「精華祭、来るんだよな? 颯」
聖美さんに聞かれて、僕はすぐに答えた。
「うん、そのつもりだよ」
みんなからも、少しずつ文化祭の話を聞いていた。
「おいでよ」と声をかけてもらっている。
だから、精華祭に行くことは、もう決めていた。
「じゃあ、そこが本当の俺たちとの最後かも知れねえな」
「縁起でもないこと言わないでよ……って思ったけど、そうなるかもね」
そう言って、僕たちは顔を見合わせた。
島を離れれば、それぞれの日常に戻っていく。
今みたいに、みんなで集まることもなくなるんだろう。
「でも、いずみに会いに高校まで来れば会えるんじゃない?」
亮子さんが振り返って、とんでもないことを言い出した。
「別に私じゃなくてもいいけど」
いずみさんは、何でもないことのようにそう答えた。
「ははは、そうだね」
僕も笑って返す。
……でも。
日常に戻っても、僕はいずみさんに会うことが許されているんだろうか?
高校まで行けば、また会える。
そう思ったら、少しだけ嬉しくなった。
――ただ。
その場にいる由利佳さんが、僕を睨んでいるような気がする。
……うん。
やっぱり、簡単にはいかなそうだ。
「あのさ、いずみさん」
「何?」
少し迷ってから、僕は声をかけた。
「精華祭の時、僕一人だと迷いそうだから……一緒に回ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
口にしてから、自分でも少し恥ずかしくなった。
僕はいずみさんと一緒にいたかった。
ただ、それだけだった。
「……いいよ」
いずみさんが、ふっと笑った。
その笑顔を見て、僕も自然と笑っていた。
「ほんならウチらは邪魔しないようにせんとかなあ?」
「いいこと言うね、さおり。その通りですネ」
後ろの席のさおりさんとシンディは僕らの会話を聞いていたらしい
「お気遣いなく...ねえ、これ何回目?」
いずみさんがぷっと笑う
「ははは、本当だ」
ふと由利佳さんと目があってしまった
若干の気まずさを残して僕はいずみさんを見た
「どうしたの?」
「いや、由利佳さんにさ...」
なんて言おう?
いずみさんのことが好きみたいと伝えてしまっていいものか
「由利佳さんといずみさんって仲いいの?」
「え...なんで?」
「えっと。いずみさんを泣かせたら怒られそうだなって思って」
「なにそれ。仲悪いってわけでもなくてただの先輩後輩とも違うって感じかな」
「なんかそれ距離遠くないですか?戸塚先輩、ウチらのことそう思ってはったんですか?」
「ミーたちのことそんなふうに思ってたの?戸塚センパイ」
「そんなに仲良しって程でもないでしょ」
「えー?!一ヶ月も一緒におって?そんな馬鹿な」
「まあ、仲良くはなったかな」
「もう、こうなったら。帰ったら一緒に遊びません?」
美佐子がぐいっと話に入ってきた
「いいよ」
「谷さんも行きましょうね」
「え?何ですか?」
「戸塚先輩と遊びに行くの。ここにいる後輩みんなと一緒に」
「行きます!」
はいっ、と手を挙げる由利佳さんは僕を睨んだ
怖い...
「私たちはこのままバスに乗って、横浜まで一直線ですわ」
東京の港が近づくと、麗子さんがそう言って笑った。
船を降りる準備をしながら窓の外を見る。
もうすぐ、この島で過ごした一ヶ月が終わる。
そんなことを考えていると、港に着いた先には一台のバスが待っていた。
「みんな、ここからバスで帰るんだ」
僕がバスを見上げていると、麗子さんがこちらを振り返った。
「颯君の家まで送りましょうか?」
「えっ?」
思わず聞き返す。
「せっかくですもの。横浜へ向かう途中ですし、颯君のお家までお送りしても構いませんわよ」
「ありがとう。でも、遅くなっちゃうからいいよ」
僕が遠慮すると、麗子さんは少し残念そうに微笑んだ。
「そう? 残念……」
「大丈夫だよ。ここからなら一人で帰れるから」
そう答えながら、みんなのほうを見る。
さっきまで一緒に船に乗っていたのに、ここからはそれぞれの帰る場所へ向かっていく。
ほんの少し前まで、毎日のように顔を合わせていたのに。
今日からは、そうじゃなくなる。
そう思うと、やっぱり少し寂しかった。
でも。
「連絡するね」
いずみさんが、僕に向かって手を振った。
その一言で、胸の奥にあった寂しさが少しだけ軽くなる。
「僕からも、していい?」
自分でも、そんなことを確認する必要なんてないと思った。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「もちろん」
いずみさんが、いつものように笑う。
その笑顔を見て、僕も笑った。
「じゃーね」
「バイバイ、颯君!」
「精華祭でな!」
「待ってるよぉー!!!」
みんなの声が重なる。
僕も手を振り返した。
バスが動き出す。
窓越しに見えるみんなの姿が、少しずつ遠ざかっていく。
僕は最後まで手を振った。
……さよなら、じゃない。
また会える。
精華祭にも行く。
それに、いずみさんとはまた連絡を取る。
そう思いながら、僕はみんなの乗ったバスを見送った。
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