ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あって一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
「とにかく、あなたのせいで魔王軍は大変な事になってるんですよ!!」
「各地に派遣した軍隊は貴方一人にほぼ壊滅させられるし!!」
「そのせいで、妹には白い目で見られて……四天王たちにはちょくちょく無視されるし……宰相は笑顔だけどすっごく怖いし……」
「挙げ句の果てに!! その宰相にクーデターを起こされて、お城を追い出されました!!」
「わたし……これからどうすれば良いんですか!! うわあああああああああん!!!!」
夕暮れの公園。
ベンチの上で膝を折り、身の上を勝手に暴露して泣き叫ぶ魔王。
……正直、何言ってるのかよくわからない部分もあるが、なんだかすっごい苦労してきたみたいだった。
「うんうん……大変だったねぇ、しんどいねぇ……」
俺は「不憫だなぁ」と同情しつつ、とりあえず彼女の肩を優しくさすってやった。
むふふ……。
それにしても、この子の肩すっごい柔らかいなぁ……。
マシュマロみたいにふわふわで……線が細くて華奢で……なんだか、甘くて良い匂いもするし……。
マジで、たまらん!!
調子に乗った俺は、
項垂れる彼女の後頭部にそっと顔を近づけ……
美しい金色の髪から、
さらに匂いを堪能しようとした——
その時。
「気安く私にふれないでください!!このへんたい!!」
——バッッチィィィィィィン!!
「ぐっへぇ!!!!」
後ろに目がついてるかの如くスルリと俺の顔面をかわし、彼女の鋭いビンタが俺の頬を目掛けて一直線に飛んできた。
その動きは、先ほど短刀で斬りかかられた時よりも明らかに速く、鋭利だった。
……こいつ、武器使わない方が強いだろ。
叩かれた頬が、じーんと熱をもってすっごく痛い。
まあ……ビンタされるのには慣れてるから良いんだけどね、別に。
俺から一気に距離をとり、ベンチの端っこギリギリに座り直した彼女。
……とほほ、そんなに警戒しなくてもいいじゃんか。
魔王とはいえ、美少女にここまで嫌がられると普通に傷つく。
彼女は気を取り直したように、俺に向かってビシッと指を突きつけた。
「そもそも……あなた、なんでそんなに強いんですか!!!!」
「魔王軍が弱くなったとはいえ……たった人間一人に軍隊が負けるなんて意味わかんないです!! なんでッ……なんでなんですかぁ……!!」
うーん……言って良いものか。
それには、明確な理由があった。
俺がバカみたいに強いってのも事実だけど、もっと決定的な要因がある。
……これは、教えといた方がいいな。多分。
若干の躊躇いがありつつも、俺は頭を掻きながらゆっくりと口を開いた。
「……だって、魔王軍さぁ。みんな戦う前からボロボロだし、体もガッリガリに痩せ細ってるんだもん」
「なんか……異様に目が血走ってるし。少し小突いたらすぐに逃げるし……。全体の指揮も低すぎるんじゃない?」
「可哀想だなぁ……って、俺は思いながらずっと戦ってたよ」
俺の言葉を、ポカンと黙って聞いていた彼女。
徐々にその瞳に涙が溜まっていって……やがて、大粒の涙がぼろぼろと溢れ出した。
「……そ、そうですよねぇ……わかっちゃいますよねぇ……っ……やっぱり……ぃ」
「……ひっぐ……わ、わたしだって……気づいてましたよぉ……それぐらい……っ……うううう……」
「で、でも……!! だって、どうしようもなかったんです……っ!!」
彼女は涙を流しながら、自らの太ももを何度も何度も、力強く殴りつけた。
真っ白な肌が、じんじんと痛々しい赤みを帯びていく。
それは……まるで、無力な自分自身に罰を与えるかのようだった。
「わたしは……そもそも、人間と争いたくなんて……なかったんです……っ」
「国内の荒れた土地を開墾して……いっぱい食べ物を作って……みんなに、豊かになってもらいたかっただけなのに……」
「必死に土地開発をしようとしても……ぜんぜん上手くいかないし……」
「魔族って……人間に、恨みのある人たちが多くてぇ…………そしたら、国内で反乱が起きて……なんか、知らない間に人間と戦うことになってるし……」
