『現在位置、トリステイン王国、首都、トリスタニア。』
『作戦目標、徴税官“アンベール・シャルトル”。備考、彼の前々任者はチェレンヌと呼ばれた人物です。備考2、チェレンヌはエージェント47によって暗殺されました。』
『作戦注記、上級委員会より通達。アンベール氏の暗殺に際し、一部の対抗勢力による介入が予測されています。対抗勢力による妨害があった場合、これを排除してください。排除の方法は指定されていません。』
『作戦依頼者、トリステイン王国、ポタル派議員連盟一同。注記、ポタル派はターゲット、アンベールの所属するギムリ派と対立している勢力です。依頼理由、政敵の排除。」
『準備は一任されています。作戦を開始してください。』
~準備~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・メンバー
【エージェント66(タバサ)】
装備:隠密用魔導杖
服装:一般平民服
『エージェント66。現着。』
『トリスタニアは現在、12月に相当する「ウィンの月」です。市街地では新年を祝う「降臨祭」という行事に向けて各店舗が年末商戦を繰り広げており、人の往来は増加傾向にあります。』
『作戦情報。ターゲットは既に今月の税の徴収を終了しています。現在は自身の館に在籍している可能性大。注記、館は前回暗殺任務を行った元チェレンヌ徴税官の館です。』
『エージェント66、あなたはこの世界ではそれなりに知名度があります。市街地を隠密行動無しで行動した場合、あなたを知っている人物に会う可能性もあります。接触は禁止されていませんが、作戦行動に支障をきたす可能性もあります。注意してください。』
『幸運を。』
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ガヤガヤガヤ
ワハハハハ!
ヤスイヨヤスイヨー!
夕暮れの町は降臨祭直前ということもあって非常に賑わっている。吐く息は白く、石畳の通りにはローストされた木の実やホットワインの甘い香りが漂い、行き交う人々の顔は一様に明るい。
かつて私が通っていたトリステイン魔法学院の生徒たちの姿もちらほらと見受けられた。懐かしい光景だ。しかし、今の私は一人の生徒ではなく、ICAのエージェントだ。
私はその町の中央、まだ凍っていない噴水広場で噴水の縁に腰掛けて本を読んでいる。一応念のために魔法学院の制服ではなく、変装(作:ブルー)をしている。今のところ目立ってはおらず、深めのベレー帽で顔は隠れており、茶色に染色した髪のお陰もあって誰かに話しかけられるということもない。しかしここに到着してから発覚した問題がある。
以前47が任務を行った際は、正面ゲートから堂々と料理人になりすまして潜入し、ターゲットのグラスに毒を仕込んだと聞いた。あれは彼だからこそできる変装の神業だ。
私はまだ“変装”という点においては、周囲に怪しまれないように一般人の服装をするのが精一杯だ。料理人や使用人になりすますことは出来ない。つまり、以前使ったルートは使用できないということだ。
加えて、さきほど通り過ぎた使用人と思われるメイドが歩きながらこんな事を話していた。
「そういえば最近、館の警備が厳重になったと思わない?」
「そうそう。正門もしっかりと衛兵隊のメイジが、毎回ディテクトマジックで通過する人を確認してるわ。」
「周囲の塀も触らないようにってアンベール様から直々にお達しがあったし、多分探知用のマジックアイテムでも使ってるのね。」
「何をそんなに警戒してるのかしらね?」
「ほら、アレじゃない?例の・・・」
聞き取れたのはそこまでだったが、周囲の壁をよじ登るのも、正門から通過するのも難しい。となると残るは・・・空だ。
私は本を閉じ、チクトンネ街へ向かった。以前サイトやルイズ達が世話になった魅惑の妖精亭を横目に、ターゲットの館より2ブロック離れたある廃屋に目をつけた。そこは裏路地を通ってしか行くことは出来ず、路地の入口もかなり入り組んでいて目立たない。現に尾行はおろか通りすがる人さえもここにはいない。
私は廃屋の中へ足を踏み入れた。廃屋は放置されてからそこまで時間が経っていないのか、中はところどころ破損はしているものの比較的きれいな状態を保っていた。3階にある一室に入る。部屋の窓から屋根に上り、館の方へ駆け出す。
タッタッタッ
ガヤガヤガヤ
既に日も沈み、夜の帳が下りかけている中、屋根の上を静かに飛び移る私に気がつくものはいない。しかもICAで学んだ体術のお陰で、路地1本分程度の隙間なら魔法を使わずに飛び移れている。確かあちらの世界の言葉では「パルクール」と呼ばれる技術だ。少し前にブルーに見せてもらった3人組の女泥棒のアニメに着想を得ている。流石にレオタードは丁重に辞退させてもらったけれど。
