ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
ウォルタ邸に到着すると、まずセシリアが門を見張る衛兵にスッと歩み寄って声を掛けた。
……あいつ、俺を下半身丸出しのまま連行した奴だにょ。
てかよくよく考えれば、せめて布の一枚でも引っ掛けて隠してくれればよかったのに!!
街中の人に見せびらかさなくても良かったじゃん!!
よかったな!!俺にそういう性癖が無くて!!
念のために俺とルーナが近くの茂みにコソコソと身を潜めていると……衛兵と少し話したセシリアがこちらを振り向き、笑顔で手招きをしてきた。
俺とルーナが茂みからヌッと出て無言で向かって行くと、衛兵はあからさまにギョッとした表情を浮かべた。
セシリアの隣に立つ俺を「コイツ、また来たのか……」と言わんばかりに怪訝そうに見つめ、頭に包帯が巻かれたルーナにも視線を泳がす。
明らかに、不審感を強めているようだった。
「それでは、ウォルタ町長の元に案内いたします。」
「へんた……勇者様は、いつ来ても通すように言われておりますので、どうぞご安心ください」
衛兵は咳払いをひとつ挟むと、視線をルーナへ移す。
「……もう一人の女性の方は以前にもお声掛けをいただきましたが、どなたなのでしょうか」
思わず、セシリアが割って入る。
「先ほどもご説明した通りです。この方は別件で町長にご用がありまして……」
「せめて、ご身分だけは明かしていただきたい。どうかお願いいたします」
衛兵に鋭く問い詰められ、ルーナが思わずたじろいだ。
「あ……あの……私は、その——」
「……皆さま、お待ちしておりましたよ。」
気まずい空気を切り裂くように、朗らかな声が響いた。
声の主は……言うまでもない。
高い背丈、シュッとした無駄のない立ち姿。
そして、張り付いたような不気味でいけすかない笑顔。
……ウォルタ町長だ。
「屋敷の窓から貴方達の姿が見えましてね。このまま私が屋敷までご案内いたします」
ウォルタは不敵な笑みを浮かべたまま、屋敷の方へしなやかに手を差し伸べた。
案内しようとする町長に対し、衛兵が焦った様子で声を張り上げる。
「ウォルタ町長……! 一人、まだ身分を確認できておりません。せめて一度確認をされた方が……」
「ああ、大丈夫です。その必要はありませんよ。僕の友人の知り合いのようですから」
「で……ですが……!」
衛兵の真面目な進言をあっさりと聞き流し、ウォルタがそのまま屋敷の方へ歩き出そうとした……その時。
突然——
彼はピタリと足を止めた。
「ああ……言い忘れていた。門兵の君、貴方は今日でクビです」
「…………へ!? わ、私でございますか!?」
「ええ。……前回に続き、君は僕の時間を無駄にする。この説明の時間さえも必要がない。早々に荷物をまとめて去りなさい」
振り返ることすらせず、いつもの穏やかなトーンと笑顔のままでクビを告げるウォルタ。
……え、ガチで怖いんやけどコイツ。
そんな程度でクビにするか!? 頭おかしいにょ!!
