ナンパ大好きな勇者だけど、自害しようとしてる美少女を引き止めたらポンコツ魔王だった件。そんで、色々あった結果一緒に農業やることになった。 作:ジュウヨン
「……やれやれ、また貴方ですか……」
「前回は、酒の席だったのでまだ理解はできましたが……
今回ばかりは流石に露出癖があるとしか思えませんね」
「お久しぶりです、勇者レオン。
町長の——ウォルタ=アクアリールです」
一本の蝋燭だけで照らされた暗い牢獄。
太い鉄柵の向こう側で、高貴な服を纏った長身の男が、優雅に笑みを浮かべて佇んでいた。
……うわ、懐かし。
この薄寒い笑顔がすっごく苦手だったなぁ……。無駄にイケメンだし。
カイルとずっと裏で愚痴ってたっけ。パルシィが目を細めて『なにアンタ達。嫉妬してんの?』って言ってきて、何も言い返せなかったなぁ。
その後……パルシィへの悪口で大盛り上がりしたのは、カイルとの良い思い出だ。
「そんな癖なんて無いですよ……。町長」
ボソッと短く返事を返す。
後ろ手を金属の手枷で拘束され、椅子に体を縄で括り付けられているため、全く身動きがとれない。
ウォルタが相変わらずの笑顔で返す。
「ウォルタで良いですよ、勇者レオン。私と貴方の仲だ」
「……ですが、そういう癖でないとすれば何故あのような愚行を?」
ウォルタが、笑みを浮かべたまま不思議そうに首を傾げる。
だが直後……俺を連行した衛兵の方に顔を向けた。
「ああ、そうだ。君は席を外していただけますか? 彼は……僕の友人です」
それを聞いた衛兵がギョッとして声を上げた。
「こ……この品性の欠片も無い変態と……町長がご友人、なのですか……っ!?」
……酷すぎるにょ。
てか友人ちゃうわ!! 言ったらややこしくなるから言わんけど!! こんな友達いらんわ!! 俺は俺よりカッコいい奴と仲良くならないって決めてるんじゃ!! ぼけ!!
ウォルタが穏やかな声で続ける。
「はい……。彼には数年前にとてもお世話になりましてね」
衛兵がさらに困惑した様子で声を荒らげる。
「し……信じられません……!! まさか町長が……こんな下劣な男と———」
「早く去りなさい。……このやり取りが時間の無駄だとわかりませんか?」
衛兵の声を静かに遮る、氷のように冷たい声。
ここからだとウォルタの表情は見えないが、衛兵の肩がビクンと跳ね上がり、「し、失礼しました!!」と足音荒く牢を後にした。
……
「ふう、これでやっと二人で話ができますね」
「ところで……何故、出禁となっているこのアクアリールに来られたんですか?」
柵越しのウォルタに、縛られたまま俺はできる限り深く頭を下げる。
「ウォルタ町長……。お願いがあります」
「町長が独占されているピッケルを……俺に売ってください」
俺の言葉に、ウォルタがピクリと反応する。
「なるほど……そのために露出を。いやはや、実に貴方らしい破天荒な行動ですね」
「……しかも、珍しい。ピッケルが必要、ですか……。生憎、金脈が見つかったということで人員も資源もフル稼働で掘削に当たっておりましてね……」
俺は、それでも頭を下げ続けた。
「……そこをなんとか、お願いします」
「今すぐに必要なんです」
……リザード族の子供の顔が頭に浮かぶ。
喉を渇かせて、村中央の細い湧水を指を咥えながら見つめていたあの姿。
そんなひもじい思いを子供には絶対にさせたくない。
当たり前のことを、当たり前に思える世界を見せてやりたいんだ。
そんな俺の必死な様子を変に思ったのか、ウォルタは楽しそうに頷く。
「うんうん。事情はわかりませんが、貴方の望みはわかりました。」
「貴方には過去に助けていただきましたからね……。私も出来れば恩返しがしたい」
その言葉に、俺が思わず安堵を漏らすと——
ウォルタ町長が、思い出したかのようにピンと人差し指を立てる。
「あぁ……そういえば——」
「僕の屋敷の周りをウロウロしている、金色の髪に美しい碧色の眼をした女性がいましてね……」
「貴方と仲良く話をされていたらしいですが……。あの方は、あなたの知り合いですか?」
そのまま、彼はニヤリと笑みを深めて言葉を重ねる。
……や、やばいにょ。
ルーナのこと完全にバレてるかもぉ。一歩でも入ったら殺すって言われたって言ってたもんね……。お願い!!ルーナが魔王だって気付かないでぇ!!
