卒業バケーション   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?

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8日 夜イベント

 河口に着くなり、聞き覚えのある声が僕を呼び止めた。

 

「あっ、悠ちゃんだあ〜」

 

 振り返ると、まみさんがこちらに向かって手を振っている。そのそばには聖美さんと由紀恵さんの姿もあった。

 

「まみさん、どうしたの?」

 

「実はねえ、お魚を釣りたいんだあ」

 

「そうなの? 釣竿はどこ?」

 

「ほらよ」

 

 聖美さんが差し出した釣竿を受け取ろうとして、僕はようやく彼女の存在に気づいた。

 

「あっ、聖美さんもいたんだ」

 

「由紀恵もいるよー!」

 

「由紀恵さんもいたんだね。じゃあ、釣りは二人に任せようかな……」

 

 僕がそう言うと、聖美さんは呆れたように肩をすくめた。

 

「それが、エサをつけるの、みんなダメでさ……」

 

 ちらりと横目で二人を見ながら、聖美さんがぼやく。

 

「あぁ、ミミズ?」

 

「そう、それ……。みんな苦手だから、よろしくお願いします」

 

 由紀恵さんが申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「オッケー」

 

 僕は笑ってうなずいた。

 

 なるほど。魚を釣るところまではいいけれど、そこにたどり着くまでに問題があったらしい。

 

 僕は釣竿を持ち直すと、さっそくエサの準備に取りかかった。

 

 ----------

 

 釣りを終えたあと、僕たちは海岸の方へ移動した。

 

 どうやら今度は、まみさんが泳ぎたいと言い出したらしい。

 

「まみちゃんはあそこまで泳ぎたいの」

 

 まみさんが指さした先には、少し離れたところに小さな島が見えていた。

 

「いや、でもお前ら二人を連れて泳ぐのはできそうにないな」

 

 聖美さんは腕を組み、困ったように島を眺めている。

 

「何揉めてるの?」

 

「あぁ、まみのやつが離れ小島まで泳ぎたいって聞かねえんだよ」

 

「結構距離あるもんね」

 

 陸から眺めるだけでも、気軽に泳いで行けるような距離には思えなかった。

 

「行けるよねえ、由紀恵ちゃん!」

 

「うーん、私は自信ないかも……」

 

 由紀恵さんも苦笑いを浮かべている。

 

「ほら、聖美さんの言うとおり諦めよう? そろそろ夕食の時間になっちゃうよ?」

 

「そうだね! 分かった」

 

 あっさり納得したまみさんは、くるりと向きを変えると、宿の方へ向かって走り出した。

 

 僕も慌ててその後を追いかける。

 

「相変わらず、食い物になると早いな」

 

 背後から聖美さんの呆れた声が聞こえた。

 

「悠、サンキュ。まみの扱い、上手くなったじゃねえか」

 

 追いついてきた聖美さんが、感心したように笑う。

 

「ふふふ、いつもみんなの様子を見てるからね」

 

 そう答えると、聖美さんは「へえ」と短く返した。

 

 みんなと一緒に過ごしていると、それぞれの性格も少しずつ分かってくる。

 

 まみさんは食べ物に目がないし、聖美さんは面倒見がいい。由紀恵さんは、そんな二人に振り回されながらも、結局付き合ってくれる。

 

 そんなことを考えながら、僕はみんなと一緒に宿へ戻った。

 

 ----------

 

 夕食を終え、部屋でのんびりしていたときだった。

 

「なぁ、これからちょっと泳がねえか?」

 

 突然、聖美さんが声をかけてきた。

 

「え? これから?」

 

 もうすっかり日も暮れている。昼間ならともかく、今から海に入るとは思っていなかった。

 

「嫌か?」

 

「もちろん、行くよ」

 

 せっかく聖美さんが誘ってくれたのだ。断る理由なんてない。

 

 僕たちは連れ立って海岸へ向かった。

 

 昼間はあんなに賑やかだった海も、夜になるとずいぶん違って見える。

 

 月明かりを受けた水面が静かに揺れ、波の音だけが耳に届いていた。

 

「夜の海って神秘的だね」

 

「そうだな」

 

 聖美さんは短く答えた。

 

 いつもなら、もう少し何か言いそうなものなのに。

 

 僕は隣にいる彼女の横顔をちらりと見た。

 

「なんか元気ない?」

 

「そんなことねえよ」

 

 すぐに返事が返ってきた。

 

 けれど、どことなくいつもと違う気がする。

 

 気のせいかな?

 

「じゃ、泳ごっか」

 

「うん」

 

 僕たちは波打ち際から海へと入っていった。

 

 ----------

 

「夜の海って、思ったよりあったかいんだね」

 

 肩まで海につかりながら、僕は思わず声を上げた。

 

「本当、思ったより全然冷たくないね」

 

 聖美さんも同じように感じたらしく、少し意外そうな顔をしている。

 

 しばらく二人で泳いだり、波に揺られたりして過ごした。

 

 昼間とは違って周りに人の声もなく、なんだか不思議な気分だった。

 

 ふと聖美さんを見ると、さっきより表情が和らいでいるように見えた。

 

「良かった、元気出たみたいだね」

 

「え?」

 

 聖美さんがきょとんとした顔で僕を見る。

 

「ほら、元気なかったじゃん?」

 

「そんなことねえよ、ただ……」

 

 そこで聖美さんは言葉を切った。

 

「ただ?」

 

 続きを待っていると、聖美さんは何か言いたげに僕を見つめた。

 

 けれど、すぐに視線をそらしてしまう。

 

「あー……この鈍感! もういいよ、帰ろ」

 

「え? あ、ちょっと?!」

 

 急にそんなことを言い出すと、聖美さんは僕を置いて岸の方へ泳いでいってしまった。

 

 僕は慌ててその後を追いかけた。

 

 ----------

 

 部屋に戻る道すがら、僕はさっきのやり取りを思い返していた。

 

 急に機嫌が悪くなったかと思えば、帰ろうと言い出すし。

 

 何か気に障ることでも言っただろうか。

 

 昼間はいつもどおりだったと思うんだけど……。

 

「なんか、今夜の聖美さん……様子がおかしかったな?」

 

 結局、理由は分からないままだった。

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