ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
一晩の野営を経て……
未だ意識の戻らないルーナを背負い、山道を下りきった俺たちは——
翌日の昼過ぎにようやく目的のアクアリールの街へと辿り着いた。
人通りが増えていく街並みを歩きながら、隣を歩くセシリアが神妙な表情を浮かべる。
「……リザード族の水不足、ですか。」
「そうそう。ラグナ渓谷の上流がせき止められたらしくて水が無くなっててさ、今は村の中央にある湧水くらいしか残ってないんだよ。……リザード族の子供がね、体が弱いから少しでも早くたくさん水が必要なんだ。」
俺が答えると、セシリアは痛ましそうに目を伏せた。
「……それは、お辛い環境ですね」
「そうなんだよ。それで水源を掘る道具を買いにアクアリールに来たのに売れないって断られて……。なんだかんだあって、ウォルタ町長からゴブリン討伐の依頼を受けることになったって感じ」
俺がこれまでの経緯をざっくり説明すると、セシリアはふと足を緩め、不思議そうに眉をひそめて俺の顔を覗き込んできた。
「……あれ?そういえばすっかり失念していたのですが……レオン様ってアクアリールを出禁になっていませんでしたっけ——」
「ん?出禁? そんなことなってないよ? 」
不自然なまでに、間髪入れず即答する俺。
セシリアは「あ、察し……」と言いたげな絶妙な苦笑いを浮かべ、それから何かを考えるように静かに沈黙した。
……突き通すしかないにょ。
勇者として、ここは何が何でも突き通すしかねえんだにょ……
まあ……俺とカイルが色々暴れた時に熱心に謝ってくれたの、セシリアなんだけどね。それでも結果出禁になったわけだけど。
今回大事なのはそこじゃないし、うん。
大丈夫大丈夫。
⸻
一先ず、ルーナを寝かせるため宿の部屋へ運び——
柔らかいベッドの上に、そっと寝かせた。
「よし……それじゃ、町長のところへ行くか」
俺がそう言って部屋を出ようとすると、背後からセシリアの声が響いた。
「……レオン様、待ってください」
セシリアに呼び止められて振り返ると、彼女はベッドの上のルーナをじっと見つめていた。
「…………う……うう…………」
「……あれ…………わたしは……いったい……?」
苦しそうに眉根を寄せながら、ルーナの瞼がゆっくりと開いていく。
「おおお!!ルーナぁ!!起きたんかいワレェ!!」
俺は勢いよくベッドへ駆け寄った。
「よかったにょ……僕ちん、このまま目覚めなかったらどうしようかと思ってたにょ……ふえええええええええん!!!!」
目からビシャッと涙を噴出させながら、俺はルーナの布団に突っ伏してガチ泣きした。
「……レオン…………」
「ふふ……もう……泣きすぎです……」
呆れたように息を吐きつつも、ルーナが柔らかく微笑んだ。
俺は顔を上げて鼻をすする。
「……ぐすん。とにかく、本当に良かった……」
「私は、大丈夫です……安心してください……」
ルーナがふわりと俺の頭に手をのせる。
だが、直後——
ハッと思い出したように表情を険しくした。
「あれ、そういえば……私はゴブリン族の青年に………… 。それで、アウルム鉱山にいたはず……」
痛む頭をかばうように、包帯の巻かれた頭部にそっと手をやるルーナ。
そのまま周囲を見回し、不思議そうに尋ねてくる。
「……ここは、どこですか?」
「アクアリールの街にある宿です——魔王様。」
そう答えたのはセシリアだった。
見覚えのない彼女の姿に気づき、ルーナの瞳に少しだけ警戒の色が宿る。
「……あなたは?」
「申し遅れました。……レオン様と元々旅をしていた仲間の一人で、現在は王国軍第7部隊の副隊長をしております、セシリア=アウレリアと申します」
セシリアはスカートの裾を軽く持ち上げ、丁寧にお辞儀をしてみせた。
「レオンの仲間で……そして、現在は王国軍ですか」
「ふふ、安心してください。魔王様に危害を加えるつもりは一切ありませんよ」
優しく微笑むセシリアの脇から、俺が口を挟む。
「セシリアがルーナを治療してくれたんだぞ。……こいつが居なかったら死んでたかもしれないんだからな、お前」
「……そうですか。この度は、本当にありがとうございました」
深くお辞儀をするルーナに、セシリアが温かい笑みを返した。
「ふふっ。どういたしまして」
だが次の瞬間、ルーナが何かを思い出したように顔色を変えた。
「そ、そういえばゴブリン達は……っ!?」
一気に体を起こそうとするルーナを、俺は慌てて制止する。
「い……痛い……あたま……っ」
「おい、動くなって! ……ゴブリンの件なら一旦は大丈夫だ。アウルム鉱山にはしばらく来ないって言ってたよ」
