ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あって一緒に農業やることになった。   作:ジュウヨン

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3 到着、リザード族の集落

 

 

 

 

「ふぅ……そろそろ、到着する頃ですかねぇ……」

 

 

 

ルーナが、疲れ切った声で吐息を漏らす。

 

いやぁー……それにしても、めちゃくちゃ歩いたなー!

途中何度か休憩を挟んだとはいえ、まる二日は歩きづめだ。

 

もう足腰ガックガクだよ!

横になりたい! 喉乾いた! 乾燥えぐすぎ!!

 

 

……それよりも。

 

 

「…………」

 

 

定期的にチラッとこちらを振り返り、死んだ魚のような目で睨んでくるルーナ。

 

この道中、「近づかないでください!!」の叫びと共に、一体何回のビンタを食らっただろうか。

 

俺の心と頬は……完膚なきまでに腫れ上がっていた。

 

……まあ、いきなり髪の毛の匂いを嗅ごうとしたり、無言で肩を揉もうとした俺にも落ち度はある。あるけどさ……ひどくない? 我、勇者ぞ?

 

「なんか……やたらと岩場だらけだけど、ここにはどんな種族が住んでんの?」

 

魔族の生態にはそこまで詳しくないので、ルーナに聞いてみる。

 

「それはですねぇ……まあ、着いたらわかりますよ……」

 

ルーナはボソリとそう答えると、そのまま黙々と足を進めた。

なぜか、彼女の額からは不自然な汗が滲んでいる。

 

うーん……気になる。

出し惜しみせずに教えてくれればいいのに。なんで隠すのかしら。

 

 

 

…………後に俺は、ルーナがなぜ答えを濁したのかを、この身をもって思い知ることになるのだが——

まあ、それは一旦置いておこう。

 

 

 

 

 

「うっひゃーーーー……すっごい岩壁〜。何メートルあんのこれぇ……」

 

 

あまりの高さに首が痛くなるほど見上げる俺。

 

ルーナの表情は、さっきよりもさらに気まずそうなものに変わっていた。

 

……え、どなたが住んでいらっしゃるの?

マジで怖くなってきたんだけど。

 

そのまま巨大な岩壁に沿って進んでいくと、小さな集落のような場所に出た。

 

断崖絶壁に……無数の穴がポコポコと開いている。

 

……ん? なんか出てきたぞ?

 

 

 

……あぁ。

 

だから言いにくかったのね。

 

 

 

出てきたのは——リザード族だった。

 

 

 

沼地とかにいると、あいつら本当に厄介なんだよなぁ。

動きがやたら早いし、戦場では散々手を焼かされた記憶がある。

 

だが——何より。

 

 

 

彼らは、めちゃくちゃ人間が嫌いな種族だった。

 

 

 

魔族自体が人間と折り合いが悪いのは当然として。

その中でも彼らは特に、人間を心の底から毛嫌いしている。

 

水源を巡る争いや資源の奪い合いで、人間とリザード族はこれまで幾度となく争いを繰り返してきた。

そのため、今ではこんな乾燥した岩場の隅にまで追いやられているといったところだろう。

 

……はあ。溝が深くて嫌になるで。そら言いにくいですわな、ルーナはんも。

 

 

 

村の中央にある小さな水場に目を向けると、リザード族が静かに水を汲んでいる姿が見えた。

 

……やっぱり、ガリガリに痩せこけてるな。

 

バケツを持つ腕は痛々しいほど細く、頬は削げ、目は光を失って虚ろだ。

 

リザード族は水陸での隠密行動が得意なため、戦争では真っ先に駆り出されていた。

ゴブリン族の次くらいに多かったんじゃないだろうか。

 

身体能力が高く槍の扱いにも長けているから、特に過酷な最前線へと放り込まれていたのだ。

 

 

 

「あ、あのぉ……村長さんは、いらっしゃいますか?」

 

ルーナが恐る恐る、第一村人に声をかける。

 

村人がゆっくりとこちらに視線を向け——

 

