『今のチーム体制は非常にうまく機能しているわね。タバサやブルー達も各自の任務を完璧にこなしてくれているおかげで、ICAとしてもようやく、これまで発見してきた世界の「より深淵な領域」の調査に本腰を入れられるようになったわ。』
『今回あなたに向かってもらうのは、例の“終末世界”。その第6基幹塔の最上階にある謎の施設よ。』
『実は1週間ほど前、あの施設へICA職員5名からなる調査団が派遣されてね。例のごとく通信が登っている途中から途絶。そこまでは想定内だったのだけれど、その5名が1週間経っても一向に帰還しない。例の施設で何かトラブルが起きたと考えるのが自然ね。』
『あなたに依頼する内容は2つ。一つは施設の調査。もう一つは帰ってこない5名の行方を探すこと。』
『調査に向かったのは戦闘要員3名と研究員2名。戦闘員はいずれも元エージェントで、最近ICA本部の実働部隊へ転属になった精鋭よ。彼らが何者かにやられたとは考えづらいけれど、用心するに越したことはない。』
『それと、研究員も一人同行させるわ。と言っても上級委員の一人である“No.8”なのだけれどね。先行部隊が残した断片的な情報からかなり重要な物、あるいは情報があの施設には有ると確信しているみたい。なので自ら調査に乗り出したってわけ。大方、手柄を独り占めにしたいのでしょうね。』
『No.8を同行させるにあたって、その護衛も最高のものを用意しなければならない。タバサ・ブルー・シルバー・キュラソーの4名も同行させる。実験体や亡霊を退けたあなた達なら適任ね。』
『その他の準備は一任するわ。くれぐれも用心してね。』
~準備~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・メンバー
【エージェント47】
装備:シルバーボーラー、電子励起爆薬
服装:愛用スーツ
【エージェント66】
装備:愛用魔導杖
服装:魔法学院制服
【エージェント67-1】
装備:ポケモン6匹(カメちゃん・ぷりり・メタちゃん・ニドちゃん・ピッくん・ブルー)
服装:愛用ノースリーブ
【エージェント67-2】
装備:ポケモン6匹(オーダイル・マニューラ・キングドラ・ドンカラス・ギャラドス・ドサイドン)
服装:愛用ジャケット
【エージェント68】
装備:クルーガーマイヤー2-2
服装:愛用レディースリクルートスーツ
『第6基幹塔へようこそ。47。』
『知っていると思うけれど、この基幹塔は階層都市を構成するための支柱となる重要な施設よ。』
『我々の調査では、構成されている部材は主に鋼鉄では有るけれど、一部未知の素材が使われていて、それが広大な階層都市を支えることができるだけの強度を生み出していると仮定されているわ。詳細は調査中よ。』
『元々各基幹塔には“アルコテックAI”とよばれるAIプログラムが内蔵されていて、塔と周辺地区の管理を担っていたようね。終末にあたってほとんどのAIは壊れてしまっているけれど、この第6基幹塔のAIはシャットダウンされていただけでまだ生きていた。前回はそれを再起動させてエレベーターを動かしてもらったんだったわね。』
『今回もAIにエレベーターを動かしてもらって上階へ行って、そこから歩きになるわ。螺旋階段の終わりから通信ができなくなるから注意してね。』
『健闘を祈っているわ。くれぐれも最上層では注意して頂戴。』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「最上階です。最上層へはこの通路を道なりに行った先にある螺旋階段を登ってください。くれぐれもお気をつけて。」
