「なあ、ちょっといいか?」
部屋で過ごしていると、聖美さんが慌てた様子でやってきた。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
「今、部屋から出られるか?」
「うん、いいよ」
何かあったのだろうか。いつもと違う聖美さんの様子に、僕は少し不思議に思いながら頷いた。
「なんか食堂の方から音がするんだよ。気味悪くてさ」
「そうなの?」
「ああ。さっきから気になってんだけど、一人で見に行くのもなんか嫌でさ」
そう言って、聖美さんはちらりと廊下の方に目を向けた。
食堂から音がするなんて、確かに気になる。誰かがいるのだろうか。それとも、何かが落ちた音だったのか。
「じゃあ、一緒に見に行こうか」
「悪いな」
「ううん、僕も気になるし」
僕は立ち上がると、聖美さんと一緒に食堂へ向かった。
夜の廊下は静まり返っていた。
昼間なら皆の声で賑やかな場所も、今は物音ひとつしない。普段なら何とも思わない廊下なのに、こうして音の正体を探しに来ると、妙に落ち着かない。
聖美さんも、さっきより口数が少なくなっている気がした。
食堂に着くと、僕たちはそっと中を覗き込んだ。
「なんか見つかったか?」
「いや、何も?」
中を見回してみたけれど、特に変わった様子はない。椅子もテーブルもいつも通りで、誰かが隠れているようにも見えなかった。
「そっか」
聖美さんも不思議そうに辺りを見回している。
気のせいだったのかな。
そう思った、そのときだった。
「痛っ?!」
「どっ、どうしたんだ?!」
突然声を上げた僕に、聖美さんが驚いて振り返った。
「ごめん、足をぶつけただけだから大丈夫だよ」
「な、なんだ。脅かすなよな……」
聖美さんは胸をなで下ろした。
「ごめんね。暗くて、よく見えなかったんだ」
「ったく、びっくりしたじゃねえか」
そう言いながらも、聖美さんの表情には安堵が浮かんでいた。
僕はぶつけた足をさすりながら、ふと目の前にあるものに気づいた。
「あれ?」
「今度はなんだよ」
「冷蔵庫が開いてる」
「え?」
聖美さんが冷蔵庫に目を向けた。
確かに、扉が少し開いたままになっている。隙間から冷たい空気が流れてきていた。
誰かが閉め忘れたんだろうか。それとも、さっきの音は冷蔵庫から聞こえてきたものだったのだろうか。
「誰かが、漁りに来たのかな?」
僕がそう言うと、聖美さんは何か思い当たったように顔を上げた。
「ははは、幽霊なんているわけないもんな」
「そうだよ。それより、人間がやったというほうが疑わしいよ」
「ということは……まみが一番怪しいな」
「あはは、そうかもしれないね」
確かに、まみさんならありそうな気もする。お腹が空いて、こっそり何かを取りに来たのかもしれない。
もちろん、本当にまみさんが来たのかどうかは分からないけれど。
「あいつ……問い詰めてやる! ありがとうな、悠!」
「うん。明日でいいから、あとで教えてね」
「分かった。おやすみ」
聖美さんはすっかり納得した様子で頷くと、満足そうに食堂を後にした。
僕もその背中を見送り、冷蔵庫の扉をきちんと閉める。
結局、音の正体は分からないままだった。
……まみさんは何て答えるんだろう。
明日、聖美さんから話を聞くのが、少し楽しみになった。
好きな娘は誰ですか?
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