残酷な世界に生まれたけれど、幸せです 作:虫ケラ盆暗ノロマの腑抜け……役立たず!!
この小説はマネー様の『俺はスタイリッシュなヴォルフシュテイン』に影響を受けています。
書けば続きが投稿されるんじゃないか的な、願掛けが無いと言えば嘘に(以下略)
僕はこの世界に生まれてくる時、多くのものに恵まれて生まれてきたと思う。
仲睦まじく、極めて善良な両親。いずれ尊敬すべき努力家で、頼りになる兄たち。
僕の家はこの都市が誕生して以来ずっと、代々に渡って都市を守護してきた武芸者の家系らしい。
武芸者というのはこの世界の人類にとって脅威となる汚染獣と戦う……いや、この話はここではいいだろう。
とにかく僕の家は栄誉ある使命を拝受してきた名門で、その家柄に見劣りしない程度には、経済的なゆとりもあった。*1
僕はそのような、きっと多くの人から羨まれるような
僕はその時になってようやく、この世界の支配種族が人類
それはあまりにも遅い
それでも僕が生まれた都市、聖緑都市エスペリアの武芸者たちは誇り高き存在だった。
彼らは誰一人として自らの使命を見失うことなく、滅びに抗うため彼ら自身の全てを擲った。
一台でも多くの放浪バスを出立させるために。一人でも多くの市民を救うために。
僕の父も。僕の兄たちも。
どうしようもなく愚鈍ではあったけれど、僕もまた。光輝ある勇者たちの末席に身を置いた。
当時の僕の無謀で愚かしい決断が、単なる『クソガキのワガママ』と切り捨てられなかったのには、いくつかの理由があると思う。
一つには僕に道理を言い聞かせたり、
それから、母のお腹に新しい命が宿っていたこと。
僕は
少なくともその時には、僕は僕がそうであると決めて、そして兄たちは笑って。僕の肩をバシバシ叩きながらそれを受け入れたのだ。
母は泣き、父も決して首を縦に振ることはなかったが。
「私の指示には必ず従いなさい」とささやくように、それでいて妙にはっきりと聞こえる声で呟いた父の姿は、今でも色褪せない記憶として僕の中に遺っている。
────そして。
そして……全ては終わった。
生存者は──こうして僕が話をしている以上、今更言明するまでもないだろう。
結論はこうだ。
確かに僕は、多くのものに恵まれて生まれてきたのだ。
仲睦まじく、極めて善良な両親。いずれ尊敬すべき努力家で、頼りになる兄たち。
母は幼く愚かな僕を、それでも縛りつけようとしなかった。僕を一人の人間として尊重してくれたのだ。
兄たちは天から与えられた才能に驕ることなく、自らの全身を極限まで鍛え上げた、眩い人たちだった。
小狡い僕はきっと、兄たちのような立派な人格は、死ぬまで有することができないだろう。
父は一人の武芸者としてだけではなく、指揮官としても、指導者としても非凡な人だった。
齢5つと半ばのクソガキに過ぎなかった僕が生き残れてしまったのは、九割がた父の功績と言える。残りの一割は兄たちの挺身だ。
そんな父の生涯唯一の汚点は、僕のようなグズをこの世に送り出したことに違いない。
それから……そうだ。
まず僕は仲良しになってすぐ、
先述した通り僕の家はなかなかの名門で、
そこで僕は
希望を運ぶ船の名前だ。名前の意味を話すと
その様子を見ていると僕は
それから僕と
僕は
僕が働くペースは月に数回程度といったところだろうか。
多い月は週に一度以上のペースを記録することもあったけれど、かれこれ10年ほどになる活動を振り返ってみると、それは指差し数えるほどしかない稀な事例だった。
そこだけ見れば、の話なのだけれど。
何せこの仕事は完全に無給だ。
そしてこの仕事に終わりはない。いや、あるにはあるのだが*2、それがいつになるのか全くわからない。
終わるのは1年後かもしれないし、あるいは100年後かもしれない。
その上
備蓄していたセルニウムをわずかずつ消費することでかろうじてエアフィルターだけは機能させているが、それはそうしなければ僕が死んでしまうから仕方なくらしい。
その代わりに、
なんて素晴らしい知識だろう。
僕は深くノアに感謝して、1勤9休のうちの9休を全て武芸者としての鍛錬に当てることにした。
昔の人は『100年兵を養うは、これを1日用いんがため』と言ったらしいけど、まったくその通りだと思う。
僕の職業は10日に1度、
何しろ
相手が幼生体みたいな、汚染獣の中でも格別に弱く力を持たない存在であってもだ。
しかも僕が呼ばれる都市は大抵、一匹以上の老生体を含む汚染獣の群れに襲われている。
