ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
未だ目覚めないルーナをおぶりながら……
しばらくの間、山道をセシリアと下っていた。
「……」
「……」
事の疲れからか、俺もセシリアもすっかり黙りこくっていた。
だが……別段、気まずさはこれといってない。
行きのルーナとの張りつめた空気感とは大違いだった。
……いやぁ、やっぱ昔からの付き合いがある奴って良いわー。めっちゃ素敵やわー。
無言でも苦にならないもんね。正直、俺ってそんな喋るの得意じゃないし。
初めて師匠の前で喋った時に「お前、喋るんだな!!」って心底驚かれたもんね。喋るわボケ!!懐かしー。
肩の力を抜き、ルーナが落ちないようにぼけーっと歩いていると……セシリアが「ふぅ。」と小さく息を吐いて足を止めた。
「レオン様……魔王様のご体調も心配ですし、そろそろこの辺りで休憩にしましょうか」
「結界を張るので、安心して休めますよ?」
セシリアがニコリと提案してくる。
……ったく。コイツわかってねえな。
俺たちに、休んでる暇なんて——
「やったああああああ!!!!休む休む休むううううううう!!!!」
「僕ちんもう足パンパンだにょおおおおおお!!!!回復魔法で癒してええええええ!!!!僕ちんの足をスリムフィットにしてえええええええええ!!!!」
涙を流しながら、セシリアに抱きつく勢いで縋り付く。
もう、俺は身も心も限界突破だったのだ。
……昔セシリア達と旅をしていた時は、よく疲労回復の魔法を使ってもらっていた。
あれ、最高なのよね〜。むくみなんて一撃で取れるし!
なんて、至福の思い出に浸っていると——
彼女が顔を真っ赤にしてカチンコチンに硬直していた。
あ……やべえ、忘れてた。
コイツ、不意に近づいたら真っ赤になって固まる奴だった。やっちゃった。
「あ……ごめん。近かったな」
慌ててバッと距離を取る。
すると、セシリアの硬直もようやく解け、恥ずかしそうに顔からプシューと蒸気を吹き上げた。
「あ、あははは……。ごめんなさい。男の人に未だに慣れなくて……」
「治療で自分から近づく分には問題ないんですけど、急に近づかれるのはどうも……」
照れ臭そうに頭を掻くセシリア。
この恥ずかしがる仕草……懐かしいな。
まるで、あの頃に戻ったみたいだ。
……洞窟での凄まじい有能ぶりを見て、正直少し遠い存在に思えて不安だったけど、中身は変わってなくて安心したわ。
俺はルーナをそっと木陰に寝かし……
焚き火を起こして、セシリアとひと休みすることにした。
……
…………
セシリアがルーナの体にそっと手をかざし、静かに魔力を通していく。
変わった様子はなく、穏やかに寝息を立てる彼女を見て胸を撫で下ろし、そのまま焚き火の前に腰を落とした。
「レオン様は……私たちと離れられた後、何をされていたんですか?」
セシリアが微笑みながら首を傾げる。
パチパチと燃える炎の揺らめきが、暗闇の中で彼女の整った容姿をくっきりと浮き立たせた。
……こいつ、今更だけどめちゃくちゃ美人だったな。
なんだか恥ずかしくなり、思わず目を逸らしてしまう。
「……別に。特に変わりはなかったよ」
「一人で戦争に駆り出されて、魔族の兵器を壊しまくって……そしたら突然魔王軍の動きが止まったからすっげぇ暇になってさ。……そこから暫くは一人でテキトーにぶらついてたよ」
揺れる炎をじーっと見つめながら、正直に答えた。
……ナンパしまくってたら出禁にされた街が増えたことまで敢えて言う必要はないだろう。
セシリアが、一瞬だけ瞳を大きく見開いた。
「……そ、そうですか。軍からの報告で聞き及んではいましたが、本当に一人で戦場に出られていたんですね……」
「すみません……。貴方だけを残してしまって」
申し訳なさそうに、ポツリと頭を下げるセシリア。
その表情には……どこか寂しげな哀愁が漂っていた。
「いや、いいんだよ。お前らが無事なら……俺は、それで良い」
俺の言葉に、セシリアの瞳にほんのりと涙が浮かんでいく。
……マジでコイツ、昔っから涙脆いな!!
