朝、颯は自然と湖へ足を運んだ。
湖のほとりまで来ると、いずみさんがいた。
水面をじっと見つめている。
「いずみさん……」
朝の光を受けた横顔に、僕は思わず見惚れてしまった。
「おはよう」
僕に気づいたいずみさんが振り返り、微笑む。
昨日、好きだなんて言ってしまったからだろうか。
顔を合わせるだけなのに、なんだか照れ臭い。
「おはよう、いずみさん。よく眠れた?」
「うん。颯君は?」
「実は……あまり眠れなかった」
「そうなんだ」
いずみさんは少しだけ首を傾げる。
「昨日のこと、考えてた?」
「えっ。あ、うん……」
やっぱり聞かれるよな。
僕が視線を逸らすと、いずみさんは小さく笑った。
「あはは。私もちょっとだけ考えたよ」
「何を?」
「なんか泳ぎたいな~って」
「……え?」
いずみさんはそう言うと、湖へ視線を戻した。
そして、突然服に手を掛ける。
「よし! 泳ぐ」
「えっ!?」
バサッ。
「大胆ッ!!」
「ほら、颯も」
「僕、水着着てないし?!」
「男が細かいこと気にしない!」
パシャッ!
「うわっ!」
続けて、いずみさんが楽しそうに水をかけてくる。
「ほらほら!」
「ちょっ、いずみさんッ!」
パシャッ、パシャッ!
無邪気に笑ういずみさんが可愛い。
……なんて思ってる場合じゃない!
「もう! やったなー!」
僕も湖へ入り、勢いよく水をかけ返す。
バシャッ、バシャッ!
「あははは! 返り討ち~!」
「まだだっ!」
バシャアッ!
「あはははっ! 勢い良すぎて自分にかかってるよ!」
「やったなー!」
「颯君、子供みたい」
「いずみさんもね?」
「あははっ!」
しばらく二人で水を掛け合った。
昨日のことなんて忘れてしまったみたいに。
でも――
僕の中では、昨日の言葉が消えたわけじゃない。
むしろ、こうして笑っているいずみさんを見ていると、改めて思ってしまう。
やっぱり、好きだな。
そんなことを考えていると、
「颯君?」
「え?」
「どうしたの? ぼーっとして」
「……なんでもない」
「ふーん?」
いずみさんは少しだけ不思議そうな顔をして、それから笑った。
「あ~、楽しかった。ありがとうね」
「こちらこそ。誘ってくれてありがたいよ」
「また遊ぼうね」
「うん!」
「それじゃ」
いずみさんが先に歩き出す。
僕もその背中を追いかけながら、ふと思った。
昨日、好きだと言ったことを、いずみさんはどう思っているんだろう。
まだ答えは分からない。
だけど――
今朝、こうして一緒に笑えたことが、なんだか嬉しかった。
湖から戻る途中、僕は離小島のほうへ向かうボートを見つけた。
よく見ると、乗っているのはさおりさんと聖美さんだった。
「……何やってるんだろ?」
ボートを近づけると、二人はこちらに気づいた。
「おっ、颯!」
「颯、ちょうどいいところに来たわ」
「え? 何してるの?」
さおりさんがニヤッと笑う。
「これからさおりと勝負すんだよ。審判頼むわ」
「何だって?」
「どっちの蹴りが強いかゲームだ」
「なんつー、ひねりのないネーミングや……」
思わず呟いてしまうさおりを聖美が睨む
「で、僕はどうしたらいいの?」
「俺たちの蹴りをただ受け止めてくれればいいんだ」
「はあ?」
一瞬、意味が分からなかった。
「いや、ちょっと待って。僕が受け止めるの?」
「そうだよ、耳ついてるだろ?」
聖美さんが当然のように頷く。
「なんで僕が?」
「だって審判が必要じゃん」
「審判ってそういう仕事じゃないよね!?」
「細かいことはいいから」
「細かくないよ!」
二人はすでに準備を始めている。
「ほら、颯君。そこに立って」
「えぇ……」
僕は言われるまま、二人の前に立った。
嫌な予感しかしない。
「じゃあ、いくぞー!」
「ちょ、ちょっと待って! 本当にやるの!?」
「いっせーの!」
「待ってぇぇぇ!」
ドゴッ!!
「ぐはっ!!」
「おおっ!」
「今のどっち!?」
「俺だよ!」
「いや、今の絶対さおりだろ!」
「新井先輩やで」
「えっ?」
二人が顔を見合わせる。
そして――
「もう一回!」
「やめてくれぇぇぇ!!」
離小島に、僕の悲鳴が響き渡った。