「颯君も、ウチのクルーザーで一緒に帰りませんこと?」
31日の朝。
定期便で帰る予定だった僕に、麗子さんはそう言って微笑んだ。
「良いんですか?」
「人が一人増えようが、全然変わりありませんわ」
「わぁ、颯君も一緒に帰れるの?」
美夏さんが、麗子さんと僕を交互に見る。
「友人として、お代ももちろん入りませんわ。颯君がよろしければ……の話ですけど」
「是非、よろしくお願いします!」
僕は即答し、迷わず頭を下げた。
「良かったね、颯君」
美夏さんはそう言うと、みんなに伝えに行くため駆け出していった。
「うん!」
僕もその後を追う。
これでもう少し、いずみさんとも一緒にいられる。
そう思うと、自然と頬が緩んだ。
帰ることが寂しいのは変わらない。
それでも――あと少しだけ、この島でみんなと過ごせる。
それだけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
そして何より、いずみさんと一緒にいられる時間が増えたことが、素直に嬉しかった。
――もう少しだけ。
この島を離れる前に。
「へえ。流石、麗子……太っ腹ね」
いずみさんは、麗子さんから話を聞くと、そう返した。
「彼は一ヶ月を共にした友人なのですから、当然ですわ」
「そうだね」
麗子さんは微笑んで、いずみさんを見る。
「これであなたたち、もう少しゆっくり話ができるでしょう?」
「お気遣いなく」
いずみさんは素っ気なく答えた。
「……そう?」
麗子さんは小さく笑う。
いずみさんはそれ以上何も言わず、視線を逸らした。
「颯君、ちょっといいかな?」
不意に声をかけられて振り返ると、由利佳さんが立っていた。
「どうしたの? 由利佳さん」
「……あのさ」
由利佳さんは、少しだけ言いにくそうに口を開く。
「戸塚先輩と付き合うの?」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
「……どうして?」
「だって、仲良いじゃないですか」
「ま……まあね」
そう答えると、由利佳さんは僕の顔をじっと見る。
「わたし、戸塚先輩のこと大好きなんですよ」
「うん?」
あまりにも真っ直ぐ言われて、どう返せばいいのか分からなくなる。
「憧れだから、とられちゃうの嫌なんです」
「……あはは」
僕は思わず苦笑した。
「別に、とったりしないよ」
「本当かなあ……」
由利佳さんは疑うように目を細める。
「本当だって」
そう答えながら、僕は少しだけ困った。
――いずみさんを「とる」なんて。
そんなことを考えたことはない。
ただ、もう少しだけ一緒にいたい。
それだけだった。
クルーザーに荷物を積み込むのを手伝い、最後に僕も乗り込んだ。
「颯君も本当に一緒なんだね! 東京まで一緒なんだね。嬉しいよ」
前の席に座っていた由紀恵さんが振り返る。
「うん。仲間入りさせてもらっちゃった」
「全然違和感ないのが不思議だよね。たったの一ヶ月なのに」
通路を挟んで隣に座った聖美さんが、そう言って笑った。
「本当にね! 馴染んでるよね、颯君も」
その隣で、美夏さんも嬉しそうに頷く。
「いずみも嬉しいんじゃないかしら?」
静さんが、聖美さんの前の席からこちらを覗き込んできた。
僕の隣には、いずみさんが座っている。
「そうね」
いずみさんはそれだけ答えると、何事もなかったように窓の外へ視線を向けた。
僕は思わず、隣の横顔を見る。
――嬉しいんだ。
そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「ほら、そろそろ出発みたいよ。この島ともお別れね」
由紀恵さんの隣に座っていた亮子さんが、前方を見ながら声を上げる。
「全員揃ったわね。それでは、出発します」
麗子さんの一言とともに、クルーザーがゆっくりと動き始めた。
窓の向こうで、僕たちが一ヶ月を過ごした島が少しずつ遠ざかっていく。
「……本当に帰るんだね」
誰かがそう呟いた。
僕も黙って、島を見つめる。
寂しい。
でも――
隣には、いずみさんがいる。
それだけで、少しだけ寂しさが和らいだ。
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