。
何か特別なことがあったわけじゃない。
それでも、俺にとっては大切な家だった。
まあ、あと一年しか生きられないんだ。
今さら感傷に浸っても仕方ない。
(よし)
俺は玄関へ向かう。
(じゃあ、冒険者ギルドに出発だ)
こうして俺は、十八年間暮らした家を後にした。
目指すは、冒険者ギルドだ。
ーーー
(相変わらず広いな)
ビンカルの街、その中央。
そこに建っている冒険者ギルドへと、俺は足を踏み入れた。
中には大勢の人間がいる。
冒険者はもちろん、傭兵や商人、さらには騎士の姿まである。
依頼を受けに来る者。
依頼を出しに来る者。
中には、酒を飲むためだけにここへ来る奴までいるらしい。
まさに冒険者たちの拠点、といったところだ。
(えーと……まずすることは、冒険者登録か)
当然だが、冒険者になるには登録をしなければならない。
俺は受付窓口へ向かう。
そこには、白いブラウスに上品な紺色のベストを重ねた受付嬢のお姉さんが座っていた。
「すみません」
「はい! なんでしょうか!」
ハキハキとした声。
そして、見ているだけで元気になれそうな満面の笑み。
この世界に来て初めて冒険者ギルドの受付嬢と話したが――
(満点だ)
まさにゲームに出てくる受付嬢そのものだ。
なんだか少し感動してしまう。
「冒険者登録をしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「新規の冒険者登録ですね! もちろん大丈夫ですよ!」
受付嬢のお姉さんはそう言うと、慣れた手つきで引き出しの中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「こちらにお名前と年齢、性別をご記入ください」
「分かりました」
俺は渡された登録用紙に名前と年齢、性別を書き込み、受付嬢へ返す。
「えーと……お名前はリオ・ライラック。十八歳男性で間違いありませんか?」
「はい、合っています」
「分かりました。それでは今から冒険者プレートを作成しますので、少々お待ちください」
受付嬢が用紙を持って奥へ向かう。
そして数分後。
「お待たせしました! こちらがリオ様の冒険者プレートになります!」
「ありがとうございます」
手渡されたプレートを眺める。
そこには俺の名前、年齢、性別が記載されていた。
そして、その横にはEランクと書かれていた。
(まあ、新米冒険者だからな……)
この世界の冒険者ランクは六段階。
一番下のEランクから始まり、D、C、B、A。
そして最高位がSランクだ。
当然、俺は今日登録したばかり。
Eランクからのスタートになる。
「すみません。このランクって、どうしたら上がるんですか?」
「ランクを昇格させるには、ギルドが定めている依頼達成数を満たしたうえで、昇格試験を受ける必要があります」
「なるほど。例えば、どれぐらいの数依頼をこなせば昇格試験を受けられるようになるんですか?」
「申し訳ありません。それについてはギルドの方針でお答えできないことになっているんです」
(ですよねー)
「ただ、上位ランクになるほど、単純に難易度の低い依頼を数多くこなすだけでは昇格できなくなります。高難易度の依頼を達成した実績や、依頼でどのような成果を上げたのかなども評価されますので、その点にはお気をつけください」
ほう、なるほど。
上のランクへ行くほど、ただ依頼をこなすだけでは駄目になるらしい。
受けた依頼の難易度や、達成した内容まで評価されるというわけか。
今は一番下のEランクだから、そこまで気にする必要はなさそうだが、上のランクを目指すなら覚えておいて損はないだろうな。
「説明ありがとうございます」
俺は感謝を伝え、依頼掲示板へ目を向ける。
そこには大量の依頼書が貼り付けられていた。
自分で選んでもいいのだろうが......。
「さっそくで申し訳ないのですが、今受けられるEランクの依頼で、オススメのものってありますか?」
せっかくなら、受付嬢のお姉さんに聞いたほうが早いだろう。
「もちろんです!」
受付嬢のお姉さんは笑顔で掲示板の所に行き、貼ってある依頼書を一つ取りこちらに戻ってくる。
「今受けられる依頼でしたら……これなんかおすすめですよ!」
そう言って、先ほど取った依頼書を手渡してくる。
俺は書かれている内容に目を通した。
(ヒール草の採取か)
ヒール草。
主に森や平原地帯に生えている薬草で、ヒーリングポーションの材料になる。
その他にも様々な薬の調合に使われるため、需要は高い。
(まあ、これなら簡単そうだな)
初仕事としてもちょうどいいだろう。
「それでお願いします」
「かしこまりました!」
受付嬢のお姉さんはそう言うと、依頼書にギルドの印章を押した。
「あっ! そうだ」
何かを思い出したように、受付嬢のお姉さんが声を上げる。
「ヒール草の採取なら、あちらの三人も同じ依頼を受けていたはずです! もしよろしければ、パーティに入れてもらうのもいいかもしれませんよ?」
「パーティ……ですか?」
「はい! こういう薬草採取は人数が多いほど効率よくできますから。もちろん、相手の方たちに了承してもらう必要はありますけどね」
確かに一理ある。
一人で探すより、四人で探したほうが効率はいいだろう。
寿命のことも考えて効率は色々と重視しておきたいしな。
「そうしてみることにします。ここまで良くしてくれて、ありがとうございます」
「いえいえ。これが私たちの仕事ですので」