「いえ……というのもですね。以前に、僕はあの女性と会ったことがある気がするんです」
「勘違いじゃ無ければ、ですが……」
「彼女———もしかして、魔王ではありませんか?」
ウォルタ町長が確信めいた笑顔で、更にもう一本指を立てた。
……ば、バレてりゅぅ!!
やだあああああああ!!! ルーナ!!!! 逃げて!!!! 超逃げてええええ!!!!
「うーん……だとしたらおかしいんですよねぇ。私はね、以前彼女に言ったはずなんですよ。『この街に一歩でも入れば、命は無い』と。」
「とても残念ですねえ……。彼女は納得してくれたとばかり思っていましたが———」
「つまり……これは、そういうことと捉えても良いんでしょうか?」
ウォルタが笑顔のまま、立てていた指をグッと握り締める。
その瞬間——
俺の頭の中で、何かがぶちりと弾けて真っ白になった。
腕に力を込めた瞬間、手枷も縄も弾け飛ぶ。
そのまま鉄柵へと歩み寄り、隙間からウォルタの首元に掴みかかった。
「その女に指一本でも触れてみろ。生まれてきたことを後悔させてやる」
知らぬ間に、地を這うような低い声が喉を通る。
だが表情を変えず、笑顔のまま俺を見つめ返すウォルタ。その態度からは微塵の怯えも感じられない。
……俺を、舐めているのか?
こいつが、なんだっていうんだ?
こいつは……ただの人間だ。偉いだけの人間。金を持ってるだけの人間だ。
一瞬だ。
俺なら、一瞬で終わらせられる。
命は奪らない。だが……いくらでもやりようはある。
……その時。
この街に向かっている途中——
俺の馬鹿話を聞いて、ルーナが困りながらも楽しそうに笑っていた顔が頭に浮かんだ。
『あなたは、勇者なんですから……しっかりしてくれないと困ります』
『もう……レオンは本当にお馬鹿なんですから。ふふっ』
喉が渇いて、お腹だって空いてて辛いはずなのに。
それでも……本来なら敵であるはずの勇者の俺に、あの温かくて優しい笑顔を見せてくれた。
……。
……ルーナを傷つける奴は、誰であろうと許さない。
しばらく、殺気混じりの重苦しい空気が硬直する。
……すると。
ウォルタが俯き、肩をぷるぷると震わせ始めた。
「…………くくっ」
「ふふっ…………あはははははは!!!!」
「嫌だなぁ……そんなに凄まなくても何もしませんよ!」
「いやぁ……それでは……。きっと、彼女が魔王だというのは僕の勘違いですねぇ〜。勇者と魔王が仲良く一緒にいるなんて言えば、街の人間に笑われてしまいます」
「いやいや、これはこれは……大変失礼いたしました。勇者レオン」
「あなたのここまで怖い表情は、初めて見ましたよ……。数年前の依頼で、クラーケンと相対した時にも見れなかった」
「……それほど、彼女が大事なんですね。ふむふむ。この事実はとても面白い」
「じゃあ……この手、そろそろ離してください。せっかくの貴重なシルクのシャツが伸びてしまう。ああ……安心してください。彼女には何もしてませんし、するつもりも一切ありませんよ」
その言葉に含まれた真実味を感じ取り、俺がじんわりと腕の力を抜くと、ウォルタは牢を開錠し指でクイクイっと外に出るように合図をした。
……嘘は、ついていなさそうだ。
「実は……僕も貴方に用がありましてね。いやはや、丁度いいところに来てくれました」
「勇者レオン……貴方に、頼みたい仕事があります」
「依頼を受けていただければ、貴方の望む報酬をお渡ししましょう。ただし……断れば——」
「……まあ、特に何もしませんが。もちろん、受けていただけますね?」
楽しそうに、笑顔のまま話かけてくる。
思わず……緊張の糸が解けたように溜め息が出た。
「はぁ…………。ああ、受けるよ」
「ウォルタ町長……さっさと話を聞かせてくれ」
俺がぶっきらぼうに答えると、ウォルタ町長はふと表情を和らげ、そのまま地上への階段を上がっていく。
俺も、その後を追った。
……あらやだ。
久々に本気で怒っちゃった。てへ⭐︎
てか、街で一番偉い人に掴みかかっちゃったぁ!!
