卒業バケーション   作:飽きやすい創作隊

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23日

 

珊瑚礁で潜っていると、浜辺にまみさんが現れた。

 

海の中から顔を上げると、こちらに向かって手を振っている。

 

「颯ちゃん、楽しそうー」

 

「まみさん? あれ? 水着は?」

 

「持ってきてないんだあ」

 

「そうなんだ……それは残念だね?」

 

せっかく珊瑚礁まで来たのだから、泳げたほうが楽しいだろう。

 

そんなことを考えていると、ふと、まみさんの後ろにいる人物に気づいた。

 

「って、いずみさん?!」

 

いずみさんは、あからさまに不機嫌そうな顔で僕を覗き込んでいた。

 

いつもの落ち着いた表情とは明らかに違う。

 

「まみが泳ぎたいって、ずっとうるさいの。

しつこい男とうるさい女は嫌い」

 

「うー……」

 

小さく唸りながら、いずみさんはまみさんを見る。

 

どうやら、ここまで来る間にも散々言われていたらしい。

 

僕はなんとなく、いずみさんの機嫌をこれ以上悪くしないほうがいい気がした。

 

「あー、まみさん。あきらめなくてもいいからさ。水着の貸し出しとか、なんなら買っちゃうとか? 足だけ入るのもありだと思うし」

 

「足だけ?」

 

まみさんは海を覗き込む。

 

「うん。泳がなくても、足を入れるだけなら気持ちいいと思うよ」

 

「あ、ほんとだ!」

 

まみさんは嬉しそうに海へ近づいていった。

 

「冷たくて気持ちいい……!!!」

 

どうやら、これで満足してくれたらしい。

 

いずみさんも、ようやく少しだけ表情が和らいだ。

 

「なんとか機嫌治ったみたいで、ありがとう」

 

「いや、なにもできないけど……」

 

「ううん。そんなことない!」

 

いずみさんは、今度は満面の笑みを浮かべた。

 

その笑顔を見て、さっきまでの不機嫌さとの落差に戸惑う。

 

「まみの相手、このまま引き続きよろしくね」

 

「……えっ?」

 

いずみさんは僕の返事を待つことなく、まみさんのところへ歩いていった。

 

……もしかして。

 

これ、僕にまみさんを任せて、自分は離れるつもりなのか?

 

そんなことを考えているうちに、僕はまみさんと二人で海辺に残されていた。

 

⸻

 

そのまま離小島へ向かう。

 

まみさんはすっかり機嫌が直ったらしく、海を眺めながら楽しそうに話していた。

 

僕も適当に相槌を打ちながら、その時間を過ごす。

 

しばらくして、いずみさんとまみさんは宿に水着を取りに戻っていった。

 

僕は一人で離小島に残り、海を眺めていた。

 

少し休もう。

 

そう思って横になると、いつの間にか眠ってしまったらしい。

 

「……zzz」

 

「……起きなよ」

 

肩を軽く叩かれる。

 

「……ん?」

 

まだぼんやりする頭で目を開ける。

 

そこにいたのは――

 

「え?」

 

いずみさんだった。

 

「ほら、もう夕方だよ? そろそろ着替えて戻ろう」

 

「いずみさん……?」

 

まさか、起こしに来てくれたの?

 

そう思った瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。

 

嬉しい。

 

それだけで、なんだか目が覚めてしまった。

 

「起こしてくれて、ありがとう。一緒に戻るから、待って」

 

「うん」

 

いずみさんは小さく頷いて、僕が起き上がるのを待ってくれた。

 

さっきまでまみさんのことであんなに不機嫌だったのに。

 

今は、いつものいずみさんに戻っている。

 

……よかった。

 

⸻

 

夕食。

 

みんなで食卓を囲んでいると、まみさんが楽しそうに話し始めた。

 

「まみちゃん、明日は川に行くんだぁー」

 

「まみと離れて寂しいんじゃねえのか?」

 

聖美さんが笑いながら、いずみさんを見る。

 

「えー? そうなの? ごめんね、いずみちゃん」

 

まみさんも悪気なく謝る。

 

「……あ、あぁ」

 

いずみさんは、気のない返事を返した。

 

やっと自由になれる。

 

肩の荷が下りたような気がした。

 

「明日は静と港に行くよ」

 

まみの面倒をよく見ている静の存在が、今はいずみにとってありがたく感じられた。

 

これなら明日は、まみのことを気にせずに済む。

 

今なら、静とゆっくり話せそうな気がした。

 

そんな僕の隣で、亮子さんがいずみさんにそっと囁いた。

 

「よかったわね、いずみ」

 

「……うん」

 

いずみさんは小さく頷いた。

 

その横顔は、少しだけ嬉しそうだった。

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