「助かった。礼を言う。」
「ありがとねー。」
「しかしよく出来たAIだ。我々ICAの技術部でもここまで人間らしい受け答えのできるAIは開発できていないぞ。」
「そうなんですか?」
「ああ。受け答えという点では一番近いのはあのポンコツだが・・・出来はこっちのほうが段違いだ。例の施設の解析が終わったらAIの方も解析しないといけないな。技術部に言っておかねば。」
我々はエレベーターに乗って第6基幹塔の最上部エリアへ来ていた。最近は久しく顔を合わせていなかったが、いわゆる“いつものメンバー”全員でやってきている。今回はそれに加え、上級委員会のメンバーである“No.8”も同行している。
「しっかし、前回来たときもそうだけど、相変わらずどこ行っても殺風景な世界ねえ・・・。」
「姉さんが錯乱してたのもずっと昔な気がするよ。」
「そういうあなたもね、シルバー。怒鳴り散らされたのは今でも記憶に残ってるわ。」
「うっ・・・もう時効ですってキュラソーさん・・・。」
「ふふふ。」
「ほほう。君たちにはこの世界になかなかに楽しげな思い出があるようだな。」
「そうでもない。亡霊AIとの戦闘は九死に一生な場面がいくつかあった。」
「最初も散々だった。」
「頭痛・吐血・喘息・錯乱・激昂・そして戦闘。確かにろくな思い出はないわね。」
危険な生命体もいなければ敵性勢力も居ないこの世界で仲間と居れば自然と会話も発生する。この世界は身内の思い出話以外に話題になるものと言えば、建物の倒壊や床・壁の破損あるいは時折舞う砂埃程度のものだが。
そうこうしている間に最上層へ続く螺旋階段までやってきた。かなり狭いが強度的にはこの人数でも問題はなさそうだ。
「ふむ。ここが最後の階段か。聞くところによるとこの階段の最後が見えてきたあたりで電子機器が使えなくなるそうだな?」
「ああ。私が前回来たときもタキオン通信機すらシャットダウンした。」
「しかしEMPのようなものが出ているわけではないのだろう?」
「そのようだ。帰還の際、階段を降りていったら一定のところから通信やその他電子機材が復活した。」
「へえ・・・なんか不思議なところってわけね。モンスターボールは大丈夫かしら?」
「一応構造的には電子機器が故障したら勝手に開くようになるはずだけれど・・・。」
「念のため出した方がいい。」
「タバサの言う通りね。出しておいたほうが良いと思うわよ。」
「そうね。そうしましょうか。」
「じゃあ出しやすいように僕たちは最後尾を行くよ。」
「わかった。私が先導しよう。」
私、キュラソー、No.8、タバサ、ブルー、シルバーの順で一列になって登っていく。相変わらず階段はかなり長く、はじめのうちは普通に登っていたが、やはりと言うべきか最初に音を上げたのはブルーだった。
「ねえまだ着かないの?そろそろ足が棒になりそうなんだけれど。」
「時間や段数を計測してるわけではないがおそらく後1時間以上は登り続けることになるぞ。」
「えぇ!?あと1時間も登るのぉ!?」
「それは流石にきつくなるな。私もそこそこ鍛えてはいるが基本は技術職で体力仕事は専門じゃない。」
「私たち実働部隊でも流石にきつくなってきてるわよ。」
「同じく。」
「47、ここは一旦休憩するのはどうだろう?」
「さんせ~い。狭いし暗いし踊り場すら無いから例の機械がなくても気が狂いそうよ。」
確かに、この狭く暗い螺旋階段を一息で登り切るのは常人にはかなり難しいだろう。それ相応の訓練を受けている私ですら最後の方は疲労と孤独感で休息を取ることを本気で検討していた。
