卒業バケーション 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?
最初の約束
夏休みが終わって、数日。
学校が始まったというのに、どこかまだ現実感がなかった。
「颯君、こっちこっち!」
駅前で手を振っているいずみさんを見つける。
「待った?」
「ううん、今来たところ」
「嘘。絶対待ってたでしょ」
「……ちょっとだけ」
「やっぱり」
いずみさんが笑う。
それだけなのに、なんだか嬉しかった。
8月31日。
あんなに「離れたくない」と言っていた自分が、少し恥ずかしくなる。
でも――。
こうして9月になっても、いずみさんは僕の目の前にいる。
「今日はどこ行く?」
「ん?」
「カラオケ行った後にさ」
「すぐ帰るのもなんだしね」
「今日は久しぶりに颯君と会うんだし」
「……そっか」
「何、その顔」
「いや、その。嬉しくて」
頰が勝手に緩んでしまう
「ふふっ、じゃあ行こうか」
そのまま歩き出す。
「そういえばさ」
「ん?」
「あんたって、まだうちのお店来たことなかったよね?」
「...うん」
それは嘘
もう既に3回くらい足を運んでいる
....店の前まで
「えっ、と」
「うん?」
「その...めぐみの神社にはたまに顔を出してるってめぐみから聞いたけど?本当?」
「う...」
めぐみさんの神社にも何度か足を運んだ
ばっちりめぐみさんにはバレバレなんだけど
いずみさんにもバレてたか
「ウチになんで来ないの?連絡先も教えたのにさ」
「ごめん、なかなか勇気が出なくて」
「じゃあ、今日連れてってあげる」
「……え?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、いいの?お父さんいるんだよね?」
「いいの。紹介したいからさ」
いずみさんはそう笑った。
◇
「いらっしゃいませ――」
店のドアを開けた瞬間。
カウンターの奥から声が聞こえる。
「ん?いずみ。お友達?」
「うん、話してた男の子」
「……颯です」
いずみの紹介に合わせて頭を下げる。
「いつもいずみさんにはお世話になってます」
「そんなに畏まらないでね」
いずみさんのお父さんが、楽しそうに笑う。
「いずみから色々聞いたよ。もう何回か近くまで来てくれてたんだって?どんどん来ていいからね。いずみのこと、これからもよろしく頼むよ」
「はい!」
ピシッと背筋を伸ばし返事をした
いずみさんと視線がぶつかる
店の前うろついてるのバレてたのかな...
色々って何を話してるんだろう?
「……」
なんか、恥ずかしい
そんな僕を見ていずみさんがくすっと微笑む
「え?何?なんか僕...変だった?」
「なんでもない!」
いずみさんが腕を引っ張る。
「こっち、座ろ!」
「う、うん!」
案内された窓際の席。
メニューを開く。
「何食べる?」
「おすすめは?」
「うちのプリン」
「じゃあ、それ」
「早っ」
「いずみさんのおすすめなら間違いないでしょ」
「……そういうこと言うの、ずるい」
いずみさんが少しだけ頬を赤くする。
しばらくして運ばれてきたプリンを二人で食べる。
「……美味しい」
「でしょ?」
「なんか、いずみさんっぽい味がする」
「なにそれ」
「優しい感じ」
「……もう」
いずみさんはスプーンでプリンをつつきながら、笑っていた。
窓から差し込む午後の日差し。
学校とは違う、静かな時間。
僕はふと思った。
8月31日が来たら、何もかも変わると思っていた。
でも。
変わったのは、場所だけなのかもしれない。
「颯君?」
「ん?」
「どうしたの?」
「……いや」
「9月も、いずみさんと会えてよかったなって」
「何それ」
「本当にそう思った」
「……私も」
いずみさんが小さく笑う。
そして、テーブルの下でそっと俺の手を握った。
「文化祭もあるしね」
「文化祭か」
「うん。もう準備始まってるでしょ?」
「そうだね、結構忙しくなりそう」
「じゃあ、文化祭終わったらまたデートね」
「……約束?」
「約束」
絡めた小指。
8月31日に交わした約束と同じように。
今度は、もっと先の未来を約束する。
「楽しみだな」
いずみさんが笑うと自然に笑顔になれた
――この時はまだ。
文化祭の日に、あんなことが起こるなんて。
僕たちは知らなかった。
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