異世界でスローライフを楽しんでた俺、まさかの余命一年。 作:原稿丸〆武道雄
あの凍りついた空気から、なんとか抜け出した俺たちは、ヒール草が採れる平原まで馬車で移動することになった。
馬車の操縦をカルロに任せ、俺とシア、クレアは荷台に乗っている。
……まあ、任せたと言っても、カルロが「僕が操縦します!」と自分から進んでやりたがっただけなのだが。
「へぇー! リオさんって剣士なのに、魔法も使えるんですか?」
「ああ。まあ、ほんのちょっとだけな。シアみたいな本格的な魔法使いほどじゃないさ」
魔法。
この世界に転生して、言語や文字以外に俺が一番最初に覚えたものだ。
幼い頃、俺の家は貴族ほどではないものの、そこそこ裕福な家庭だった。
家には何冊もの魔導書があり、暇さえあればそれを読み漁っていた。
そのおかげで、魔法の知識だけはそれなりに身についている。
自慢するほどではないが、簡単な魔法なら無詠唱でも使えるレベルだ。
「魔法って素晴らしいですよねぇ......」
シアは目を輝かせながら魔法について語っていたが、ふと何かを思い出したように隣へ顔を向けた。
「あっ! そういえば、クレアさんも魔法とか使えるんですか?」
「......何よ」
クレアがシアを睨む。
「す、すみません......」
その鋭い眼差しに気圧されたのか、シアは小さく身を縮める。
「クレア、シアはただ話しかけただけだろ。そんな睨まなくてもいいんじゃないか?」
「誰も話しかけてなんて言ってないわよ!」
クレアは声を荒げる。
「それに、私は言ったわよね? 馴れ合うつもりはないって!」
「......はいはいわかったよ」
クレアは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ふんっと顔を背けた。
(なんでこいつ、こんなにも機嫌が悪いんだ......?)
理由はさっぱり分からない。
ただ、このままだとパーティの空気が最悪だ。
とはいえ、今日初めて組んだ即席パーティなのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが......。
俺はクレアに聞こえないよう、シアへ小声で話しかける。
「シア。こういうのもなんだけど......あまりクレアには話しかけないほうがいいと思うぞ。理由は知らないけど、相当機嫌が悪そうだ」
「リオさん、私は大丈夫ですよ」
シアは苦笑しながら答える。
「ちょっと睨まれた顔が怖かっただけです。それに......クレアさんには、カルロと私がチンピラに絡まれていたところを助けてくれた人です。悪い人ではないと知ってますから。」
「......あのクレアが?」
思わず声が漏れた。
「どう見ても、人を助けるようなタイプには見えないぞ」
「そんなこと言っちゃ駄目です!」
「いや、だって......」
俺はちらりとクレアを見る。
赤い髪。
鋭い目。
不機嫌そうな表情。
そして、こちらと関わる気など一切ありませんと言わんばかりの態度。
「......道端で猫を見つけたら、蹴り飛ばしそうな感じじゃん」
「リオさん、それはさすがに言い過ぎです!」
シアが慌てて俺を止める。
「私たちがクレアさんに助けられたのは本当なんですから」
「......まあ、シアがそこまで言うなら本当なんだろうな」
いまだに信じられない気持ちはある。
だが、少しだけクレアに対する見方が変わった。
もしかすると、見た目や態度とは違って、意外と面倒見のいい奴なのかもしれない。
「それにしても、よくクレアがシア達のパーティに入ってくれたな」
「え?」
「だって、どう見ても薬草採取とかするタイプじゃないだろ、あれ」
「それは......」
シアが少し困ったように笑う。
「実はですね......」
そして、少し声を落として話し始めた。
「クレアさん、私たちと同じEランクなんですけど......最初はAランクの依頼を受けようとしてたんです」
「Aランク?」
「はい」
「......Eランクなのに?」
「はい」
俺は思わずクレアの背中を見る。
(何考えてんだ、こいつ......)
