卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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6日夜

 

 

「亮子が昨日、洞窟に行くって言ってたわよね? 颯君は行かないの?」

 

いつにも増していずみさんはご機嫌だった。

 

 

 

 

「ああ、お花畑ってやつ?」

「それは舞奈」

 真樹が静かに応える。

「あ、そうだった」

 颯は苦笑した。

「結構皆んなの予定覚えてるの?」

 いずみが尋ねる。

「戸塚さんのはバッチリ」

「え? そうなの?」

 いずみは少し驚いたように颯を見た。

「でも港は偶然寄っただけだし、たまたまでしょう」

「……」

 真樹は、いずみの胸元に目を向けた。

 そこには、午前中に颯から貰った青い魚のブローチがついている。

 午後は真樹と二人で港を散歩した。

 海を眺めながら、のんびりと過ごした時間。

 いずみはそのときも楽しそうだった。

 だからこそ、真樹には少し気になっていた。

「いずみ、無理してない?」

「私が? なんで?」

 いずみは不思議そうに首を傾げた。

 颯も隣で真樹を見る。

「……何が?」

「颯との旅行」

 真樹は静かに言った。

「楽しかった?」

「……うん」

 いずみは頷いた。

「楽しかったよ」

「そっか」

 真樹は少し間を置いた。

「じゃあ、どうしてそんなに『たまたま』って言うの?」

「……え?」

「港のことも、颯が予定を覚えてることも」

 いずみは口を閉じた。

 胸元のブローチに、指先がそっと触れる。

「……だって」

「うん」

「……たまたま、だったし」

 颯は少し困ったように笑った。

「まあ、港に寄ったのは偶然だったけど」

 真樹は颯をちらりと見た。

「颯は、いずみと一緒にいたかったんじゃないの?」

「えっ」

 颯が言葉に詰まる。

 いずみは俯いた。

「……真樹」

「なに?」

「……そういうこと、言わないで」

 声は小さかった。

 真樹はそれ以上、追及しなかった。

 ただ、いずみの胸元にあるブローチを見て、静かに尋ねた。

「……嬉しかったんでしょ?」

 いずみは少しだけ顔を上げた。

「……うん」

「なら、いいじゃない」

「……」

「嬉しかったことまで、たまたまにしなくても」

 いずみは何も答えなかった。

 指先で、青い魚のブローチをそっと撫でる。

 颯は隣で、照れくさそうに視線を逸らしていた。

 しばらくして、いずみが小さく呟いた。

「……嬉しかったよ」

 真樹は頷いた。

「うん」

「……すごく」

 颯が、そっといずみを見る。

 いずみはまだ俯いていた。

 けれど、その口元は少しだけ緩んでいた。

「……そっか」

 真樹はそれ以上、何も言わなかった。

 いずみの胸元で、青い魚のブローチが小さく光っていた。

 

 

 

 