直後。

 

ガシャァン!! と音を立ててバケツを落とし、目を見開いた。

 

「あ、あなたは…………もしや、魔王様ですかっ!?」

 

すぐさまその場にひれ伏し、平伏するリザード族。

 

先ほどまでの死んだ目から一転、鋭い戦士の目つきに変わる。

 

……へぇ、すごいね魔族の縦社会。

俺なんて勇者なのに、誰からも尊敬されたことないよ? 不思議だわ〜。

 

「あぁ……いや、そういう畏まったのはいいですから……。それで、村長さんは今いらっしゃらないんですか? ご挨拶をさせていただきたいのですが……」

 

ルーナが気まずそうに尋ねると、リザード族の男は暗い顔で首を横に振った。

 

「……村長は、水源確保のために近隣の土地へ視察に出ておられます」

 

「もう……1週間以上、お戻りになられておりませんが……」

 

その言葉に、ルーナの表情が一気に曇る。

 

「そ……そうですか…………。それは、大変な時に……」

 

流れる、絶妙に重苦しい空気。

 

……こういう雰囲気、俺すごく苦手なのよね。

手持ち無沙汰なので、あたりをキョロキョロと観察してみる。

 

なるほど……あの壁面の横穴が、彼らの家なんだな。

渡り橋や縄梯子が張り巡らされていて、効率よく行き来できるようになっている。手先が器用だなぁ。

 

家畜小屋らしきものもあるが、数は極めて少ない。

住居の数の割に、あきらかに食糧が足りていない証拠だ。

 

そして中央の水場からは、チョロ……チョロ……と細い水が湧き出ている。

間違いなく、これが彼らの命綱だ。

 

ここへ来る道中も思っていたが、この乾燥地帯は本当に水場がない。

あっても泥水のような水たまりばかり。

 

久々に泥水すすったわ!!

……まあ、喉乾いてたら全然飲むけどね。ルーナも同じ水たまりの泥水飲んでて、『間接キッスだね』って言ったら問答無用でビンタされた。

 

……はぁ。パルシィがいれば、水魔法で飲み水くらい作り出せたのに。

魔法学の授業、サボらなきゃよかったなぁ。

 

ルーナも『へ?わたし、魔法なんて使えませんよ?』とか抜かすし。

魔の王ちゃうんかい!!ってツッコんだら速攻でまたビンタ飛んできたからな。この美少女むちゃくちゃやで、ほんまに。

 

ふと目を向けると、小さなリザード族の子供が喉が渇いたのか水場をチラチラと見つめていた。

だが……決められた分量があるのか、指を咥えたままじっと動こうとしない。

 

 

 

……子供にまで、こんな思いをさせてるのか。

早くどうにかしてやりたいな。

 

 

 

「ところで……魔王様の後ろにいるのは……私の見間違いでなければ…………人間でしょうか?」

 

リザード族の男の目が、急激に殺気を帯びたものへと変わる。

 

……こ、こわいにょ。

やめてぇ。そんな尖った目で僕ちんを見ないでぇ……。

 

「た、確かに人間ですが、この人は悪い人じゃありません! この村の食糧難を解決するために連れてきた……選りすぐりの農夫です!!」

 

ルーナが慌てて手をぶんぶんと振りながら必死に弁明する。

 

……ちょ、お前、農夫て!!

俺、勇者なんですけど!! まあ素直に『勇者です』なんて言ったら余計に血を見るからナイス判断だけどさ!! 嘘がお上手で素敵!!

