卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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8日 夜イベント 

 

「いい?」

 

 夜に訪ねてきたのはいずみさんだった。

 

「うん、どうしたの?」

 

「ちょっと付き合って」

 

 それだけ言うと、いずみさんは僕の返事を待たずに部屋を出ていった。

 

「え? 部屋を出るって……なんで?」

 

「どこ行くのっ? いずみさん!」

 

 慌ててサンダルを履き、後を追いかける。

 

 廊下を抜け、外へ出たところで、いずみさんが振り返った。

 

「ごめん、ちょっと湖までいいかな?」

 

「湖……? なんで?」

 

「私が行きたくなったから。ダメ?」

 

「いいよ」

 

 そう答えると、いずみさんは小さく笑った。

 

 ――――――――――

 

 夜の湖は、昼間とはまるで違って見えた。

 

 風が水面を撫でるたび、月明かりが細かく揺れている。

 

「夜の湖も、なかなかいいね」

 

「いいよね、こういうの」

 

「うん」

 

 しばらく二人で湖を眺めていた。

 

 静かな時間だった。

 

 やがて、いずみさんがぽつりと口を開く。

 

「あのさ。この間の『普通』について、私なりに考えてみたんだ」

 

「え?」

 

「颯君は、普通がいいんでしょ?」

 

「えっ?」

 

 思わず聞き返す。

 

「私は普通じゃない。何が違うのかなってさ」

 

 いずみさんは湖を見つめたまま続けた。

 

「私、普通になりたいの」

 

「……いずみさんが?」

 

「うん」

 

 少し意外だった。

 

 いずみさんは、いつだって自分がしたいと思ったことをする。

 

 周りがどう思うかなんて、あまり気にしない。

 

 それが、いずみさんらしさだと思っていた。

 

「僕は……いずみさんは、そのままでいいと思うけど」

 

「え?」

 

「だって、普通っていうのは、みんなが面倒くさがってやらないことを、やらないってことでしょ?」

 

「……」

 

「だから、それができるいずみさんは凄いっていうか……」

 

 うまく言葉にできない。

 

 でも、これだけは伝えたかった。

 

「つまり……」

 

「つまり?」

 

「僕はいずみさんのこと、好きだよ」

 

「……へ?」

 

 いずみさんが、ゆっくりこっちを向いた。

 

「……あっ、ごめん!」

 

 言ってから、自分でも気づいた。

 

 今の言い方は完全に誤解される。

 

「今のは……友達っていう意味でね?」

 

「…………友達?」

 

「うん」

 

「……」

 

 いずみさんは黙って僕を見る。

 

 その顔が、なんだか妙に気まずそうに見えた。

 

「僕ら、まだ出会って十日も経ってないしね」

 

「……そうね」

 

「だから、その……」

 

「颯君」

 

「うん?」

 

「それ、今言う必要あった?」

 

「え?」

 

「『好き』って言ったあとに『友達』って付け足すの」

 

「いや、だって誤解されたら困るし……」

 

「……ふーん」

 

 いずみさんは湖のほうへ視線を戻した。

 

「じゃあ、友達なんだ」

 

「うん。友達」

 

「……そっか」

 

 なぜか、いずみさんの声は少しだけ小さかった。

 

 僕は、その理由がよく分からなかった。

 

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