「土産でもブラブラ見ようかな……」
店先に並んだ土産物を眺めながら、颯はひとりごちた。
「お土産見てるの?」
聞き慣れた声に振り向く。
「あっ、いずみさん! 奇遇だね」
「……そうね」
いずみさんは、なぜか少し素っ気ない。
「ん? なんか怒ってる……?」
「別に」
「そうかな?」
いずみさんは少しだけ口を尖らせると、土産物を眺めながらぽつりと言った。
「さっき、そういえば颯君に似た人を見たよ」
「え? 格好良かった?」
「娘と奥さんに付き合わされて、疲れた感じだった」
「何それ」
思わず笑ってしまう。
「タバコ咥えてさ、髪もぐちゃぐちゃで。あんたも、あんなふうに将来なっちゃうのかな?」
「それは分からないな。将来のことって、まだ分からなくない?」
「まあ、そうだけど」
いずみさんは、手に取った土産物を眺めながら少し考えるように黙った。
そして、何気ないことのように口を開く。
「……あたしは、家を継ぐかも」
「え?」
「何?」
「いや、家って……喫茶店?」
「そう。意外?」
「ううん。すごいな。それは」
「そう?」
「うん。いずみさんが店やってるところ、なんか想像できる」
「ほんと?」
「うん。似合いそう」
「……そっか」
いずみさんは、少し照れたように小さく笑った。
「じゃあ、颯君もそのうちお客さんになってよ」
「もちろん」
「その頃には、奥さん連れてたりして」
「え?」
思わず聞き返すと、いずみさんはいたずらっぽく笑った。
「ふふっ。冗談」
そう言って、いずみさんは再び土産物へ視線を戻した。
「じゃあ、またね」
「うん」
いずみさんはそのまま人混みの中へ消えていった。
颯はしばらくその背中を眺めていた。
なんだったんだろう。
少しだけ不思議に思いながら、颯もその場を後にした。
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少し歩いたところで、再び声を掛けられた。
「やあ、また会ったね」
「うん、着いてきちゃった」
さっき別れたばかりなのに、またいずみさんと顔を合わせる。
「何? 寂しがりやなの?」
「寂しがりや……ではないと思うけど」
「そうかなあ?」
いずみさんは楽しそうに笑う。
さっきまでとは少し雰囲気が違っていた。
「ナヨナヨした男ってさ、男として認めらんないんだよね」
「男としてか……」
颯は顎に手をやり、少し考え込む。
いずみさんはそんな颯を横目に見ながら、足元へ視線を落とした。
どうやら、さっきから何かを探しているらしい。
「ねぇ、いずみさん? さっきから何を拾ってるの?」
「ああ、石だよ」
いずみさんが拾い上げた石を手のひらに乗せる。
「石なんて何に使うの?」
「これはね。水面切りをやるんだよ」
「ああ、あれね」
「やったことある?」
「ないな」
「本当はこういう場所じゃなくて、波のない湖とか川でやるんだけど」
いずみさんは石をいくつか手に取って、その形を確かめている。
「結構いい石を見つけちゃったからさ」
「そうなんだ」
「跳ねる回数より遠くに飛ばすなら、どんな石がいいと思う?」
「平べったくて、コマみたいな石かな」
「あら」
いずみさんが少し驚いたように目を丸くする。
「まあ、よく分からないんだけど」
「なんで分かったの?」
「友達から聞いたことあったからさ」
「そうなんだ。あたしはお父さんから教えてもらったんだけどさ」
いずみさんは、手の中の石を眺めながら懐かしそうに笑った。
「お父さんと練習したんだ?」
「そう。なかなかできなくて苦戦したなぁ」
「僕ともちょっと一緒にやってよ」
「うん、いいよ」
いずみさんはしゃがみ込み、石の持ち方を見せてくれる。
「石はどう持つの?」
「こう」
颯も真似をして石を持った。
「それで、30度以下の角度で……投げるッ」
いずみさんが腕を振る。
石は水面を跳ねながら、向こうへ飛んでいった。
「おおっ!」
思わず声が出る。
「僕もやってみるね」
「頑張って」
颯は少しだけ姿勢を整える。
「とうっ!」
石を投げると、水面をいくつか跳ねてから遠くへ飛んでいった。
「うん、いいんじゃない? 初めてにしては上出来」
「でしょでしょ」
思わず鼻を高くする颯。
その様子を見たいずみさんは、少しだけむすっとした顔になった。
「むしろ最初から上手いとかズルイ……」
「え?」
聞き返した颯に、いずみさんはぷいっと顔を背ける。
「あっ、いずみさん!」
「じゃーね」
いずみさんはそのまま颯を残して、先に歩いていってしまった。
「……なんだったんだ?」
颯は手の中に残った石を眺めながら、首を傾げた。
少し先を歩くいずみさんは、振り返らない。
けれど、その歩く速度はほんの少しだけ速くなっていた。