「あれ? 颯君もビーチに日焼けしにきたの?」
ギラギラと照りつける太陽の下、美夏さんが砂浜に寝転んでいた。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「そうなんだ。あたし、部活の助っ人をよくやるからさ。腕は体育着焼けだし、太腿はハーフパンツ焼けしちゃってるの。なんか格好悪いかなって」
「なるほど」
美夏さんはそう言うと、再び砂浜に寝転がった。
どうやら、日焼けの跡をなくそうとしているらしい。
「やあ、颯君」
「あれ? いずみさんもいたんだ」
「悪い?」
「悪くないよ。ちょうどいずみさんの話をしてたんだ」
「何を話してたの?」
「いずみさんのバスト最高だなって」
「あはは、何それ」
「美夏さんが」
「ちょっと待ってよ! いつそんな話をしたの?」
美夏さんが慌てて起き上がる。
「ふふっ。美夏のバストサイズも私と一緒だよ?」
「え? あ、そうなの?」
「ちょっと、いずみも変なこと言わないでよ!」
「ごめん、ごめん」
いずみさんは悪びれる様子もなく笑った。
「本当は日焼けの話をしてたんだ」
「日焼けね。私には関係ないかな」
「そんなことないと思うよ。バンダナ、ずっとしてるでしょ?」
「えっ?!」
いずみさんの表情が、ぴたりと止まった。
「おでこにくっきりラインが入っちゃうよ?」
「い、いや。でも、ほら。私、バンダナ基本的に取らないから大丈夫でしょ」
「そうかな?」
「大丈夫だって!」
「あっ、いずみさん?!」
美夏さんが何か言いかけたときには、いずみさんはもう歩き出していた。
「きっと、あたしたちがいないところでバンダナ外して焼いてるのかも……」
「なんで?」
「恥ずかしいんじゃないかな?」
「なんで?」
「さあね。じゃあ、またね、颯君」
美夏さんは意味ありげに笑うと、再び砂浜に寝転がった。
颯は、遠ざかっていくいずみさんの背中を見つめた。
「いずみさんのバンダナ取った素顔が見てみたいな」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。
もちろん、本人には聞こえていない。
――いつか、見せてくれるだろうか。
そんなことを考えながら、颯は青い海へと視線を戻した。
港へ行くとさおりさん達がいた。
「おっ、颯やないかい!」
「いいところに来た〜!」
由利佳さんに腕を引かれた
「えっ、何?」
思わず顔を赤らめる
「じゃ、水中漫才やるで!」
「ええっ?!」
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「死ぬかと思った...」
「もう笑えないくらい疲れた〜」
「さおりの"びしばしみさこ"には笑ったわ」
「いやいや"3分まつたけ"やろ」
「やめて、言わないで〜」
「じゃあ、僕は行くね」
「ほな、またな!」
手を振ってさおりさんたちと別れ町を目指す
流石にいずみさんには会えないよなあ、なんて店の中に入るといずみさんがいた!
ラッキーじゃん!
「いずみさん、何か探し物が見つからないの?」
「え?あ、うん。なんでわかるの?」
「いずみさん、顔に出るから」
「そう?」
「何を探してたの?」
「鈴鳴コロンを探してたの」
「香水?」
「そう」
「じゃあ、僕も買っていこうかな」
「それがないのよ、在庫」
「え?」
「売り切れ」
「本当に?」
「店員さんに聞いたんだから間違いない。今月はもう入って来ないんだって」
「そうなんだ……」
颯は棚を見渡した。
「でも、そんなに欲しかったの?」
「うん。ちょっとね」
いずみさんは、空になった棚を眺めながら答えた。
「気に入ってたの?」
「香りが好きなの」
「へえ」
「それに……」
いずみさんが少しだけ言葉を濁す。
「それに?」
「なんでもない」
「気になるなあ」
「気にしなくていいよ」
そう言って、いずみさんは棚から離れた。
「じゃあ、そろそろ行こうかな」
「あ、待って」
「なに?」
「せっかくだし、別の香水見ていかない?」
「別の?」
「うん。鈴鳴コロンがないなら、似たようなのがあるかもしれないし」
「颯君、香水なんて詳しいの?」
「全然」
「じゃあ、なんで?」
「いずみさんが探してたから」
いずみさんが少し目を丸くする。
「……私のため?」
「まあ、そうなるね」
「ふーん」
いずみさんは少しだけ笑った。
「じゃあ、付き合ってあげる」
「なんで上からなんだよ」
「私の香水探しなんだから、それくらいはいいでしょ?」
「はいはい」
二人で棚を眺め始める。
けれど、いずみさんはなかなか商品に手を伸ばさなかった。
「これじゃないなあ……」
「そんなに違う?」
「うん。鈴鳴コロンは、もっと――」
いずみさんがそこで言葉を止める。
「もっと?」
「……秘密」
「また秘密?」
「そう。秘密」
そう言って笑ういずみさんを見て、颯も笑った。
結局、その日は鈴鳴コロンの代わりになるものは見つからなかった。
「残念だったね」
「うん。でも――」
「ん?」
「颯君が一緒に探してくれたから、まあいいかな」
「え?」
「じゃあね」
いずみさんはそれだけ言うと、先に店を出ていった。
「……なんだよ、それ」
颯は一人、取り残された店内で苦笑した。
けれど、不思議と悪い気はしなかった。