2日
遺跡の入口に差しかかったところで、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「悠だっけ」
振り返ると、そこには聖美さんが立っていた。
「あ、聖美さん。こんにちは」
「遺跡にくるってことは……お前もレキオの財宝、探してるのか?」
聖美さんは、遺跡の奥へと続く道に目を向けながら尋ねた。
この島に伝わるレキオの財宝。
本当にそんなものがあるのかはわからないけれど、せっかく島に来たのだから、自分の目で確かめてみたいと思っていた。
「まあね。聖美さんもそう?」
「ああ、そうだよ。こういうの、案外嫌いじゃないからさ」
そう言って、聖美さんは少し楽しそうに笑った。
意外、というほどでもないけれど、聖美さんが遺跡や財宝探しに興味を持っているのは、なんだかしっくりくる気がした。
ただ観光するだけじゃなくて、自分の足でいろいろな場所を巡ってみる。
そういうことが好きなのかもしれない。
「うん、俺もそうだよ」
「まあ、転ばねえように気をつけろよ。足元、岩だらけだからな」
聖美さんはそう言って、足元に視線を落とした。
遺跡へ続く道には大小さまざまな岩が転がっている。確かに、夢中になって歩いていたら足を取られてしまいそうだ。
「心配してくれるの? ありがとう」
少しからかうように言ってみる。
すると、聖美さんは一瞬だけこちらを見て、すぐに視線をそらした。
「別にそんなんじゃねえけど……」
思ったとおりの反応に、つい笑いそうになってしまう。
聖美さんは、こういうとき素直に認めるタイプではないらしい。
「俺は他のところも行ってみようと思ってるんだ。じゃあ、またな」
「あ、うん。またね」
聖美さんは軽く手を上げると、遺跡の入口から離れていった。
僕も手を振って、その背中を見送る。
せっかく会えたのだから、もう少し話していたかったような気もするけれど、島にはまだ見ていない場所がたくさんある。
僕も気を取り直して、遺跡へと足を向けた。
……そのはずだった。
*
遺跡をあとにして、島を歩き回っているうちに、いつの間にか港までやってきていた。
潮の香りが風に乗って流れてくる。
海面は陽の光を受けてきらきらと輝き、停泊している船がゆっくりと揺れていた。
しばらくその景色を眺めていると、不意に声が聞こえた。
「おっ、また会ったな」
振り返ると、そこには聖美さんがいた。
さっき別れたばかりなのに、また会うなんて。
思いがけない再会に、自然と顔がほころんだ。
「ここにいたんだ。気が合うね」
「そうだな」
聖美さんも、どこかおかしそうに笑った。
偶然とはいえ、こうして何度も顔を合わせると、なんだか不思議な縁を感じてしまう。
「ここって俺さ、一番好きなんだ」
聖美さんは海のほうを眺めながら言った。
「港?」
思わず聞き返す。
聖美さんが好きだと言う場所が、少し意外だったからだ。
「そう、なんか落ち着くんだよ」
聖美さんは海から視線を外し、肩をすくめた。
「俺は港も好きだけど。どこが一番か、まだわからないな。鈴鳴島はいいところだよね」
島に来てから、まだそれほど時間は経っていない。
訪れた場所も、出会った人も、これからもっと増えていくはずだ。
今の段階で一番を決めるのは、少し早いのかもしれない。
「うん。まあ、他のところももちろん好きだけどさ」
聖美さんは、港の向こうに広がる海を見つめたまま答えた。
「まだ見てないところってあるしね」
「そうだな」
心地よい風が、僕たちの間を吹き抜けていく。
特別なことを話しているわけではない。
ただ、島の景色について話しているだけ。
それなのに、こうして聖美さんと並んでいる時間は、不思議と居心地がよかった。
この島には、まだ知らない場所がたくさんある。
これからどんな景色に出会えるのか。
どんな発見が待っているのか。
そう考えると、自然と胸が弾んだ。
そんな僕の気持ちが伝わったのか、聖美さんがこちらを向いた。
「これから一緒にいろんなところ見て回ろうぜ」
突然の誘いに、少しだけ驚いた。
けれど、断る理由なんてなかった。
「うん」
俺が頷くと、聖美さんは満足そうに笑った。
まだ始まったばかりの、鈴鳴島での日々。
これから聖美さんと一緒に、どんな場所を巡ることになるのだろう。
そんなことを考えながら、僕はもう一度、目の前に広がる海を眺めた。
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