正直に言うとさ、
僕、こんなに誰かのこと気になるの初めてなんだよね。
何してるのかなとか、
今誰といるのかなとか、
楽しそうにしてるかなとか。
気づいたら毎日のように考えてる。
君からされる挨拶だけで嬉しいし、
名前呼ばれるだけでもちょっとドキッとするし、
会えた日は帰ったあとまでずっと余韻残ってる。
たぶん僕、
思ってる以上に君のこと好きだよ。
可愛いって思う瞬間も、
守ってあげたいって思う瞬間も、
誰にも取られたくないって思う瞬間も、
全部君だから。
でも一番ずるいのは、
君といると「もっと一緒にいたい」って思っちゃうこと。
あと5分だけ、
あと1時間だけ、
もうちょっとだけ一緒にいたいって。
……だからさ、
僕のこと、
少しくらい特別に思ってくれてたら嬉しい。
僕はもう、
君のことかなり特別に思ってるから。
「いずみさん、いる?」
僕は、いずみさんの部屋の前で立ち止まった。
もうすぐ、この島を離れる。
そう考えるだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。
明日を過ぎれば、今までみたいに隣にいることはできない。
そんなことを考えていたら、どうしてもいずみさんの顔が見たくなった。
僕は小さく息を吐いてから、部屋の扉をノックする。
「颯君? どうしたの……?」
扉が開く。
いずみさんの顔が見えた瞬間――
気づけば、僕はその身体を抱きしめていた。
「え、え? 颯君?!」
突然のことに、いずみさんの声が少し上ずる。
けれど、僕はすぐには離れられなかった。
「ごめん……なんか急に寂しくなった」
自分でも、こんなことをするなんて思っていなかった。
でも、今だけは我慢できなかった。
「え? 珍しいね。颯君がそんなこと言うなんて」
いずみさんが困ったように笑う。
「だって、もう本当にお別れじゃないか」
そう口にすると、胸の奥がまた苦しくなった。
楽しかった時間が、終わってしまう。
それが明日だと思うと、急に怖くなった。
「めぐみの実家の五月雨神社から歩いてすぐの喫茶店が実家だって言ったでしょ? いつでも来てくれていいんだし」
「だけど……もう、この距離では会えないしさ」
今までは、少し歩けば会えた。
朝になれば顔を合わせて、くだらない話をして、一緒に笑って。
それが当たり前になっていた。
「学校は都内だよね? すぐだよ、すぐ!」
「嫌だ、離れたくない」
僕は、ぎゅっと腕に力を込める。
「なにそれ」
いずみさんが、ぷっと吹き出した。
「笑わないでよ……」
「だって、さ。あんたがそんなに甘えてくるの、初めて見た」
いずみさんは笑いながらも、僕の背中にそっと腕を回してくれた。
その手の温かさに、少しだけ力が抜ける。
「……私だって、寂しいよ」
「……本当に?」
「本当。だって毎日こうやって会えるの、あと少しなんでしょ?」
「……うん」
その言葉を聞くと、余計に寂しくなった。
いずみさんも同じように感じている。
それが嬉しいような、悲しいような。
「でも、そんな顔しないで」
いずみさんが僕の胸元から顔を上げる。
いつもの柔らかい笑顔。
だけど、その瞳は少しだけ潤んでいた。
「31日になったら、何もかも終わるみたいに言わないでよ」
「……でも」
「終わらないよ」
いずみさんは、僕の服をきゅっと掴む。
「場所が変わるだけ。会いたいって思ったら会いに来ればいい。私も会いに行くから」
「……本当に?」
「うん。本当」
その言葉を聞いて、ほんの少しだけ安心する。
僕はゆっくりと腕の力を緩めた。
「じゃあ……」
「ん?」
「9月になって、帰っても。僕と会ってくれる?」
「もちろん」
いずみさんは笑った。
それから、少しだけ意地悪そうに首を傾げる。
「でも、毎回こうやって扉開けた瞬間に抱きついてくるのは禁止ね?」
「……なんで?」
「心臓がもたないから」
「じゃあ、今は?」
そう聞くと、いずみさんの頬がほんのり赤くなる。
「今は……」
少しだけ視線を逸らしてから、
「……特別」
「……そっか」
なんだか、それだけで嬉しかった。
31日が来るのは、やっぱり怖い。
それでも、今この瞬間だけは、いずみさんがすぐ隣にいる。
それだけでよかった。
「いずみさん」
「ん?」
「……もうちょっと、このままでいていい?」
「うん」
今度はいずみさんのほうから、ぎゅっと抱きしめてくれた。
その腕の中で、僕は目を閉じる。
「今日だけじゃなくて、これからもね」
その言葉が、静かな部屋の中に優しく響いた。
しばらく、何も言わなかった。
やがて、僕はゆっくり顔を上げる。
「この夏休みのさ。宝物は色々あるけど……」
いずみさんを見る。
「僕にとって、いずみさんと会えたことが1番の宝物だよ」
いずみさんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。
それから、優しく笑う。
「うん。私も」
その笑顔を見ていると、また胸の奥が熱くなった。
明日になれば、この時間も終わってしまう。
そう思うと、どうしても今の気持ちを伝えたくなった。
「……大好きだよ」
そう囁く。
いずみさんは一瞬だけ目を丸くして、それから照れたように笑った。
「……私も、好き」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった不安が、ほんの少しだけ溶けていく気がした。
離れたくない。
9月になっても、この場所にいられなくなるのが嫌だ。
毎朝顔を合わせることも。
くだらないことで笑うことも。
こうして、すぐ隣にいずみさんがいることも。
全部、当たり前じゃなくなる。
それでも――。
「颯君」
「ん?」
「ちゃんと会いに来てね」
「……うん」
「約束」
いずみさんが小指を差し出す。
僕はその小指に、自分の小指を絡めた。
「約束する」
「絶対だからね?」
「絶対」
小指を繋いだまま、僕たちは顔を見合わせる。
さっきまで泣きそうだったのに、いつの間にか二人とも笑っていた。
きっと、これから先も寂しくなる。
会えなくて、辛くなる日もあるだろう。
今までみたいに、いつでも会えるわけじゃない。
それでも。
「宝物って、案外こういうものなのかもね」
いずみさんが、ぽつりと言った。
「……どういうこと?」
「なくならないものじゃなくて」
いずみさんは、繋いだ小指を見つめる。
「離れていても、大切にできるもの」
「……そっか」
僕は、その言葉を心の中で何度も繰り返した。
離れていても、大切にできるもの。
だったら、きっと大丈夫だ。
僕はもう一度、いずみさんを抱きしめた。
今度は、寂しさを埋めるためじゃない。
これから先も忘れないように。
この温もりを、心に刻むために。
9月になっても。
この先、どれだけ離れても。
僕にとって、いずみさんと出会えたことは――
ずっと、宝物だ。
ゲームしてみて終わった感想
物足りない、31日じゃ足りないんだよ!!!