「わかった。一旦休憩するとしよう。」
私たちは階段の段差をそのまま椅子代わりに座り込んだ。ブルーとシルバーはキュラソーから渡された水筒のお茶を飲んで一息ついている。タバサは興味深そうに階段や中央の柱の材質を魔法で調べているようだ。No.8もその場に座り話しかけてくる。
「しかしなんでまたこんなところを作ったんだろうな。どう考えてももっとマシな作り方が出来ただろうに。」
「わからない。最上層も例の施設以外には何も無かった。瓦礫すら無く、一面の銀世界だった。」
「ただの管理用の階段にしては長すぎる。しかし大勢の人間が通るにしては狭すぎる。謎は深まるばかりだ。」
「それを調べるのも今回の目的だろう?」
「違いない。しかし予想よりは手間取りそうだなこの分だと。」
私たちは30分ほどその場で休息を取り、タバサの回復魔法もあって足の疲労の大部分が取れたので登るのを再開することにした。ブルーなんかは「もうちょっと休みましょうよ」と駄々をこねていたが、シルバーに諭され渋々登るのを再開した。
またしばらく登っていくうちに、私はそろそろかと思い一度立ち止まると、全員の持っている明かりを消させた。すると目が慣れていくうち、階段の上部からわずかに光が差し込んできているのが確認できた。
「ふむ。もうそろそろのようだな。」
「電子機器が使えなくなるエリアってやつ?じゃあそろそろポケモンたちを出してあげたほうが良さそうね。」
「それが良い。」
「そういえば私はそのポケモンとやらも間近で見たことはなかったな。」
「まあ出しても暗くてまだ見えないでしょうけどね。」
再度明かりを灯し、ブルーとシルバーは階段を少しだけ降りて間を空け、そこに各々のポケモンを順番に出していった。ドサイドンとよばれるサイとニドちゃんと呼んでいた怪獣のようなポケモンを出したときは階段が抜け落ちないか若干不安にもなったが、見かけによらず強固な素材で作られているらしく、軋み一つなくすべてのポケモンを出せたようだ。流石に大型のポケモンにはかなり狭い階段ではあるが、なんとかギリギリ収まった。
私は再び階段を登り始める。程なくして持っていた懐中電灯の明かりが突如として消えた。予定通り電子機器が使えないエリアに入ったようだ。だが今回はそのことを事前に把握済みなため、ちゃんと対策も持ってきていた。
ゴソゴソ
「あら?47それは?」
「新しい明かりだ。」
チッ ボッ!
「明る・・・あっつ!」
「大丈夫?」
「ああ、平気平気。ちょっと火の粉がついただけだから。」
「今どき松明とはな。原始時代に戻った気がするな。」
「電子機器が使えない以上、これしか通用しない。仕方ないだろう。」
「私の魔法でも明かりは出せる。」
「この先何が有るかわからない。むやみに魔力を消費するものではない。代用できるならすべきだ。」
なんのことはない。長さ50cmほどの棒の先に布を巻いて油を染み込ませたものに、マッチで火をつけただけの簡易的な松明だ。それを手に持ち再び上へと登っていく。
ただ、松明の出番はすぐに終わった。今回は出発が早かったのもあって、最上層へ到達したときはまだ昼過ぎくらいだったためだ。
「はー、やっとついたわね。・・・ああ、アレね。例の“施設”ってやつは。」
「なるほど確かに不自然にあそこにだけ建っているな。早速調査といこうか。」
「タバサ。施設の周りの雪を吹き飛ばせるか?施設自体は頑強のようだから遠慮なくいけ。」
「わかった。」
イル・ウィンデ
ビュォォォォォオオオ!!!
