清華女子校の文化祭から、少し経った頃。
「ねえ、颯の高校の文化祭、みんなで行かない?」
いずみの一言で、話はあっという間に決まった。
颯を知っている友人皆んなを誘って颯の高校へ遊びに行く。
高校生活本当に最後の文化祭。
卒業前の、みんなとの思い出作り。
「楽しみだなー!」
「男子の文化祭ってどんな感じなんやろ」
「颯、ちゃんと案内しろよー」
「分かったって」
そんな会話をしながら、みんなで校門へ向かう。
その中で、いずみだけは少し緊張していた。
颯の高校に来るのは初めてだった。
「いずみ」
「ん?」
「緊張してる?」
「……ちょっとだけ」
「大丈夫だよ」
颯が笑う。
「俺がいるから」
「……うん」
その一言だけで、いずみの緊張は少し和らいだ。
校門をくぐると、颯の高校はものすごい盛り上がりだった。
「うわ、すご!」
「人多っ!」
「颯、どこから行く?」
「まず俺のクラス――」
颯が案内しようとした、そのとき。
「おい颯!」
男子生徒が声をかけてきた。
「ハーレムじゃん、なんだこの状況!!羨ましすぎるだろ?!」
「めっちゃレベル高い女子ばっか。」
「やめろよ、お前。そういう言い方」
「本命の彼女も来てんじゃん!」
「……!」
いずみが固まる。
周りのメンバーが一斉に颯を見る。
「彼女?」
「え?」
「ちょっと待て」
颯が気まずそうに頭をかく。
「……まあ」
「まあ?」
亮子が一歩近づく。
「誰が本命なの?」
颯は少しだけいずみを見る。
いずみも颯を見る。
そして――
「内緒」
颯が答えた。
「いや、いずみ?」
「うおおおおおおお!!」
「マジかよ!!」
「いつから!?」
「聞いてないんだけど!!」
一気に大騒ぎになる。
「いずみ、おめでとう!」
「お祝いしまショウ!」
「颯、お前やるじゃん!」
「なんか二人ともめっちゃ似合ってる!」
いずみは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「ちょ、ちょっと……みんな騒ぎすぎ!」
その隣で颯も照れていた。
「うるさいって……」
「いやいや、これは祝うしかないだろ!」
「高校最後の文化祭で彼女できるとか青春すぎ!」
「清華の文化祭から怪しいと思ってたんだよ!2人っきりだったしさ」
「えっ、バレてたの!?」
いずみが驚く。
「そりゃ分かるって!」
みんなの笑い声が校庭に響いた。
それからは、全員で文化祭を回った。
屋台で食べ物を買って、ゲームをして、写真を撮って。
颯のクラスにも遊びに行った。
みんなで騒いでいるうちに、気づけば夕方になっていた。
「そろそろ帰るかー」
「楽しかったな!」
校門へ向かう途中。
いずみがふと足を止めた。
「……颯」
「ん?」
「ちょっとだけ、いい?」
「ああ」
二人はみんなから少し離れて、校庭の端へ歩いていった。
夕焼けが校舎をオレンジ色に染めている。
「今日、楽しかったね」
「うん」
「みんなと来られてよかった」
「俺も」
いずみは少しだけ黙った。
「……清華の文化祭のときは、最後なんだって思って寂しかったけど」
「うん」
「今日みんなでここに来て、ちょっと安心した」
「なんで?」
「だって……」
いずみは笑った。
「卒業しても、みんなで会えそうだから」
颯も笑った。
「当たり前だろ」
「それに……」
「ん?」
「颯とも会いたい」
颯の表情が柔らかくなる。
「俺も」
「大学行っても、会おうね」
「もちろん」
「クリスマスも?」
「会う」
「卒業旅行も?」
「行こう」
「……その先も?」
颯は少し照れながら、いずみの手を握った。
「その先も、ずっと」
「……ふふ」
いずみは嬉しそうに笑う。
その瞬間――
「おーい!! 何二人でいい雰囲気になってんだー!!」
遠くから仲間の声が飛んできた。
「早く来いよー!」
「置いてくぞー!」
「……もう!」
いずみが恥ずかしそうに笑う。
颯も笑った。
「行こうか」
「うん!」
二人はみんなのところへ戻っていく。
高校最後の文化祭。
それぞれの高校生活は、もうすぐ終わる。
でも、今日みんなで作った思い出も。
いずみと颯が交わした約束も。
これから先、きっと何度でも思い出す。
卒業しても。
大学へ行っても。
クリスマスになっても、卒業旅行に行っても。
みんなで笑って、また集まる。
そして――
「いずみ!」
「なに?」
「帰り、隣歩こう」
「……うん」
夕焼けの中、二人は並んで歩き始めた。
その後ろから、仲間たちの笑い声が追いかけてくる。
高校最後の文化祭。
それは「終わり」じゃなくて――
これからも続いていく、最高の青春の始まりだった。