自害しようとしてる美少女を引き止めたら、壊滅寸前の魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
「ここだよー!! お爺ちゃんが昔、水が湧いてたって言ってたところ!!」
リザールがピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねながら、俺たちを案内していく。
まるで友達と遊んでいるかのようで、とても楽しそうだった。
心なしか……最初にここで出会った時の、くたびれた笑顔とは違う。
瞳に光が宿っている気がした。
……だが、リザールが指し示した岩盤はすっかり乾き切っていた。
湧き水の名残すら、どこにも見当たらない。
「それじゃあ……まずは、ここらへんの地表の調査から始めるとするか。」
俺はルーナ達を引き連れ、村外れの岩肌をじっと見つめる。
「前に見た時にも、ところどころに植物が生えていましたが……そこを直接掘っていくのではダメなんですか?」
ルーナが不思議そうに首を傾げる。
「うーん……まあ、最終的にはそういう場所を掘ることになるかもしれないけど、意外と単純じゃないんだよ。」
俺は岩肌にへばりつくように生えている植物へ近づき、その根元を観察する。
「植物が生えてるってことは、その下に水分がある可能性は高い。でもな――」
岩肌に手を当て、軽く指の先で叩く。
コン、コン。
「地下の亀裂を通ってきた水が、たまたまここから滲み出てるだけって可能性もある。」
「だから、この真下を掘れば水が出る。ってわけでもないんだ。」
「ふむ、なるほど……。」
ルーナが感心したように頷く。
だが、すぐに眉を顰めた。
「……じゃあ、どうやって探すんですか?」
「うん。それを今から調べるんだよ。」
俺は岩盤全体を見渡し、記憶を辿るように目を細める。
「師匠と災害救助をやってた頃も、最初から闇雲に掘ったりはしなかった。……まずは地面を見て、水がどこを通っていそうかを探すんだ。」
「植物だけじゃない。土の僅かな湿り方、岩の色、亀裂の入り方……そういう細かい痕跡を一個ずつ拾っていく。」
リザールが表情をパァッと明るくして、父親のズボンの裾を引っ張る。
「お父さん!! よくわからないけど、農夫って凄いんだね!!」
息子の言葉に、リザルガンが鼻で笑った。
「ふん……まだ、水が出たわけじゃない。どれだけうんちくを語ったところで、結果が伴わなければ何の意味もない。」
その発言に若干イラッとするが、なんとか気持ちを抑えて地面の観察を続ける。
違和感を一つ一つ確かめるように、ゆっくりと歩いていく。
「…………」
しゃがみ込み、岩の隙間へ深く指を差し込む。
指先に触れた土は、周囲の砂よりほんの僅かに冷たかった。
「……ん?」
俺はその場の土を少しだけ摘まみ、指先で擦り合わせる。
「レオン様、何か分かったんですか?」
セシリアが後ろから尋ねてくる。
「いや、まだ何とも言えない。でも……」
俺は立ち上がり、周囲を見渡す。
「ここの土、他の場所より少し湿ってる。」
「他の、場所より……?」
ルーナもしゃがみ込み、俺の手元を覗き込む。
「ああ。……とはいっても、水が湧いてるほどじゃない。これだけなら、雨が染み込んだだけって可能性もある。」
「では……なんだというのだ?」
リザルガンが神妙な表情のまま、腕を組む。
「俺の読みが間違ってなければ……きっと、ここだけじゃないはずだ。」
俺は立ち上がり、数メートル離れた場所へ歩いていく。
「ここもだ。」
さらに、その先へ。
「……ほら、ここも。」
地面にしゃがみ込み、指先で土を確かめる。
「うん。やっぱり、同じ湿り方だ。」
「……だから、一体それがなんだというんだ。」
吐き捨てるリザルガン。
だが、その表情は僅かに動揺を見せていた。
俺は三か所の位置を指で繋ぐ。
すると――
「……この付近を、水が僅かに通ってる可能性があるな。」
俺は岩盤に走る亀裂を指差した。
「この亀裂も、バラバラに見えるけど……よく見ると、全部同じ方向に伸びていってる。」
「つ、つまり……?」
ルーナが、ゴクリと息を呑む。
「地下で、一本の大きな亀裂に繋がってる可能性がある。……もしかしたら、その先に水源があるのかもしれない。」
「……ほ、ほんとっ!?」
リザールが目を輝かせる。
「じゃあ!! ここを掘れば――」
「……いや、まだ分からない。」
俺はすぐに釘を刺した。
「地面に水分がある。亀裂もある。……けど、それだけじゃ水源がある証拠にはならないんだ。」
「……師匠が、言ってたんだ。」
俺は岩盤を見つめ、目を細める。
「水を探す時は、期待をしすぎるなって。」
「期待をしすぎるな、ですか……?」
ルーナが疑問を浮かべる。
「ああ。」
俺は苦笑する。
「水があると思い込んだ瞬間、人間は都合のいいものばっかり見始めるからな。」
「だから、実際に掘って確かめる。……結局、これが一番大変なんだ。必ず出るって保証がないのに、延々と何回も同じ作業を繰り返していくわけだし。……マジで、心が折れそうになるんだよ。」
昔、カイルと一緒に血豆を潰しながら、それでも泣いて地面を掘っていた苦い思い出が、ふと脳裏をよぎる。
……師匠は、ケロッとしながらずっと掘ってたなぁ。
俺たちがちょっと手を止めただけで、「お前ら、子供のくせに体力無えな!! ダサ!!」
……なんて、いちいち煽ってくるもんだから、休んでる暇もなかったんだよな。
今考えたら……鬼畜すぎんだろ、アイツ。
はぁ……。
まさか、またこの作業をすることになるとはな。
記憶の内容とは裏腹に……何故か、自然と口角が持ち上がっていた。
ピッケルを勢い良く肩から下ろす。
「よぉし!! じゃあまずは、ここを試してみよう!!」
「俺とリザルガンが掘削!! その他は出た石や土を運搬!! これでいこう!!」
ガァン!!!!
