卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

19 / 19
健全なお付き合いのほう

襖が静かに開いた。

 

「……颯、まだ起きてたんだ」

 

風呂上がりのいずみが戻ってくる。

 

「うん。なんか眠れなくて」

 

「……そっか」

 

いずみは少し恥ずかしそうにしながら、自分の布団のそばに座った。

 

さっきまでとは違う、風呂上がりのいずみ。

 

颯は思わず目を向ける。

 

そして、すぐに視線を逸らした。

 

「……何?」

 

「いや」

 

「今、見てたでしょ」

 

「……見てた」

 

「えっ」

 

「ごめん」

 

颯が素直に認めると、いずみの頬が一気に赤くなる。

 

「……もう」

 

「だって……」

 

颯は言いかけて、口を閉じた。

 

「……何?」

 

「なんでもない」

 

いずみは少し不満そうにしながら、颯の隣へ腰を下ろした。

 

肩が触れそうな距離。

 

近い。

 

さっきまでなら何とも思わなかった距離なのに、今は妙に意識してしまう。

 

「……ねえ、颯」

 

「ん?」

 

「さっきの話……」

 

「一緒にお風呂入るってやつ?」

 

「そう」

 

いずみは視線を逸らした。

 

「……あれ、本気だった?」

 

「本気だったよ」

 

「……」

 

「でも、いずみが嫌なら絶対にしない」

 

「……そっか」

 

いずみが小さく息を吐く。

 

そして、少し迷ったあと、颯の手に自分の手を重ねた。

 

「……じゃあ」

 

「ん?」

 

「今日は……近くにいてもいいよ」

 

颯は一瞬、黙った。

 

その言葉の意味を考える。

 

「……本当に?」

 

「うん」

 

「後悔しない?」

 

「しないよ」

 

颯はゆっくりと、いずみの手を握り返した。

 

そのまま、少しだけ距離を縮める。

 

いずみの顔が近い。

 

目が合う。

 

「……いずみ」

 

「なに?」

 

「俺、結構いずみのこと好きだから」

 

「……知ってる」

 

「いや、そういう意味じゃなくて」

 

颯の声が少し低くなる。

 

「今、かなり我慢してる」

 

「……え」

 

いずみが息を呑む。

 

颯はその反応を見て、さらに近づこうとして――止まった。

 

「……だから」

 

「……うん」

 

「これ以上近づいたら、たぶん俺、止まれなくなる」

 

いずみは何も言わない。

 

ただ、握られた手に少しだけ力を込めた。

 

「……嫌?」

 

颯が尋ねる。

 

いずみは小さく首を横に振った。

 

「……嫌じゃない」

 

その言葉に、颯は一瞬だけ目を閉じた。

 

そして、いずみの頭に手を伸ばす。

 

優しく撫でる。

 

「……待って」

 

「ん?」

 

「そこ?」

 

「うん」

 

いずみが少し拍子抜けしたような顔をする。

 

颯は苦笑した。

 

「本当は、もっと近づきたいよ」

 

「……颯」

 

「でも、今ここで勢いに任せたくない」

 

「……どうして?」

 

「大事だから」

 

颯はまっすぐ、いずみを見る。

 

「いずみとのこと、後から恥ずかしくなって終わり、みたいにしたくないんだ」

 

いずみはしばらく黙っていた。

 

やがて、小さく笑う。

 

「……ずるい」

 

「何が?」

 

「そんなこと言われたら……何も言えないじゃん」

 

「ごめん」

 

「謝らなくていいよ」

 

いずみは颯の肩に、そっと頭を預けた。

 

「……今日はこれでいい」

 

「うん」

 

「でも」

 

「ん?」

 

「……いつかは、ちゃんと覚悟しておいてね」

 

颯は一瞬固まった。

 

「……それ、俺に言う?」

 

「言う」

 

「……分かった」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして、どちらからともなく笑った。

 

「……明日、顔見られないかも」

 

「俺も」

 

「ふふっ」

 

「なんで笑うんだよ」

 

「だって、颯も同じなんだなって」

 

「そりゃそうだよ」

 

颯は照れくさそうに笑った。

 

「俺だって、平気なわけじゃないから」

 

静かな夜だった。

 

二人はそれ以上何もせず、それぞれの布団へ戻った。

 

けれど、眠りにつくまで――互いのことを意識しないではいられなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。