気まずくなるから二人きりの時に泣くのはやめえや!!
すると、誤魔化すように彼女は袖でゴシゴシと涙を拭った。
「あ……っ。ごめんなさい……」
「でも……やっぱり、レオン様はとてもお優しいですね」
セシリアの言葉に、ふと鼻で笑ってしまう。
「そんなん言ってくれるの……セシリアぐらいだよ」
「みんなにはスケベスケベって心無い悪口ばっか言われるのにさ」
俺のぼやきに、セシリアがくすりと苦笑いを漏らした。
「……優しいこととスケベなことは、同居できるということです」
……何言ってんだ、コイツ。
とりあえず笑っとこ。
……
…………
パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く中、夜空を見上げていると——
突然、一筋の流れ星が夜の闇を駆け抜けた。
……懐かしいな。
村にいた頃は、誰が最初に見つけたかでよく喧嘩になったっけ。
カイルがやたらと自分が一番だと主張してくるもんだから、イラッとしてビンタしたら、アイツ仕返しに目潰ししてきたんだよな。
そこから大喧嘩になって、パルシィが泣きながら師匠に言いつけて……そのせいで一ヶ月間トレーニング量を5倍にされたっけ。
あの日以来……ずっとパルシィを目の敵にしてたら、それをまたパルシィが師匠にチクって。
その度に俺とカイルの筋トレ量が跳ね上がって、どんどん筋骨隆々になっていって……。
今考えたら、本当に馬鹿なことばっかりやってたな。
…………アイツら、元気にしてんのかな。
「……セシリア」
「カイルとパルシィ……アイツら、今どこで何してるか知ってるか?」
自然と、胸の奥に溜まっていた言葉がこぼれ落ちた。
セシリアが優しく微笑む。
「……やっぱり、あの二人のことが気になるんですね」
セシリアの言葉に、思わず苦笑いを浮かべた。
「まあ、小さい頃からずっと一緒だったからね……」
「一緒の家で育ってさ……笑って、泣いて、怒って、喧嘩して…………。そんで、一緒に旅に出て。」
「……俺たちはずっと一緒にいるんだろうなって……漠然と、そう思ってたよ」
それなのに……まさか、それぞれ別の道を歩むことになるなんてな。
その最後の言葉だけは、口に出さなかった。
不意に、夜空にアイツらの顔が浮かんだ。
セシリアがそのまま、遠い目をしてボソリと溢した。
「実は……私も王国に戻って以来、カイル様とパルシィ様には一度も会っていないんです」
「あの方達は……軍には所属されなかったみたいですので」
「一体……どこで何をされているんでしょうね。……ごめんなさい、何も知らなくて」
小さく頭を下げるセシリアに、俺は柔らかく笑いかけた。
「別に良いって……。まあ、アイツらのことだからきっとどこかで元気にやってるよ」
「ふふふっ……あのお二人は、とてもお強いですからね」
セシリアが楽しそうに笑う。
「うん……そうだよ。だから、大丈夫だ」
「……なんかさ。セシリアと話してると、すっげぇ落ち着くよ……」
なんだか、だんだん頭がボヤァっとしてきた。
セシリアが強力な結界を張ってくれているおかげだろうか。
一切の気を張らずに眠れるなんて、随分久しぶりな気がする。
……その時。
眠っていたルーナの指先が、ほんの僅かに——ぴくりと動いた気がした。
「……?」
けれど、俺はそれ以上気に留めなかった。
……まあ、気のせいだろう。
うとうとと微睡む視界の中で、セシリアの口元がぼんやりと動いているのが見えた。
「……ほんとうは……あなたと…………」
ん……。
何か……喋って、いるのかな。
けど……猛烈に眠い。
頭が、もう回らない……。
焚き火の明かりのせいか、真っ赤に染まった彼女の顔が視界に入って……。
それがなんだかとても懐かしくて。
だけど……少しだけ寂しくて。
そのまま——
俺の意識は、深い闇の中へと沈んでいった。