「……それは、『しばらくの間』ですよね」
ルーナが真剣な眼差しで俺を見つめ返してくる。
「そうだ。……お前が身を挺したおかげでな」
「それじゃ……ダメなんです!彼等の根本的な問題は、何も解決していません……!」
「……そうかもしれないけどさ。時間ができたんだから、その間に考えたら良いじゃないか」
俺の提案を拒否するように、ぶんぶんと首を横に振る。
「駄目です、悠長なことは言ってられません……! 彼等にとって、水は不可欠なんです!」
「いくら渇水に強いゴブリンでも、限界はそう遠くないうちにきます。……すぐに、町長のところに行きます!」
掛け布団を剥がそうとするルーナの肩を、今度はセシリアが制した。
「……魔王様。それは医師として推奨できません。いくら意識が戻られたからとは言え、すぐに動かれては困ります」
「セシリアの言う通りだ。そもそもお前はこの街に入ったら殺すって言われてるんだぞ。今は誤魔化せてるけど、街の奴らにバレたら何されるかわからないんだからな」
俺が説得するように言うと、ルーナはカッと目を見開いて叫んだ。
「レオンだって、出禁なのに体を張って町長と交渉をしてくれたじゃないですか……!」
「ゴブリン達は……あそこの水がないと生きられないんです!!」
ルーナの『出禁』という言葉聞いた瞬間……
セシリアは何も言わず、ちらりと俺の方へ視線を注いできた。
「…………」
俺は、そっと目を逸らした。
……突き通せなかったにょ。
ルーナはほんま空気が読めへんやつやで。
視線を誤魔化すように咳払いをする。
「……とにかく、それについては俺が町長に掛け合ってみるよ。なんとかしてもらうように頼むからさ」
俺が宥めるも、ルーナは固い決意を崩さない。
「これは、魔族の問題なんです……! 魔王である私がなんとかしなくてはいけません……!」
「魔王様、お気持ちはわかります。ですが……」
必死に止めようとするセシリアを余所に、一歩も引く気配のないルーナ。
俺は深く深くため息をついた。
「……はぁ。ごめんセシリア。こいつ、一回言い出したら絶対に聞かないんだよ」
「え?」
「頑固で真っ直ぐで、無茶ばっかりする……これがルーナなんだ」
俺の言葉を聞いたセシリアは、ほんの少しだけ寂しそうな目を浮かべた。
「…………まるで、どこかの誰かとそっくりですね」
そして、どこか懐かしむようにセシリアが優しく微笑む。
「分かりました。……では魔王様、ご無理は決してなさらないようにお願いしますね」
「……すみません、私の我儘で。」
「いえ、立派だと思いますよ。……ですが、念の為にもう一度診察をさせていただきますね」
ルーナは、小さくコクリと頷いた。
……
術式を展開し、ルーナの身体の状態を丁寧に確認していくセシリア。
「何度も診させていただいたので知ってはいましたが……流石と言うべきでしょうか、驚異的な回復力ですね」
「そ……そうなんですか?」
「今まで怪我とかしたことないの?」
俺の問いかけに、ルーナは少し首を傾げた。
「ほぼ無いですね……。基本、魔王城からあまり出たことがなかったですし、前線に出ることもありませんでしたから」
……そういえば、こいつ箱入りのお嬢様だったわ。
たしかに、肌に傷跡とかも一切無かったな。
セシリアが術式を収めながらルーナに念を押す。
「傷そのものは塞がっています。……でも、まだ無理をしてはいけません。」
「……分かりました」
「おい、マジで絶対だぞ」
俺が指をさして釘を刺すと、ルーナはムッと頬を膨らませた。
「もう……分かっていますってば。レオンは心配性過ぎですよ」
「心配するだろそりゃ!女なんだぞお前!」
「女の子扱いはやめてください!」
「俺は間違ったこと言ってない!!」
「……ううう。頭に響くので大きい声はやめてくださいよぅ……」
「ほら! 全然治ってないやん! 寝てろや!!」
「ね、寝ません……! いい加減にしてください……!」
「お前がいい加減にしろ!」
「だから……声がデカいんですってば!!」
「お前もな!!」
ヒートアップしてギャーギャーと叫び合う俺とルーナ。
その間に、セシリアが困り顔で割り込んできた。
「あのぅ……他のお部屋の方の迷惑にもなりますので、それくらいにしておきませんか?」
セシリアになだめられ、ハッと息を整えてお互いに気まずそうに顔を逸らす俺とルーナ。
それを見届けたセシリアが、ポツリとつぶやいた。
「…………それでは。町長のところに行きましょうか」
フラつくルーナを俺とセシリアが両脇から支え……
俺たちは宿を後にし、ウォルタ邸に向かった。