夕食が終わったばかりだというのに、俺は小腹が空いてしまった。
部屋を出て、食堂へ向かう。
廊下を歩いていると、ふわっと甘いような、少し不思議な匂いが鼻をくすぐった。
「ん? なんか変な匂い……香水?」
「そんなに変な匂い?」
そう問いかけてきたのはいずみさんだった。
「いや、普通、食堂でしない匂いだなって」
「普通ってどういう匂い?」
「え? えっと……食べ物の匂いとか、消毒の匂いとか?」
「ふーん? まあ、いいや」
いずみさんはそう言って、何でもないように笑った。
「何してたの?」
「香水を調合してたの」
「え?」
「だから調合。市販の香りってあんまり好きじゃないのよね」
「そうなんだ」
「うん。なんか、みんな同じ匂いになるじゃない?」
「香水ってそういうものじゃないの?」
「そうなんだけどね」
いずみさんは少し考えるように首を傾げた。
「せっかくなら、自分だけのほうがよくない?」
「自分だけの香りか……」
「そう。だから色々混ぜてるの」
「失敗したりしない?」
「するよ」
「するんだ」
「当たり前」
いずみさんは楽しそうに笑った。
「この前なんか、すっごい変な匂いになってさ」
「どんな?」
「説明できない」
「それ一番気になるんだけど」
「じゃあ嗅いでみる?」
「え?」
いずみさんがポケットから小さな瓶を取り出す。
「これ」
差し出された瓶を受け取る。
「開けていいの?」
「いいよ」
蓋を開けて、少しだけ匂いを嗅ぐ。
「……あ」
「どう?」
「……なんか、甘い?」
「でしょ?」
「でも、ちょっとだけ変な感じ」
「やっぱり?」
いずみさんが笑う。
「失敗作だから」
「先に言ってよ」
「だって、颯がどういう顔するか見たかったんだもん」
「ひどくない?」
「ふふっ」
いずみさんは瓶を受け取ると、もう一度匂いを確かめる。
「でもね、こっちは結構いいと思う」
「どれ?」
「こっち」
今度はいずみさんが別の小瓶を取り出した。
「嗅いでみて」
「また失敗作じゃないだろうな」
「違うって」
疑いながら匂いを嗅ぐ。
さっきとは違って、今度はほんのり甘くて、少し爽やかな香りがした。
「……いい匂い」
「ほんと?」
「うん」
「そっか」
いずみさんが小さく笑う。
「じゃあ、これにしようかな」
「何に?」
「私の香水」
「もう決めたの?」
「うん。颯がいい匂いって言ったから」
「……俺の意見で決めていいのかよ」
「いいの」
そう言って、いずみさんは瓶をしまった。
「じゃ、またね」
「え?」
「私、もうちょっと調合してくる」
「ああ……」
いずみさんはそのまま廊下の奥へ歩いていく。
しばらくして、ふと気づいた。
さっきの香りが、まだ少しだけ残っている。
……なんだか変な気分だった。
暫く食堂にいたらいずみさんが戻ってきた
「まだいたの?」
「うん、お腹すいちゃって」
「ごめん、香水しか持ってないや」
ふふっ、と笑ういずみさん
「だよね、まみさんところに行ってみようかな」
「まみが分けてくれるとは思わないけど」
「確かに」
「あのさ、匂いってまだ残ってる?」
「うん?そうだね」
「そんなに強いかあ、じゃあそっちの窓開けて」
「分かった」
俺といずみさんは窓を全開にしていく
「もう今日は寝るしか無いんじゃ無い?朝のバイキングがいつもより美味しく感じると思うよ」
「確かに」
「ありがとう、あとで窓は締めに来るから。おやすみ」
「おやすみ」
そう手を振って大人しく自室へと戻ることにした