卒業バケーション 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?
「ねえねえ、颯くんとどうだったの? デート」
向かいに座る由紀恵が、待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。
「デートじゃない!」
いずみは間髪入れずに否定する。
「実家のカフェデートでしょ? いいなあ、いずみちゃん。楽しそうで」
「なんで知って……。だから、デートじゃないし!」
思わず声を上げてから、いずみは頬を膨らませた。
どうしてこう、みんなは面白がって聞いてくるのだろう。
別に、颯君と出かけただけだ。
それだけなのに。
「でもさぁ、いずみちゃんちのお店に来てたんでしょ?」
今度は亮子が、興味津々といった様子で口を挟む。
「……うん」
「で?」
「でって?」
「何かあった?」
「何もないよ」
「ほんとに?」
「……ほんと」
いずみはテーブルに置かれたカップへと視線を落とした。
何もなかった。
……いや、何もなかったというのは、少し違うかもしれない。
あの日のことを思い出すと、自然と胸の奥がそわそわする。
『いずみさんのおすすめなら間違いないでしょ』
『なんか、いずみさんっぽい味がする』
何気ない言葉だったはずなのに。
颯君があんなふうに言ってくれたことが、思い返すたびに嬉しくなる。
自分のことを、そんなふうに感じてくれたんだ。
そう思うと、どうしようもなく照れくさかった。
「……いずみちゃん?」
「な、なに?」
顔を上げると、由紀恵がじっとこちらを見ていた。
「顔、赤いよ?」
「暑いの!」
「九月なのに?」
「……暑いの!」
自分でも苦しい言い訳だと思う。
案の定、二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い始めた。
「で、颯くんとは手くらい繋いだ?」
亮子が、何でもないことのように尋ねてくる。
「……」
いずみは答えなかった。
ただ、カップを持とうとしていた手が、ぴたりと止まる。
「……え?」
沈黙を見逃すはずもなく、由紀恵が目を丸くした。
「その反応、もうその次のキスまでいった?!」
「ち、違っ……!」
「何が違うの?」
「……ちょっとだけ手は繋いだ」
観念したように、小さな声で答える。
すると。
「きゃー!」
「声、大きい!」
思わず耳を塞ぎたくなるような声が上がった。
「だって、いずみが青春してる!」
「もう……!」
いずみは顔を両手で覆った。
恥ずかしい。
とにかく、恥ずかしい。
自分のことなのに、二人に話しているだけで、まるで全部見透かされているような気がする。
けれど、指の隙間から覗く口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
「……楽しかった?」
さっきまでとは少し違う、穏やかな声だった。
いずみは両手を下ろす。
由紀恵も亮子も、今度はからかうことなく、こちらの返事を待っていた。
楽しかったか、と聞かれたら。
答えは、最初から決まっている。
「うん」
いずみは小さく頷いた。
「すごく、楽しかった」
口に出してみると、あの日の嬉しかった気持ちが、また胸の中に広がっていく。
颯君と一緒に歩いて、話をして。
同じものを食べて、帰り道に手を繋いだ。
特別なことばかりじゃない。
でも、だからこそ、もっと一緒にいたいと思った。
「……で?」
せっかくしみじみしていたのに、由紀恵が再びニヤニヤと顔を覗き込んでくる。
「な、なに?」
「颯くんのこと、好きなんでしょ?」
「……!」
いずみの肩が、ぴくっと跳ねた。
「な、なんでそうなるのよ!」
「だって、今の顔を見たら分かるよ」
「私も分かる」
亮子まで、うんうんと頷いている。
「二人とも、もう……!」
いずみは真っ赤になって俯いた。
好き。
その言葉を聞いただけで、どうしてこんなに落ち着かなくなるのだろう。
颯君と一緒にいると、楽しい。
もっと話していたいし、また会いたい。
でも、それだけじゃない。
そばにいると、不思議と安心する。
そんな気持ちを、何と呼べばいいのか。
「でもさ」
由紀恵の声が、少しだけ優しくなった。
「いずみちゃんがこんなに楽しそうなの、初めて見たよ」
「……」
「だから、いいんじゃない?」
亮子はいずみに微笑みながら続ける
「何が?」
「好きなら、好きで」
いずみは何も答えられなかった。
否定したいはずなのに、今度はすぐに言葉が出てこない。
胸の奥では、昼間に聞いた颯君の言葉が、何度も繰り返されていた。
『九月も、いずみさんと会えてよかったなって』
自分と会えてよかった。
颯君も、そう思ってくれていた。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
「……私」
気づけば、ぽつりと声が漏れていた。
「うん?」
