「ねえねえ、颯くんとどうだったの? デート」
由紀恵がにこやかに問いかけてくる
「デートじゃない!」
「実家のカフェデートでしょ? いいなあ、いずみちゃん楽しそうで」
「だからデートじゃないってば……!」
いずみは頬を膨らませながら、テーブルに置かれたカップを見つめる。
「でもさぁ、二人でお店に来てたんでしょ?」
「……うん」
「で?」
「でって?」
「何かあった?」
「何もないよ」
「ほんとに?」
「……ほんと」
そう答えながら、いずみの頭には昼間のことが浮かんでいた。
『いずみのおすすめなら間違いないでしょ』
『なんか、いずみっぽい味がする』
思い出しただけで、頬が熱くなる。
「……いずみちゃん?」
「な、なに?」
「顔赤いよ?」
「暑いの!」
「9月なのに?」
「……暑いの!」
くすくすと笑う声が聞こえる。
「で、颯くんとは手くらい繋いだ?」
今度は亮子が問いかけてきた
「……」
いずみは黙り込む。
「……え?」
「その反応、繋いだんだ」
「ち、違っ……!」
「何が違うの?」
「……帰りに、ちょっとだけ」
「きゃー!」
「声大きい!」
「だって、いずみが青春してる!」
「もう……!」
いずみは顔を両手で隠す。
けれど、その口元には隠しきれない笑顔が浮かんでいた。
「……楽しかった?」
そう聞かれて、いずみは少しだけ考える。
そして――
「うん」
小さく頷いた。
「すごく、楽しかった」
その声は、いつもより少しだけ嬉しそうだった。
「……で?」
由紀恵がニヤニヤしながら、いずみの顔を覗き込む。
「な、なに?」
「颯くんのこと、好きなんでしょ?」
「……!」
いずみの肩がぴくっと跳ねる。
「な、なんでそうなるのよ!」
「だって、今の顔見たら分かるよ」
「私も分かる」
亮子まで頷く。
「二人とも、もう……!」
いずみは真っ赤になって俯いた。
「でもさ」
由紀恵が少しだけ優しい声になる。
「いずみちゃんがあんなに楽しそうなの、久しぶりに見たよ」
「……」
「だから、いいんじゃない?」
「何が?」
「好きなら、好きで」
いずみは返事をしなかった。
けれど、胸の奥では昼間の颯の言葉が何度も繰り返されていた。
『9月も、いずみと会えてよかったなって』
「……私」
ぽつりと声を漏らす。
「うん?」
「颯といると……すごく安心するの」
二人が顔を見合わせる。
「それってさ」
亮子が笑う。
「もう答え出てるんじゃない?」
「……そうなのかな」
いずみは窓の外を見る。
夕暮れの空が、少しずつ秋の色に変わっていた。
「……文化祭、楽しみだな」
「文化祭が?」
由紀恵がニヤッとする。
「それとも、颯くんと一緒にいるのが?」
「もう!」
三人の笑い声が、部屋いっぱいに響いた。