「当然、受付の人に止められてたんですけど......」
シアは苦笑する。
「クレアさん、絶対に引かなくて。『それ以外の依頼は受けない』ってずっと言い続けてたんです」
「うわぁ......」
想像できる。
大声で受付嬢に食ってかかるクレアの姿が、なぜか簡単に想像できた。
「それで少し騒ぎになっちゃって……受付の人もついに怒っちゃったんです」
「まあ、そりゃ怒るだろうな」
「そのとき、近くにいたカルロが割り込んで、クレアさんに『だったら僕たちと一緒に依頼を受けませんか?』って声をかけたんです」
「なるほど。それで今のパーティになったのか」
「はい。ただ......もちろんクレアさんは嫌がりました」
「だろうな」
むしろ、すんなり受け入れるクレアのほうが想像できない。
「それで受付の人が、『これ以上ギルドの指示に従わないのであれば、ギルドに報告しますよ』って言ったんです」
「......脅されたのか?」
「まあ......そうですね」
シアは苦笑する。
「それでクレアさんは、渋々私たちと一緒に依頼を受けることになったんです」
「……なるほど」
俺はクレアを見る。
相変わらず腕を組み、不機嫌そうに外を眺めている。
(......だからこんなに拗ねてるんだな......。)
クレアはシアの話を聞く限りめんどくさい奴ではあるが、嫌な奴ではないことは少なくともわかった。
......まあ、仲良くなれるかどうかは別問題だが。
ーーー
あれから数分後、俺たちは目的地に着いた。
「カルロ、御者ありがとうな。疲れただろ?」
「いやいや、僕からやりたいって言ったんですし、大丈夫ですよ!」
カルロはそう言って、優しく爽やかに笑う。
出会ってまだ半日も経っていないが、カルロは生粋のいい奴だということが分かる。
「リオさんも大丈夫でしたか? クレアさんが怒っている声が聞こえましたけど……」
「あはは......。まぁ、なんとかな」
「それなら、よかったです!」
全然よくはなかったが、まぁいい。
「それじゃあ俺はあっちでヒール草を採取してくるから、何か用があったら教えてくれ」
「はい! リオさんも何かあったら声をかけてくださいね!」
「おう!」
ヒール草を採取するにあたって、俺たち四人は固まって行動するのではなく、それぞれ別々の場所で採取することにした。
理由は簡単だ。
一人につき大体一袋分以上のヒール草が必要なため、同じ場所で四人が採取していたら、すぐに取り尽くしてしまう。
それなら最初から別々の場所に散らばったほうが効率がいい。
そういうわけで、俺たちはそれぞれ別の場所へ向かうことになった。
(袋、袋っと......)
俺はヒール草を入れるため、家から持ってきた革袋を荷台から取り出した。
本来なら、依頼を受けた際にギルドから支給された袋を使うことになっている。
ただ、その袋は一つだけ。
四人で一つの袋を使い回すより、それぞれ自分の持つ袋に集め最後にまとめたほうが圧倒的に効率がいい。
ちなみに、一人でこの依頼を受ける場合は、パーティ用の袋とは別の一人用の少し小さくなった袋が支給されるらしいが、今回は四人でパーティを組んでいるため、四人分サイズの袋が用意されている。
袋のサイズだけ見れば一人で受けたほうが効率がいいように見えるが
「パーティを組んだほうが早く終わるんですよ」
と、受付でカルロが教えてくれた。
そりゃそうだ。
一人で一袋集めるより、四人で一袋を集めたほうが単純に早い。
袋の大きさよりも、人手の多さのほうが重要ということらしい。
(まぁモン○ンでもHPは上がるけど、ソロよりか四人の方が効率いいからな)
そんなことを考えながら俺は歩き始める。
すると、すぐ近くに赤い髪をした女が、袋を肩に掛けているのが見えた。
クレアだ。
「ふん! 薬草取りなんて楽勝よ! すぐ終わらせるわ!」
クレアは一人にもかかわらず、そう意気込んで歩いていった。
(心の中で喋るっていうのは、クレアにはないっぽいな)
それに、意外とやる気はあるんだな。
分かりやすいんだか、分かりにくいんだか、よく分からない奴だ。
まぁ、やる気があることはいいことだ。
特に触れないでおこう。
「よーし、俺も始めっか......って、あっ、俺も一人で喋っちまってんじゃん」
