「自称」何がなんでも死にたくない系TS主人公   作:ルヴレ

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四 初仕事

 

 

 今日は世界の命運を左右するレベルの、運命の日である。

 何が起きるのかって? 

 いやー、それはもう決まっているじゃないか! 

 

「ランプよしナイフよし髪の毛よし」

 

 鏡……は当然ないので割れた窓ガラスを頼りに、服装を整える。

 そう! 今日はライトキーパー初勤務の日。オラ、ワクワクしてきたぞー。

 珍しくしっかりと整頓して、毒薬も塗り直したナイフを、ナイフホルダーにたくさん入れる。ライトキーパーって名前だけあり、ランプも支給されたので付け方の確認をする。よしできた。

 髪の毛はいつも雑に下ろしていたが、今回は結んでみることにした。そっちの方が動きやすそうだしな。

 

「えーっと……ヤフォダによれば、こうやって、こうか?」

 

 目指すはポニーテール。俺はポニーテールキャラが好きだ。なぜならうなじが素晴らしいから。せっかくそこそこの美少女(この世界の美の基準はわからないが)になったんだから、ポニーテールにしなくてはもったいない。

 ヤフォダから教わった通りに結んでみるが。

 できたのはボサボサのパイナップルだった。……うんだめだこりゃ。下ろしていこうっと。

 

「俺ならいける俺ならいける」

 

 唱えてから廃墟を飛び出した。

 意味もなく早足で、ナシャタウンから少し外れた場所へと向かう。

 そこで、俺の護衛と集合する予定だ。俺はほとんど戦えないが、逃げる技術はあるということで、試しに簡単な偵察を任せられたのだ。

 

 集合場所に着いたが、かなり早めに着いてしまった。流石に、まだ護衛の人は着いていないだろう。

 

「ふぅ」

 

 息を整えてから、やることもないので目隠しを下げ、ランプをいじり始めたところで。

 背後から気配。数は1。

 

 俺は振り向く。

 

「ええと、君がギメイラさん、ですか?」

 

 いかにも声変わり後の少年、といった声だった。姿を隙間から見れば、華奢な体格の美少年が槍を携えて立っていた。

 おお。もしや彼が護衛か? 様子からして、彼だけ? 

 

「うん。俺はギメイラ。昨日、ライトキーパーに入ったばかりの新人だ」

「僕は君の護衛をする、イルーガです。今日は、よろしくお願いします」

「そ、そんなに畏まるなよー。年も近そうだし、さん付けとかいらないって」

 

 僅かに動揺した雰囲気があった。

 

「えっと、ではギメイラちゃん?」

「ちゃんだけはやめてくれぇぇぇ!!!」

 

 俺は魂から出たようなクソうるさい声で叫んだ。早朝から迷惑だな、と言った後から思い直した。コホン、と咳払いをする。

 

「メイラでいい。その代わり、イルーガって呼んでもいいか?」

「はい、もちろんです。メイラ」

 

 イルーガはうるさい俺に引くことなく穏やかに笑った。な、なんていい奴だ! 

 俺は密かに感動した。ヤフォダなら「朝っぱらからうるさい! このバカギメイラ!」と叫び返してきたことだろう。

 

「今日の偵察は、ナシャタウン周辺のワイルドハントの群れの場所の把握、だったか?」

「はい、ワイルドハントの数と種類を把握して、情報を送るのが僕たちの役目です」

 

 ニキータさん曰く、ライトキーパーたちの無駄な犠牲をなくすため、適切な戦力を手配したいらしい。さらに時折、とてつもなく強いワイルドハントが出現することがある。それによる被害を抑えるため、俺たちが偵察するってわけだ。

 

「まずはこの辺りを見ていくか。あ、万が一見つかったとしても、俺逃げるからな。イルーガもよっぽどじゃない限り、戦わなくてもいいから」

「……分かりました」

 

 あれ? 俺としては合理的な提案をしたつもりなんだけど、なんか嫌そう? なんでだ? 