俺がドン引きして凍りついていると、ウォルタのあまりの判断に衛兵が必死に食い下がった。
「ウォルタ町長……! どうか、お許しください! 私には妻も子供もおります! 今仕事をクビにされては——」
「……うん、それは君の都合だ。僕には関係がありませんよね? ……それとも、まだこれ以上僕の時間を無駄にするつもりでしょうか」
その時、ようやくウォルタがゆっくりと振り返った。
その顔には、見る者を凍りつかせるような冷酷な笑顔が浮かんでいる。
それを見た瞬間——
衛兵は言葉を失い、手に持っていた槍を力無く手放してガラッと音を立てさせた。
そのまま、絶望に打ちひしがれるように地に膝をつく。
……まあ、こいつ勇者に超無礼だしぶっちゃけ嫌いだけどさ。
流石に今のは可哀想すぎるし、俺からちょっと言ってやるか。
そう思って俺がウォルタに声を掛けようとした——その時だった。
「……町長、待ってください」
すっと前に出たのは、ルーナだった。
「私が名乗りもせず身分を明かさなかったために、彼が確認することになってしまっただけです」
そう言うと、ルーナはウォルタに向かって改めて丁寧に頭を下げた。
「申し遅れました。……私は、106代目魔王ルーナ=サタナディ・ウイスです。アウルム鉱山の件でお話をしたく、参上いたしました」
ルーナの口から出た衝撃の真相に——
地に膝をついていた衛兵が一気に表情を強張らせ、落ちた槍を瞬時に拾い上げて構えた。
緊迫した空気が走る中、ルーナは危険を顧みず衛兵に向かって優しく微笑む。
「……見てください。彼は仕事熱心で真面目なお方です。私の身分を知らぬ間も、きちんと職務を果たそうとしていました」
そして再びウォルタへと目線を向ける。
「そして……私が魔王であると知った今。街を守るために立ち向かおうとしている……彼のような人材を手放すのは、大きな損失だと思いますよ」
その言葉にウォルタが一瞬だけ目を丸くし、槍を構える衛兵は信じられないものを見る目で槍を震わせた。
一間の静寂の後……ウォルタがくすくすと小さく笑った。
「……ふむ、面白い。貴方の言うことも一理あるかもしれませんね。うん、無駄に時間を掛ける必要もないでしょう」
ウォルタは視線を衛兵へと移す。
「門兵の君。君の解雇は取り消しです。引き続き、業務に励んでください。……それと、彼女の身分は決して誰にも明かさぬように徹底してください。この仕事を続けたければ、ね。」
冷徹だったウォルタの笑顔に戻り、衛兵は脱力しながらも勢い良く頭を下げた。
「あ……ありがとうございます!! 承知いたしましたっ!!」
ルーナがホッと小さく胸を撫で下ろす。
……やっぱり、こういう奴だよなルーナは。
魔族だけに優しいわけじゃないんだ。良い子やでほんまに。
てか、この後本当に何も無ければ良いんだけど……あの門兵も口外しないかめちゃくちゃ不安なんやが。
まあ……最悪何かあったら俺がなんとかすればいいか。
ウォルタが満足そうに屋敷の方に向き直る。
「うん。とても面白いものが見られました。……改めて、屋敷へご案内いたします。どうぞ、こちらへ」
笑顔で先導するウォルタの後ろを、俺たちは静かについていった。
◇
ウォルタに導かれるまま——
俺たちは邸宅の奥にある豪華な応接間に通された。
壁には先代までの町長の写真がずらりと飾られており、室内の角にはなんと金色の噴水のオブジェまで鎮座していた。
……マジで、相変わらずこの街の人噴水好きやな!!
まあでも、ここまで徹底されてると何か深い理由がありそうな気もするけどね。まあ一旦今は置いとくか。
重厚な大きな机を挟んで、向かい側にウォルタが腰掛ける。
ルーナが自ら魔王と名乗った後も、こいつはここまで一度も態度を崩さず、驚きすら見せていなかった。
……まあ、最初っから気づいてたんだろうな。
前回もシラを切られただけか。もう! 心配して損したわ!!