「これからどうするの?」

 颯が二人に尋ねた。

「昨日話してた遺跡に行くよ」

 いずみが答える。

「へえ、遺跡か。面白そうだね」

「颯も来れば?」

 真樹が微笑んで言った。

「いいの?」

「うん。いずみが喜びそうだし」

「真樹、やめてよ、そういうの」

 いずみが少し慌てたように口を挟む。

「ごめん」

 真樹は悪びれる様子もなく、くすりと笑った。

「……もう」

 いずみは胸元のブローチにそっと触れた。

 颯は二人のやり取りを見て、少し照れくさそうに笑う。

「じゃあ、俺も一緒に行こうかな」

「うん」

 いずみは小さく頷いた。

 その表情は、やっぱりどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

遺跡に着くと、三人はそれぞれ気になる場所を調べることにした。

 颯といずみは、崩れかけた石壁のそばを歩いていた。

「調べるって言っても、どこを探せばいいのかわからないや」

 颯は周囲を見回す。

 古びた石柱に、苔むした壁。ところどころに文字らしきものが刻まれているが、何を意味しているのかはさっぱりだった。

「そうね」

 いずみも石壁を眺めながら頷いた。

「真樹さんは、なにかわかったかな?」

「さあね」

 いずみは軽く肩をすくめる。

 真樹は少し離れた場所を調べているはずだった。

「真樹さん、どこにいるんだろう?」

 颯が辺りを見回す。

「……こっちに気を遣ってなきゃいいんだけど」

「え? 何か言った?」

「ううん、独り言」

 いずみは何でもないように答えた。

 颯は少し考えてから、石壁に目を戻す。

「真樹、なにか見つかると思う?」

「うーん、運がよければかな?」

「あはは。それじゃあ真樹は運がないから」

「そうなの?」

 颯が不思議そうに聞き返す。

 いずみは小さく笑った。

「うん。後ろにいるから聞いてみれば?」

「え? いつの間に」

 颯が振り返る。

 そこには、腕を組んだ真樹が立っていた。

「運がなくて悪かったわね」

「あれ? 聞こえてた?」

 いずみは舌を出して誤魔化そうとする。

「聞こえてた」

「……あはは」

 真樹は呆れたように息をついた。

「まったく。人のことを好き勝手に言って」

「ごめんごめん」

 いずみは悪びれずに笑う。

 颯は二人のやり取りを見て、思わず笑みをこぼした。

「仲いいね、二人とも」

「そう?」

 いずみが首を傾げる。

「普通よ」

 真樹はそう答えながら、いずみの隣に並んだ。

「それより、何か見つかった?」

「まだ何も」

 颯が答える。

「じゃあ、もう少し奥を調べてみましょうか」

 真樹は遺跡の奥へと視線を向けた。

「運がよければ、何かあるかもしれないし」

「真樹、運ないんじゃなかった?」

「いずみ」

「はい」

 いずみは素直に口を閉じた。

 颯はまた、二人のやり取りに笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

夕食の時間。

 テーブルには料理が並び、皆それぞれに今日の出来事を話していた。

 いずみは隣に座る颯と、ときどき言葉を交わしながら食事をしていた。

 胸元には、青い魚のブローチ。

 その様子を向かい側から眺めていた由紀恵が、ふと頬を膨らませた。

「なんだかいずみちゃん、嬉しそうだね」

 そう言って、ニコッと笑う。

「……そう?」

「うん。いつもより楽しそう」

 いずみは手元の箸に視線を落とした。

「別に、いつも通りだけど」

「なんかあったの? いずみ」

 亮子がにやりと顔を近づけてきた。

「……っ」

 いずみは思わず後ずさる。

「な、何もないよ」

「ふーん?」

 亮子は、いずみの胸元に目を向けた。

「そのブローチ、可愛いね」

「……!」

 いずみは反射的に胸元を押さえた。

「……何でもない」

「まだ何も聞いてないけど?」

「……」

 亮子は楽しそうに笑った。

「明日は一緒に行動しましょう。色々聞きたいし」

「えっ」

「いいでしょ?」

「……」

 いずみが困ったように黙っていると、由紀恵がぱっと顔を上げた。

「由紀恵ねぇ、川に行きたい! ボートに乗るんだ!」

「いいわね!」

 亮子がすぐに反応する。

「ボートで女子会、変わってて面白いわね!」

「ね! 楽しそう!」

 由紀恵は嬉しそうに頷いた。

「……何でもないって言ってるんだけど」

 いずみが小さく呟く。

 けれど、亮子は聞こえなかったふりをして、由紀恵とボートの話を始めていた。

 いずみは隣の颯をちらりと見る。

 颯は困ったように笑っていた。

「……もう」

 いずみは胸元のブローチにそっと触れた。

 青い魚が、夕食の灯りを受けて小さく光っていた。




7日は恫喝イベントだった
立ち入り禁止の看板があって、そのさらに奥には...
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