やばいぃ!! どうしよぉ!? 俺打ち首とかになっちゃわないかな?! 怖すぎぃ!!
もし依頼内容が「自害しなさい。」とかだったらどうしよう!! イヤアアアアアアア!! ルーナああああああああ!! 僕ちんを助けてええええええええええ!!!!僕ちんはここにいるよおおおおおおおお!!!!
Help!! Help meeeeeeeeeeeeeee!!!!!!
⸻
一方、その頃——
「…………くしゅん!!」
「この街……水場が多くて冷えるなぁ……」
手が悴んできたので、こすこすと両手を擦り合わせる。
そういえば……さっき一瞬通りかかった町長さんが、こっちの方を見ていた気がする。
数年ぶりに見たけれど、相変わらずシュッとした人だったなぁ……。
でもあの笑顔……なんか不気味で苦手だ。
宰相のガルドみたいで。
……まあ、私が魔王だとバレていたら即その場で取り押さえられたはずだし、きっと気のせいだよね。
彼はすぐに目を逸らしていたし。バレてはいないはずだ。
はぁ……。
レオン、大丈夫かなぁ。
突然、ズボンを脱ぎながら衛兵さんに話し掛けに行った時はビックリしちゃったけれど、レオンなりに何か考えてのことなんだよね。……多分。
下半身丸出しで取り押さえられている情けない姿を見た時は……思わず死んで欲しいと思っちゃったけれど。
いや、だって!
あんなことをするなんて思わなかったんだもん!!
でも……きっと、レオンならなんとかしてくれるはずだ。
……。
……彼は、本当によくわからない人だ。
すけべだし。ヘンタイだし。
隙があれば私のことをベタベタ触ってくるし。
旅の途中……
何度ビンタをしたかはもう数えていない。
でも——
彼の言葉は、本当に力強い。
『耕すぞ』
『魔王軍の土地を耕して、食べ物を沢山作って……今より、もっと豊かにしよう』
『俺、手伝うし』
あの時——
絶望に追い込まれ、自ら命を断とうとしていた私にそう言ってくれた。
私は……彼が勇者だとわかるとすぐに殺そうとしたのに。
それなのに。
私の手を取って、一緒に頑張ろうと言ってくれた。
正直、意味がわからなかったし……
全く信じる気になれなかった。
でも……
『俺は勇者だぞ!! とりあえず困ってる奴がいたら助けるって昔から決めてんだよ!!』
『腹減ってる奴がいたら何か食わせてやりてえし、道に迷ってる奴がいたら行き方を教えてやる!!』
『人間だとか魔族だとか、そんなことに毛ほどの興味もねえ!!』
『とにかく、これが俺の信念だ!!!!』
耳触りの良いだけの綺麗事。
でも——彼の目を見ればわかった。
これは、決して嘘じゃない。
本当に……馬鹿だと思った。
彼の思想を嘲笑う人はきっと少なくない。
殺すか殺されるかの世界で……
敵味方関係無く人助けがしたいだなんて、馬鹿げてる。
でも———
私も、彼のようになりたいと思ってしまった。
スケベで、声が大きくて、口だって悪くて。
でも……
誰よりも正直に、真っ直ぐ生きようとするあの男のように。
……。
……。
いや、だけど……あれ……
ちょっと待って……
私、レオンのことを美化しすぎてない?
〜〜〜
『やったー!!ありがと〜衛兵のおにぃちゃ〜ん!!』
『えへへ! 僕ちんのちんちん! ちゃんとここにあったよ〜〜!!』
〜〜〜
嘘。訂正。
冷静になった。
私は、あんな生き物には死んでもなりたくない。