相手が老生体ともなれば、都市の外縁部で
要するに1勤9休のシフトならば、鍛錬の時間というものは一見して十分に確保できそうだけれども、意外にも事実はそうではないということだ。
それでもとにかく、僕は真面目に、プロ意識を持って働いていた。
「このまま『約束の日』が来るのを待ち続けるのかな……」
そんな風に考えながらノアと共に活動を続けて、たぶん10年よりは長い月日が流れたある日のこと。
その日は何ごともない日だった。
ノアは静かに僕の肩で羽を休めて*4、僕も剄息と剄脈を通じて剄と対話しながら、老生体との戦闘をイメージトレーニングしていた。
何ごともないはずだったその日、
「どうしようもない物好きが、ランドローラーで乗り込んできたらしいぞ」と、僕は心中で呟いて、耳を澄ませてみた。
動くはずのない昇降機を何とか動かそうと無駄な努力をしていた(バカな)連中は、そのままシャフトを伝い、都市外戦装備のままどやどやと乗り込んできたようだ。
僕は思わず眉を顰めてしまう。
それでも僕は寛大に、連中の無礼を許してあげた。
これはもしかしたら長年にわたって
とにかくこの時の僕は『盗人にも三分の理』という古い言葉を思い浮かべて、連中に対して努めて寛容でありたいと考えていたのだ。
「都市の機能はほぼ停止しているぞ」
「しかしエアフィルターだけはあるらしい」
「破壊が中心部まで及んでいるのに、シェルターには犠牲者の痕跡がない……どういうことだ?」
「──念威でも今のところ何の発見もないと」
彼らの困惑したような会話を聞いているうちに、僕の穏やかならざる気持ちは少しずつ平衡を取り戻してきた。
どうも彼らにはこの聖緑都市エスペリアに起こったことが類推できないらしい。
僕は彼らに、このエスペリアが誇るべき勇者たちの
そしてそれと同じくらい、生き恥を晒し続けているこの僕の姿を見せたくないとも思った。
結局僕は自ら彼らに話しかける気分にはなれず、静かに座って彼らの好きなようにさせたのだ。
「
しかし、彼ら彼女らは意外にも執念深かった。
とにかく彼ら彼女らの粘り強さによって、僕は彼ら彼女らと対面することになったのだ。
僕が彼ら彼女らの姿を肉眼で捉えた時、最初に思ったことは「子どもじゃないか」ということだった。
実際のところ、当時の僕は知る由はなかったのだが、彼ら彼女らは学園都市ツェルニの
それで僕は「この都市に乗り込んできた無礼な連中は、野卑な盗賊くずれに違いない」と一方的な偏見を抱いていたから、その反動で彼ら彼女らに対する悪感情は一気に氷解していったのだ。
とは言え、相手が子どもだからといって、無限に礼を失した振る舞いを許すつもりもない。
子どもたちが僕の座る広場に乗り込んできて、そして地面に突き立てられた数十本の錬金鋼を前に足を止め、それから小声で相談し合った後に恐る恐る錬金鋼へと近づき始めた時。
僕は子どもたちに声をかけることにした。
何故ならその無数の錬金鋼は、僕が手ずから作った勇者たちの慰霊碑だったからだ。
相手が子どもだからと言って、いや寧ろ、相手が子どもだからこそ……。特に父と兄たちが遺した錬金鋼には、指先一つでも触れてほしくなかった。
控えめに表現しても、どんな扱いをするか知れたものではない。
「こんにちは」
僕は努めて穏やかな声色で、ごく平凡な挨拶をした。
そんな僕の努力とは裏腹に、子どもたちはまるで墓荒らしを咎められた盗掘者のように、その場で飛び上がらんばかりに驚いて。
数拍ほど全身の動きを止めた後、のろのろとこちらへ振り向いた。
「こんにちは」
僕は子どもたちの緊張をほぐしてあげたくて、もう一度同じ挨拶を口にした。
だけど哀れな子どもたちは「こんにちは」とオウム返しにすることすら困難な状態らしかった。
それで僕は仕方なく、「あなた方はどちらの都市からいらしたのですか? ここはかつて聖緑都市エスペリアと呼ばれた場所……。ですが、汚染獣の襲撃を受けて……。今ではもう、見るべきもの、持ち帰る価値のあるものなど何一つありませんよ」と、かなり説明的に言葉を継ぎ足す。まるでゲームのNPCになったような気分だ。
そこまでされてようやく子どもたちのうちの一人、比較的に立派な体格の男子が僕の前に進み出て「わ、我々は学園都市ツェルニの都市外調査部*5。第1小隊──」と名乗りを始める。
まあ、自分の所属と立場をきちんと説明しようとするのは良いことだと思うよ。
挨拶がまだだけどね。
僕は彼の言葉にふんふんと頷きながら、ノアと思念を通じて話し合う。
── え?
