ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あって一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
「うっわぁ……改めて見ても、すげえ景色だなぁー」
見上げる視線の先には、見渡す限りの荒涼とした岩壁が天に向かってそびえ立っている。
「はぁ……。あんなことがあった直後なのに、気楽ですねえ。あなたは……」
ルーナが、呆れたように深く息を吐き出した。
……うん。まあええやん。しゃーないし切り替えてこ。
悩んでても何にもならへんさかいな。
気を取り直して、ぐるりと周囲の地形を見回す。
「正直……ここら辺の地形自体は悪くないんだよなぁ」
「斜面自体を利用して段々畑にもできるし、谷底の方は平坦になってるから、色々融通が効きそうだし……」
切り立った崖と谷底の平地。
俺が師匠と住んでた土地も、大体こんな感じだった。
……だが、そこでは師匠が裏で色々やってくれてたから、資源が不足するなんてことを感じたことはなかった。
今考えたら相当苦労してたんだろうな、あの人。
……だが、この場所には決定的に不足しているものがある。
言わずもがなだけど。
まあ、改めて言っておくか……
「結局、問題なのは——」
「水源……ですよね」
ルーナが、俺の言葉を遮ってくる。
彼女は、顎に親指を当てて思考を巡らせていた。
……もう、俺が言いたかったのにぃ!!
まあ、最初っからそこが問題なんて誰でもわかってるだろうけどね!! てか考える時のポーズかっこいいな!! 名探偵みたい!!俺も今度やってみよ!!
ルーナが、重ねるように土地について説明してくれた。
「このあたりはラグナ渓谷という土地で……昔は綺麗な水が流れていて自然も豊かだったそうです。」
「……過去に、上流が人間に水がせき止められ徐々に枯れた土地になっていった。と……魔族の歴史書では、そう学びました」
乾いた風が吹き抜ける岩場の中で、ルーナが少し気まずそうに言い切る。
ふぅん……まあ、ここらへんは比較的に人間領と近いもんね。
そりゃ因縁深くもなるわな。
「うーん……せき止めてる人間側に交渉して、水流を分けてもらうとかも出来ないのかなぁ」
単純だが、正直これが一番手っ取り早い。
俺の考えに、ルーナが小さく首を振る。
「それは……難しい、です」
きっぱりと言い切るルーナに、ふと疑問が湧く。
「え、なんで?」
すると。
ルーナが指を立てて、順序づけて説明をしていく。
「ラグナ渓谷の上流には、人間たちの街があります。そこで暮らす人々も、農業を営む人々も……その水に頼っているんです」
「それに……一度水を分けることを認めれば、今度は別の人間や魔族が『自分たちにも水を寄越せ』と言い出すかもしれません」
「特に……人間たちにとって私たちは敵です。敵に水を渡すということは……自分たちの生活を削ってまで、敵を生かすということですから」
ルーナは足元へ視線を落とし、掠れた声で続けた。
「実は……前に、妹と一緒に何度か交渉を試みました。……結果は、全部駄目でしたけどね……」
「交渉の余地も無く刃を向けられ……『街に一歩でも入れば殺す。』とまで言われてしまいました……あはは」
頭を掻きながら、暗い記憶を噛み締めるように苦笑いを浮かべるルーナ。
……うーん。まあ、そういうことなら難しいかぁ。
てか、こいつ本当に色々頑張ってたんだな。
だけど、今回はワンチャンあるんじゃない?
だって——
「……俺勇者だし、俺が言ったらなんとかなるかも。」
「ちなみに、その街はなんていう名前なの?」
俺の問いに、ルーナが記憶を凝らすようにゆっくりと答える。
「たしか……『アクアリール』。だったと思います」
アクアリール——
その言葉に、俺の心臓がキュッと縮まる。
「あぁ、無しだな。無し無し。」
あかん……。
アクアリールは、あかん。
依頼を終えた後……。
白壁が並ぶ綺麗な街並みに浮かれて、戦士のカイルと浴びるように酒飲んでナンパしまくってたら、目が覚めた時には薄暗い留置所に投獄されてたとこだ。
アイツが女の子に注目されようとして上裸で踊るもんだから、こっちも負けじと下半身を露出したんだっけ。
パルシィとセシリアが、必死に役人に頭下げてたなぁ……。懐かしい。
俺とカイルは物の見事に出禁食らったなぁ。目覚めた時の牢獄の冷たい石床の感触と、腰が凄く痛かったことだけは鮮明に覚えてるわ。
……にしても、出禁が無かったとして勇者だからと意見を通せる自信も資格もない。
リザード族が水不足で困ってるから、水源分けて?なんて言えんわ!!戦争になっちゃう!!そんなの、リザード族が滅んじゃうぅ!!
