卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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ドラマCDあるんだね、ききたい



挨拶

 





 

 

玄関の扉が開く。

 

「いらっしゃい。あなたが、いずみさんね」

 

出迎えた母親に声をかけられ、いずみは少し緊張した様子で頭を下げた。

 

「はい。初めまして。戸塚いずみと申します」

 

「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。さあ、上がって」

 

母親に促され、いずみが家の中へ入る。

 

その後ろから颯も続いた。

 

「颯さんには、いつもお世話になっております」

 

「いやあ、可愛いね。娘ができたみたいで嬉しいよ」

 

父親が笑顔でそう言う。

 

「親父、やめろよ! そういうの」

 

颯は恥ずかしそうに父親を睨んだ。

 

「ふふっ。いいじゃない。お父さんも嬉しいのよ」

 

「もう……」

 

颯がため息をつく。

 

そんな二人のやり取りを見て、いずみの緊張も少しずつ解けていった。

 

 

 

「今日はゆっくりしていってね。夕飯も用意してあるから」

 

「えっ……夕飯まで?」

 

いずみが驚いたように目を丸くする。

 

「もちろんよ。せっかく来てくれたんだもの」

 

「いや、そこまでしてもらうのは……」

 

「遠慮しなくていいのよ。ねえ、あなた?」

 

母親が父親へ顔を向ける。

 

「ああ。今日は歓迎会みたいなもんだからな」

 

「歓迎会って……大げさだろ」

 

颯が呆れたように言う。

 

「何言ってるの。颯が大切にしてる人を連れてきたんだから、それくらいするわよ」

 

「……っ」

 

その言葉に、颯の顔が一気に赤くなる。

 

「ちょ、母さん……!」

 

「ふふっ」

 

いずみも思わず笑ってしまった。

 

「颯くん、昔からこういう感じなんですか?」

 

「そうねえ。昔から照れ屋なのは変わらないわね」

 

「母さん!」

 

「はははっ。まあ、そこが颯らしいところだ」

 

「親父まで……」

 

颯は困ったように頭を掻いた。

 

そんな三人のやり取りを見ているうちに、いずみの中にあった緊張は、いつの間にかほとんど消えていた。

 

初めて訪れた家なのに、不思議と居心地が悪くない。

 

むしろ、どこか懐かしいような温かさを感じる。

 

「……なんだか、素敵なご家族ですね」

 

いずみがぽつりと呟く。

 

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

母親が微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

 

玄関先で、いずみがぺこりと頭を下げる。

 

「こちらこそ。来てくれてありがとうね」

 

「またいつでも遊びに来てちょうだい」

 

「はい!」

 

母親の笑顔に、いずみも笑顔で答えた。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

 

「うん」

 

颯が靴を履き、いずみを促す。

 

「それじゃあ、また」

 

「ああ。またな」

 

二人が外へ出ると、颯が小さく息を吐いた。

 

「……なんか疲れた」

 

「ふふっ。颯くん、ずっと緊張してたもんね」

 

「お前だって緊張してただろ」

 

「私は……ちょっとだけ」

 

「ちょっとだけ?」

 

「……ちょっとだけ」

 

いずみが笑う。

 

「でも、優しいご両親でよかった」

 

「そうだな」

 

颯も笑った。

 

 

 

 

「じゃあ、今日はこのままどっか寄ってく?」

 

「いいの?」

 

「もちろん」

 

二人は並んで歩き始めた。

 

「今度はいずみのお母さんか……」

 

「……あ」

 

いずみが足を止める。

 

「どうした?」

 

「……お母さん」

 

「え?」

 

颯が振り返る。

 

少し離れたところに、買い物袋を提げた女性が立っていた。

 

「いずみ?」

 

「あ……うん」

 

いずみの声が、先ほどまでとは少し違っていた。

 

「あなたが……颯くん?」

 

女性は颯へ視線を向ける。

 

「はい。初めまして」

 

「……そう」

 

短く答えると、女性はいずみを見る。

 

「今日は出かけるって言ってなかった?」

 

「うん。ちょっと……」

 

「そう」

 

それだけ言うと、今度は颯へ視線を戻した。

 

「いずみさんには、いつもお世話になっています」

 

「こちらこそ。いずみがお世話になってるんじゃないかしら」

 

「そんな……」

 

いずみが小さく口を挟む。

 

「いずみは昔から、あまり自分のことを話さないから」

 

「……」

 

颯は黙っていずみを見る。

 

「でも、最近は少し楽しそうね」

 

その言葉に、いずみが目を伏せる。

 

「……そうかな」

 

「ええ」

 

母親は微かに笑った。

 

「それなら、よかった」

 

それ以上は何も言わなかった。

 

颯は、その短い言葉の中に、この人なりのいずみへの気遣いがあることを感じた。

 

「……また、改めてご挨拶に伺います」

 

「そうね。そのときはゆっくり話しましょう」

 

「はい」

 

「じゃあ、いずみ。あまり遅くならないようにね」

 

「うん」

 

母親はそれだけ告げると、二人に背を向けて歩いていった。

 

「……なんか、緊張した」

 

颯が呟く。

 

「ごめんね」

 

「いや、謝ることじゃないだろ」

 

「……うん」

 

いずみは少しだけ笑った。

 

「でも……お母さん、颯くんのこと、悪く思ってないみたい」

 

「そうなのか?」

 

「うん。たぶん」

 

そう言って、いずみは颯の隣へ並んだ。

 

二人は再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

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