血液の匂い、汗の塩辛さ、そして鉄屑の底から漂う焦げたような悪臭……。
一戸の呼吸が乱れ、指の関節が白くなるほど膝に深く食い込む。脳裏の奥深くでは、さらに遠く、さらに深い層からの反響音が湧き上がっていた。
数字の羅列でも、カウントダウンの音でもない。ただ一つの声だった——掠れていて、曖昧で、しかし彼の記憶の中で影のように付きまとっている。
「立て……まだ終わっていない」
それは彼自身の声か、あるいは幻覚か、それともかつての監視員が低く嘲笑した声か。その声が脳裏を旋回して離れない。
高くそびえる鉄の壁、漆黒の闇。頭上の唯一の照明が、中央の血痕にまみれたリングを照らし出している。一戸、二十代前半の青年。全身が飛び散った血に染まり、皮膚は粘り気のある赤い血痕に覆われている。ただその一対の義眼・オラクルだけが、暗闇の中で依然として微弱な青い光を点滅させている。彼は両足をガタガタと震わせながら、血溜まりの中に倒れる人間の死体の前に立っていた。手に提げた鈍刀はとうに刃こぼれし、血肉と破片が刀身にこびりついている。
周囲では、暗闇の中の無数の視線が、まるで檻の中の獣を見るように彼を見つめている。審判席から機械的なアナウンスが響いた。「生存確認——識別番号F-16、勝者——引き続きフィールドに残存」
ゲートが再び開き、新たな対戦相手がゆっくりと鉄の檻の中へ引きずり込まれてきた。大人の男だった。足取りは沈着で、両腕はインプラント化改造が施され、指は鋼のフックのように冷たい光を反射している。相手は目を細めて、まだ息を喘がせている一戸を値踏みし、口角に一抹の嘲笑を浮かべた。
言葉はない、紹介もない。地面が微かに震動し、ピィィィッという電子のホイッスル音が鳴り響いた。
戦闘が、再び開始された。
一戸には力が残っていなかった。それでも本能が彼を駆り立て、鈍刀を振り上げさせた。彼はよろめきながらステップを踏み、相手の飛びかかってくるような突進を危機一髪で躱した。刀の刃が相手の腕を掠めたが、ガリッという火花を散らしただけだった。彼は歯を食いしばって強引に足を踏み出し、身を低くして回避すると、逆手で刀を振り、相手の膝の裏へと斬りかかった。
相手の姿勢がピタリと止まり、フックのような肘が逆向きに突き出される。一戸は打ち据えられ、よろめきながら後退した。
審判のカウントダウンが響き渡る——「五……四……三……」
一戸は猛然と飛びかかり、残る力を振り絞って刀を相手の腰の側面に容赦なく突き刺した。インプラントの金属が破裂するのと同時に、彼は相手の強烈な拳を浴び、ドスッという鈍音とともに地面へと吹き飛ばされた。
地面に倒れ込んだ瞬間、一戸は転がって起き上がった。血が止まることなく流れ続けているにもかかわらず、再び相手の頭部へと飛びかかっていった。
「二……一——」
一戸は歯を食いしばって怒号を上げ、鈍刀の残った刃を相手の喉笛へと死に物狂いで押し込んだ。相手はしばらくの間もがいていたが、ついに力が尽きて倒れ伏した。
審判の声が再び鳴り響いた。「生存確認——識別番号F-16、勝者——選択権を開放——退場を申請するか」
一戸は呆然として頭を上げた。しばらくの後、両手を微かに震わせながら持ち上げた。「退場を……申請する……」
会場の片隅にある観察室で、何者かが新たな指令のボタンを押した。鉄の扉は今度こそ、二度と開くことはなかった。
高く吊るされた照明がゆっくりと消灯していく。観客席からは歓呼とブーイングが爆発するように湧き上がり、やがて徹底的な暗闇に包まれた。
一戸はゆっくりと後退りし、両膝の力を失って、そのままリングの縁にへたり込んだ。焦点の定まらない目で、自らの血まみれの両手を見つめている。彼はもうリングの中央を見ることはなかった。血に染まった両手を俯いて見つめるその目には、怒りもなく、恐怖もなく、ただ一片の死のような静寂だけがあった。
足音、カウントダウン、観客席の喧騒……そのすべてが水の中にいるように、遥か遠く、歪んで聞こえた。
彼の意識が、あの暗闇の中からゆっくりと引き離されていく。
夜風が再び顔に吹き付け、血の匂いを吹き散らした。
一戸は猛然と目を見開き、現実へと引き戻された。