そうして私は目的のターゲットの館の屋根に飛び移った。案の定、外周壁や扉には警報装置や警報魔法がかかっているけれど、2階以上にある窓にはその手のものは見受けられない。中から簡易的では有るが鍵がかかっており、それで十分との判断なのだろう。
しかし下手に
カチャ
キィィィィ
スタッ
首尾よく内部に潜入できた。後はターゲットを見つけるだけ・・・なのだけれど。
「・・・おかしい。」
思わずつぶやいてしまうくらいに内部が静か過ぎる。時刻は午後7時を回ったところ。まだ寝るのには早い。1階の広間や執務室、ダイニングなどで食事を取っていてもおかしくないはず。しかし食器の音も話し声も、使用人たちの声すら聞こえない。それどころか誰かがいる気配もほとんどない。今日は全員外出している? そんなはずはない。とすれば・・・
「トラブルの予感」
私は慎重に内部を調べて回った。
2階には誰も居らず、使用人の姿さえない。一応庭には衛兵と思われる兵士が何人かうろついてはいるが、中に入ってきたりはしない。外の巡回兵なのだろう。1階部分でも“ある部屋”以外は人の気配はなかった。本当に誰もいないのか、それとも風メイジである私の感覚をも凌駕するレベルで気配を消すのが上手い護衛を雇っているのか。
事前ブリーフィングではターゲットはただの徴税官。民衆の人気は可もなく不可もなく。チェレンヌの時のように嫌われてもいなければ、アンリエッタ女王陛下のように好かれてるわけでもない。ただの役人、というのが一番妥当な評価だ。そんな人物が、そこまでの凄腕の護衛を雇うだけの金も権力も持ち合わせてるとは思えないし、そもそも何もない平時にそこまで警戒する意味もわからない。
こちらの情報が漏れている可能性も考えたが、ICAはそもそも別の世界の組織、存在自体も王宮ですら把握しきれていないと思われる組織。情報が漏れるルートがそもそもない。
ではこの異様な状況は一体なんだろう・・・?
あれこれ考えていても仕方ないので、ひとまず1階の“ある部屋”──館の一番北の端にある書斎と思われるスペースへ向かう。その部屋の中からだけ、少なくとも3人の人間の気配がした。感覚が正しければ全員メイジ。そのうち二人は扉の近くで扉を警戒しているふうに思える。まるで今から襲撃があるかのような布陣だ。まあ実際、私という襲撃者がいるわけだけれど。
私はあえて隣の部屋に忍び込み、窓にこっそりと仕掛けを施す。仕掛けと言っても部屋にあった紐と椅子を使った簡単な陽動装置だ。部屋の外から紐を引っ張ればテーブルの上に不安定に乗せられた椅子が傾き、窓に向かって倒れる。
窓までの距離が近いのでおそらく割れるまでには至らず、椅子が窓に当たって少し音が出る程度だろう。しかし、この館の防衛装置がきちんと機能しているのであれば、その衝撃を侵入者と誤認してくれるだろう。
私は部屋の外から紐を引っ張った。
ガタン!
ナンダイマノオトハ
ミテコイカルロ
書斎の扉が少しだけ開かれる。おそらく慎重に様子をうかがっているのだろう。でも私には少しだけでも開いているだけで十分だ。
スリープクラウド
フワァ…
書斎の中に向かって眠りの雲を流し込む。おそらく魔法に対する防御体制もとっているだろうが、私のスリープクラウドはこの世界の通常のものとは少し違う。ICA技術部と共同で開発し、発展させたものだ。通常のスリープクラウドは白い霧のような雲を発生させ、それを吸い込ませて眠らせる。しかし、雲を媒体にしている関係で明らかに白いモヤが見えてしまうため、相手がメイジであれば予測して無効化するのはそこまで難しいことではない。
そのため実戦では役に立たないことが多いが、私のはその雲をほぼ完全に透明化することに成功している。加えて、含まれる魔力も通常の半分程度に抑え、もう半分にはセボフルランやイソフルランなどを用いた科学的な麻酔を複合させている。
つまり、優秀なメイジでさえも、ほとんどただの空気の流れにしか感じられない不可視の睡眠ガスになっているのだ。
ドサッドサッ
キィィドサッ
首尾よく眠らせることに成功した。眠った状態で扉を押し開けて倒れ込んできた衛兵は、右手に杖、左手に拳銃を持っていた。魔法を無効化された時のためか、口元に厚手の布を巻いてスリープクラウドなどにも対応しようとした形跡が見て取れる。
通常の魔法だったら、防がれるどころか扉を開けられてこちらが射殺されていただろう。一応慎重に中を覗くと、執務机に突っ伏しているターゲットと、その目の前で床に崩れ落ちている衛兵が居た。
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『ターゲット、アンベール・シャルトルを発見。任務を遂行してください。』
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部屋の中にもトラップが仕掛けられている可能性を考慮して、私はそのまま部屋の外から魔法で葬ることにした。
イーサ・ハガラース
ジャベリン
シュッ
ドスッ!