「私は、未熟で……それを推し進める宰相たちに何も言えなくて……」
「本当は……絶対に、嫌だったんです……。みんな服もボロボロで、ずっとお腹を空かせてて……。最初っから、人間に勝てるわけないなんて……私にだって、そんなことぐらい、わかってましたよぉ……!」
「……でも、それでも!! あなた一人に負けるなんて、ほんっとに意味がわかりません!! こんな……すっっっっっっごく、スケベな人に!!!!」
ボロボロに泣きながら、キッと俺をキツく睨みつけてくる。
うーん……。なんか、悪いことをしちゃったみたいだ。
まあ……でもあれだな。
この子——
きっと、悪い子じゃないんだな。
本当は戦いたくなかったって言ってるし。
この子なりに……国民のことを考えてたんだ。
そういえば、クワを持って土地を耕したり、山をピッケルで削ったりしている魔物の大群を見たという報告を聞いたことがあったが、あれはそういうことだったんだな……。
……魔王領には何度も足を踏み入れたことがあるが、あんな土地では作物は育たないだろう。
大部分が極度の乾燥地帯で、俺たちもずいぶんと苦労させられた。
魔法使いのパルシィが、『マジで乾燥酷すぎて、肌が超やばいんだけど!!セシリア、化粧水持ってない!?!?』ってブチギレながら、借りた化粧水をバシャバシャ使ってたっけなぁ……。
僧侶のセシリアも、『む、無駄にいっぱい使わないでくださいよぉ……とほほ〜』って嫌がってたっけ。
懐かしい……。
ぼんやりと思い出に浸っていると、魔王が諦めたようにふふっと笑みを浮かべた。
「でも……もういいんです…………」
「結局、わたしの……力不足でした……っ……」
「夢は……夢のままで、終わりで良いんです……」
目を真っ赤に腫らして、心はボロボロなはずなのに……
それでも彼女は笑った。
「……それじゃぁ、勇者さん」
「ひと思いに……私のことを殺してください……」
魔王は、大きな碧色の瞳を静かに閉じて、白く細い首をスッと差し出してきた。
「スケベなとこは大っ嫌いですけど……勇者であるあなたに殺されるなら、魔王として悔いはありません」
風が吹き抜け、彼女の乱れた髪が揺れる。
その姿はあまりにも儚くて。
でも綺麗で……
そして——
ひどく、身勝手に思えた。
「いや、嘘つくなよ。」
「悔い、めちゃくちゃあるだろうが。」
俺の低い声に、彼女がピクリと肩を揺らす。
そのまま、言葉を連ねていく。
「お前……さっき言ってたよな。土地を耕して、食べ物をいっぱい作って、国を豊かにするんだって」
「……お前がこのまま死んだら、国の奴らは腹減ったままだろうが」
俺の言葉に、彼女はぎゅっと膝の上で小さな拳を握りしめた。
「……で、でも——」
「でもじゃねえよ。逃げんな」
被せるように、言葉を遮る。
言い訳をする余地など一切与えない。
……こいつが折れたら、その時点で魔王軍は終わりだ。
このままジリ貧になって、どんどん土地を奪われて……
やがて、飢えて死ぬか人間の奴隷になるだけだ。
かつて栄華を誇っていた魔王軍だが、それはもう随分と過去の話。
はるか昔にいた優秀な人材たちは戦線を退き、年々弱体化していったそうだ。
俺が戦線に降り立つようになってからは、人間と魔王軍の戦力差は火を見るより明らかだった。
なんせ、勇者の俺ひとりに戦線を任せても問題ないぐらいだ。
あと2、3年もすれば完全勝利できる———
これが、人類の共通認識だった。
……だが。
俺は、それをあまり良く思っていなかった。
こんなのは……ただの体のいい、弱いものイジメだ。
戦場の魔族の兵の顔を見れば、すぐにわかる。
……あいつらは、怯えていた。
目の前の一人の人間に怯え、自らを奮い立たせるように声を上げて命懸けで飛び込んでくる。
細い体で、切れ味の悪そうなボロボロの武器を手に取って。
……ただ、明日を生きるために。
あれは、奪われないための自己防衛だ。
侵略なんていう強者の名目を、一切帯びていない。
人間から奪うという名目で集められたであろう彼等だが、皆一様に生きることへの不安を抱えているのが、手に取るようにわかった。
だから俺は——
彼等がしばらく戦線に出てこれないように、徹底的に武器だけを破壊した。
槍をへし折り、盾を叩き割って、あらゆる武具を砕いた。