「おお!積もっていた雪も周りにへばりついていた雪も綺麗サッパリだ。便利なものだな魔法というものは!」
スタスタ…
「むむむ・・・確かに幾何学模様が刻まれてるね。これは・・・。」
「シルバー、分かるの?」
「いや、報告書にあったものと照らし合わせてるだけだよ。」
「とりあえずみんなで手分けして調べましょう。」
「了解。」
6人全員と12匹のポケモンたちで調べて回る。タバサは地面にもなにか手がかりがないかと周囲の地面の雪をどかしながら調べている。だが地面はただのコンクリのようで成果は芳しくない。ブルーとシルバーはポケモンたちに乗って施設の上に登ったり、壁を軽く叩いてみたりして調べている。大型ポケモンに叩かせようとしてたが壊れる危険性を考えて自重させた。私は遠目からそれらを見ていたがキュラソーとNo.8が近くへ寄ってきた。
「ねえ47。あなたはこの施設、どう思うの?」
「わからない。技術部の見解では“渡界機”ではないかと言っていたが。」
「その報告は私も聞いている。だがこうして実際に見ると渡界機には見えんな。」
「私も。入力装置もなければ出力装置もない。そもそも動かし方すら検討もつかないわね。」
「最終手段としてはポケモンたちに一部を破壊させてみることも検討している。」
「大丈夫?力いっぱい殴った瞬間に核爆発ってオチは笑えないわよ?」
「爆発の痕跡は今のところ見当たらないが・・・。」
「これを作ったと思われる第一期人類が爆弾を信仰対象としていないのならば、こんななにもないところに爆弾を設置する意味がわからない。今までの町並みからして信仰対象だった可能性は薄いだろう。今までの町並みは理論が確立されて各々意味のある建物ばかりだった。ここだけその法則から外れているとは思えない。」
「なるほど。だから報告書には“施設”とあったわけだ。」
「意外にちゃんと考えてるのね。」
「・・・施設だと仮定して、どこかに内部に入るための扉が有るはずだ。」
ふとみると、ポケモンたちは大して成果のない調査に飽きてしまったのか、この広々とした空間で各々遊び始めてしまっている。
「こーら、あなたたち!ちょっと真面目に調査を手伝って!」
「無理だよねえさん。もう周囲は調査し尽くしたし、幾何学模様も解読の糸口さえ・・・」
「うーん・・・うーん・・・。」
「こりゃ今回は成果なしかなあ・・・。」
「ええいままよ!こうなったら!」
「ね、姉さん?どうする気?」
「ピッくん!あの建物に向かって“ゆびをふる”!」
「いやその技相手指定できたっけ・・・?」
ピッピー!
スタスタスタ
ピッピッピッピ…
「おい、あの子は何をやってるんだ?」
「ブルー。施設を破壊するのは止めておけ。まだその時じゃない。」
「そうよ。ここは大人しく・・・」
ピッピー!
ピカーッ!
「うおあ!?」
「な、なんだあ?!」
「きゃあ!」
「閃光?」
ブルーのポケモンの一体が指を振っていたかと思うと、指の先が光り始め、次の瞬間施設のこちら側の側面がまるで投光器のように光り輝き始めた。光が収まったとき、施設の側面には人がひとり通れる程度の入口が開いていた。
「・・・す、すっごい!?やったわピッくん!」ピッピー!
「でかしたぞ!これで内部を調査できる!」
「すごいよ!扉を開ける効果が都合良く出たんだね!そんな効果あったかどうか覚えてないけど。」
「進展あり。」
ブルーのポケモンの一か八かの賭けによって謎の施設の正面扉が開いたようだ。早速私たちは中を覗き込むと、内部はすぐに行き止まりになっており、小さな小部屋の中央に不思議な形と色をした容器が鎮座していただけだった。一見中央でまっすぐ切れ目の入った翡翠製の卵のようだった。
「罠やその他装置の類いなし。部屋の大きさ的にもこの施設はこの部屋しかない。」