受付嬢のお姉さんは笑顔で答える。
「また何か分からないことがありましたら、気軽に聞いてくださいね」
そう言って、受付嬢のお姉さんは頭を下げた。
(なんて素晴らしい接客スキルなんだ……)
こんな常識知らずの田舎出身、新米冒険者の俺にここまで親切にしてくれる受付嬢のお姉さんを見て俺は涙が出そうだった
もしここが現代日本だったなら、迷わず星五の評価をつけているところだ。
(……って、こんなこと考えてる場合じゃないな)
俺は受付嬢のお姉さんが教えてくれた三人へ視線を向ける。
(あのパーティに話しかけないと)
俺は三人のいるテーブルへ向かって歩き出した。
近づくにつれて、三人の容姿がはっきりと見えてくる。
一人目は男。
年齢は俺とそう変わらないように見える。
装備もそれほど高価なものではなく、どこか初々しい雰囲気がある。
いかにも新米冒険者、といった感じだ。
二人目は女の子。
ローブを身にまとい、手には杖を持っている。
おそらく魔法使いだろう。
男と楽しそうに話しており、二人の仲は良さそうだ。
そして――三人目。
その少女は、明らかに二人とは雰囲気が違った。
バラのような、情熱的な赤い髪。
鋭く強い眼差しではあるものの整った顔立ち。
そして身につけている服や装備、腰に差した武器に至るまで、素人の俺が見ても高価なものだと分かる。
(仲の良い初心者パーティ……ってわけではなさそうだな)
男と魔法使いの少女は楽しそうに会話している。
だが、赤髪の少女は二人の会話にほとんど入らず、腕を組んだまま不機嫌そうな顔をしていた。
それどころか、周囲を警戒するように時折視線を動かしている。
(……ちょっと怖いな)
受付嬢のお姉さんには勧められたものの、あの赤髪の少女を見る限り、気軽に「一緒に行きませんか?」と言っていい雰囲気には見えない。
とはいえ、ここで引き下がるのもどうかと思い俺は深呼吸を吐き、勇気を振り絞り、三人へ声をかけた。
「あのー、すみません」
三人の視線が一斉に俺へ向く。
「俺も同じヒール草の採取依頼を受けてるんですけど、もしよかったら、ご一緒させてもらえませんか?」
俺はできるだけの笑顔を作り、なるべく優しく話しかける。
もしこれで断られたりしたら、俺は一生パーティを組むことができないかもしれない。
そんな不安を抱きながら、三人の反応を待つ。
すると、若い男が真っ先に口を開いた。
「全然大丈夫ですよ!」
そう言って、男はニコッと笑う。
裏表など一切なさそうな、爽やかな笑顔だ。
「人数が増えるのは、むしろ助かります! 即席パーティですけど!ぜひ一緒に行きましょう!」
「本当ですか?」
「はい!」
思った以上にあっさり受け入れてくれた。
(よっしゃ!)
俺は内心でガッツポーズを決める。
冒険者になって即席ではあるものの初めてのパーティ加入。
幸先はかなり良さそうだ。
俺はそのまま、自己紹介を始める。
「俺はリオ・ライラックと言います。ランクはEで、一応剣士です。冒険者になったばかりですが、よろしくお願いします」
「僕はカルロ・マルティン。役割は戦士で、同じEランクさ」
この男の名前はカルロというのか。
役割は戦士か......。
(戦士っぽい見た目ではないな)
とはいえ、人は見た目だけでは判断できない。
見た目が細身でも、実はとんでもない力持ちという可能性だってあるが今は余計なことは考えず、素直に覚えておこう。
「わ、私はシア・ボアネットって言います!」
続いて、魔法使いの少女が少し緊張した様子で自己紹介をする。
「見た目通り魔法使いで、水魔法が得意です! カルロと同じEランクです。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
シアと名乗った女の子はやはり魔法使いだった。
カルロとシア。
これから一緒に依頼を受ける二人の名前を覚えた。
残るのはあと一人。
さっきから興味がなさそうにそっぽを向いている、赤い髪の少女だけだ。
「あのー……お名前を聞いても?」
恐る恐る声をかける。
すると、赤髪の少女はこちらをちらっと見る。
しかし。
すぐに興味を失ったように、またそっぽを向いてしまった。
(……無視?)
その失礼な態度に、思わずイラッとしてしまう。
だが、ここは我慢だ。
前世を含めれば、俺の精神年齢は四十を超えている。
この程度で腹を立てるほど子供じゃない。
(……うん。我慢我慢)
そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか、カルロが口を開いた。
「クレアさん、無視はよくないですよ!」
どうやらこの二人は知り合いらしい。
「……はぁ」
カルロに注意された赤髪の少女は、面倒くさそうにため息をつく。
そしてようやく、こちらへ振り向いた。
「しょうがないわね」
意外にも、素直に注意を聞いてくれるらしい。
少しだけ安心した、その直後。
「クレア・スターチスよ」
彼女は自分の名前を告げる。
そして俺たち三人を順番に見渡すと、突然、鋭い声で言い放った。
「今ここではっきり言っておくわ」
一瞬、空気が張り詰める。
「私は、あんた達と馴れ合う気なんてないから!」
「…………」
「…………」
「…………」
クレアから発せられた宣言を聞き俺たちは揃って黙り込んだ。
(すげぇな一瞬で場が凍りやがった......)
どうやら、このパーティ。
思っていたより一筋縄ではいかいみたいだ。