── "『決戦』の日に役立つ戦力がある"って無差別にメッセージを送ったら、食いついたのが
── そういうことはもっと早く教えて欲しかったかなあ。
──
── いや、別に
特に山もなくオチもないけれど、とにかくこれが僕がツェルニに拾われるまでの話だ。
ちなみに僕はさんざん悩んだ末、父と兄たちの錬金鋼を慰霊碑と定めていた場所から引き抜いて、それからツェルニへと移動することにした。
全ては思い出として僕の心の中にだけ置いて、
それでも悩むということは、やはり僕の中に未練が残っているのだろう。
今はまだ消化しきれない未練としてあるのなら、形見として持っていたかった。
いつかきちんと弔うことができれば良いな、とは思いながらも……。
◆
その日は。
何ごともない一日だった昨日とは180度異なり、異常なことばかり起こる日だった。
最初に発生したのは、原則として動き続けるはずの*6ツェルニが不意に移動を停止したこと。
自身が望んだこととは言え、未だ最上級生にならずして学園都市ツェルニのトップたる生徒会長へ就任したカリアン・ロスは、機関部をはじめ関連部署の生徒たちへ事態の調査・解決を指示すると同時に。
妹のフェリ・ロスへ頭を下げ、念威を用いた都市外の広域警戒を懇願しなければならなかった。
動きを止めた都市は汚染獣の格好の餌食であるからして。
この時ほどカリアンは、妹の武芸科への転科を先伸ばしにしていた、過去の自分の優柔不断さに感謝したことはない。*7
もしも妹の転科を強行した後であったら、カリアンが願いを叶えてもらえたかは甚だ疑わしい。
そして天から絶大な念威の才能を与えられて生まれた優秀な妹は、数分と経たないうちにカリアンへ、ツェルニから十数キルメル程度の位置に
加えて、少なくとも半径200キルメルの範囲内には汚染獣の脅威が存在しないことも。*8
関連部署から上がってきた調査報告と併せて、
武芸科の
降り注ぐ汚染物質から、本当に武芸者の身を守れるのか疑わしい、骨董品レベルの都市外戦装備。
調査隊がツェルニを発つまでに、何度カリアンが声を荒らげることになったか、もはや本人ですら把握できていない。*9
だがそれも仕方がないことなのだ。
だからカリアンには一分でも、一秒でも早く事態を収拾して都市の移動を再開させる義務があった。
そして
もしも唯一、彼に手落ちと呼べる点があるとすれば、それは調査隊に彼の妹が名を連ねていないことだった。
これは「信頼性の怪しい都市外戦装備に、
そのような兄の心は妹に知られることなく、フェリは冷静な表情の裏側で、念威を使わされる現実にじりじりと不満を高めているのだ。
「調査部隊が廃都で生存者を発見……生存者と接触したようです。廃都の名称、いえ……生存者が廃都を、聖緑都市エスペリアと呼称していることも判明しました」
祈るような気持ちで……一体、誰に、何を祈るというのだろう……?