「なんだなんだ。拍子抜けだな。ただの宝物庫だったってことか?」
「でもなにかしら?あのきれいな容器・・・。」
「迂闊に中に入りたくないのは僕だけかな・・・?」
「私もよ。なんか変なにおいするし・・・。」
「・・・!この匂いは・・・!」
「47?」
私はこの匂いに覚えがあった。全員を一旦下がらせると、一人で内部へ入った。小部屋に足を踏み入れたところで、手前側の壁際に思いもよらぬ光景が広がっていた。いや、正確には、この匂いからある程度は予想していたのだが。
「No.8。来てもらえるか。」
「うっ・・・あんまり入りたくはないが仕方ない・・・。」
スタスタスタ…
「・・・むむ!?これは一体!?」
「覚えは有るか?」
「ああ。こいつら・・・先行調査団の連中だ。みんな死んでる・・・!」
「ええっ!?」
「調査団だって!?」
「なるほどこの匂いは遺体の腐敗臭だったのね。」
「・・・っ。」
小部屋の中には特殊部隊風の隊員3名と白衣を着ている研究員風の男2名の死体があった。No.8の話ではどうやらこれらが行方知れずになっていた先行調査団のようだ。
「一体ここで何があったんだ・・・。」
「遺体は1人を除いて全員銃弾でやられているようだ。」
「ええ?タバサ、ここにガンタレットとか無いわよね?」
「無い。格納するスペースも出てきそうな裂け目も壁のどこにも見当たらない。」
「となると・・・もしかして・・・。」
「そういうことだろうな。」
最後の一人、おそらくだが端にうつむきながら倒れているこいつが他の4名を射殺したと予想できる。私は用心しながらそいつの体を起こした。すると、他の死体は銃創から血を流して死んでいるのに対し、この死体だけは銃創は無く、代わりに目・口・鼻・耳、いたるところから血を流して死亡しているようだった。
「うわ・・・よく触れるわね47。」
「こいつが他の4名を殺したと見て間違いなさそうだ。銃の残弾もこいつだけ減っている。」
「ここで仲間割れを起こしたってことか。」
「ちょっとまって?この人たちはどうやってこの中に入ったのよ?私のピッくんみたいな能力持ってる人が居たってこと?」
「その可能性はない。上級委員会で把握している限り、こいつらは全員訓練こそ積んでるが所詮はただの人間だ。特殊な能力などなにもないはずだ。」
ということは先行調査団がここに来た時、別の方法で入口を開けたのか、もしくは初めから開いていたのか。扉の開け方すらあやふやな我々では調べようがないかも知れない。
「・・・まだなにか有りそうね、この施設。」
「まああるものといえばこの中央に鎮座してる緑色の容器だけだけど・・・。」
「とりあえず開けてみましょうか。」
「用心しろ。」
「わかってるわ。」
キュラソーが代表して中央にあった容器の開封を試みる。容器は取っ手もなく、最初はどう開ければよいか分からなかったが、少し触ってるうちに頂点に小さなスイッチが有るのを発見した。それを押すと、容器自体が台座からせり上がり、真ん中の裂け目からちょうど左右に分裂する形で開いた。
「開いたわ。これは・・・なにかしら?」
「っ・・・!巻物に見える。そして膨大な魔力を感じる。」
「ふむ。貸してみろ。」
No.8がキュラソーから巻物を受け取り、若干の躊躇の後開いた。
「うっ!?」
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ええ?!何何何?!」
「No.8さん?!」
「キュラソー!巻物を捨てさせろ!」
「くっ!」
バシッ!
カランコロン…
「ああああああああああああああああ!!!がああああああああ!!!」
「・・・!一旦全員外へ出るぞ!」
「ええ!?でもNo.8さんは!?」
「いいから出るんだ!」
「わかったわ!」
「姉さん早く!みんなも早く!」ピ-ピー!ガーガー!
