卒業バケーション   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?

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花火大会

 

「今日の服、似合ってる」

 

 待ち合わせ場所で会ったいずみさんに、思ったままの言葉を口にした。

 

 今日のために選んでくれたのかな。そんなことを考えると、いつもと少し違って見える彼女に、つい見とれてしまう。

 

「……ありがとう」

 

 いずみさんは、少し照れたようにお礼を言った。

 

 そんな反応が嬉しくて、僕は自然と笑顔になる。

 

「ランチさ、お店調べておいたんだけど、どっちが好み?」

 

 あらかじめ調べておいたお店を、雑誌を見せながら尋ねる。

 

「調べておいてくれたの?」

 

「うん、あまりこっちにはこないでしょ?」

 

「そうだね、横浜が多いかな」

 

 いずみさんと出かけるなら、せっかくだから喜んでもらえるお店を選びたかった。

 

 こうして一緒に過ごす時間を、少しでも楽しいものにしたい。そんな気持ちが、いつの間にか僕の中で大きくなっていた。

 

「帰りは横浜まで送ってくよ」

 

「悪いし、いいよ」

 

 遠慮するいずみさんに、僕は首を横に振った。

 

「そんなことないって、僕が一緒にいたいだけだし」

 

 せっかく二人で出かけているんだ。少しでも長く一緒にいたいと思うのは、僕のわがままなのかもしれない。

 

 でも、今日はそれくらい許してほしかった。

 

「電車賃かかるでしょ!」

 

 いずみさんは、僕のお財布事情まで気にしてくれているらしい。

 

 その言葉を聞いて、ふと思い出したことがあった。

 

「僕、バイト始めるんだよね」

 

「え?」

 

 突然の話に、いずみさんが驚いた顔をする。

 

「飲食店のさ、いずみさんは実家とかで練習できるかもだけど」

 

「別に店に入ったりはまだしてないよ?」

 

「あ、そうなんだ?」

 

 てっきり、実家のお店で働く機会もあるのかと思っていた。

 

 もちろん、僕だってまだ何も決まっているわけじゃない。ただ、これから先のことを考えたとき、実際に働いてみるのもいいんじゃないかと思ったのだ。

 

「でも、経験とかは早いうちの方が良いかなって」

 

「飲食の仕事にでも就くつもり?」

 

 いずみさんの問いかけに、少し考えてから答えた。

 

「まあ、下調べってとこかな。まだ何も決めてないけど本気で考えだしたってやつ」

 

 今すぐ将来を決められるほど、僕の考えがまとまっているわけじゃない。

 

 それでも、以前なら漠然と考えていただけのことを、少しずつ現実のものとして考えるようになっていた。

 

 実際に働けば、憧れているだけでは分からないことも見えてくるはずだ。

 

「そっか。頑張ってるね」

 

 いずみさんは、僕の話を聞いてそう言ってくれた。

 

 何気ない一言だったけれど、認めてもらえたような気がして、少し嬉しくなる。

 

「中途半端な気持ちでやるのは良くないっていずみさんが言ってたじゃない?」

 

 以前、いずみさんが話してくれた言葉を思い出す。

 

 僕は、その言葉をちゃんと覚えていた。

 

「まあ、冗談ならね。本気ならいいんじゃないの?」

 

 いずみさんらしい返事に、思わず笑ってしまった。

 

 簡単に決められることじゃない。それは自分でも分かっている。

 

 だからこそ、焦らずに考えていきたい。

 

 今日のデートも、これからのことも。

 

 いずみさんと一緒に過ごす時間の中で、少しずつ自分の進む道を見つけていけたらいいと思った。

 

 

「花火まで、もう少しだし行こうか」

 

 ウインドウショッピングを楽しみながら、僕らは少しずつ会場へ向かうことにした。

 

 気になるお店を覗いたり、並んで歩きながら他愛もない話をしたり。

 

 特別なことをしているわけじゃない。それなのに、いずみさんと二人で過ごしているだけで、時間があっという間に過ぎていく。

 

「もうそんな時間か……うん。行こう」

 

 いずみさんも名残惜しそうにしながら、僕と一緒に歩き出した。

 

 会場が近づくにつれて、周囲の人がどんどん増えていく。

 

 気を抜けば、はぐれてしまいそうなほどの人混みだった。

 

「いずみさん、手を繋ごう」

 

「うん、助かる」

 

 差し出した手を、いずみさんが自然に握ってくれた。

 

 人混みではぐれないため。

 

 もちろん、それも理由のひとつだ。

 

 でも、こうして手を繋いでいられることが、僕は素直に嬉しかった。

 

 やがて、周囲からざわめきが聞こえ始める。

 

 次の瞬間――。

 

「ドォオオオオオオン!!!」

 

 夜空に、大きな花火が打ち上がった。

 

「え、近い」

 

 思わず声が漏れる。

 

「凄い、心臓に響くね」

 

「うん。凄い迫力」

 

 目の前に広がる光と、身体にまで伝わってくるような大きな音。

 

 想像していた以上の迫力に、僕はしばらく言葉を失った。

 

「この辺りでいい?」

 

 周囲の人の流れに気をつけながら、いずみさんに尋ねる。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 僕らは立ち止まり、夜空を見上げた。

 

 繋いだ手は、そのままだった。

 

 

 

 

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