……とにかく。
「ツェルニの移動が再開するのならば、もう何でもいい」という気持ちで両手を組み、目を閉じていたカリアンは、
この……常に感情の薄い顔を見せる妹は、その実まことにふてぶてしく、こういったことをしでかすのだ。
念威操者として頼られることは不満に思うくせに、自分のちょっとした好奇心を満たすために念威を使うことは
調査隊に組み込まなかった兄の心情など知らぬとばかりに。頭越しに、最も早く、最も重要な情報を届けてくるのだ。
カリアンは一寸の間、額を手に押し付けて。
「生存者を
カリアンには、何もわからなかった。
生存者の外見的な特徴も。どのような経緯で調査隊と接触したのかも。現在の調査隊との
だから妹の見解を求めた。
百聞は一見に如かずで、一見しているのは妹なのだ。
それもおそらく、調査隊よりもしっかりと
「──わかりません。
ですが……。いえ…………わかりません」
ここでフェリの判断を混乱させた要因はいくらでも挙げられるだろう。
人間を観察して素性を推し量るという行為の、純粋な経験不足。廃都に生存者一名という状況そのもの異常さ。ツェルニが足を止めた事実と関連付けるべき材料の不足……など。
だが、フェリ・ロスという卓越した念威操者にとって最大のノイズとなった要因は、生存者が自ら調査隊の前に姿を晒すまで、生存者を
いや、正確に言えばフェリの念威は確かに生存者の姿を捉えていた。しかし、フェリは
「とにかく、得体が知れません……異常、です。都市の機能はほとんど停止していたようです。それも調査隊が都市へ侵入するよりずっと以前からです。廃都ではエアフィルター以外の何も機能していませんでした。対象はその環境下で生存していたと思われる者です」
念威端子から流れる早口の報告を耳にして、カリアンはふ、と肩の力を抜く。
これは妹の焦っているかわいい姿を見て*10冷静になったというのもあるが、それ以上に妹が焦っているならば自分がしっかりして問題に対処しなければならないという、長年かけて身に付けられた自然な所作である。
結局のところ、カリアンがしなければならないのはツェルニをもう一度動かすことで、そのための決断だった。
カリアンは再び思考を整理して、おもむろにフェリへ声をかける。
「調査隊と生存者は険悪な雰囲気だろうか?」
「──いいえ」
「生存者を
この時カリアンは、フェリが否と返答した場合、自ら廃都に赴くことも想定していた。
もちろん、そんな危ない橋を渡る前にフェリの念威端子を介しての対話を試みたはずであるが……。
いずれにせよカリアンのそうした思慮は、この時に限れば過剰であった。
「──はい。既に……小隊員の一部は生存者の境遇に同情して、ツェルニでの保護を申し出ています」
「なるほど。では正式にそれを、生徒会の意向として伝達してほしい」
──そういうことになった。
そこから話はトントン拍子に進んで、彼はツェルニに迎え入れられた。
なお、彼が数十本の錬金鋼の前でウンウン悩んだ末に、そこから数本の錬金鋼を引き抜いて身に付けた一幕は何ら問題視されなかった。
調査部隊の面々は曲がりなりにもカリアンが任務を遂行できると期待して選んだ
そして
なんとなく「そうなるだろう」と考えてはいたカリアンも、こうもあからさまな現実になると少し……大分頭が痛かった。
カリアンはしばらく頭を抱えた後に、調査に赴いた小隊員たちには固く機密保持を命じ、それから最小限の検査*11を受けさせて、彼を呼び出すことにした。
「こんにちは」
「……ああ。こんにちは。そして、はじめまして。私はカリアン・ロス。ここ、学園都市ツェルニで生徒会長をさせてもらっているよ」
「そうですか…………。
あ、僕はアークライト・エスペリアです」
それから二人はお互いに微笑を浮かべたまま沈黙を守り、たっぷりと数十秒ほど見つめ合った。
カリアンは
そして
次に口を開いたのは
「それで、あちらの念威操者の方もこの場に同席して話をするという理解でよろしいのでしょうか?」
アークライトは部屋の隅に浮かぶ念威端子に目線をやりながら、カリアンへ質問した。
念威端子の向こう側では、
・自分で設定しておいてなんですがオリ主のアークライトって名前、ゴツすぎて違和感があるので早くフェリにアーくんって呼ばせたい……。
・引っ越しの際に原作を手放してしまったのでガバがあったらごめんなさい。
一応当時はレジェンドから聖戦まで購入してパラパラ読むくらいはしたのです……。
ていうか原作追ってた頃ですら理解が及ばなくてブン投げたところも多いので(バカ)、ガバは許して許し亭。