「・・・。」スッ レビテーション
「待ってよシルバー!」
私たちは叫び地面をのたうち回るNo.8を置いて外へ出た。私の勘が告げていた。あのままあそこに居れば周りの死体のようになると。遠目から見るとNo.8は目や顔を掻き毟り、いたるところから血を流していた。アレではろくに医療機器のないここではまず助からない。そのうち喉も掻き切ったのか叫び声も上げられなくなり、のたうち回っていた体はピクリとも動かなくなっていた。次の瞬間、No.8の姿が薄らいできたかと思えば、入口にあった壁が再び蜃気楼のように復活し始め、まもなく開いていた入口はどこが入口だったかわからないまでに完全に塞がってしまった。
「・・・か、間一髪ってことで良いのかしら?」
「おそらくは。」
「一体何なのよこれは・・・。」
「姉さん。大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫よ。それよりどうするの?47。」
「・・・報告に戻る他無いだろう。できればあの巻物も調べたかったが。」
「・・・ある。」
「「えっ?」」
スッ
「ここに持ってきた。」
「た、タバサちゃん!?いつのまに持ってきてたの!?」
「脱出の時に魔法で浮かばせて。」
「浮かばせてるのは得策だろう。持った瞬間開かされてNo.8のようになるとも限らない。」
「タバサ、そのまま浮かばせててもらえるかしら。」
「了解。」
「・・・OK。ポケモンたちも全員いるわ。」
「唯一逃げ遅れたのはNo.8だけってことか。」
「とにかく一旦帰還するぞ。何が起こるかわからん。」
「「了解」」
私たちは犠牲になったNo.8を惜しみつつ、魔法で浮かばせた謎の巻物と一緒に螺旋階段を降りて元の世界へと帰還した。
~~~数日後~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『巻物の第一段階調査を終えたわ。その前に今回はみんなお疲れ様。』
「いやはや、あんなことになるなんて思いもよらなかったよ。」
「私のピッくんが扉を開いたところまでは良かったんだけどねえ。」
「バーンウッド、調査の結果は?」
『それが、あの巻物に書かれていることを解読しようと試みたのだけれど・・・』
「だけど?」
『報告から判断して人に開かせて読むのは危険。なので簡易的な人型ロボットとカメラで記録しようと試みたわ。』
「それが得策だろうな。」
『そうしたらなんと開いた瞬間、ロボットがおかしな挙動を起こしたの。カメラは白紙の状態しか映していないし、ロボットは回収した直後に突然音声機能で相対性理論の矛盾点について語りだしたわ。』
「ロボットが相対性理論を?なんでそんなのインプットしてたのよ?」
『していないわ。そもそも音声機能もブザー音が鳴る程度のもので、人語を話すこと自体想定外も想定外。あげく困惑している職員を無能だと罵り始めたわ。』
「ロボットに知識を与えている?一体何なのかしらその巻物。」
「科学で説明するのは難しそうだね。」
「科学の塊たるロボットに知恵を授ける巻物。ロールプレイングゲームに出てきそうだな。」
『科学的なスキャンでも中は白紙としか結果が出ない。おそらく高度な魔術的な施しがされていると予想されるわ。』
「あの世界って科学の世界だよね?魔法はなかったと思うけど・・・。」
「基幹塔のAIに聞くのも手だが・・・。」
『それがね・・・。』
「?」
「どうしたの?」
『これらの報告を聞いた上級委員会は、あの巻物に関する一切の調査を含む試みを中止して厳重に保管するように通達を出したわ。』
「ええ?」
「何かもわかってないのにか?」
『そう。私にもよくわからないけれど、No1、2、3の中で決まったことのようなのよ。』
「バーンウッドさんは上級委員会メンバーでもあるでしょう?それでもわからないの?」
『ええ。私は上級委員会の中では一番の新参者だからね。』
「んん~・・・なんか腑に落ちないわねえ・・・。」
『とにかく今回はみんなお疲れ様。ゆっくり休んで頂戴。次の指示は追って出すわ。』
「・・・。」
タッタッタッ…
~~ミッションコンプリート~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・「ふたりの夢」
【+1000】『最上層へ到達する』
・「禁足地」
【+2000】『謎の施設内部へ侵入する。』
・「すべての始まり」
【+5000】『謎の巻物を回収して帰還する。』
・「疑念」
【+5000】『上級委員No.8が帰還しない。』
「ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきは、テキサスで竜巻を引き起こすか?」
~エドワード・ローレンツ
次回は太平洋に行ってもらいます。