 疑問に思ったが、イルーガは次の瞬間には特に沈んだ様子もなく、元に戻っていた。俺は見間違いかと思って、先へと進んだ。

 

 

 

 ワイルドハントが発生するときは、大抵謎の霧に包まれている。そのため、ワイルドハントの場所は特定しやすい。

 おかげで、ワイルドハントの群れの場所をまたも無事特定。気配から敵の数と強さも確認。

 敵の数、五。内、ワンダラー三体。マッドウォーリア二体。道からは逸れているため、優先度は低い。異常な様子はなし。

 メモをしておく。今のところ、大して強そうなワイルドハントはいない。

 おお、おお……! 俺、結構やれてるぞ! 浮かれそうになり、自分をなんとか鎮めた。油断は禁物である。

 

 足音と気配を消しながら、ワイルドハントから離れる。イルーガが待機しているところまで、近づいた。

 

「大体、ここら辺は把握できた。今日のところはここで引き上げて、報告しよう」

「そう、ですね」

 

 イルーガは頷いた。だがやはり、煮え切らない雰囲気だ。俺は流石に気になって、イルーガを問い詰めた。

 

「もしかして、偵察とか地味な仕事、嫌だったか? ……後方支援とかの方が良かったり?」

「いえ……」

 

 イルーガは首を横に振った。

 

「守られてばかりは、嫌なんです。だから僕は、ライトキーパーに入りました。しかしこのまま前線で戦えないのでは……」

 

 流された血に、報いることができない。

 

 そう続けられた言葉に、俺は絶句した。正義心、それと共にある確かな自己犠牲心。それが垣間見えた。

 

 どこか、みんな生きたいのだと思っていた。戦いたくない、死にたくない、それが当たり前なのだ、と。

 自分と同じような人ばかりではないのだ。今更、気づいた。浮かれていた気持ちは、一気に萎んだ。

 

「そっか」

 

 謝るとかえって気を遣わせそうなので謝りはしなかったが、自分がいかに軽い気持ちでライトキーパーに志願したのかを実感させられた。

 俺は前線なんて行きたくない。でも、イルーガは違う。俺、正義感とか人並み以下なのに、本当にライトキーパーに入って良かったんだろうか。

 考えに耽ったところで、気の抜ける音がお腹からなった。羞恥で耳に熱が集まるのを感じる。誤魔化すように頭を掻いた。

 

「……お腹すいたな」

 

 そういえば、朝も昼も食べてない。事情は話したから、給料を半分前借りとしてもらえることになっている。だから、食費はあるんだが、悲しいかな。貧乏精神でいつも通り朝ごはんを抜いてきてしまった。

 イルーガはふふ、と息を漏らした。

 

「もしよければ、一緒に食べませんか?」

「外食か? 俺、あんまモラなくて、外食する余裕はないんだよなー」

「いえ、手料理でもしようかな、と」

「え?」

 

 イルーガは自身ありげにふふんと笑った。

 

「報告が終わったら、手料理を振る舞います。僕、料理には自信があるんです」

 

 

 

 

 

 報告を終え、鍋や材料を持ったイルーガに連れて、俺は廃墟へと案内した。せっかく材料を買ったし、余ってはもったいない。どうせなら再利用できるようにと、俺の家で料理することになったわけだが。

 

「この辺りに家があるなんて、初めて聞きました。昔墓地だったと噂がありましたが……」

「家だってば、ほら」

 

 イルーガはボロボロの廃墟を見て、完全フリーズした。

 

「イルーガ。起きてるかー」

「お、起きてるか、じゃないですよ!」

 

 俺が肩を揺さぶれば、イルーガは難しい顔になって腕を組んだ。

 

「これは、家なんですか!?」

「家だって。ほら、屋根があって壁があるし」

 

