卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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この日、色々謎だったな...


12日

 



「朝早くから散歩?」

 

「そうだよ」

 

「毎日こうしていずみさんたちに会えるのが、三文の徳だよ」

 

「そんなこと思ってくれてたんだ」

 

 いずみさんが嬉しそうに笑う。

 

 僕は、それが嬉しい。

 

「三文じゃあ足りませんわね」

 

 麗子さんが優雅に微笑んだ。

 

「え?」

 

「こんな可愛い女の子たちに毎朝会えるんですもの。もっとご利益があってもよろしいのでは?」

 

「ご利益って……」

 

「颯君、朝から何を考えていたの?」

 

 いずみさんが僕の顔を覗き込む。

 

「洞窟の前で何を思い耽っていたの?」

 

「女の子のことだよ」

 

「……女の子?」

 

 いずみさんの眉が、ほんの少し上がった。

 

「誰?」

 

「それは……」

 

 答えに困って、僕は湖へ視線を逸らした。

 

 朝の光を受けた水面が、きらきらと揺れている。

 

 

 

「こうして滝壺を見ていると、吸い込まれそうになるな」

 

「そんなところで身を乗り出したら危ないですわよ」

 

 麗子さんがそう言った直後だった。

 

「きゃあっ!」

 

 足を滑らせた麗子さんが、僕の目の前から消えた。

 

「麗子さん!?」

 

 ――ドボン!

 

「ちょっと、麗子!」

 

 いずみさんが慌てて手を伸ばす。

 

「大丈夫!?」

 

「いずみ、こっちに――」

 

「きゃあっ!」

 

 今度はいずみさんまで。

 

 ――ドボン!

 

「ええっ!?」

 

「二人とも!」

 

 美佐子さんが助けようと駆け寄る。

 

 しかし、その足元も濡れた石で――

 

「きゃあっ!」

 

 ――ドボン!

 

「美佐子さんまで!?」

 

 三人が滝壺の中で顔を出す。

 

「颯君、早く!」

 

「今助ける!」

 

 僕は慌てて湖へ入った。

 

 ところが――

 

「うわっ!」

 

 足元が滑った。

 

「颯!」

 

 ――ドボン!

 

「…………」

 

 一瞬、静かになった。

 

 水面から顔を出した僕の周りには、びしょ濡れになった三人の女の子。

 

「……全員、落ちたね」

 

「颯君のせいですわ」

 

「なんで!?」

 

「だって、助けようとして飛び込んだんでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「だったら責任取ってよ」

 

「責任って何を――」

 

 そこで僕は、足を取られた。

 

「え?」

 

 視界がぐるりと回る。

 

 水の中に沈んでいく。

 

「颯!」

 

 いずみさんの声が聞こえた。

 

 それから先のことは、覚えていない。

 

 ――そして。

 

「……ねえ」

 

「何?」

 

 

 

「僕を助けたのって、誰?」

 

「…………」

 

 三人が顔を見合わせる。

 

「それが……」

 

「誰が助けたんですの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さあ?」

 

 美佐子さんが首を傾げる。

 

「さあって……」

 

 僕は思わず三人の顔を見比べた。

 

 全員、びしょ濡れだ。

 

「僕、どうなったの?」

 

「それは……」

 

 いずみさんが言葉を濁す。

 

「颯君、覚えてないんですの?」

 

「うん。水の中に沈んだところまでは覚えてるけど……」

 

「その後は?」

 

「全然」

 

 三人が顔を見合わせる。

 

「……誰かが助けてくれたんだよね?」

 

「もちろんですわ」

 

「じゃあ、誰?」

 

「…………」

 

 また沈黙。

 

「え?」

 

 僕は嫌な予感がしてきた。

 

「まさか、誰も助けてないとか?」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

 いずみさんが慌てて否定する。

 

「じゃあ誰が?」

 

「だから……」

 

 いずみさんが美佐子さんを見る。

 

 美佐子さんは麗子さんを見る。

 

 麗子さんはいずみさんを見る。

 

「……何、この空気」

 

「颯君」

 

 麗子さんが突然、真剣な顔をした。

 

「一つだけ聞いてもよろしくて?」

 

「なに?」

 

「目が覚めたとき、誰かの顔が見えませんでした?」

 

「……見えたような」

 

「誰でした?」

 

「それが分からないんだよ」

 

「では、覚えている範囲で教えてくださいな」

 

「えーっと……」

 

 僕は記憶を探る。

 

 水の中。

 

 誰かの声。

 

 それから――。

 

「……誰かに助けてもらった」

 

「そこまでは全員分かってますわ」

 

「じゃあ何を聞きたいの?」

 

「誰だったのかですわ!」

 

「僕が知りたいよ!」

 

 いずみさんが吹き出した。

 

「ふふっ……」

 

「いずみさん、笑い事じゃないよ」

 

「だって、颯が全然覚えてないんだもん」

 

「そうだけど……」

 

 すると美佐子さんが、ぽつりと言った。

 

「……じゃあ、誰が助けたことにする?」

 

「ことにするって何!?」

 

 三人がまた顔を見合わせる。

 

 そして――

 

「秘密にしましょうか」

 

「そうね」

 

「それがよろしいですわね」

 

「なんで!?」

 

 僕の声だけが、滝の音に負けないくらい湖畔に響いた。

 

 

 

 

 

 

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