今の魔族に必要なのは、戦うことじゃない。
生きるために——
生きようとすること。
それだけだと……ずっと考えていた。
だが——
資源や知識に乏しい彼らは、奪うことしか手段を知り得なかったのだ。
彼女は——いや、魔王は。
それに限界が来ていたことに、ちゃんと気づいていた。
……俺は、それが嬉しかった。
「そんなの……じゃあ……っ、私に……どうしろって言うんですかぁ……っ!」
迷子のように弱々しく見上げてくる彼女の問いに、俺は短く、力強く答えた。
「耕すぞ。」
「…………へ?」
「魔王軍の土地を耕して、食べ物を沢山作って……今より、もっと豊かにしよう。」
「………………?」
「俺、手伝うし」
あまりにも突拍子もない提案に、魔王の顔面はポカーンとし、思考が完全にフリーズしている。
Wow……固まってる顔もvery cute……。
やがて——
正気を取り戻したように顔をブンブンと横に振り、真面目な顔で必死に俺に問いかけてきた。
「……あなた、何言ってるんですか!?」
彼女の疑問に、俺は真っ直ぐに答える。
「魔王のお前と違って、勇者の俺は農耕にすっごく詳しい!! なぜなら超天才だから!! 俺が教えてやるよ!!」
どんっ、と力強く自分の胸を叩く。
剣術の百倍くらい、師匠から厳しく叩き込まれた最強の農耕技術。それがこんなところで役に立つとはな。
「……まあ、詳しいのは一旦置いておくとして。あなた、一体何が目的なんですか……?」
「勇者は……魔族を、殺さなきゃいけない…………違うんですか?」
魔王が、探るような、得体の知れない何かを見るような目で俺を見つめる。
敵であるはずの彼らを助ける理由。そんなもの——
「目的とかなんて知るかぁボケェ!!!! 俺は勇者だぞ!! とりあえず困ってる奴がいたら助けるって昔から決めてんだよ!!」
「あと……殺すとか、簡単に言うな!!師匠からなんでもかんでも簡単に殺すなって耳が痛くなるほど言われてんだ!!師匠に怒られちゃうだろ!!」
バンッと一気にベンチから立ち上がって力強く言い放つ俺に、彼女は疑問を浮かべているようだった。
不安な表情で真っ直ぐに俺を見つめ、恐る恐る聞いてくる。
「だって……そもそも、あなたは人間ですよね? 魔王軍を助けるなんて、そんな———」
「人間だとか魔王軍だとか、毛ほどの興味もねえんだよこっちは!!!! そんなクソ浅い正義感持ち合わせてねぇわっ!!!!」
「……っ!」
彼女が、急に顔を背ける。
吐き捨てた言葉に、嘘は一切ない。
仲間が去ろうが各地で出禁を食らおうが、困ってる奴がいたら助ける。
俺は俺の信念(と性癖)に従って生きるだけだ。
「腹減ってる奴がいたら何か食わせてやりてえし、道に迷ってる奴がいたら行き方を教えてやる!!」
「…………いや、まあ道を知ってたらだけどね。大体行ったことないとこばっかだから、何もできず一緒にオロオロしてばっかりだけども……。
とにかく……!これが、俺の信念だ!!」
……道知らないくだり、言わない方がかっこよかったかもしれない。
しくったな。
「…………俺は、そういう風に生きたい。生きれるかどうかじゃなくて、そうやって生きたいんだ……。まあ……なんか、そういう感じです……はい……」
なんか色々恥ずかしくなって、最後の方が口がもごついてしまう。
……女の子の前だからってカッコつけてんなぁ、俺。
「……この人、ほんとに……なんなの……」
掠れた声で、ボソリと溢す魔王。
やがて、服の袖でゴシゴシと顔を擦って、赤く腫れた目で俺を真っ直ぐに見つめ返した。
その目には、怯えや困惑……だが、燃えるような覚悟も感じられた。
……まあ、ところどころ「まだ信じきれない」って目だけどね!
そりゃそうだ!! 俺だって、逆の立場なら疑いまくるし……こっちの立場としては、悲しいけどね!!
やがて……魔王は落ち着いたように、小さく息を吐いた。
その声音にはどこか柔らかく、ほんの少しだけ、救われたような響きが混じっていた。
……あ、俺の勘違いじゃなければだけどね?
実際のとこは知らんよ?
「よぉーし……。じゃあ、早速近くの魔王領からやってきますかなー」
俺は、凝り固まった体をほぐす様に、グッと伸びをする。
カチカチの関節から、ゴリッと鈍い音が鳴る。
……こわ。折れてないよね?
