卒業バケーション   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?

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花火大会に行きたい

「あの、戸塚です。颯さん、いらっしゃいますか?」

 

『戸塚さん? ちょっと待ってくださいね』

 

 電話の向こうから、綺麗な声が聞こえてきた。

 

 きっと、颯君のお母さんだ。

 

 そう思いながら、いずみは受話器を握り直した。

 

 しばらくして、聞き慣れた声が耳に届く。

 

「ごめん。またかけてもらっちゃった……」

 

「突然、ごめん。あのさ、今度の花火大会、行かない?」

 

「えっ。行きたい! いつだっけ?」

 

 思いがけず弾んだ声に、颯はほっとした。

 

「第3土曜日の都内のやつか、その次の横浜でやるやつかな」

 

「えー、どっちも行きたいな」

 

「どっちも?」

 

「うん! いずみさんと一緒ならどこでも……」

 

 言いかけて、颯の声がだんだん小さくなった。

 

「颯君?」

 

「……お母さんが聞いてた。恥ずい」

 

「ぷっ、さっきのお母さんだよね? 油断しすぎ」

 

「ああ、もう完全にバレた! 妹もうるさいし」

 

「あはは、隠し通せないね」

 

 電話の向こうで、颯が困ったように笑った。

 

 きっと今頃、真っ赤になっているんだろう。

 

 そう想像すると、いずみまで頬が熱くなった。

 

 だって、いずみさんと一緒ならどこでも、なんて。

 

 そんなことを言われたら、嬉しくないわけがない。

 

「いずみさん、今度は僕から連絡するから! 待ってて」

 

「うん、分かった」

 

 電話を切る直前、いずみはもう一度、受話器を耳に押し当てた。

 

 もう少しだけ、話していたかった。

 

 けれど、次は颯君から連絡してくれる。

 

 その約束が、何よりも嬉しかった。

 

 受話器を戻したいずみは、しばらく電話の前から動けなかった。

 

 花火大会。

 

 今度は、颯君と一緒に。

 

 考えるだけで、胸が弾んだ。

 

「ちゃんと連絡したの? いずみ」

 

 朝、教室に着いて席に座ると、亮子が目の前の席に腰を下ろした。

 

「したよ」

 

「どうだった?」

 

 由紀恵も隣に座り、興味津々といった様子で身を乗り出す。

 

「行くって」

 

「良かったじゃない! それで、二人で行くの?」

 

「そこはまだ決めてない」

 

 いずみは、少しだけ視線をそらした。

 

 花火大会に誘ったら、颯君はすぐに行きたいと言ってくれた。

 

 それだけでも十分嬉しかったけれど、二人で行くのか、みんなで行くのかは、まだ決まっていない。

 

「そうなんだ」

 

「また連絡するって言ってたから、そのうち来るんじゃない?」

 

 そう答えながら、いずみは昨夜の電話を思い出していた。

 

 最後に颯君が言ってくれた言葉。

 

『今度は僕から連絡するから! 待ってて』

 

 思い出すだけで、頬が緩みそうになる。

 

「嬉しいくせに」

 

「……何がよ」

 

「顔に出てるよ、いずみ」

 

「出てないってば!」

 

 慌てて言い返すと、二人は顔を見合わせて笑った。

 

 もう、二人とも。

 

 いずみは小さくため息をついた。

 

 でも、否定する気にはなれなかった。

 

 颯君から連絡が来るのが、楽しみだったから。

 

「みんなにはもう言ったの?」

 

「うん、声は掛けたけど横浜の花火のほうね」

 

「みんな来れるといいね」

 

 亮子の言葉に、いずみは頷いた。

 

「うん、そうだね」

 

 みんなで行く花火大会も、きっと楽しい。

 

 でも、もし二人で行けたら。

 

 夜空に花火が上がるのを、隣で颯君と一緒に見られたら。

 

 そんな想像が浮かんで、いずみはそっと頬を押さえた。

 

 ……期待しすぎちゃ、だめよね。

 

 そう自分に言い聞かせながらも、次の連絡を待ち遠しく思う気持ちは、どうしても抑えられなかった。

 

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