クレアに影響を受けたのかは分からないが、俺も誰もいない場所で意気込んでしまった。
我ながら恥ずかしい限りだ。
(......まぁ、いいか。日が暮れる前には帰りたいぜ)
俺は袋を手に持ち、ヒール草を探しながら歩き始めた。
こうして、俺の初めての冒険者としての依頼――ヒール草採取が始まった。
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ヒール草を見つけるには、少しコツというか知識がいる。
ヒール草は平原や森などによく生えているのだが、その姿はそこら辺に生えている雑草とよく似ている。
そのため、ヒール草と雑草を間違えてしまうことは珍しくない。
見分け方は、葉の付け根だ。
普通の雑草は全体的に緑色をしているが、ヒール草は葉の根元がよく見ると青く光っている。
これが、普通の雑草とヒール草を見分けるポイントだ。
(まぁ、カルロとシアは薬草採取が初めてってわけじゃなさそうだし、大丈夫だろ)
問題はクレアだが......。
あんなに意気込んでいたんだ。
流石のクレアでも大丈夫だろう。たぶん。
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(ふぅー......やっと集まった。一回、馬車に戻るとするか)
俺は手元の袋の中を見る。
袋いっぱいにヒール草が詰まっている。
(カルロたちの進み具合にもよるけど、日が暮れる前には帰れそうだな)
夜になると辺りが暗くなり、薬草取りも難しくなる。
できれば明るいうちに終わらせたい。
俺は袋を肩に背負い、馬車へ戻る。
(ん? クレアか? あいつも集め終わったのか?)
馬車に近づくと、支給された大サイズの袋に、自分の袋の中身を入れているクレアの姿が見えた。
「クレア、もう集め終わったのか?」
声をかけると、クレアが俺のほうを振り向いた。
「当たり前じゃない! なんなら三人分まで集めて入れといたわ!」
クレアは腰に手を当て、誇らしげに言う。
「すげぇな。俺も森の中で生活してた時の名残で、薬草集めの速さには少し自信があったんだが......もう三人分集めるとは」
「ふふふ、そうよ! そうなのよ! 私は凄いのよ! 優秀なのよ!」
クレアは喜びを隠しきれていない。
というか、めちゃくちゃ喜んでいる。
前のような、常に不機嫌で他人と馴れ合わないと言っていたクレアはどこへ……。
(ま、まぁ、これはこれでいいか。本人も喜んでるっぽいし)
「クレア、ちょっとそこを退いてくれないか? 俺も集めたやつを袋に入れたい」
「分かったわ!」
褒められて機嫌がいいのか、クレアはご機嫌な様子で横へ下がる。
(おぉー。三人分だけあって、結構集まってるな)
袋は外から見ても、かなりずっしりしている。
(じゃあ、入れていくか)
俺はヒール草の入った袋を逆さまにしようとした。
――その時。
「ん?」
クレアが入れた袋の中から、何かがちらりと見えた。
俺は手を止める。
気になって袋の中に手を突っ込み、草を一つ取り出した。
(雑草……だな)
手に取った草は、葉の根元が青色ではなく緑色。
ヒール草ではなく、ただの雑草だった。
(ま、まぁ、たまに間違えることはあるしな)
俺でもヒール草と間違えて、雑草を取ってしまうことはたまにある。
(ま、まさかな……)
念のため、俺はもう一度袋の中に手を入れた。
そして、草を一気に掴んで取り出す。
「ちょっと! 何してんのよ!」
クレアは俺の行動を見て驚いている。
だが、今は確かめるため無視だ。
俺は手に取った草を見る。
「雑草……これも雑草……これも、これも雑草……」
次々と袋の中から草を取り出していく。
だが、出てくるのはヒール草ではない。
雑草。
雑草。
また雑草。
(…………)
嫌な予感がした俺は痺れを切らし、袋を掴んだ。
「ちょっと! せっかく集めたのに何すんのよ!」
クレアの制止を無視して、俺は袋を逆さまにする。
ドサドサッ!
大量の草が地面に落ちる。
そして、その中身を見た俺は――。
「あのなぁ……お前……」
地面に散らばった草を見つめる。
どこをどう見ても、ヒール草なんて一つもない。
「これ! 全部! 雑草じゃねぇかよ!!」
平原一帯に、俺の叫び声が響き渡った。
もう少し展開を早くしたいのになかなかできない、、、