ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
「すみません……町長にご挨拶をさせていただきたいのですが……」
ルーナが、申し訳なさそうに屋敷の門前に立つ衛兵の男へ丁寧に頭を下げる。
一瞬、衛兵の男がルーナの整いすぎた容姿を目の当たりにして真っ赤になり、慌てるような素振りを見せたが、すぐに咳払いを一つして落ち着きを取り戻し応対する。
……わかるよ、君。
そいつ、焦るぐらい可愛いよね。
男なら誰でもそうなるわ。一緒に冒険して1週間ぐらい経つけど、不意に美人すぎてビビるもん。顔見つめたら怒られるからあんま見れないけどね。
重厚な鉄柵の向こうには、手入れの行き届いた広大な青々とした庭園が広がっている。
柵越しに見える中庭の中央には、意匠の凝らされた大理石の噴水まで鎮座していた。
この街の人、噴水好きやなぁ……。
街の至る所にあるくないか!? お金持ちの人はMy噴水を持ちたがるのかしら。わからないわー。
アクアリールの町長の屋敷は、一目でわかるほど莫大な資金が惜しみなく投じられていた。
随所に高級感を漂わせる邸宅の威容に、俺はただ圧倒されていた。
……だが、ルーナは特に気にする素振りも見せず衛兵と冷静に話を続けている。
うん。まあコイツ魔王やしな。お貴族様ならこれくらい日常風景なのかもね。なんかちょっと寂しいわ。
もしかしたら、ルーナの実家にもドカンとバカでかい噴水とかあるんかもしれんな。あとで聞こーっと。
……
そして——
衛兵との会話を終えたらしく、とぼとぼとした重い足取りでこちらに戻ってくるルーナ。
見るからに悲壮感が漂う暗い表情からは、一切の吉報が期待できなかった。
「……ダメでした。町長と話をするためには、しかるべき手順を踏むしか方法はないようです……」
さらに、遠い目をしながら言葉を続ける。
「アポイントのスケジュールは既に埋まっていて、早くても半年後にしか取れない……と」
「どうしよう……。もう……どうしたらいいか、全然わかんない……っ」
ルーナはその場にへたりとしゃがみ込み、両手で顔を覆ってしまった。
……コイツは、ここにくるまでどれだけ大きな勇気を振り絞ったんだろう。
かつて「次は命はない」とまで脅された、トラウマの残る人間の街へ足を踏み入れ。
重厚な屋敷の前で衛兵に頭を下げて、なんとかならないかと必死に交渉を重ねていた。
——あれ?
なんか、ここ最近の俺……
ルーナに任せてばっかりじゃね?
元々、俺そんな格好悪い奴じゃなくね?
いや違うねん。ここ最近、シリアスで真面目な話ばっかりですやん!!ばり重いて!!
そりゃさ、リザードの子供の件とかはふざけないよ? さすがにね?
まあそれにしても、あまりにもルーナに丸投げし過ぎだわ。
……しゃーない。
俺が一肌脱いでやる。
———文字通り、な。
「……おい、ルーナ。しばらく、そこらへんで時間を潰しててくれ」
「俺が……この状況をなんとかする。町長への交渉に繋げる奇策を思いついた」
ルーナがハッと顔を上げ、得体の知れない恐ろしいものを見るような眼差しで俺を見つめてくる。
……めちゃくちゃ警戒されてる。
やっぱり、こいつ無駄に勘が良いな。
「き、奇策……ですか?」
「それは……どんな策なんでしょうか……」
疑惑の目で視線を細めるルーナに、俺は胸をドンッと叩いて自信満々に答える。
「ルーナ……こういう時に大事なことは、何かわかるか?」
「へ……? け、計画性と誠実さ……でしょうか……」
恐る恐る答えるルーナに、俺はやれやれと呆れたように首を振る。
「はぁ……。違う。全然違う。」
「ルーナよ……。大事なのはな、ノリと勢いとパッションだ! 師匠が俺に教えてくれた……!!」
「……というわけだから、どっか行ってろ。お前の前じゃ、俺は全力が出せねえ」
「危険なことに……お前を、巻き込みたくないんだ……。わかってくれ」
俺は、一刻も早くルーナをこの場から遠ざけようと手をシッシッと振る。
……ちょ、マジでどっか行ってくれないかしらこの子。恥ずかしいから。
だが——
ルーナはぶんぶんと激しく首を振って拒絶した。
「い……嫌です! わ、私は……沈む時は、あなたと一緒です……っ!!」
ルーナが少し泣き出しそうな顔で、俺の服の裾をぎゅっと引っ張ってくる。
なぜか……妙に心に響いてしまったらしい。
……ちっ。もう、しゃーねえな。
