文化祭から数日後。
その日の夜。
ベッドに寝転びながら、いずみはスマホの画面をじっと見つめていた。
颯とのトーク画面。
文化祭の日から、何度もメッセージをやり取りしている。
付き合い始めた。
その事実を思い出すだけで、今でも少し恥ずかしくなる。
「……電話、してみようかな」
少し迷ってから、いずみは通話ボタンを押した。
プルルル……。
数回の呼び出し音。
『もしもし?』
「……あ」
颯の声が聞こえた瞬間、いずみの胸が跳ねる。
「もしもし……」
『いずみ?』
「うん」
『どうした?』
「えっと……」
電話をかけたのは自分なのに、何を話せばいいのか分からない。
「……声、聞きたくなって」
言った瞬間、いずみは布団に顔を埋めた。
『……』
「……颯?」
『いや』
少し間があってから、颯が笑った。
『俺も、電話かかってきて嬉しかった』
「……ほんと?」
『ほんと』
「よかった……」
しばらく二人で黙ってしまう。
でも、不思議と気まずくはなかった。
『そういえば』
「ん?」
『今度の休み、暇?』
「……暇だよ」
『じゃあ、どっか行かない?』
「え?」
『デート』
「……!」
いずみの顔が一気に熱くなる。
「……デートって言った?」
『言った』
「……付き合ってから初めてだね」
『うん』
「どこ行く?」
『いずみが行きたいところでいいよ』
「えー、颯が決めてよ」
『俺?』
「うん」
少し考えるような沈黙。
『じゃあ、駅前で待ち合わせして、買い物して……そのあと映画とか?』
「いいね」
『そのあと、何か食べて帰る』
「それ、普通のデートっぽい」
『普通のデートだろ』
「……そっか」
いずみは小さく笑った。
「楽しみ」
『俺も』
「……ねえ、颯」
『ん?』
「今度会うとき……手、繋いでもいい?」
言った途端、また恥ずかしくなる。
『……もちろん』
「ほんと?」
『むしろ、俺から繋ぐ』
「……ふふ」
『何笑ってんの』
「だって、颯も緊張してるんだなって」
『そりゃするだろ』
「私も」
電話越しに、二人の笑い声が重なる。
文化祭の日に恋人になってから、まだ数日。
何をするにも、今までとは少し違って感じる。
『じゃあ、土曜日な』
「うん」
『遅刻するなよ』
「それ、颯に言われたくない」
『あー……』
文化祭の日のことを思い出して、颯が苦笑する。
『あの日はごめん』
「ふふ。もう許した」
『よかった』
「じゃあ、土曜日はちゃんと待ってるね」
『俺もちゃんと行く』
「約束」
『約束』
通話を切る直前。
『……いずみ』
「なに?」
『おやすみ』
「……うん。おやすみ、颯」
電話が切れる。
いずみはスマホを胸元に置いて、布団の中で小さく笑った。
「……土曜日、楽しみだな」
付き合って初めての休日。
二人にとって、初めての恋人としてのデートが始まろうとしていた。