あ……てか、一応確認しとかなきゃ。
「……お前も、手伝えよ?」
目を細めながら言うと、魔王が胸を張って鼻をふんっと鳴らす。
「……そんなの、言われるまでもありません。そもそも……わたしが言い出したことですし」
彼女もようやく立ち上がり、パンパンとスカートの土を払った。
……うん。やっぱり、立ち姿もすっごく綺麗だ。
夕日に照らされた美少女。これから始まる夢の同棲&開墾生活。
ああ、勇者やっててよかったぁ……。
「…………あの、ところで、わたしの顔を突然ボーッと見て鼻の下伸ばさないでくれませんか? 本当に、すごく気持ち悪いので」
「……それと、これから半径1メートル以内には絶対に近づかないでください。なるべく身の危険を感じたくないので」
彼女の、絶対零度の冷たい声が公園に響き渡る。
「……そういうこと言うのやめてよ、こころが傷ついちゃうじゃん」
俺たちの、果てしなく前途多難な世界平和への第一歩は、こうしてひっそりと幕を開けたのだった。
⸻
すっかり日の落ちた夜道。
魔王領に向かっている途中、ふと気になったことを聞いた。
「……そういえばさ、おまえ名前はなんて言うの?」
「へ……な、名前ですか……? そ、それを知ってどうするつもりですか……」
思ってもいない質問だったのか、ギョッとする魔王。
物凄い疑いの眼差しを向けてくる。
……なんで、そんなことを聞くの?、とでも言いたげだった。
え、そんなに俺に名前知られたくない??
いや、なんでやねん——
ちゃんとした理由あるわ!!ほんとに、失礼な奴!!
「お前を呼ぶ時、いちいち『魔王』って言ってたら今後大変なことになっちゃうかもしれないだろ!! ばかちん!!」
俺の言葉に、魔王がキッと睨みを利かせる。
「汚い言葉を使わないでください!! あなた勇者なんでしょ!!」
こいつ……めちゃくちゃだ!!
勇者をいったいなんだと思ってるんだ!!
勇者だからって綺麗な言葉ばっかり使ってられるかい!!うんことかおしっことかめっちゃ言うわ!!
「そんなん知るかぁ!! さっさと言えや!! ここ人間領だからお前が魔王ってバレたら色々大変だろ!!」
魔王も、負けじと声を張り上げる。
「あなた、いちいち声でっかいんですよ!!!!」
耳がキーンとする。
あまりの声の大きさに、一瞬意識が飛びかけてしまう。
自分を棚に上げやがって……。
くそ、負けてられん!!
「それは、お互い様だろうが!!!!」
……
…………
お互い声を張り合って、しばらく息がはぁはぁと乱れる俺たち。
……これはこれで、なんかエロくて良いかも。
足を止めて——
気を取り直すように、小さく咳払いをする魔王。
「えぇーー……あー……おっほん———」
「私の名前は……『ルーナ』です」
「『ルーナ=サタナディ・ウイス』……ふふん、これで満足ですか?」
偉そうに、ふんっとそっぽを向くルーナ。
……あらやだ、名前かっこいー。
やっぱ貴族だから、凄く長い系なんだね。
なんか名前負けするから、名乗りにくくなっちゃうなぁ……。先に言えばよかったなぁ。もう、俺の馬鹿馬鹿!!
てか、こいつ今思えば貴族やん!
いやだぁ……。意識したら、なんか気を遣っちゃうぅ……。
「……じゃあ、あなたの名前も教えてくださいよ」
当然の流れで飛んでくる質問。
「へ、あ……お、俺のでございますか?」
俺は、一旦とぼけることにした。
「な、なんですか突然。気持ちの悪い敬語を使って……そもそも、今の状況であなた以外誰がいるんですか……」
ルーナが、困惑しながら当然の感想を口にする。
でも、気持ち悪いは余計じゃない?
はぁ……なんか言いたくないなぁ。まあいいか。
「……『レオン』だよ」
「『レオン=ブレヴァー』……お前の名前と違って、あんまカッコよくない名前だけど……ちゃんと覚えとけよ」
なんか今更改めて名乗ると、なおさら小っ恥ずかしい。
……まあこの先、勇者勇者って魔王領で言われるのもアレだし、こういうのは早い方がいいよね。うん。
すると、ルーナが少しだけ考えたかと思えば——
直後にふふっと笑い、スキップしながら俺より先をルンルン進んでいく。
……なんで、突然ご機嫌になったのかしら。変な子ね。
そして——
突然ピョンっと跳ねて、こちらを振り返る。
「……そんなこと、ありませんよ」
「レオン……ふふっ、レオンかぁ。……良い、名前ですね」
「それでは……これから、よろしくお願いしますね? レオン……。」
暗闇でもわかるぐらい、彼女はぼんやりと頬を赤く染めていた。
なぜかはわからん。
……てか、見た目だけなら、こいつマジでピカイチだな。
可愛すぎて、思わず時間止まってもうたんやが……。まあ、もう嫌われてるだろうから、なんでもいいけどね。ふんだ。
「ああ、よろしく……。ルーナ。」
短く返し、俺たちはそのまま魔王領へと足を進めていった。