「いい?」
「いずみさん、どうしたの?」
「ちょっと散歩しない?」
「うん、いいよ」
二人で部屋を出て、夜の道を歩く。
しばらく歩いていると、いずみさんがぽつりと口を開いた。
「なんかさ、ちょっと考えちゃって……」
「何を?」
「この八月がさ。夏休みが終わったら、財宝探しも終わり。みんなとの旅行も終わり。私たちも」
「……」
「うん」
いずみさんは少し寂しそうに前を向いた。
「なんかさ、寂しくなっちゃって」
「...僕も、そう思うよ」
「え? 本当に?」
「そりゃ、いずみさんたちに旅行が終わったら会えないなんて考えたくないな……」
「そっか…」
「うん、同じだよ」
少しの間、二人で並んで歩いた。
「でも、まだ八月の半分も来てないのに、なんでそんなこと考えたの?」
僕がそう聞くと、いずみさんは少しだけ笑った。
「内緒」
「あのさ、携帯持ってる?」
「え、あ。う、うん!」
僕は慌ててポケットから携帯を取り出した。
「何するの?」
「いいから」
いずみさんも自分の携帯を取り出すと、僕の隣に並んだ。
「連絡先、交換しよ」
「……え?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、連絡先」
「いや、それは……もちろんいいけど」
「じゃあ、はい」
いずみさんが自分の携帯を差し出してくる。
僕は少し戸惑いながら、自分の連絡先を入力した。
交換が終わると、いずみさんは画面をじっと眺める。
「これで、旅行が終わっても連絡できるね」
「……うん」
その一言が、胸にじんと染みた。
「なんだ。そんなことか」
「そんなことって何よ」
「いや……もっと何か大事なことをするのかと思って」
「大事なことだよ」
いずみさんはそう言って、携帯をポケットにしまった。
「だって、終わりたくないじゃん」
「……」
「財宝探しも、旅行も。みんなといる時間も」
少し間を置いて、いずみさんが僕を見る。
「……颯君とも」
「え……」
「だから、ちゃんと繋がっておきたかったの」
いずみさんは照れたように視線を逸らした。
「八月が終わったからって、全部終わりじゃないでしょ?」
「……うん」
僕は笑って頷いた。
「終わらせたくないよ」
「なら、決まりね」
「何が?」
「八月が終わっても、また会うの」
「……うん」
夜道を歩く僕たちの間に、さっきまであった寂しさが少しだけ薄れていた。
まだ八月は始まったばかりだ。
だったら――
終わることを考えるより、残された時間を楽しめばいい。
僕は隣を歩くいずみさんを見た。
「ねえ、いずみさん」
「ん?」
「明日は何する?」
「……明日?」
「うん。せっかくまだ八月なんだから」
いずみさんは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに笑った。
「明日は、聖美や亮子たちと洞窟探検かな」
「いいね、冒険」
「ふふっ、颯も来る?」
「そうだね、行けたら行くよ」
その先の言葉を聞きながら、僕も笑った。
夏は、まだ終わっていない。