 

しかし、リザード族の男は表情を崩さず、荒い息を吐き捨てた。

 

「魔王様は……我々が、どれだけ人間に苦しめられてきたかお分かりでないのですか!?」

 

「大切な水場を人間に占領され!! この地で唯一の糧であった渓谷茸まで奪われる始末!! 魔王様はどうかされています!!」

 

「し、知ってます!! そんなこと、知らないわけがない!! だけど……私だけではどうしようもなくて……だからっ……!!」

 

肩を震わせ、声を詰まらせるルーナ。

 

リザード族の男は、冷ややかな視線を彼女に向け吐き捨てるように言った。

 

「……やはり、先代様はご立派でしたな。……魔王様。お言葉ですが……器に似合わないお立場からは、早く降りられた方がよろしいのでは……?」

 

「とにかく、その人間は集落に近づけないでいただきたい。我々の問題は、我々自身で解決いたしますゆえ……それでは」

 

男は吐き捨てると、バケツを手に住居へと戻っていった。

こぼれた水を汲み直すことすらしない。それほどまでに水が貴重なのだ。

 

ルーナはその背中を、言葉もなく見つめていた。

 

男が去った後、唇をぎりっと噛み締め——

ボロボロと、大粒の涙を地面にこぼし始めた。

 

「…………私だって……っ。私だって、好きで魔王になったわけじゃない……っ!!」

 

「お父様がご病気になられて……それで、長女の私が継ぐしかなくて……っ! それなのに……なんで……なんでぇ……!!」

 

「……うっ……ひっぐ……うう……もういやだよぉ、こんなのぉ……」

 

俺は、泣きじゃくるルーナの肩にそっと手を置き、静かに言葉をかけた。

 

「……とりあえず、今俺たちにできることをやろう」

 

「水源の確保が最優先だけど……。まずは、近隣の地形を把握して何ができるか考えるんだ。今は悲しんでる場合じゃない」

 

ルーナの耳元で、囁くように。

 

「…………」

 

彼女は涙を擦りながら、黙って俺の言葉を聞いている。

 

えへへ……惚れられたらどうしよう。

今の俺、めちゃくちゃ格好よくない? 勇者っぽさ出ちゃってない? 出ちゃってません??

 

 

「…………ないで…………」

 

 

……ん?

 

今ルーナ、何か呟いたような。

よく聞こえなかったけど、『レオン好きィ!』系のセリフかしら?ヒャッホウ!!

 

「……どしたん……」

 

「……話、きこか……?」

 

チャンスとばかりに、さらに顔を近づけ甘い声で囁く。

 

これが俺の誇る最高のアプローチだ。これで落ちない女など存在しない。

……これまで落とせた女が一人もいないだけだ。可能性は、無限大だ。

 

すると次の瞬間——

ルーナが弾けたように叫んだ。

 

 

 

「触らないで!! へんたい!!!!」

 

 

 

———パァァァァァン!!!!

 

 

 

「ぐっへええええ!!!!」

 

コンパクトなテイクバックから放たれたその掌は、音速を超えて俺の顔面を打ち抜いた。

 

凄まじい一撃。

 

戦場ですらお目にかかれない破滅的な火力だ。痛いというか、叩かれた頬が物理的に熱い。

 

「シュゥーーー……」と俺の頬から謎の煙が立ち上り、強烈なショックで俺は地面にピクピクと倒れ込んだ。

 

俺……もしかしたらこのまま死ぬのかなぁ。

なんかポッキリ折れた気がする。何が折れたんだろう。歯は……無事だ。じゃあ心だ。心が折れた音だわ今のは。

 

……。

 

……まあ、ルーナが元に戻ったなら一安心か。

 

よし、やるか。

 

乾いた土に顔面を埋めたまま、俺は静かに決意を固める。

 

今はあのチョロチョロ湧く微かな水場しかないけれど……絶対に、この村を水で溢れさせてやる。

溺れて文句言っても知らんからな! ばか!

 

 

 

——その時。

 

地べたに押し付けた顔面越しに、地面の奥底から『チョロチョロチョロ……』と何かが流れる微かな音が聞こえた。

 

大丈夫。活路はある。絶対にだ。

諦めなければ……道は拓ける。

 

 

 

……

 

 

 

それが、近くの横穴(トイレ)から聞こえてきたリザード族の子供の放尿音だと気づいたのは……

 

俺が、気合いで地面から立ち上がった直後のことだった。

 

 

 

 

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