俺は地面に思い切りピッケルを叩きつけた。火花が散り、破片が弾け飛ぶ。
「しばらく掘って、穴が深くなったら補強班に分ける!!」
「それまで、とにかく掘って掘って掘りまくんぞ!! リザルガン!!」
俺の声に、リザルガンの額に青筋が走る。
「馴れ馴れしく俺の名を呼ぶな、農夫!!」
そう吐き捨て、負けじと力強くピッケルを振り落とす。
ガァン!!
「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」
固い地面を叩く二つの音が、ラグナ渓谷の乾いた空気に高く響き渡る。
「えーーー!! ぼくも、お父さんたちと一緒に掘るのがいい!!」
俺たちを見ていたリザールが、不服そうに口を膨らませる。
「ほらほら。危ないから、リザール君は私たちと一緒に石や土を運びましょうね。」
セシリアが優しく宥める。
リザールは納得できないようで、ジメッとした目で見つめ返す。
「それじゃあ、私は荷車を持って来ます!!」
ルーナが勢いよく右手を上げ、そのまま村の方へ駆け出そうとする。
「あっ……ルーナ様!まだ、お怪我が――」
セシリアが慌てて止めようとするも、ルーナは既に走り去った後だった。
「ふふっ。なんだか……とても、嬉しそうですね。」
小さくなっていくルーナの背中を見ながら、セシリアが微笑む。
……ここまで、本当に長かったからな。
ラグナ渓谷のリザード族の村まで来て。
港町アクアリールにピッケルを買いに行って。
アウルム鉱山のゴブリン達を止めて。
それで、ようやく……
魔族達を、直接助けることができるんだ。
そりゃ、嬉しくないわけがないよな。
弾む気持ちのままに、俺は再びピッケルを地面に叩きつける。
……
俺たちは、それから日が暮れるまで、ひたすら地面を掘り続けた。
リザルガンが疲れて手を止めるたびに――
ひたすら腕を動かし続ける俺を恨めしそうに睨み、悔しそうに地面を叩く。
ルーナとリザールは、掘削で出た土や石を楽しそうに運び、
セシリアは、ちょっとした怪我を治療する役に自然と落ち着いた。
……
…………
「うん。……じゃあ、今日はここまでにするか。」
空が暗くなり始めた頃、額の汗を拭ってそう言うと、それを皮切りに、リザルガンが電源を切られたようにバタリとうつ伏せに倒れた。
「お父さぁん!!」
「り、リザルガン!!大丈夫ですか!?」
リザールとルーナが慌てて駆け寄る。
セシリアも近づき、手から魔力を飛ばしてゆっくりと目を閉じる。
「これは……。疲労困憊ですね。」
セシリアの笑顔に、ルーナが安心したように息を漏らす。
「ひ、ひろうこんぱいってなに!? お父さん、しんじゃうの!?」
泣きそうになるリザールの頭を、俺がそっと撫でる。
「んー……まあ、めちゃくちゃ疲れてるってことだ。大丈夫。死なねえよ。」
その言葉に、リザールが表情を明るくして胸を撫で下ろす。
「よ、よかったぁ……」
ルーナが優しく微笑んで、ぐったりしているリザルガンに水のボトルをそっと手渡す。
「リザルガン……。これをどうぞ。」
「う……ぅ……っ。ま、魔王様……かたじけない……っ」
地面に顔を埋めたまま、リザルガンが唸るような声で返す。
そして、ゆっくりと腕を上げ、水の入ったボトルを受け取った。
……
…………
「よぉし! じゃあまた明日からもガンガン掘ってくから、覚悟しとけよ、リザルガン! リザール!」
帰っていくリザルガンとリザールの背中に、明るく声を掛ける。
「……ふん、農夫に言われるまでもない。」
振り向きもせずに、ボソリと言うリザルガン。
「うん! おやすみ! 農夫レオン!!」
こちらを向いて、元気に手を振るリザール。
……農夫言うな。
勇者や、俺は。
てか、まだ農業してないやろがい!!
今はせめて、インフラ開発お兄さんと呼べや!!
リザルガンはフラフラだったが、リザールは元気にぴょんぴょん跳ねるように歩いていた。
子供の体力って、マジですげえのな。
だが——
多分、それだけじゃない。
何かが、変わる……
もしかしたら、幼いながらにも、そう思ってくれているのかもしれない。
……ガキの期待には、応えてやらねえとな。
父親と手を繋いで帰っていくその姿は……なんだか、とても楽しそうだった。
俺たちはそのまま手を振り続け、二人の姿が見えなくなるまで見送った。
……
…………
それから、俺たちは簡単に食事を済ませた後。
村の外れにテントを二つ建てた。
ルーナとセシリアは一緒のテントに入っていき、俺はもう一つのテントに一人で入る。
なんだか、二人はとても和気藹々とした雰囲気だった。
……くそ、俺もあっちが良かったにょ。
男臭くて嫌になるわ!!プンプンやで!!
ヤキモキした思いを抱えながら横になり、目を閉じると⸻
極度の疲労から、一瞬で意識は眠りの底へと引きずり込まれていった。
今回は、良い場面が浮かばなかったので挿絵無しですにょ。
挿絵要ります?