まあ……俺の力で人間側を降伏させることもできる。
だけど、そんなことしたら人間たちが本腰入れて魔族全体を滅ぼそうとしかね無いし、何かしらの大問題になるのは目に見えてる。
……単純な問題じゃないよな。そりゃ。
ルーナだって、頑張ってたんだろうし。
まあ、これについては別の方法を考えるしかないか……。
などと、色々と思考を巡らせていると——
「……レオン。もしかして、アクアリールで何かやらかしました?」
ルーナが疑いの眼差しを俺に冷たく向けてくる。
こ……こいつ……!
んもう!反省したんだから、ほっといてよお!!
「……何もやらかしてへんけど?疑ってんの?おぉん?」
首筋から流れ出る冷や汗を必死に隠し、ルーナに早口で凄んで言い返す。
ルーナがそんな俺を見て、ぷっと笑う。
「ふふふ……絶対に何かあったんじゃないですか。もう。」
「レオンは、本当にわかりやすいですねぇ……口調だって、すぐに変になるし……ふふっ」
さっきまでの暗い表情とは一変、彼女の頬に少し朱が走り、可憐な笑顔が戻っていた。
……こいつ、マジで可愛いな。普通に結婚したいんだが。
結婚式はどこであげようかな……。いっそ、アクアリールであげちゃう?あんな綺麗なところで挙式出来たら最高だなぁ。ルーナの純白のドレス姿、絶対綺麗だわ……んふふ。
いっそ、5次会ぐらいで下半身出しちゃおっかな!お父さんお母さん、これが貴方たちの孫ですよ!なんちて!!いや、もう出さんわ!!てか出禁食らってるから、街に入れないんじゃ!!くそが!!
……そんな馬鹿馬鹿しいことを長々考えていると、ルーナが赤茶けた岩肌をじっと観察して、ボソリと言う。
「レオン……見てください。ラグナ渓谷ってところどころに植物が生えてるんです。生えてるところと岩肌剥き出しのところと……違いは、なんなんでしょうか」
ルーナの言葉に、俺も目線を落として地面をじっくり調べる。
……確かに。さっきまではなんとも思わなかったけど、よくよく考えたら変だ。
荒涼とした岩場で、なぜ部分的にだけ草が生えているのか? 陽の当たり方か?
……なんだか、植物の根元の土だけは若干湿ってる気がする。
ほんとに……ビミョーにだけど。
ルーナと一緒にしゃがみ込んで地面を調べていると、突然無邪気な声が頭上の岩壁から降ってきた。
「おねえちゃんたち……そこでなにしてるのー?」
タンッと軽やかに崖から跳び下り、興味津々でこちらに近づいてくる。
……こいつ、さっきトイレに行ってたリザードのガキだ。
あの時、俺に期待させるだけさせといて……。
まったく、許せんガキだ。
ルーナがニコニコしながら膝をつき、リザードの子供に目線を合わせて話しかける。
……こいつ、子供が好きなんだな。
「水脈探しです……何か知ってることとかありませんか?どんなに小さいことでも構わないので、あれば是非教えてください……」
小さな子供相手にも、しっかりと頭を下げるルーナ。
健気な子やで。ほんまに……。
おめでとう。お嫁さん検定、文句無しの合格です。合格者はそのまま僕の隣にお座りください。
すると。リザードの子供は一瞬困った顔をしたが、すぐに元気良く答えた。
「うーん……ぜんっぜん!!何も知らない!」
……使えんガキやで。
ルーナも少し落ち込んで「そうですよね……ごめんなさい」って頭下げてるし。悲壮感漂いまくりや。
「あーー!!でもねー!!」
リザードの子供が思い出したかのように、大きな声をあげる。
……くだらんことやったら、このガキマジでいてまうぞ!!
「おじいちゃんがねー。昔はここに水湧き場があったんだって言ってたよ!!」
……知っとるやないかい!!はよ言えそれを!!