「颯君といると……すごく安心するの」
言ってから、少しだけ恥ずかしくなる。
けれど、もう取り消したいとは思わなかった。
二人は顔を見合わせた。
「それってさ」
亮子が、にこっと笑う。
「もう答え出てるんじゃない?」
「……そうなのかな」
いずみは窓の外へと目を向けた。
夕暮れの空が、少しずつ秋の色に変わっていく。
颯君と、また会いたい。
次はどこへ行こう。
何を話そう。
そんなことを考えるだけで、自然と頬が緩んでしまう。
「……文化祭、楽しみだな」
「文化祭が?」
由紀恵が、すかさず聞き返した。
「それとも、颯くんと一緒にいるのが?」
「もう!」
また二人の笑い声が響く。
いずみも、文句を言いながら、つられて笑ってしまった。
しばらくして、亮子が何かを思いついたように手を叩いた。
「ねえ、文化祭の前にさ。花火大会に誘ってみたら?」
「花火大会、か……」
いずみは、思いがけない提案に目を瞬かせた。
花火大会。
夏の夜空を彩る大きな花火。周囲から聞こえる歓声。夜風に揺れる髪。
そして、その隣に颯君がいたら。
一緒に夜空を見上げて、きれいだね、なんて話をしたりして。
そこまで想像して、いずみは慌てて頭を振った。
……何を考えているんだろう、私は。
まだ誘うと決めたわけでもないのに、すっかり一緒に行くつもりになっている。
そんな自分が、なんだか恥ずかしかった。
「いいなあ、みんなで行きたい!」
由紀恵が楽しそうに声を上げた。
「みんなで?」
いずみは思わず聞き返した。
「うん! みんなで行ったら絶対楽しいよね」
由紀恵は、すでに花火大会へ行くことが決まったかのように目を輝かせている。
確かに、みんなで行くのも楽しそうだ。
いつもの仲間たちと集まって、花火を見て、帰りにいろいろな話をする。
きっと、にぎやかで楽しい一日になるだろう。
「二人がよかったら、そうしてもらっても全然構わないんだけど?」
亮子が、いずみの顔をのぞき込むようにして意味ありげに笑った。
「え?」
突然の言葉に、いずみは目を丸くした。
「だって、いずみちゃんはどうしたいの?」
由紀恵も不思議そうに首を傾げる。
「どうって……」
いずみは言葉に詰まった。
どうしたいのか。
そんなこと、急に聞かれても困ってしまう。
みんなで行くのも楽しそうだ。
でも、颯君と二人で行けたら。
花火を見ながら、二人で話ができたら。
きっと、もっと嬉しい。
そう思った途端、頬がじわりと熱くなった。
どうして、そんなことを考えてしまうのだろう。
みんなと一緒にいるときだって、颯君と話せる。それなのに、二人きりで過ごす時間を想像すると、胸の奥がくすぐったくなるような気がした。
「楽しそうだね」
亮子が、いずみの反応を楽しむように微笑んだ。
「……何が?」
「花火大会」
「そ、そうね」
いずみは、できるだけ何でもないことのように答えた。
けれど、亮子はすっかりお見通しらしい。
「じゃあ、颯君に早速、連絡してくれる?」
「え?!」
あまりにも自然に言われて、いずみは声を上げた。
「HR終わったらすぐね!」
「そ、そんな簡単に……。家にいるかもわからないじゃない」
慌てて言い返したものの、自分でも苦しい言い訳だと思った。
電話をかけるくらい、何でもないはずなのに。
颯君のことになると、どうしてこうも調子が狂ってしまうのだろう。
「じゃあ、夜でいいわ」
「……分かったわよ」
結局、亮子の勢いに押される形で、いずみは小さく頷いた。
「ちゃんと報告待ってるから」
「はいはい」
いずみはそっけなく返したが、二人が楽しそうに顔を見合わせているのを見て、ますます落ち着かない気持ちになった。
まったく、二人とも。
人の気も知らないで。
そう思いながらも、颯に電話をかけることを考えると、胸の奥が少しだけ弾んでいた。
*
学校を出て、家へと向かう。
いつもの帰り道なのに、今日はなんだか考え事ばかりしてしまう。
花火大会、一緒に行かない?
颯君にそう聞けばいいのだろうか。
それとも、みんなで行こうって誘えばいいのかな。
最初から二人きりで、と言うのは少し恥ずかしい。
でも、みんなで行こうと誘ってしまったら、二人きりになる機会はなくなってしまうかもしれない。
どうしよう。
いずみは歩きながら、何度も同じことを考えた。
誘うだけなのに、こんなに悩むなんて。
颯君は、どんな返事をするだろう。
もし、一緒に行こうと言ってくれたら。
そこまで考えたところで、いずみはふっと笑みをこぼした。
……まずは、電話しなくちゃ。
家に着いたら、ちゃんと誘おう。
そう心に決めて、いずみは再び前を向いた。
花火大会の夜を思い浮かべながら、いつもより少しだけ弾む足取りで、家路を急いだ。
好きな娘は誰ですか?
-
新井聖美
-
志村まみ
-
高城麗子
-
中本静香
-
加藤美夏
-
犬塚さおり
-
石橋美佐子
-
シンディ桜井
-
安田舞奈
-
谷由利佳
-
横山めぐみ
-
西川真樹
-
三波亮子
-
伊東由紀恵
-
戸塚いずみ