氷の槍は正確にターゲットの頭に直撃し、深々と突き刺さった。ミッション完了だ。
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『ターゲットキル。任務完了。任務更新、現場離脱。』
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「ふぅ・・・」
私は仕事が完了して一息つくと、どうやって離脱するかを考え始めた。そのときだった。
ガタガタ
パシュパシュ
グア!ギャ!
屋敷の外から銃声のような音が響いてきた。続いて、撃たれたと思われる兵士の断末魔も。もしや話に聞いていた“対抗勢力”とやらだろうか。
私は簡単に魔法で部屋を調べ、トラップがないことを確認するとすぐさま部屋の中に入り、クローゼットの中へ隠れた。隠れてすぐに外から人が数人入ってきた。
「っ!アンベール子爵!」
「遅かったか。」
「まあいい。元々死んで貰う予定ではあった。“アレ”を探せ。」
「探せって言っても大方・・・ああやはり。あったぞ。」
「・・・よしちゃんと指定の書類だ。長居は無用だ。撤退するぞ。」
「了解。」
タタタ…
クローゼットの隙間から見えた2人組の男は、ターゲットが座っていた執務机の引き出しを開けて中から書類を持ち去ったようだ。王宮貴族の服とマントを身に纏っているが、その足取りに衣擦れの音はない。魔法の詠唱も、この世界の騎士特有の踏み込みも見られなかった。ただ、ひたすらに無駄がない。
・・・何か引っかかる。これは・・・なんだろう?
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『エージェント66。上級委員会より情報更新。対抗勢力には不用意に接触せず、速やかに帰還されたし。』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私の思考は通信によって遮られた。まあいい。任務は達成したし、私も撤退することにしよう。ターゲットの死亡と内外の護衛の無力化によって、もう堂々と出ていっても問題はなさそうだ。私は裏口を目指して館内を歩いていった。
その途中、ふと窓から外を見ると、一人の衛兵が倒れているのを発見した。私は歩みを止め、周囲に敵の気配がないことを確認してから、その死体に近づいた。
胸からは赤いシミが広がっており、胸につけていた革の防具には丸く弾痕が開いていた。心臓を正確に射抜いている。それに銃特有の硝煙の匂いもしない。おそらく風魔法で霧散させたのだろう。相当な手練だ。相対するのは危険だったかも知れない。
「……。」
私は倒れた衛兵を静かに見下ろした。
何かがおかしい。だが、これ以上この場で思考を巡らせるのは得策ではない。
私はそのまま裏口の扉を開け、夜の街に紛れた。
~~~3時間後~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「タバサか。」
「(コクン)」
「ハルケギニアでの拠点の運営は他のものに任せたと言っていたな。」
「そう。信頼できる人物に委ねた。」
「こちら側の人間だろうな?」
「勿論。グラドスが見つけてきた人材。」
「グラドス・・・AIか。」
「・・・問題?」
「いや。ブルーとシルバーの担当AIを見ているとちょっと・・・不安でな。」
『おうおうおう!!なんでぇなんでぇ!オレっちの悪口が聞こえた気がするんだが?!』
「ウィートリー。」
『オレっちが言うのも何だけどな、グラドスのやつはだいぶ優秀だぜ。頭がキレるってこういう事を言うんだろうな。悔しいが俺様じゃアイツに性能面じゃ勝てねえな。』
「そうか。それならば安心できるかも知れないな。」
『探してきた人材ってのはなんつったっけかな・・・元スパイ?だか元掃除屋だかそんな感じだったはずだ。まあ詳しくは見てねえからわかんねえけどな。』
「問題ない。私は確認した。元NSAの暗号解読員。コードネームはEVAと言っていた。旧ソ連にいたけれど、とある事件がきっかけでKGBを離れたらしい。」
「とある事件?」
「スネークイーター作戦と、それに付随する案件。EVAの名を騙って中国のスパイが暗躍したらしい。そのせいで疑いをかけられて逃げるように離れたと言っていた。」
「スネークイーター・・・ああ、あいつの世界の資料にあった気がするな。あの世界出身者か。」
『まあそんなわけでよ。安心してくれちゃっていいぜ!』
「あなたがいうことじゃない。」
~~ミッションコンプリート~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・「メリークリスマス!」
【+1000】『屋根から侵入する。』
・「不可侵領域」
【+1000】『ターゲットの部屋に入らずに暗殺する。』
・「基本に忠実」
【+1000】『ターゲットを魔法で暗殺する。』
・「触らぬなんとか」
【+3000】『対抗勢力と接触しない。』
「知恵というものは、知恵ある者に何の利益ももたらさない時、なんと恐ろしいものだろうか」~ソポクレス
次回はちょっと前編後編に分かれるかも知れません。