「ウォルタ町長、お久しぶりです……。王国軍第7部隊所属、副隊長のセシリア=アウレリアです」
セシリアが丁寧な動作で一礼し、微笑み掛ける。
「この度は……急遽このような機会を設けていただき誠にありがとうございます」
ウォルタもそれに応えるように、より一層深い笑みを浮かべた。
「ええ、お久しぶりです。アウレリア殿。貴方のお父上には……この街もお世話になりましたからね」
そこまで言うと、ウォルタはチラリと俺の方に視線を滑らせた。
「ですが……その節は勇者レオンと戦士カイルの処遇について、恩を返すことができず申し訳ございませんでした」
「景観条例の厳しいこの街において、露出はなかなか罪が重いんですよ。いやはや、私の力では住民達の反対を押し切ることはできなかった……。力及ばずで、本当に申し訳ない」
演技がかった様子で、少しだけ頭を下げるウォルタ。
……やめて。バラさないで。
隣のルーナが俺のことを冷めた目でめっちゃ見てくる。絶対に変態露出趣味だと思われてるにょ。
「そんな……ウォルタ町長、頭をあげてください」
セシリアが困ったように手を差し伸べる。
「明らかに過失はこちらにあります。……それに、なんだかんだでレオン様の立ち入りはご許可をいただけているみたいで、本当にありがとうございます」
「ははは。私も最初は驚きましたよ。どうやら、彼も理由があってアクアリールに来たみたいで……。それで色々あって、彼にまた仕事を頼むことになったんですよ」
ウォルタはふっと目を細め、俺を見つめた。
「彼の力はそれほどまでに圧倒的ですからね。……私が知る限り、生物の中ではダントツだ」
……えへへ。
なんか急に褒められちゃった。
そこまで言った後、ウォルタは軽く咳払いをひとつした。
「貴方達が話に来た目的は……こんな世間話をするためではないはずでは?」
雰囲気が一変する。
「御託はいい、早く本題に入りましょう。……魔王、アウルム鉱山の件で私に話があるとは何事でしょうか」
張り付いた笑顔のまま、ウォルタの目線が一気にルーナへと向けられる。
薄く開かれた瞳の奥から、射抜くようなとてつもない圧力を感じた。
だがルーナも臆することなく、真っ直ぐにその目線を受け止める。
「町長……お願いがあって参りました」
ルーナは席を立ち、ウォルタに向かって深く頭を下げた。
「ゴブリン達に……アウルム鉱山で生活水を確保することをどうかお許しいただきたい。何卒、お願いいたします」
真っ直ぐで切実な懇願。
黙って聞いていたウォルタは、可笑しそうに鼻で笑った。
「……ふふ。おやおや『そんなこと』でしたか」
嘲笑うような言葉に、俺とセシリアはピクリと眉を潜める。
「僕はてっきり……ゴブリンに採掘許可を出せとでも言われるのかと思って、内心ヒヤヒヤしていましたよ」
ウォルタは背もたれに深く体重を預けた。
「……まあ、『そんなこと』と言ってはいけませんね。水源問題では、この街も散々苦労してきましたから」
ウォルタの言葉に、セシリアが不思議そうに首を傾げる。
「苦労……? この街が渇水に悩んでいたという話など、一度も聞いたことがありませんが」
「……それはそうでしょう。港町アクアリールが渇水などと聞いて呆れる。住人には悟られぬよう徹底し、我々上層部だけで解決してきたんだ。」
ウォルタの声音に、ほんの少しだけ冷たい苛立ちが混ざった。
ルーナがさらに重ねるように疑問を投げかける。
「貴方達は……ラグナ渓谷の上流をせき止めてまで水を得られているはず。それが……一体、何故ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、ウォルタがうつむき、肩を細かく震わせ始めた。
「……ふ……ふふ…………、あーっはははは!!」
腹を抱えて大声をあげて笑い出すウォルタ。
「……いやぁ、笑わせてもらいました。……いつまで都合の良い勘違いをしているのか。どれだけ経っても世間知らずのお嬢様のままで、ほとほと呆れます」
ウォルタはピタリと笑いを止め、凍りつくような冷ややかな目でルーナを見据えた。
「まあ、あの時貴方に言わなかった私にも多少の落ち度はあるか。……いいでしょう、それでは教えて差し上げましょう」
ウォルタの異様な雰囲気に、俺たち全員がゴクリと息を呑んだ。
「ラグナ渓谷の上流など…………とっくの昔に枯れ果てているんですよ」
静かに放たれた一言。
「僕たちは、これまで川をせき止めたことなど一切ありません。……『僕たちは』ね」
ウォルタの口から語られた衝撃の事実に……俺たちは言葉を失い、しばらく誰も何も返せなかった。
重苦しい無言の空気が流れる中、ウォルタが笑顔のままピンと人差し指を立てる。
「もし、疑われるようであれば……ご自身の目で一度確認をされてみては? よろしければ、僕が案内して差し上げますよ」
ウォルタは楽しそうに首を傾げた。
「いや——むしろその方が話は早いか。このままいちいち逆恨みをされるのも癪だ。……それでは、少し距離がありますが、向かいましょうか」
笑顔のまま突飛な提案をしてくるウォルタに対し……
ルーナは訳が分からないと言わんばかりに目を丸くし、ただ呆然と固まっているだけだった。