正直に言うとさ、
僕、こんなに誰かのこと気になるの初めてなんだよね。
何してるのかなとか、
今誰といるのかなとか、
楽しそうにしてるかなとか。
気づいたら毎日のように考えてる。
君から連絡くるだけで嬉しいし、
名前呼ばれるだけでもちょっとドキッとするし、
会えた日は帰ったあとまでずっと余韻残ってる。
たぶん僕、
思ってる以上に君のこと好きだよ。
可愛いって思う瞬間も、
守ってあげたいって思う瞬間も、
誰にも取られたくないって思う瞬間も、
全部君だから。
でも一番ずるいのは、
君といると「もっと一緒にいたい」って思っちゃうこと。
あと5分だけ、
あと1時間だけ、
もうちょっとだけ一緒にいたいって。
……だからさ、
僕のこと、
少しくらい特別に思ってくれてたら嬉しい。
僕はもう、
君のことかなり特別に思ってるから。
8月の終わり
「いずみさん、いる?」
いずみさんの部屋をノックする
「颯君?どうしたの...?」
ガチャっと扉が開いた途端に僕は抱きしめてしまった
「え、え?颯君?!」
「ごめん、なんか急に寂しくなった」
「え?珍しいね、颯君がそんなこと言うなんて」
「だって31日が来たらお別れじゃ無いか」
「めぐみの実家の五月雨神社から歩いて直ぐのカフェが実家だって言ったでしょ?いつでも来てくれていいんだし」
「だけど...もう、この距離では会えないじゃん」
「学校は都内だよね?直ぐだよ、直ぐ!」
「嫌だ、離れたく無い」
僕はぎゅうっと腕に力を込める
「なにそれ、可愛い」
いずみさんはぷっと吹き出す
「笑わないでよ……」
「だって、颯君がそんなに甘えてくるの、初めて見た」
いずみさんはそう言いながらも、僕の背中にそっと腕を回した。
「……私だって、寂しいよ」
その一言で、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「本当に?」
「本当。だって毎日こうやって会えるの、あと少しなんでしょ?」
「……うん」
「でも、そんな顔しないで」
いずみさんが僕の胸元から顔を上げる。
いつもの柔らかい笑顔。
でも、その瞳は少しだけ潤んでいた。
「31日になったら、何もかも終わるみたいに言わないでよ」
「……でも」
「終わらないよ」
いずみさんは僕の服をきゅっと掴んだ。
「場所が変わるだけ。会いたいって思ったら会いに来ればいい。私も会いに行くから」
「……本当に?」
「うん。本当」
「じゃあ……」
僕は少しだけ腕の力を緩める。
「9月になって、帰っても。僕と会ってくれる?」
「もちろん」
いずみさんは笑って、それから少しだけ意地悪そうに首を傾げた。
「でも、毎回こうやって玄関開けた瞬間に抱きついてくるのは禁止ね?」
「……なんで?」
「心臓がもたないから」
「じゃあ、今は?」
「今は……」
いずみさんの頬がほんのり赤くなる。
「……特別」
「……そっか」
なんだか、それだけで少しだけ安心した。
31日が来るのは、やっぱり怖い。
それでも。
「いずみさん」
「ん?」
「……もうちょっと、このままでいていい?」
「うん」
今度はいずみさんのほうから、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「今日だけじゃなくて、これからもね」
その言葉が、静かな部屋の中に優しく響いた。
「宝物は見つからなかったけど、僕にとっていずみさんと会えたことが宝物だよ」
「うん、私も」
僕の唇といずみさんの唇が重なる
愛おしい...
「大好きだよ」
そう囁くと、いずみさんは一瞬だけ目を丸くした。
そして、少し恥ずかしそうに笑う。
「……私も、大好き」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった不安が、ほんの少しだけ溶けていく気がした。
離れたくない。
9月になっても、この場所にいられなくなるのが嫌だ。
毎朝顔を合わせることも。
くだらないことで笑うことも。
こうして、すぐ隣にいずみさんがいることも。
全部、当たり前じゃなくなる。
それでも――。
「颯君」
「ん?」
「ちゃんと会いに来てね」
「……うん」
「約束」
いずみさんが小指を差し出す。
僕はその小指に自分の小指を絡めた。
「約束する」
「絶対だからね?」
「絶対」
小指を繋いだまま、僕たちは顔を見合わせる。
さっきまで泣きそうだったのに、いつの間にか二人とも笑っていた。
きっと、これから先も寂しくなる。
会えなくて、辛くなる日もあるだろう。
それでも。
「宝物って、案外こういうものなのかもね」
いずみさんがぽつりと言った。
「……どういうこと?」
「なくならないものじゃなくて」
いずみさんは繋いだ小指を見つめる。
「離れていても、大切にできるもの」
「……そっか」
僕はもう一度、いずみさんを抱きしめた。
今度は、寂しさを埋めるためじゃない。
これから先も忘れないように。
この温もりを、心に刻むために。
9月になっても。
この先、どれだけ離れても。
僕にとって、いずみさんと出会えたことは――
ずっと、宝物だ。