夕方、港をブラブラしていると、さおりさんがいた。
「何見てるの?」
「見てみぃ、あのヨット!」
「あれはヨットじゃなくてクルーザーだね」
「どっちでもええやん! ほんま立派やなあ」
さおりさんが目を輝かせながら、クルーザーを眺めている。
「クルーザー好きなの?」
「好きっちゅうか、金持ちの娯楽品って感じやん? きっと高城先輩も持っとるで〜」
「そうだね、持ってそう……って、ちょっと!」
よっ、と軽い掛け声とともに、さおりさんがクルーザーへ乗り込んだ。
「ダメだよ、勝手に乗っちゃ……」
「コラーッ! お前ら何してんだぁ!!」
僕の声を遮るように、怒号が飛んできた。
「うっひゃあああ! 逃げるで! 颯!」
「え、えぇ? 僕も?」
わけも分からないまま、僕もさおりさんの後を追って走り出した。
――そして、夕飯の後。
部屋でゆっくりしていると、ドアが鳴った。
「ほな、邪魔するで〜」
聞き覚えのある声に、僕は嫌な予感がした。
「さおりさん? どうしたの?」
「いや、暇やったから話に来たんや」
さおりさんは何事もなかったかのように部屋へ入り、僕の向かいに腰を下ろした。
「僕と?」
「そうや」
昼間の騒動を思い出して、僕は少し警戒する。
「……なんかの罰ゲーム?」
「なんでそうなるんや、ちゃうって」
「でも面白い話できないしなあ」
「漫談のひとつもできんのか? じゃあ、マジックとか大道芸は?」
「うーん、やったことないな」
「なんや、つまらんな」
さおりさんは呆れたように笑った。
昼間はあんなに騒がしかったのに、今は二人きりの部屋で妙に静かだった。
「じゃあ恋バナでもしよか?」
「恋バナ?」
思わぬ話題に、僕は首を傾げた。
さおりさんはニヤッと笑うと、少し身を乗り出した。
「颯はん、戸塚先輩のことどう思ってるんや?」
「え? そりゃまあ、好きだけど?」
あまり深く考えずに答える。
すると、さおりさんが一瞬だけ目を丸くした。
「大胆発言やな……」
「でも、さおりさんのことも好きだし。みんなのこと好きだよ?」
僕が何気なく続けると、今度はさおりさんが黙り込んだ。
「……」
「どうしたの?」
「いや……」
さおりさんは口元に手を当て、しばらく僕の顔を見つめる。
やがて、堪えきれないように吹き出した。
「エラい発言しとるなぁ。ハーレムでも目指すんか?」
「あはは、そんなことできないよ」
僕が笑って答えると、さおりさんはますます楽しそうな顔をした。
「ほんまに?」
「うん?」
「ウチも候補に入ってるんか?」
冗談めかした口調だったけれど、その目は僕の返事を待っている。
「もちろん」
僕が即答すると、さおりさんは一瞬きょとんとした。
「……即答かいな」
そして、呆れたように笑った。