 窓ガラスは割れててドアの鍵は閉まらないが……。そこまでは言わずに黙った。

 俺の言った通り、一応壁と屋根はあるものの、穴が空いていて雨の日には雨漏りしてくる。そこは不便だが寝れるんだし家である。

 ……家具ベッドしかないけど。

 

「家の中は使えないから、外で料理するしかないな。寒い時用の焚き火はあるし、これ使ってくれ」

 

 俺は雑に焚き火を並べて火をつけた。スープを作るらしいので、鍋を吊り下げる。

 

「君、もしかしてこんなベッドで寝てるんじゃ……」

「そうそう。寝心地悪いけど寝れたらOKだ」

 

 ぐっ、と親指を突き立てれば頭を抱えられた。

 確かに布団かびてて掛け布団も毛布もないし、寒いけど寝れるんだから問題ない。

 イルーガは、材料を手際よく切りながら小さくため息をついた。

 

「今度、家具は見に行った方がいいですよ。せめて、布団だけでも」

「その考えはなかった! そうだな、せっかく給料が入るんだし。全財産ご馳走に費やしようと思ってたんだが」

「……一日しか過ごしていませんが、君のこと、分かってきた気がします」

 

 イルーガは遠い目になった。

 手伝えることがないかを聞けば、人参を差し出してきたので毒を塗っていないナイフで切り刻んだ。

 

「ちょっと待ってください、なんでみじん切りに!?」

「え? スープなんだろ?」

「もしかしてキャロットスープだと思って切ったんですか?」

「え? 違うけど。スープって人参みじん切りにするものじゃないのか?」

「僕は普通はしないと思います」

 

 水を入れて煮込んでいくが、無駄に細かくみじん切りにされた人参によって、どんどんオレンジ色になっていく。

 イルーガと俺は顔を見合わせた。イルーガは困ったように眉を下げている。ごめんて。

 

 そんなこんなで沸騰してきたので、火を緩めて、皿はあいにく持っていないので水を飲む用のカップにスープを注ぐ。

 熱々の湯気が目の中に入ってちょっと痛い。

 

「いただきます……」

 

 日本にいた時の癖が抜けないままそう言ってから、カップの縁に口をつける。

 オレンジ色のスープを、口に含む。嚥下する。

 

「うまい」

 

 色はともかく、味は美味しかった。硬いパンの味でもなく、いかにも外の味のホットドッグではなく、家で作った、あったかい味だ。

 

「うまい……」

「よかったです」

「マジで……うまい……」

「メイラ?」

 

 あれ、なんか視界歪んでんだけど。目に変なもの入ったか? マグカップを置いて目を擦れば、なぜか水が手の甲についた。なんだこれ。雨か? 雨降ったのか? あれ、違うな、めちゃくちゃ晴れだわ。太陽直視したんだが。……はは。

 あー。そっか。俺、泣いてんのか。

 

 ——は、恥ずかしっ! スープ飲んだくらいで泣くとか、ギリギリ成人だったとはいえ、元成人男性としての尊厳がだな……。

 俺は呻きながら顔を腕の中に入って埋めた。

 

「泣かないでください。そんなに美味しくなかったですか?」

「いや、めちゃくちゃ美味い。あと泣いてない。ぜんっぜん泣いてない」

 

 俺は鼻を啜って乱雑に目を擦り、スープを飲み干した。自分で勝手に、スープを注ぎ足す。また、スープを飲み込んだ。

 

「しない。……罪悪感の味、しないな」

 

 無意識に冷えていた心が、じんわりと熱をもっていく。

 盗んだ金で買ったパンを食べた時、哀れまれて奢られた時、この世界に来てから俺の食事はどこか苦味を持っていた。

 苦くない。全く、全然。

 

 あー、なんだ俺しみったれやがって! 俺は熱いスープを一気に飲んだ。

 

「あっつ!」

 

 当然、舌を火傷した。

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