「ほ……本当ですか!?」
ルーナの碧眼が、パッと明るく輝く。
「うん!!でもねー、おじいちゃんが子供の頃には、枯れちゃってたんだってさー!!」
……いや、この情報はでかい。
枯れたにしても、かつてこの地下には水が湧いていたのだ。
つまり……
可能性は——ある。
「ふぅ……。ボク、喉が乾いちゃったから帰る……」
リザードの子供が、渇いた喉を鳴らして小さく漏らす。
すると。「あ、そうだ……」と、ルーナが迷わず自分の革水筒を差し出した。
「これ!飲んでください!!もうあまり入ってませんけど……」
自分だって「喉が乾いた」と零していたくせに、笑顔で子供に水筒を差し出すルーナ。
……ちっ。俺の水筒はとっくに空だわ。
節約すりゃ良かった。男が情けねえ。
「え……いいの!?やったぁ!!」
水筒を受け取って、嬉しそうに立ち去ろうとする子供。
すぐに飲まへんのかい!!意外と余裕あるんかい!!
「ここで、すぐに飲まないんですか?」
ルーナがキョトンと不思議そうに声を掛ける。
「うん!!妹がね!!喉乾いたっていつも言ってるから、妹にあげる!!」
「ぼくの妹ねー。体が弱いからねー。お水がいっぱいひつようなんだー!!」
「ぼくはね、もうちょっとだけガマンできるから!!じゃあね、お姉ちゃんたち〜」
そう言って手を振り、崖の段差をぴょんぴょん飛び跳ねて帰って行った。
我慢できる……か。
ガキのくせに、痩せ我慢しやがって。
俺は、小さくなっていく後ろ姿をじっと見つめる。
あんな細い身体で。妹のために、自分の喉の乾きまで我慢して。
「…………」
なんか、すっげえムカついてきたわ。なんで水が無いんだ。
なんであんな小さな子供まで苦しまなきゃいけない。我慢させなきゃいけない。
……ガキには、何の関係もないだろ。
大人のくだらない争いも。人間と魔族の因縁も。
そんなもん、あいつらには関係ない。
……もう、俺のやることは決まりだ。
「ルーナ……掘るぞ」
「ここの岩盤……掘って掘って掘りまくって、水脈掘り当てる。それで、あのガキどもの喉を潤しまくってやる」
「近くの人間の街で資源を買い揃えて……そっから作業を始める。異論は聞かんぞ。」
俺の言葉に、ルーナが力強く頷く。
「はい……!」
「子供たちのためにも、一日でも早く水源を確保しましょう……!!」
二人で目を合わせて、決意を固めた。
……こいつ、どんだけ顔整ってんだよ!!
絵だろ!!もう、これ絵や!!
ルーナの顔をまじまじと見ていると、突然ふいっと目を逸らされた。
……やばい。しばかれる。
そう思って身構えると、ルーナが気まずそうにボソリと口を開いた。
「近くの人間の街って……山を越えたところのアクアリールですけど。」
「レオン……さっきなんか言ってましたけど、大丈夫なんですか……?」
彼女は、とても心配そうな目で俺を見上げていた。
「……フード深く被るから、めちゃくちゃ余裕だよ!」
首元のフードを勢いよく被って、自信満々にグッと指を立てる俺。
背に腹は変えられんからな。まあ大丈夫っしょ。バレへんバレへん。
冷や汗だらだらな俺を——ルーナが冷ややかな目で見つめる。
「…………あなた、アクアリールで一体何をしたんですか」
……うっせえ!!おいなりさん出しただけじゃ!!
自然界ではそれが普通やろがい!!
とは、決して言えず。
とりあえず黙ることにした。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
そのまま——
俺たちは……微妙にギクシャクしながらも、アクアリールへと足を速めることにした。
……正直、行きたくはないけどね。
出禁食らってる勇者だってバレたらどうしようかしら。また下半身出したら上手いこと罪が相殺されないかしら。
まあ……きっと、なんとかなる。
絶対大丈夫だ。
自分に必死に言い聞かせていると……隣を歩くルーナが、風の音に紛れるような声でボソリと呟いた。
「……レオン…………ありがとう…………」
んん?なんて言った?聞こえへんかったんやけど……まあ、いいか。なんか傷つく系のことだったら心が傷んじゃう。
アクアリールまで、山道を越えて大体片道半日くらいか。
よーし、頑張るぞー。
……
…………
そこからは——
気は重いし、体は疲れ切ってたけど……不思議と足取りは軽かった。
あのガキの喜んだ顔を想像するだけで……なんだか、頑張ろうって気になれたから。
だって……
子供は——笑ってる方が、1番良いだろ。