今からやる『勇者の全力特攻』を、コイツに見せたくなかったんだがな。
「わかった。じゃあ……少しだけ離れててくれ。」
「ちょっくら…………ひと仕事してくるわぁ……」
追い縋るルーナの手をゆっくりと振り払い、俺は衛兵の立つ正門前へと一歩ずつ近づいていく。
……腰元のズボンのベルトを、カチャカチャと音を立てて外しながら。
……
「あ、あのぉ……衛兵のおにぃちゃぁん……」
「僕ちん、落とし物したんですけど……。ど、どこかで見てないですかぁ……?」
なるべく、泣きそうな情けない顔で同情を誘うように話しかける。
「ん……なんでしょうか———」
不審そうにこちらを向いた衛兵だったが、俺の腰元に視線を落とした瞬間、顔面を一気に蒼白に染めた。
「ん?……んん!? な……なんだ貴様はぁっ!!!!」
あまりのショックに叫び声を上げ、槍をこちらに向けて突きつけてくる衛兵。
「その……粗末なモノを早く仕舞えぇ!!」
そう——
俺は…………
下半身丸出しで、町長邸へ特攻していた。
「えぇ、そんなぁ……ひどいよぉ……」
「はぁ…………。僕ちんのちんちん……一体どこに行っちゃったんだろう……」
くたびれたように大きな溜め息を吐いて、親指をちゅぽんと咥える。
「そ……そこに、しっかりとついているだろうがぁ!!」
衛兵が声を荒らげ、額に血管を浮き出させながら槍の矛先を、少し下にある俺の剥き出しの愚息へと向ける。
ひ、ひぃぃぃ!!こ……こわいぃ!! やめてぇ!!
当たったら、色々な意味で死んじゃう!!勇者の貴重な子孫が途絶えちゃうぅ!! 世界の損失ぅ!!
……いや、落ち着け!! こういう時ほど、クールになるんだ!!
体は熱く、心は冷静に!!色即是空ぅ!!
「……うっわぁ! ほんとうだ〜〜!!」
「やったー!!ありがと〜衛兵のおにぃちゃ〜ん!!」
「えへへ!僕ちんのちんちん!ちゃんとここにあったよ〜〜!!」
自分の股間を見下ろしてパァッと表情を明るくし、無邪気に手を振ってそのままルンルン立ち去ろうとする俺。
「貴様を拘束する!! 手を挙げて大人しくしろぉ!!!!」
立ち去ろうと振り返った瞬間に——
背後から強烈なタックルを食らい、衛兵にのし掛かられる形で石畳へ取り押さえられた。
「……おぼふっ!!!!」
く、くそ……もっと優しくしてくれ……! 俺の唯一の血族が押し潰されちゃう……!
一瞬……遠くの建物の影から、こちらを呆然と見つめるルーナの顔が視界に入った。
「……………………」
み……見たことないぐらい、引きちぎらんばかりにドン引きしていらっしゃる……。
……いや、しゃーないやん!!
こうでもしなきゃ、町長に無理矢理にでも会ってもらえなさそうだなって思ったんだもん!!
……。
ん……あれ? 待って。ルーナの唇が、何かかすかに動いてる……。
何を言ってるんだ……?
目を凝らし、離れた場所にいるルーナの口元をじっと凝視する。
……相変わらず、プリッとしてて可愛い唇やなぁ。
いや、違う違う!!
うーん、なになに…………。
し……?
ね……ば…………
い、い………………の? ……に?
で、合ってるかしら?
うん?
『死ねば良いのに』??
……。
……ちょ、ひっど!!!!
そんな直球の暴言言わないで!! 僕ちんのガラスの心が砕け散っちゃう!!
……
…………
そのまま——
ガッチリと手枷をはめられ、下半身丸出しのまま衛兵に連行されていく俺。
……ああ、この街の留置所に入るのはこれで二度目かぁ。
今度は、石床のタイルが冷え切ってないと良いなぁ。
拘束されながら、ぼんやりと見上げた空は——
西の空から夕暮れの朱色が広がり、徐々に濃い群青色へと混ざり合っていくグラデーションを描いていた。
うん。めちゃくちゃ綺麗な夕空だ。
ルーナも今頃、どこかでこの空を見上げてるのかな。
……なんにしても。これで何が何でも町長と直談判できる可能性が増えた。この無謀なチャンスを、絶対に活かしてみせる。
ルーナ……待ってろよ!!
絶対、俺がなんとかしてやるからな!!
……
…………
連行される道中——
夕風に揺られてぶらんぶらんと揺れ動く俺の愚息を目撃し、街を行き交う住人たちが次々と悲鳴を上げて散っていく。
その光景は……あたかも、魔王を討伐した伝説の英雄が凱旋したかのようで。
通りには人だかりができ、まるで俺の輝かしい帰還を街全体が祝福してくれているかのようだった。
——と、全力で思い込むことにした。