卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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18日 夜イベント

 

「お、颯か。ちょっとこっち着いてこいよ」

 

「え? どこに行くの? 聖美さん」

 

突然声をかけられ、颯は聖美の後を追った。

 

木々の陰を抜け、少し歩いたところで、視界がぱっと開ける。

 

そこには、小さな浜辺があった。

 

大きな砂浜というわけではない。

観光客が集まるような場所でもなく、少し入り込んだところにひっそりと残っているような浜辺だった。

 

波が寄せては返し、そのたびに砂浜が濡れていく。

 

「ほら、すごいだろ? こんなところにも小さいけど浜辺があったんだ」

 

「本当だ。気づかなかったなあ」

 

颯も辺りを見回す。

 

普段歩いている場所から少し離れただけなのに、まるで別の場所に来たような気がした。

 

人の姿もほとんどない。

 

「だろ? こういうところを独り占めする気分はいいよね」

 

聖美は満足そうに辺りを見渡している。

 

「え? 独り占め……」

 

「ん?」

 

「いや、僕たち二人しかいないけど」

 

「あぁ、二人だ。二人占め……んな細かいことはどうでもいいんだよ」

 

「ははは」

 

聖美さんらしいな、と颯は思った。

 

そんなことを言っているうちに、聖美が海へ近づいていく。

 

「ほら、早くこっち!」

 

「え、ちょっと待ってよ」

 

颯が近づいた瞬間、聖美が足元の海水をすくった。

 

「それっ!」

 

パシャッ。

 

「うわっ!」

 

突然かけられた水に、颯は思わず後ずさる。

 

聖美は楽しそうに笑っている。

 

「ははは!」

 

「やったな!」

 

颯も負けじと海水をすくい、聖美に向かってかけ返した。

 

パシャッ。

 

「うわっ、やりやがったな!」

 

「先にやったの聖美さんじゃん!」

 

「細かいこと言うなって!」

 

また水が飛ぶ。

 

二人の足元で波が砕け、夕方の海がきらきらと光っていた。

 

しばらく水をかけ合っていると、颯は思わず笑ってしまった。

 

「ははは、冷たくて気持ちいいね」

 

「うん! あはは」

 

大人になってから、こんなふうに海で遊ぶことなんて、あまりないかもしれない。

 

けれど、今はそんなことを考える必要もなかった。

 

ただ、聖美さんと笑っている。

 

それだけで十分楽しかった。

 

------------

 

夕飯を食べ終え、部屋でのんびりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「ん?」

 

颯は立ち上がり、ドアを開ける。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

そこには聖美さんが立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとな、鬱憤が溜まっちまってさ」

 

「バカンスに来てるのに?」

 

「だからだよ」

 

聖美さんは少し困ったように笑った。

 

「ここじゃ、バイクに乗れねえからな」

 

「聖美さん、バイクに乗るの?」

 

「まあな」

 

意外だった。

 

颯の中では、聖美さんとバイクという組み合わせが妙にしっくりくるような、少し意外なような、不思議な感じがした。

 

「うち、バイク屋なんだ。通の間じゃ名前通ってるんだぜ?」

 

「そうなんだ。一回行ってみたいな」

 

「おう、来い来い。いろいろ見せてやるよ」

 

聖美さんは嬉しそうに頷いた。

 

「颯もバイク乗るのか?」

 

「まあ、そこそこね」

 

「へえ、本当かどうか今度ツーリング行ってみたいな」

 

「おー、いいね! 楽しそう」

 

「だろ?」

 

聖美さんは満足そうに笑う。

 

昼間は海で騒いで、夜はバイクの話。

 

颯は、こういう他愛のない時間も悪くないなと思った。

 

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