卒業バケーション   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうか?

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10日

翌日、川に行くと、聖美さんがニヤリと僕を見た。

 

「昨日さ、さおりに押されて悠のやつ川に落ちたんだぜ」

 

 思い出しただけでもおかしいのか、聖美さんはぷっと吹き出した。

 

「今、それ言う?!」

 

 まさか会って早々、昨日の出来事を蒸し返されるとは思わなかった。僕が抗議しても、聖美さんはまったく気にする様子がない。

 

「事実だろ?! さおりも一緒に落ちてさ、すげー面白かった」

 

「僕は全然、面白くないよ?」

 

 楽しそうな聖美さんとは対照的に、僕は思わず顔をしかめた。

 あの時は、まさか自分が川に落ちるなんて思ってもいなかったのに。

 

「さおりにやられたのね」

 

 亮子さんは、あー、と納得したように腕を組んだ。どうやら、さおりさんならやりかねないと思っているらしい。

 

「ご愁傷様」

 

 いずみさんは笑いながら、僕に同情の言葉をかけてくれた。

 いや、笑っている時点で、本当に同情してくれているのかは怪しい。

 

「悠君、大丈夫だったの? 怪我はない?」

 

 そんな中、由紀恵さんだけは心配そうに僕の顔を覗き込んできた。

 

「うん、平気だったよ」

 

「宿にすぐ戻ってさ、二人ともすぐ着替えちまったから分かんなかっただろ?」

 

 聖美さんは、みんなに説明するように得意げに話す。

 どうやら、昨日の出来事をここにいる全員に知らせるつもりらしい。

 

「黙っておけばみんなに知られずに済んだのに……」

 

 僕は口を尖らせた。

 昨日のことは、できれば二人だけの秘密にしておきたかったのに。

 

「あはは、いいじゃん。面白いことは共有しないとな」

 

 聖美さんは悪びれるどころか、ますます楽しそうに笑っている。

 

「それに、さおりには気をつけた方がいいぜ」

 

「そうね」

 

 亮子さんも同意するように頷いた。

 さおりさんの悪戯は、どうやら僕だけの被害では済まないらしい。

 

「まみも気をつけろよ?」

 

「ふが、何?」

 

 突然話を振られたまみちゃんは、どこか気の抜けた声を返した。

 

「お前……食いもんのこと考えてたな?」

 

「流石、聖美ちゃん。あったりぃ〜! お昼ごはん何食べようか考えてたんだぁ!」

 

 まみちゃんは、まるで当たり前のことを言うように胸を張った。

 さっきまで話題になっていたさおりさんのことは、もう頭の中から消えてしまったらしい。

 

「分かりやすすぎるんだよ」

 

 聖美さんは呆れたように言いながらも、どこか楽しそうだった。

 

「ほら、次行くぞ!」

 

 パン、と手を叩くと、聖美さんはみんなを促した。

 さっきまで僕をからかっていたかと思えば、今度はさっさと次へ進もうとしている。

 

「その話をするためにここへ来たの?」

 

 僕がそう尋ねると、聖美さんは一瞬こちらを見てから、にやりと笑った。

 

「あ、バレた?」

 

 まったく、聖美さんは人の失敗を見つけると本当に楽しそうだ。

 けれど、こうしてみんなを笑わせながら、自然と先頭に立ってくれるのも聖美さんらしいところなのかもしれない。

 

 からかわれる方としては、たまったものじゃないけれど。

 

     *

 

「さて、洞窟を探検するぞ!」

 

 洞窟の前に着くなり、聖美さんはそう宣言した。

 昨日は石板探しのためにあちこちを回ったけれど、まだ何か見落としているものがあるかもしれない。

 

 聖美さんはそんな期待を膨らませているのか、迷うことなく先頭を歩いていく。

 

「聖美、やる気満々ね」

 

 その背中を見ながら、亮子さんも楽しそうに笑っていた。

 

「何か見つかるといいね!」

 

 由紀恵さんも洞窟の奥に目を向ける。

 昨日のことを引きずっている様子もなく、いつもどおりの明るい顔をしていた。それを見て、僕も少しほっとする。

 

 さて、今日は何が見つかるだろう。

 そんなことを考えながら、僕もみんなの後について洞窟へと足を踏み入れた。

 

「まみちゃん、お腹すいちゃったの……」

 

 ところが、探検が始まろうとした矢先、まみちゃんがぽつりと呟いた。

 

「はぁ?」

 

 先頭を歩いていた聖美さんが、思わず気の抜けた声を出す。

 

「だ〜か〜らぁ〜、お腹すいちゃったのぉお!」

 

 まみちゃんは両手を広げ、これでもかというほど空腹を訴えた。

 

「一回聞けば分かるよ」

 

 いずみさんが呆れたように呟く。

 僕もまったく同感だった。まみちゃんの声は、洞窟の中によく響いている。

 

「だからカレーが食べたいっ」

 

「ここで?!」

 

 思わず声が出た。

 いくらお腹がすいているからって、洞窟の中でカレーを食べるつもりなのだろうか。

 

「カレーはまたの機会にしましょう?」

 

 亮子さんは困ったように微笑みながら、まみちゃんの背中をそっと押した。

 どうやら、まずは探検に集中してもらうつもりらしい。

 

「そうだよ、今は祭壇の周りをよく見ようよ」

 

 由紀恵さんも祭壇を指さして、まみちゃんをフォローする。

 

 そういえば、ここには以前、祭壇があった。

 その周囲をよく調べれば、石板につながる手がかりが見つかるかもしれない。

 

「ふがー」

 

 しかし、まみちゃんは頬を膨らませ、不満そうに唸った。

 どうやら、祭壇よりもカレーの方が気になって仕方がないらしい。

 

「あはは、まみ! お昼いっぱい食べていいから我慢しろ」

 

 聖美さんは笑いながら、まみちゃんを小突いた。

 

 その言葉に、まみちゃんの表情がほんの少し明るくなった気がした。

 さすが聖美さんだ。無理に黙らせるのではなく、まみちゃんが納得できる言葉をかけている。

 

 賑やかなやり取りをしながらも、聖美さんはみんなの様子をよく見ている。

 こういうところが、みんなに慕われる理由なのかもしれない。

 

 ……まあ、僕の失敗を面白おかしく言いふらすところは、少し控えてほしいけれど。

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